表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1000文字以下の短編集

鉢植えのひまわりになりたい僕

作者: 中村くらら

「第4回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。

「異議あり」


 凛とした検察官の声が、僕の尋問を遮った。


「ただいまの弁護人の質問は誤導です」

「異議を認めます。弁護人は質問を変えて下さい」


 裁判長の言葉に僕は内心で唇を噛む。

 証言台の向こうに鋭い視線を送れば、相手は涼しい顔でそれを受け止めた。

 コイツはいつだってそうだ。

 司法修習生の頃から優秀で、僕は何をやっても勝てた試しがない。

 そんなコイツのことが、出会った時から僕は――








「好きなんだよな〜」


 梅酒のソーダ割を飲み干し、僕はテーブルに突っ伏した。

 隣で小さな笑い声が漏れる。


「そんなに好きだっけ? 梅酒」

「うん、大好きです、ずっと」


 梅酒じゃなくて君のことが。


 ……て、言えたらなぁ。

 言えないまま、もうすぐ四年が経とうとしている。ヘタレすぎるだろ僕。


 検察官と弁護人として相争っていた事件が終わり、居酒屋の個室で、僕らは気安い友人関係に戻る。

 彼女の検察官のバッジも、僕のひまわりの弁護士バッジも、今はポケットの中だ。

 彼女の手元でロックグラスがカランと音を立てた。芋焼酎はもう三杯目のはずなのに顔色一つ変わらない。そんなところも格好いいなと見惚れてしまう。好き。


「……話、聞いてる?」


 彼女が小さく首を傾げた。


「ああ、うん、そろそろ検察官辞めようかって……えっ、辞めるの!? なんで!?」


 酔いが一気に醒めた。


「この仕事は好きだけど、私もいい歳だし。結婚するなら、全国転勤がある検察官は続けられないかなって」

「けっ、結婚!?」

「と言っても相手がいるわけじゃないのよ。気になってる人は、いるけど……」

「い、異議あり!」


 思わず立ち上がっていた。これ以上ヘタレてる場合じゃないぞ僕!


「異議って何よ」


 怪訝そうな彼女を、真っすぐに見つめる。

 

「検察官、辞めないでほしい」


 彼女がどれほどの情熱と努力をもって検察官になったか、僕は知っている。法廷でどんなに輝いているかも。


「だけど単身赴任は嫌だし、かと言って私の転勤について来てくれる人なんて――」

「僕がついて行く!」


 彼女が目を瞬いた。胸に手を当て、伏せた睫毛を震わせる。


「……でも、君は弁護士だよ。ひまわりは、一つの場所に根を張っていた方が……」

「ひまわりは鉢植えでだって生きていけるよ。君の側で咲きたいんだ。だって、僕の太陽は君なので!」


 一世一代の求婚(プロポーズ)。顔が熱い。

 息を詰めて返事を待つ僕に、彼女がおずおずと視線を戻す。その頬が艷やかに色づいた。


「……異議を、認めます。ずっと私を見ててね」

ひまわりの花言葉は、『憧れ』『あなただけを見つめる』。いつも太陽に向かって咲いているから、だそうです。

そんなひまわりの花は、弁護士バッジのモチーフにもなっています。(パッと見は菊の花みたいですけどね)

そんなことを詰め込んだお話でした。


お読み頂きありがとうございました!

もしよろしければ、下の★★★★★をポチッとして頂けるととっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 弁護士の花ってのが、なるほどでした。キク科なんですよね。 転勤を鉢植えになぞらえるところも良かったです。 [一言] 個人的には恋愛の話は苦手で、成就しないほうが好みだったりします。
[良い点] ハイレベル男女の、初級恋愛模様ですね。 いい感じです。
[一言] 検察官って全国転勤があるんですねぇ。 大変なんだな(・。・) 意義を認めます。 のセリフが良かったです(*´ω`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