プロローグ・第一話 ~イースリアへと~
多分誤字はないはず...なんですが、初投稿なので描写不足かもしれない所はあると思います。じゃんじゃん指摘してください。
いつも通りの日常、何も変わらない朝、昼、夜。近所の子供の遊びに付き合ったリ、人の顔を描いたりする毎日。さて、今日は何をしようか――!?
母さんが今まで見たことがないほど真面目な表情でこちらを見つめている。いつもの母さんは淡い黄緑色の目をし、よくある白色のエプロンをつけた、いわゆる村人の格好を身にまとった焦げ茶色の髪をした朗らかな人だが…
俺は、さすがの圧に思わず萎縮し、これから怒られでもするのだろうかと少し身構えた。
しかし、母さんは訳のわからないことを言った。
「今日は絶対に外に出てはいけません。約束ですよ」
今日は外出するな…か。唐突だな。
「な、なんで外に出たらいけないんだ?誰か客でも来るのか?」」
「それは言えません。あ、そうでした。このペンダントを渡しておきます」
そう言ってペンダントを手渡ししてきた。
赤い模様が彫られた銀のペンダントだ。俺は小さな頃から芸術や美術の類が大好きなのでこのペンダントの価値があまり高価なものではないとなんとなくわかる。
「誕生日プレゼントってやつか?」
「そうですよ。この前渡せませんでしたのでね。何度も言いますが、今日は絶対に外出をしないでください。約束できますか?」
「はーい」
と俺は一応、快く答えたが、俺はなぜ外に出てはいけないのか気になって仕方がなかった。まぁ取り敢えず、このペンダントは暫く着けておこう。
昼食を終えた頃、母さんが
「じゃあ、私はこれからロステンブールに行ってきます。メリック、ちゃんと約束は守ってね」
と言い家を出ていった。
「いってらっしゃい」と俺は軽く返事をした。
母さんは普通に外出するんだな…まぁいつものことか。俺の母さんは毎日ではないがかなりの頻度で、少し遠くのロステンブールというこの国で、一番大きな町へ出かける。
「んー…暇だ!」
家にいても特にすることがない。まぁ今まで描いたものの整理でもやっておこうか。
そう思って自分の部屋に保存してある絵画の整理を始める。あれ...?こんなに母さんの顔を描いたっけ?なぜだ、うまく思い出せない。
整理が終わって暫く経った頃、とうとう俺は我慢できなくなってしまって外に出てしまった。このドアを開けると何かあるのだろうか?それとも今日は何か催しでもあるのか?俺は約束を破ろうとしているのに、期待に胸を膨らましている。
しかし、俺は落胆した。ドアを開けると、そこにはいつもと何も変わらない風景が広がっているのだ。何も変わらない、何の催しもやってない俺の住んでいる村、ダイラバだ。いつも通り近所のバルーズさんの子供が遊んでいる。
俺は何だか騙された気分だった。いや、何故外に出てはいけなかったのか?という疑問がより一層深待っていく気分だ。まぁいい、多分何かあると勘違いしたんだろう。何となく近くの森の風景でも描いて時間を潰そうと思い、俺は一旦家に帰って小さめの画用紙の束とペンとインクを巾着袋に詰めてロステンブール近くの森へと向かった。
暫く森を歩くと少しだけ開けた場所に出た。のどかな空気が満ち、何となく安心できそうな森の風景画を描くのには適している。俺は平らな場所に腰を下ろしてペンを持った。
「うーん…。」
俺は人の顔ばかり描いていたのでペンが凍り付いたように動かない。インクが乾き始めようとした時にようやくペンが動いた。俺は絵を描くのが非常に遅い。まだ半分しかかけていないところで段々と日が沈み始めた。
続きは明日にしようと思い、俺は立ち上がった。日が沈む前には家に帰らないといけなぁとぼんやりと考えながら早歩きで家に向かう。
何となく物音がした気がする。俺は少し気になったのでチラッと覗いてみようと音のする方へ少し歩いた。
