鉢植えのひまわりになりたい僕
「第4回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
「異議あり」
凛とした検察官の声が、僕の尋問を遮った。
「ただいまの弁護人の質問は誤導です」
「異議を認めます。弁護人は質問を変えて下さい」
裁判長の言葉に僕は内心で唇を噛む。
証言台の向こうに鋭い視線を送れば、相手は涼しい顔でそれを受け止めた。
コイツはいつだってそうだ。
司法修習生の頃から優秀で、僕は何をやっても勝てた試しがない。
そんなコイツのことが、出会った時から僕は――
「好きなんだよな〜」
梅酒のソーダ割を飲み干し、僕はテーブルに突っ伏した。
隣で小さな笑い声が漏れる。
「そんなに好きだっけ? 梅酒」
「うん、大好きです、ずっと」
梅酒じゃなくて君のことが。
……て、言えたらなぁ。
言えないまま、もうすぐ四年が経とうとしている。ヘタレすぎるだろ僕。
検察官と弁護人として相争っていた事件が終わり、居酒屋の個室で、僕らは気安い友人関係に戻る。
彼女の検察官のバッジも、僕のひまわりの弁護士バッジも、今はポケットの中だ。
彼女の手元でロックグラスがカランと音を立てた。芋焼酎はもう三杯目のはずなのに顔色一つ変わらない。そんなところも格好いいなと見惚れてしまう。好き。
「……話、聞いてる?」
彼女が小さく首を傾げた。
「ああ、うん、そろそろ検察官辞めようかって……えっ、辞めるの!? なんで!?」
酔いが一気に醒めた。
「この仕事は好きだけど、私もいい歳だし。結婚するなら、全国転勤がある検察官は続けられないかなって」
「けっ、結婚!?」
「と言っても相手がいるわけじゃないのよ。気になってる人は、いるけど……」
「い、異議あり!」
思わず立ち上がっていた。これ以上ヘタレてる場合じゃないぞ僕!
「異議って何よ」
怪訝そうな彼女を、真っすぐに見つめる。
「検察官、辞めないでほしい」
彼女がどれほどの情熱と努力をもって検察官になったか、僕は知っている。法廷でどんなに輝いているかも。
「だけど単身赴任は嫌だし、かと言って私の転勤について来てくれる人なんて――」
「僕がついて行く!」
彼女が目を瞬いた。胸に手を当て、伏せた睫毛を震わせる。
「……でも、君は弁護士だよ。ひまわりは、一つの場所に根を張っていた方が……」
「ひまわりは鉢植えでだって生きていけるよ。君の側で咲きたいんだ。だって、僕の太陽は君なので!」
一世一代の求婚。顔が熱い。
息を詰めて返事を待つ僕に、彼女がおずおずと視線を戻す。その頬が艷やかに色づいた。
「……異議を、認めます。ずっと私を見ててね」
ひまわりの花言葉は、『憧れ』『あなただけを見つめる』。いつも太陽に向かって咲いているから、だそうです。
そんなひまわりの花は、弁護士バッジのモチーフにもなっています。(パッと見は菊の花みたいですけどね)
そんなことを詰め込んだお話でした。
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