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村人にとって大切な存在ではあるし、その住処を荒らすべきじゃないだろう、一致した意見だったので、戦闘も避けようとは思ったが、やっぱり主の存在だろうか、魔物は見当たらなかった。けれどもぼくはなんらかの聖力を感じていたし、アナスタシアも魔力を感じると言っている。基本、我々は聖法に守られているし、魔物は魔法に守られている。でも、人類にも技術として魔術を学んだものがあるように、魔物にも聖術を学んだものが存在する。聖術士は聖力を感知しやすいし、魔術士は魔力を感知しやすい。
優れた前衛は闘志や気力を感じることができるようだけれど、それは身にまとうというより内在しているもので、術力よりもうちょっと感じるのは難しい。クラウスと名乗った剣士の彼も、ちょっとそこまではできないようだったけれど、それなりに強い。魔物はいないけれど、獣は彼を見れば大型のものでもすぐに去って行く。基本聖力や魔力に適性のない獣はぼくたちのような術士をなんとも思わないようだけれど、彼のように屈強な身体で金属の棒のような剣を持っているのは大変な脅威なのだろう。
と、アナスタシアがぼくのほうに顔を寄せた。
「さっきから、おなじ魔力がついて回ってる気がする」
それは……ぼくたちを監視してるってことだろうか。
「ほかに魔力は感じる?」
「いくつも感じるけれど、抑え込んでるか、弱いのか、そこまで強いのはないよ」
「でも、監視してるとしたら、きっとこの山に来るような目的はバレてるよね」
クラウスくんが振り返る。
「どうしました?」
ふたりでちょっと迷って、アナスタシアが口を開く。
「もしかしたら、監視されてるかも知れません。ついて回ってるヤツが居るようですが、ただの好奇心でなければきっと主に会おうとしているのはバレていると思います」
「魔力を感じるんですね? ……魔物がやっぱり居るのか」
「聖力も感じますが、こちらの世界の存在はたいがい聖力を持っています。……それくらいの、特別強化されたような力は感じませんが、抑えている可能性もあります」
ぼくの付言にクラウスくんはちょっと考えている風だった。
アナスタシアが助言する。
「途中で戦闘になるかも知れないし、主のところで待ち伏せするかも知れません。様子を見に行くなり、先手を打ってつきまとっている存在に切り込んだ方がいいかと思います」
あの場所では副リーダー格だったけれど、ぼくたちを買ってくれているのだろう、クラウスくんはぼくたちに、
「どちらがいいでしょう?」
と聞く。
「アナスタシア」
ぼくが先に口を開いた。
「主がいるなら聖力を感知できるだろうし、魔物がつきまとっているなら聖力のほうがヤツらには感じづらいはずだ。……ドラゴンが魔物のような行動を取ってる理由や、魔物がいるとしたら目的が分かるかも知れない。つきまとっているほうに仕掛けよう。ぼくが行く。とりあえず様子を見て、それだけじゃなにも分からないなら戦おう。誘引するか、吹き飛ばすか、どうしようもないなら君たちを呼ぶよ。道を先に進んでいてくれないか?」
アナスタシアは指輪を確認する。
「……うん、大丈夫だね」
「それは?」
指輪を見るアナスタシアにクラウスくんが訊ねる。
「同朋の指輪。そんな離れていなければ、お互いの位置が分かるの。これは勇者ハインツが私を誘ったとき、私の先生が一般的なパーティ最大人数分、餞別にくれたの」
「アナスタシアと違って偏屈に見えるけど、実際慈愛にあふれた人だったよね」
ぼくが笑うとアナスタシアは少し寂しそうに、
「いえ、私もたいがい……」
言葉を濁した。意図は分からないけれど、長く一緒に居た彼女が自分にあまり肯定的でないことは知っている。
「アナスタシアが誰にも誠心で当たることは、みんなすぐ分かるんだから」
寂しそうなアナスタシアがちょっと頬を緩めた。
「ひとりで行動して、ラズリーさんが危険じゃないですか?」
口を挟んだクラウスくんは心配そうだけれど、アナスタシアが請け合う。
「ラズリーは慎重だからね、無茶はしないよ。いつも冷静なんだよ、この計画でさえね」