それは薄暗い夕暮れ時だった。
俺は人生で初めて人が殺された瞬間を見た。――最悪なことに殺されたのは俺の母さんだった。
母さんを殺していたのは髪の長い金髪の男と大柄で筋肉質な男の二人組だった。
あまりの衝撃的な光景に固まってしまった俺の耳に母さんを手にかけていた二人組の会話が聞こえる。
「あそこに誰かいないか?」
と髪の長い金髪の男が言った。
二人ともフードを深くかぶっていて、よく顔が見えない。
久しぶりに冷や汗をかいた。
一瞬、何かの呪縛から解き放たれるような感覚に襲われるが、そんなことを気にしてはいられない。俺はまるで何かに弾かれたように一目散に逃げだした。死というものが寸前に迫ってきていたことを直感的に理解したのだ。
あいつ等から逃げること以外何も考えられなかった。後ろから何か聞こえた気がするが振り返る訳にはいかなった。
ただひたすらに走った。途中で野生動物を蹴り飛ばしているかもしれないほどの速さで走った。もはやどんな道を走っているのか、どんな道を走ってきたなどわからない。薄暗い森の中を宛てもなく走り続けた。
何十分走っただろうか。どうやら、あいつらは俺を追いかけてきていないようだ...なぜだ?
普通、人を殺しているのを目撃されたのならその目撃者を殺すものではないのだろうか。
ま、まぁ追いかけてこないのならば俺にとってはこの上なく都合がいい。
あれ、ここどこだ?少し落ち着いたので周りを見渡した。前のほうにちらちらと明かりが見えるので、このあたりが近くの町だと何となく分かるが、俺の知っている町とは少し違う。
あぁ、分かった。俺の住んでいる村の裏側にある貧民街だ。
ならば、ロステンブールのほうに上がって行けば家に帰れるはずだと思い、俺は歩き始めた。
五十分ぐらい歩くと村に着いた。とりあえず家に帰ろうと思って家まで歩き、玄関のドアの鍵を開けた。
「ただいま」
「……」
何も返って来ない。そうだ。俺の母さんは殺されたんだ。
父さんはいない。母さんが俺は拾った子だと言っていた。
この気持ちは何だ。悲しいというよりも虚しい、俺はやるせなくなった。もう今日は寝よう、そうしよう。ふと自分の部屋に置いてあった母の顔を描いた絵が目に入る。その瞬間涙があふれ始める。
「っ…ぅう…ぐっ…]
俺は溢れ出る涙をベッドに押さえつけるように眠った。
近所の鶏の鳴き声で目が覚めた。目覚めの気分は最悪で、朝食を作る気になれない。昨日の母の姿が脳裏にこびりついて離れないまま昼頃までぼーっとしていた時、昨日の風景画がまだ完成していないことをふと思い出した。
…続きでも描くか。俺は小さめの画用紙の束とペンとインクを巾着袋に詰めて昨日と同じように森へと向かった。
森の中を進んでいるときに少しこれからどうやって生きていくかについて考えた。俺は肖像画を描くのはかなり得意だが所詮は素人絵、わざわざ俺に依頼してくれる良い人などほとんどいないだろう。どうやって金を稼ぐのか本気で考えないといけないなぁ…。そんなことを考えていると昨日の場所にたどり着いた。
取り敢えず昨日座っていた場所を探そうと、何となく辺りを見渡すと草が少し折れているところを見つけた。そそくさと画用紙の束とペンを巾着袋から取り出しインクを傍に置き、腰を下ろした。
またペンが動かない。昨日のことを無理やり考えないようにしても気持ちが憂鬱な方へと傾いていく。いっそのこと忘れてしまいたいとも思えるが、忘れるわけにはいかない。母の死に顔よりもああいう二人組のような人が世の中にはいるということは覚えておかないといけない。
あの二人組の雰囲気は覚えている。復讐する気はな…いや俺には復讐するほどの余裕などない。
駄目だ、余計なことばかり考えて全然ペンが動かない。俺は自分に言い聞かせた。
集中するんだ、目の前のことにまじめに取り組め!余計なことを考えるな!
