第1話
貴族の争いや、宗教論争などとはまったく関係のない、葦の生えた視界の悪い沼地で、傭兵団はゴブリン達と戦闘していた。
「やめろ!やめてくれ!…いぎぃ!」
ゴブリン達は新兵の足を削いだ。まるで見せつけるかのように。そう、他の仲間を誘い出す為の、見え透いた罠だった。
熟練者の傭兵達は誰も、新兵を助けようとはしなかった。所詮は、戦場によくある風景だ。英雄気取りの馬鹿から死ぬし、運が悪くても死ぬ。
わざと手入れをしていない、錆びた手槍を突き出すゴブリンを、前衛は確実に仕留めていった。敵陣の奥で悲鳴をあげていた新兵は、もう静かになっていた。
雇ったばかりの新兵のひとりが、ピッチフォークで前衛の隙間を牽制する。初陣にしては良い動きだ。団長のヨルンは、思わぬ拾い物に満足していた。更に戦果をあげるため、激励する。
「おら、そのまま突き出せ!手槍なんぞより長いぞ!一方的に刺してやれ!」
「はい!…いだぃ!」
後衛のゴブリンが、山なりに投げた投槍が、新兵の腕に突き立っていた。みるみるうちに、新兵の顔色が悪くなる。出血と毒の症状だ。ヨルンは舌打ちしながらも、後衛のひとりに新兵の看護を指示した。運が良ければ助かるだろう。
前衛の制圧も進み、戦闘の終わりが見えた頃に、背後から狼に乗ったゴブリンが突っ込んできた。葦から迂回してきたらしい。だが、先に後衛が気づいていた。クロスボウの斉射が、奇襲を排除する。すでに残ったゴブリン達は、敗走を始めていた。
「よし、適当に使えそうな装備を剥いでやれ。奥で死んでる馬鹿野郎のも忘れるなよ!」
刻まれて死んだ新兵は、没落貴族だった。金目な物をちらほらと持っている。古参兵が新兵の指ごと、指輪を頂戴していた。
ヨルンは呼びかけた。
「回収が終わったら、街道まで急ぐぞ」
傭兵達がおうと返事をすると、古参兵は新兵に、死体の首を落とすように指示した。ネクロマンサーや瘴気によって、死体がリビングデッド化するのを防ぐためだった。
新兵は嫌々と死体の首を跳ねると、頭を沼へ蹴り込んだ。今回の新兵達は見込みがあると、ヨルンは思いながら、傭兵団を街道へと進めた。
更新頻度はかなり遅くなります。
未完の可能性大