15
「きみの話では仲間がいるな」
クラウスくんを先頭に、アナスタシアが魔物を小突いて進ませる。ぼくは後ろから彼に声をかける。
「ぼくらは君たちに対する理解がない……が、きみの気持ちには共感する。きみのような存在を手にかけたいと思うわけじゃないし、条件によっては君らを守る戦闘員も見逃そう」
「戦闘員はいない」
ぼくの言葉に簡潔に魔物が返した。
「クラウスくん。騙す可能性は充分にある。警戒は忘れないで」
アナスタシアの言葉に縦に揺れるクラウスくんの頭を見たまま、魔物が言う。
「警戒するのは仕方ない。でも、いきなり切りつけないでくれ。本当に戦いに出るような人はいないんだ」
しかし、おかしな話だ。気高いドラゴンの住処だから滅多に魔物が近寄らなかったのだ。そこだからこそ、住むのは分かる。しかし、それなのに戦いの術すら知らぬ魔物ばかりが来るものか?
「騙すつもりがないなら教えて貰いたいのだけど」
ぼくは揺らがぬ魔物の後頭部を見ながら口を開いた。
「ここはドラゴンの住処だと知っていたはずだ。ならばどうして武装もせず入植を?」
魔物は少し黙っていた。しばらく、小さな声で
「……王さまが、ここなら安全に暮らせると教えてくれた」
と言った。
アナスタシアが魔物を睨みつけた。落ち着いてはいたけれど、眼から魔力がほとばしっている。
「安全だと? ここがか」
彼女の顔が敵意むき出しの笑みに変わる。
「なにを隠している? 答えないならお前の身も、お前の仲間の安全も、保証できないな」
「分かっている……」
うつむいた魔物が力なくそう言う。毒気を抜かれてアナスタシアの魔力が霧散した。
「ファイアドラゴンが二匹、逃げていった。死んだドラゴンもいるだろう……あんたたちがやったんだな」
魔物が逡巡を挟む。やおら口を開いた。
「ぼくだけのことじゃない、相談させてくれ。あんたたちの不利益にならないようにするから……」