心の中の言葉に体がようやく反応し、ようやくペンが動き始めた。
あと少しで完成という所で急にペンが止まる。さっきまでずっと集中していたし、目の前の光景も特に違和感を感じてもいない。何故だ?俺はこの風景画を完成させることを拒んでいる気がする。俺の本能的な何かがこれを完成させるなと必死に訴えかけてきている気がする。だが、一度描き始めた絵を途中で放置するのは芸術家として如何なものだろうか。さすがにこの程度の風景画すら完成させないのは良くない。俺は自分の警告のような何かを押し殺して再びペンを動かした。
やっと描き終えた頃、辺りに夕日が差し始める。少し遠くから子供の声がする気がした。俺はインクとペンを巾着袋にしまい、風景画と目の前の光景を見比べようと立ち上がった時、足音が聞こえた。
音のした方へと目を向けると―フードを被った男が一人で赤色の大きな袋を持ってこっちへと向かってきた。
とてつもなく嫌な予感がする。あいつだ。あの時母さんを殺した時にいた長い金髪の男ではない大柄で筋肉質な方だ。
さすがにまずいと思って逃げようとした時、自分の足に違和感を感じる。昨日無理に走ったせいで走り出す瞬間に激痛が走った。
「ぐぁっ!」
久しぶりの筋肉痛に思わず声を上げ、そのまま崩れるように倒れ込んでしまった。
フードを被った男が笑ったように言う。
「よぉ、あんときの金髪のガキぃ。可哀想だなぁ?昨日みてぇに逃げれなくてよぉ?」
段々と男の足音が大きくなってくる。
「俺は仕事は徹底的にやるからよぉ。探したんだぜ?」
そういう男の手には大きめのナイフが握られている。
「痛めつけたりはしねぇから安心しな。楽に殺してやるよ」
足が動かない...動けない...確実に殺される。
「くっ…]
俺は最後まで抵抗しようと画用紙の束を全力で投げつけた。くるくると束が飛んでいくがあまり速くない。案の定、男はそれを易々と掴んだ。
「おいおい、こんなことをしても意味ね…」
「…?」
俺は目の前で起こったことが理解できなかった。あの大きな男がまるで元からそこに最初からいなかったかのように消えたのだ。
俺は這いずるようにして画用紙の束に近づいた。上から覗き込むようにして風景画を見ると俺が描いた森の風景画の中に男はいた。
何だ、これは。あいつは絵の中に入ったのか?あり得ない、さすがに非現実的すぎる。自分をひっぱたいて目を擦ったが目の前に写っているものは変わらない。現実だ...
