問題の露見
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「あ、全裸の人」
「あ、恩知らず警察」
警察署に行き、指輪泥棒達を引き渡すついでに、リネンに頼まれていた不当逮捕した警察の真意を聞きだそうと考えていたハロウ。しかし途中で、人助けをした彼をしょっぴいた警官に遭遇した。
「……どういうことですか?」
「聞いてよ! こいつら誘拐犯から子どもを助けた俺を捕まえたんだよ!?」
「……本当ですか?」
警察官の横暴を訴えるハロウの言葉を聞き、アストロは目の前の警官に真実かどうか尋ねる。
「……? どちらさ……え? 騎士様?」
聞かれた警官はアストロの身分がわからないので尋ねようとしたところ、アストロの服についている騎士の紋章に気がつく。
「そうです。それで、彼が言っていることは本当ですか?」
改めてアストロに問われ、警官は敬礼しながら答える。
「た、確かに捕まえましたが、それはこの者が公共の場で全裸になったからであります!」
「……ちょっと?」
アストロはハロウに本当かどうかを聞く。しかしその目はやってると確信している目だった。
「確かにそうだけど、それは誘拐犯に追いつくため狼に変身したからだよ?」
ハロウは言い訳する。善行のために仕方なくしたことなのだと。
「それは君が悪いですね」
「え?」
あっけにとられるハロウの前で警官がガッツポーズしている。騎士の賛同が得られたからだ。
「まずどんな理由があろうとも、公共の場で全裸になるのはいけません。それと狼に変身するのもです。危険行為と見なされます」
アストロは知り合いであろうと贔屓しない。もしするならリネンのことをプールで聞き込みで調べたりしない。
「でもさ、この警官俺が服着ようとしたのに許さないで取り押さえて、全裸で連行したんだよ? しかもそのせいで服なくしちゃったし」
「それは確かに問題ですね。どういうことです?」
アストロはキリッと警官を睨みながら聞く。
「お、お待ちください! その男は連行されることに抵抗したので、服を着せては逃走の可能性があると思い、やむをえずそうしたのであります!」
確かにハロウは抵抗したが、それは言葉でだ。警官が自分に都合よく言ったに過ぎない。しかしこれをアストロは簡単に嘘だと見抜く。
「嘘ですね。彼が本気で抵抗したら連行などできません」
アストロは出会い頭に見たハロウのスピードと魔素の含有量から、ハロウが警察にどうこうできるレベルでないことは理解していた。
「し、しかし……」
「まあ今はいいです。あなたは不当逮捕こそしていませんが、対応に問題があります。以後気をつけてください」
「は、はい!」
この警官は運が良かった。
「今日、彼らは泥棒などを捕まえてくれました。迷惑をかけたお詫びにそれに対する謝礼ははずんでください」
「かしこまりました!」
本来騎士に警察の謝礼云々に口を出す権限はないが、警察を取り締まることはできる。警官はアストロの言葉が謝礼をはずめば今回のことは見逃すという意味なのだと理解できただろう。
警官が去ろうとすると、ハロウが疑問に思ったことを聞く。
「あれ? 泥棒捕まえたら謝礼貰えるの?」
「ええ。場合にもよりますが、今回の様に警察関係者無しで捕らえた場合は基本的に貰えますよ」
「え? 誘拐犯捕まえても貰ってないけど?」
その言葉を聞いてアストロの目が細められる。
「まさかとは思いますが、誘拐犯を捕まえた謝礼を払ってないなどということはありませんよね?」
「いえ! その! 昨日のことでしたので、いくら支払うかまだ決まっておりませんので、現在はまだ支払っておりません!」
本当は払う気などなかった警官だが、まだ払ってないだけだと言い逃れする。優秀な罪人は簡単に自白などしないのだ!
