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「そうか、あんたらは魔王と対峙したのか。……そりゃ、強いわけだ」
いちばんのベテラン冒険者らしいおじさんが言う。
「聞いてきただろうが、村人はたいがい避難している。残っているものもほとんどが戦えるもので、こっちの洞で生活している……もちろん、戻りたがってるがな」
あれだけの成体ドラゴンが出没していれば無理はない。集まった冒険者たちは血気盛んだが、村の出自である人間は随分消沈しているように見える。
「あれは操られているの? 自我が消されているようだったけれど」
アナスタシアが挟んだ言葉に、おじさんのほうも答える。
「やっぱりそう見えたか。そうじゃないかとは思っていた」
「高度な魔物の出没情報は? 操作しているとしたら」
ぼくの言葉に若い剣士が答える。
「いや、そんな情報はない。そもそもこのあたりは主の縄張りでな……そのドラゴンは村人たちに崇め奉られて、共存していた。……主は現れていない、間違いないんだよな」
その人の言葉を村人らしき人が受ける。
「はい、間違いありません」
「そんなわけでな、主を恐れて魔物はたいがいこの山は避けていたんだ」
ベテランのおじさんの総括を聞いて、ぼくは少し考える。主がいるなら主も困っているだろう。村人と共存していたなら、協力を仰げるかも知れない。
「……アナスタシアはどう思う?」
「私はその主っていうドラゴンと話をしてみたい」
やっぱりそうか。そう思ってうなずくと、おじさんも言う。
「俺たちもそうは言っていたんだ。だけどな、こっちに術士は来ていない。いざという時に困ると思ってな。主は気が立っているかも知れない。荒くれよりインテリのほうが作法もなってそうだしな」
「では、ぼくたちが行ってきます。前衛をひとりお願いできますか」
俺が、と言いかけたおじさんを若い剣士が押しとどめる。ここの実質ナンバーツーだろう。あなたがいないとまとまらない、と言う。まあ、そうだろう。強大な相手に対処するには経験も必要なのだ。いまこの地に不安をはびこらせる訳にはいかない。
「俺が行きます」
その剣士がそう言って、場はまとまった。