俺は画用紙の紙束を手に取って絵の中の男を睨みつけた。男が動く気配はない。
絵の中の男は妙にリアルで俺がペンだけで描いた風景とは全然違う。なんだか気味が悪くなってきた俺は風景画を勢いよく破いた。
ビリビリビリィと破れた紙から鉄臭い赤色の液体が溢れ出す。俺はその赤色の液体が何か一瞬で理解した。
血だ…。
お、俺は人を殺してしまったのか!?さっきからずっと訳が分からないことばかりで頭がおかしくなりそうだ。感情がおかしい、抑えきれない。
……
「俺のこと殺すとかいったんだ!殺されても文句ねぇはずだよなぁ!?」
「徹底的にやるとか言ってたよなぁ!?いいぜ?なら俺も徹底的にやるからよぉ!!!」
俺は一人で吠え散らかした。
「何してるの?」
俺はハッとした。ボールを持った子供がこっちを不思議そうに見ている。
見られた…?どこから見ていた?俺は人を殺した。それを見られたんだ。いやでも…わかるはずがない。あの子供がよほど頭が良くない限り何が起こったのか理解できないはず…なんだ。
心臓がバクバクと音を立て、額から大量の汗が噴き出す。絶対に分からないはずなんだ!そうに決まっている!いやでも…もし勘付かれたら…。
頭が高速で回転し始める。あまりの大量の思考が脳の許容範囲を超えた。
あぁもういい。俺は動かなかった足を無理やり動かした。パンクした俺の脳が出した答えは逃走だった。
あの子供から見れば、近所のお兄さんが森の中で血が流れてる紙を見ながら訳の分からないことを吠えているかと思ったら、いきなり変な風に走り出したといった感じだろう。
二日も経てば俺は村で一番変な奴の称号を貰っているかもしれない。
俺はそんな称号が怖くて逃げだしたんじゃない。俺は人を殺しているのを目撃されたんだ。だからといってあいつらみたいに目撃者を殺すなんてしたくない。あいつらと同類だなんて死んでも嫌だ。
…そうだ。全部あいつらが悪いんだ。あいつらみたいな奴らがいるせいだ。
あいつらみたいな奴らを…悪い奴らを殺せる力が俺にはある!この世から悪い奴らがいなくなれば、消してしまえばいいんだ!そうだそうだそうしよう。徹底的にやってやる…。
俺は足を引きずるように走る。昨日みたいに宛ても無く走ってなどいない。どこに向かって何をすればいいのか俺は何となく理解している。
随分と遠くに来ただろうか。もうすぐ森を抜けれそうだ。
森を抜けた時、少し遠くに大きな看板が立てられているのに気付く。古臭く、ところどころ削れたような痕がある木製の大きな看板だ。そこには黒い文字で"イースリアへようこそ"と書かれてある。
イースリア…俺の住んでいる村から反対側にある町だ。ほとんどの人がこの町のことを貧民街と呼ぶほどこの町は荒んでいる。
俺はこの町に拠点を置くギャングが母さんを殺したんだと見た。母さんを殺した奴が仕事だとか言っているんだ、人を殺すことが仕事に含まれている奴などギャングとか盗賊だとかそういった類のものに属しているに違いない。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
かなりの距離を走った俺の足、脇腹、肺がもう走らせまいと俺を痛めつける。これ以上走るのは厳しそうだ。
「ぐがっ!」
一旦息を整えようと立ち止まった時、さっき以上に体の節々が痛む。
深呼吸をして体を落ち着かせようと、俺はゆっくりと息を吸う。肺の中にようやくまとまった空気が入り、今まで無理に動かされていた内臓に空気が伝わっていくのを感じながら俺はゆっくりと息を吐いた。
何となく体が楽になった気がする。俺は疲労しきった足でふらふらと歩きながら町の看板をくぐった。
町に入ると、そこには普通の町が広が――いや普通よりも少し汚い…?何というか村と大きな都市の中間といった感じの町が目前に広がる。貧民街といってもこの町は他と比べれば治安が悪く、町が少し寂しいだけだ。どうして貧民街と呼ばれているんだろうか…多分ギャングの所為だ。悪い奴らが拠点を置いている町にいい噂が立たず、悪い噂ばかりが立つだなんて当たり前だ。
適当なことを考えながら歩いているが、辺りに全然人がいない。この辺りは住宅街といった風に見えるにしても何だか本当にこの町は寂しいなと再度思っていると、横から声を掛けられた。声から何となく俺より年上の男だとわかる。
「おい、こんな日にふらふらと歩き回って何してるんだ?…君、見たことない顔だな。余所者か?」
家と家の間にある道のような狭い通路から俺よりもかなり背が高く、すらっとした体格に似あうシャツに黒いコートを羽織った茶色の髪をした男が近づいて来る。男の少し暗い青色の目が俺の姿を捉えている。
「あっはい、余所者です」
俺の答えにそうだろうなといった表情を浮かべ、手招きしながら言う。
「こっちにこい。あんまり今日は目立ちやすい所を歩くな」
「…それは善意で言ってくれてるんですか?」
別に俺は人を信じていないわけではないが、こいつがギャングの可能性も否定できない訳ではない。
「別に好きに解釈してもらって構わない。私には君にそれを証明する手段がない…まぁ来るか来ないかは君が決めることだ」
「うーん…」
少し考えるか。この人は…多分善意で言ってくれているのだろうが保証がない。見たところ何も持っていなさそう…いや小さなナイフを腰に携えているな。まぁ発言から考えると、今日は何かあるのだろう。護身用に携えていたとしても何もおかしくはない。ナイフか…そうだ!
「そのナイフを俺に貸してくださいよ。後でちゃんと返しますからさ」
「…構わないぞ」
男はそう言って、俺に向かってナイフをケースごと軽く投げた。俺はそのナイフを拾い、男に向かって礼をした。
狭い道には男以外に誰もいない。まぁ大丈夫だろう。
「変なことを言ってすみませんでした、返しますよ」
俺はそう言って男のナイフを手渡しで返した。
「あぁ」
男はそう言ってナイフを受けっとた。
何秒かの沈黙の後、男が話始める。
「君のような少年がこんな町に何か用でも?もし家出でここに来たというのなら…」
「別に家出じゃないですよ」
「そうか…なら何の」
グウウウウという音が突然、話を遮った。そうだ、俺は昨日の夜から何も食べていない。
「なんか…すみません」
「君は腹が減っているのか?あぁそうか、つまりそういうことだな」
うん。多分勘違いをされた。俺には用事があるからここに来たが、ギャングを潰しに来ただなんて口が裂けても言えない。この人は多分俺のことを帰る家がない孤児か強がっている家出少年とかだと思っているんだろう。
「ついてこい」
男はそう言って歩き始める。俺はその後をふらふらと歩きながら付いていく。
「さっきからずっと変な歩き方をしているが、足に怪我でもしているのか?」
「いいえ、少しはしゃぎすぎて筋肉痛になっただけです」
「そうか」
突き当りを右に曲がって少し歩くと男は立ち止まって右にある二階建ての少しだけ周りより大きく、辺りに植木鉢が置いてある建物に向かって指を指した。ドアには小さな看板が付いている。
「ここが私の店だ。君はここで少し待っていてくれ」
「は、はい」
そういうと、男はドアを開けて店の中へと入っていった。
こんな薄暗い所に店を構えているのか...どんな人が来るんだ?
五分ぐらい経つと、カチャリという音とともに男が出てきた。その手にはガラスでできた水の入っているコップと少し大きなパンを乗せたプレートがある。
「腹が減っているんだろう。食うといい」
「あ、ありがとうございます…」
何の変哲もない普通のパンだが、空腹の所為か将又善意の所為か、そのパンはかなりおいしく感じた。
「いい人なんですね…さっきは本当にすみませんでした」
「別に構わないぞ」
「君、両親はまだいるのか?」
「母は殺されました。父はいません」
「そう…か」
パンを食べ終え、本当にいい人だなぁと思っていると突然、男が驚いたような顔をしたかと思えば少し戸惑っているような顔をした。俺の顔に何か付いているのかと思ったが特に何もついていない。
「何かありました…?」
「い、いや特に何も…無い」
男はそう言って顔を下に向け、何かを考えているような表情を浮かべる。この人は何を考えているのだろう?流石に「何を考えているんですか?」とは言えないな...遠回しに聞いてみるか。
「あの…俺…何か変なこと…しました?」
「何も」
…すごく気まずい。別にずっと話していたいとは微塵も思わないが、この何とも言えない空白のような沈黙は嫌いだ。でも何を話せば―そういや今日、何があるのかまだ聞いてなかったな。よし、それについて聞いてみ――
「君、帰る場所ないんだろ?ならうちに住まないか?」
は?この人は何を言っているんだ?分からない、いや本当にわからない。話が唐突すぎて訳が分からない。いい人だとは思っている、ああそうだ。この人はいい人だ。見ず知らずの人にパンと水を分け与えてくれる人が悪い人だとは思えない。流石に何か条件でもあるんだろう。
「何か条件があるんですよね?」
「あぁ、条件というよりもやって欲しいことだがな」
「何をやればいいんですか?」
「ここに今は外出しているが、もう一人住んでいてだな。その...もう一人の住人というか"彼女の夢"を手伝ってやって欲しいんだ。もしその夢が無理そうだったら諦めさせてやってくれ。頼めるか?」
夢…か。何も聞いていないよな…
俺は自分の記憶をくまなく探したが、この人が"彼女の夢"について話している様子を見つける事が出来なかった。もしかしてその"彼女の夢"について何も話さないまま話を進めようとしているのか?取り敢えず聞いてみよう。
「あの、そのさっき言ってた夢ってどんな夢なんですか?」
「…すまない、言い忘れていたな。簡単に言えば"この町をよりいい町にしたい"だ」
「え、えぇ」
この町をより良くするってなんか、すごい大した夢だな。無理だろ…いや、否定的過ぎるか。でも、どうして俺にそんなことを頼むんだ?頼むにしてももっと警備隊とかそういった奴らに頼むのが定石だろ。
もしかして俺の能力に気付いているのか…?流石にないな。今までのやり取りで気付けるとは思えない。
あぁ、そういうことか!分かった。その夢を諦めさせてほしいって訳だな。…それ俺がやる必要あるのか?
「それ、俺じゃないといけないんですか?」
「年上の言葉よりも同年代の言葉のほうが効くからな」
「なるほど...諭すのは苦手ですけど頑張ります!」
俺からすれば別に悪い話ではない。もし仮に、その彼女が夢を諦めなかったとしても俺がギャングを潰してしまえば自動的に彼女の夢は叶う。家からここまで何度も隠れて往復しながらギャングを潰そうと思っていたが、ここに住めるのならかなりの好都合だ。
「そうか…!ありがとう……!――取り敢えず店に入ろうか」
男はそう言って頭を下げた後店へと入っていく。その足取りはさっきよりも遥かに軽い。俺もその後に続いて店へと入った。
店の中は外と比べると何だか狭いし椅子の数も少ない。見た感じ、多分酒屋だろう。村の酒屋とはかなり違うが、棚に置いてあるのが酒だというのはわかる。
「こっちだ」
そう言って男は、カウンターの横にある扉のほうに向かっていった。俺は店の中を見渡しながら付いていく。
ドアが開くと上へと続く階段が見えた。なるほど、これがあるから店が狭く感じるのか。
階段を登っていくとそこには三つ部屋が並んでいることがわかる。どの部屋が俺の部屋なんだろうと思いながら後をつけていくと、一番奥の部屋に案内された。
「ここが君の部屋だ。今は空き部屋だが、かなり昔、私の兄が住んでいた部屋だ。まぁ、ちゃんと掃除しているから安心してくれ」
「な、なるほど」
兄か、兄…俺にも兄弟はいるのだろうか。そんなことを考えても今更仕方ないか...
「あの、俺…着替えとかどうすればいいんですか?」
「あぁそういえばそうだったな。着替えは古いやつでも構わないか?」
「ボロボロじゃなかったら何でもいいですよ」
「ボロボロのやつは多分無いはずだ。じゃあ入るぞ」
男がドアノブに手を掛けようとした時、下の階のドアが勢いよく開く音がする。
『ただいま!』
俺と同い年ぐらいの女の声だ。その透き通った声からは明るい性格が連想できる。
まぁ、大体予想通りだな。あんな立派な夢を抱えている奴ならこういった感じでも何の違和感もない。
「すまない、一旦下に降りようか」
男は急いで階段を降りていく。俺もその後を急ぎながら付いていく。
「お帰り、早かったな。後ろにいる奴は新入りのメリックだ。多分、お前の夢を叶えるのに一役買ってくれるだろ。仲良くしてやってくれ」
下の階には俺と同じぐらいの背をした女が立っている。少し整った顔立ちに、淡い青色の瞳とベージュ色の少し長く、綺麗な髪を持った女だ。どうやら少し怪訝そうな顔をこちらに向けている。
「よろしく」
『新入り!?どういうことなの?私、一人で何とかして見せるって言ったよ?』
「一人で出来ることの限界っていうのは多いだろ?」
『はぁ...年上の人っていつもそう!みんな自分の意見を押し付け―――』
あぁ、確かにこいつは年上の意見を聞かないな。なるほどなるほど、わざわざ俺に頼んだ理由がなんとなく見えてきた。ギャングを潰しつつ、こいつの夢を諦めさせ――諦めさせる必要なくないか?俺がギャングを潰してしまえばこいつの夢は叶うはずだし...ならわざわざ説得したりする必要はないな。
こういう奴の説得ほど難しいことは無い。こういう奴は大体、鬱陶しいほどの頑固者で、いくら同年代といえど他人の意見を聞き入れようとしない。
「本当に使える奴だから、な?」
『ほんっっとに意味わかんないよ!』
「まぁまぁそう言わずにやってみないと分からないだろ?」
『あのね?協力者って言ってももうちょっと強そうな人とか居なかったの?なんで私と同い年か年下の人を協力者に選んだの??』
「お前は年上の意見を聞かないだろう」
『それは貴方が―――』
喧嘩でもしているのか?それにしてもこいつ、よく年上に向かってそんな強い口調を使えるな。まぁでも、こいつの言っていることが間違っているとは思わないな。理屈自体はあながち間違っていない。
多分、このまま見ていても仕方ないよな…。
「取り敢えずだ。仲良くしてくれ」
『ちょっと!私の質問に答えてよ!!』
「あのさ、俺意外と強いからそこの所の心配はあんまり必要ないぜ?」
疑ったような表情を浮かべながらこちらに視線を合わせる。
『はぁ……まぁいいよ。貴方、メリックって言うんだっけ?自分で自分のこと強いって言ったんだからね?ちゃんと発言の責任を取りなよ?』
『私の名前はラリーナ、一応よろしく』
「あぁ」
あれ?俺、名前についてこの人に話したっけ。まぁ流石に自己紹介位は...したはずだよな。でも、この人の名前まだ聞いてないよな。
「そういえば、お名前なんて言うんですか?」
「ん?あぁ、ガーダスだ。これも言うのを忘れ――」
『メリック!!貴方、私の協力者か何かなんだっけ?』
そう言って無理やり会話を遮るようにして話しかけてくる。その所業はあたかも自分がこの空間の支配者であるかのようだ。
なんかこいつ嫌な予感がする…
『私はいずれこの町を救って見せるの!そう、この私がね!!!だから、貴方にはこれからは私の下僕になってもらう!!分かった?』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
『拒否権は無いよ。後で私が今まで集めた情報をまとめたメモ渡すからちゃんと読んどいてね』
「おい、下僕は流石に無いだろ?」
『貴方がちゃんと役に立ってくれたら相棒として認めてあげるよ?」
「えぇぇ」
よりによって下僕...俺にもやらなきゃいけない事があるからなぁ。まぁ超絶面倒なことにさえならなければいいか。一応ただで情報を貰えるっぽいし...ていうかなんでこいつこんなに上から目線なんだよ。ここまでくるとすげぇな。いや、もしかしたら先の喧嘩で興奮状態に陥っているだけかもしれない。そうだ、その可能性はまだ否定できない!
「ガーダスさん」
「ん?どうした」
「ラリーナって人いつもこんな感じなんですか?」
「あぁ、そうだ」
そうか、なるほど、もうこれは暫く成り行きに任せるしかなさそうだな。多分ラリーナも少し悪い奴に寄ってるだけでいい奴だろうし、何とかなるか…。