「住所も知らないのに? どこに金払う気だったの?」
ハロウは捕まったときに住む場所が決まっていなかったので、取り調べのとき住所はないと言ったらそれでお終いだった。
「……あ、えっと」
言い訳を潰されて焦る警官。
「……住所不定?」
アストロがハロウに奇妙なものを見る目で見ながら問いかける。
「いや、そのときは田舎から出てきたばっかだったから、住む場所を決めてなかっただけ。今は決まってるよ。住所は……ごめんちょっと覚えてないわ」
「またですか。君もしかして記憶力が……」
うわーと言った顔で手で口を押えるアストロ。
「ま、待って! 確かに覚えてないけど、覚えようと思ったら覚えられるから! 今まで住所とか電話番号とか必要な場面に遭遇しなかったから、つい覚えてないだけだから!」
ハロウはアストロに記憶力に問題あるやつだと思われたくないので必死に言い訳する。
「……友達とかいなかったんですか?」
記憶力ではなく交友関係が寂しいものだったとばれてしまった。
「……子ども時代はいた……気がする!」
「気がする!?」
「まあ、子ども時代なんて基本覚えてないし」
苦しい言い訳は続く。
「それやっぱり記憶力が……」
「あ……」
しかし言い訳むなしく記憶力の問題が露呈する。
ばつの悪そうなハロウの顔を見てアストロはため息をつく。
「まあ、今は君の記憶力のことはいいです。それよりこの警官は明らかに払う気はなさそうですね。……今回この署から問題行動が多く見受けられました。他にも問題を起こしていないか調べることにします」
アストロの決定を聞いて警官が青ざめる。
それを見てハロウはざまあみろと、ほくそ笑む。
「……今日のところはリネンを不当逮捕した人物を処分することにします」
「我はそれで問題ないが、それだと他の問題ある警官が証拠隠滅などしないか?」
「そうですが……今日は私しかいません。調べるのは手が足りないので無理です」
その言葉を聞いてハロウが狼顔になり、手をあげて自分をアピールする。
「はいはいはい! 俺なら話すだけで嘘とかわかるよ!」
「いえ、そうかもしれませんが、言っては悪いですけど君が嘘をつく可能性もあるのでそれでは決められません。第一、騎士としての判断としては、一人の証言だけを根拠にしてはなりませんから」
「じゃあさ、一緒に警官に会うのは? やましいことしてるかどうかくらい判断できるよ? やましいことあるやつを教えるから、調査するときはそいつを積極的に調査するのは?」
ハロウの提案を聞き、アストロは考える。
「……それなら問題ありません。お願いできますか?」
アストロに頼まれたハロウは大喜びする。
「まっかせて!」
下調べをすることになった一行はまずは一番偉い署長のところにいくことにした。署長がアウトだった場合は調査が大変になることは予想されるが、重要なのでそこからとなった。
■
――面倒なことになった。
それが署長の偽らざる本音であった。今朝までとは打って変わって憂鬱な気分になる。
まさか騎士が訪ねてくるなど予想外であった。しかも内容が逮捕をする際に問題行動が見受けられたというのだ。もしかしたら先日の風俗店の件がばれたのではと思う。
彼はつながりのある風俗店から情報を受け、ある風俗店を摘発していた。そしてその従業員の身元を調べ上げ、親族を脅した。金持ちの娘で遊び感覚で風俗で働くものは意外と多かった。その親族にばらされたくなければ金を払えと言えば簡単に金儲けができる。そして身内に脅す価値のある人物がいない場合は、つながりのある風俗店に売ればいい。それで店から金が貰える。警察として実績を上げ、私腹を肥やせる。まさに完璧だと署長は思っていた。
――いや、それはない。
漏らしたところで得する人間などいないからだ。では誰がなんのためにと思うが、署長には思いつかなかった。彼を恨んでいる者から密告があったとしても証拠は見つかっていないはずだし、そうならば騎士がいちいち動くはずがないからだ。
――聞いてみるしかないか。
署長は覚悟を決め、騎士を待つ。
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「ようこそいらっしゃいました。栄えある騎士様にお会いできて光栄です。それで問題とはどのようなものでしょうか?」
丁寧な言葉使いとは裏腹に署長の声は明らかにアストロをなめていた。なんだ小娘じゃないか。そんな声が聞こえてくるようだった。
「そのことですが……」
アストロは話しながら部屋を見渡す。署長室は一見変わったところはなかった。壁にかかった長々となにかしらの文字が書いてあるもの。国旗。数々の賞状やトロフィーなどなど。見た限りでは異常は見つけられない。
今までもアストロをなめてかかる馬鹿は存在した。そしてこういった輩が組織の上にいる場合、確実に問題を起こしている。
「なんと! ……」
アストロから問題を聞いた署長は驚く。しかし予想していたことがばれてなかったことは署長に安堵を与えただろう。
しかしアストロが署長と話している間、ハロウは臭いを探っていた。
「くんくん。アウト!」
いきなり叫んだハロウに驚く周囲は驚く。
「い、いきなり、なんだね!? 人が話している途中に叫びだすとかなにを考えているのかね?」
「ん? お前が全然悪いと思ってないからアウトって言っただけだけど?」
質問した署長に対して鼻で笑いながら答えるハロウ。
「ふざけるな! なにが私が悪いと思ってないだ! どこにそんな証拠がある!? 第一目上の者に向かってなんだその口の利き方は!!」
署長がハロウに向かって大声で怒鳴りちらす。彼は怒ると怒鳴るの区別をつけられるほど知的な存在ではないので、少し怒ると怒鳴ってしまう。
穴の開いた服を着ているような貧乏人に小馬鹿にされたと思ったのだろう。
そんな怒り狂う署長とは対照的にハロウは一言も発さない。そしてなにも言わずに署長の頭を天辺から鷲掴みにし、彼の前に置かれていた湯呑に向かって叩きつける。
「ぐっ!!」
室内には署長の汚いうめき声とともに、湯呑が割れた音、机に頭が叩きつけられる音が響く。
「お、おい!?」
「ちょっと!?」
ハロウの予想外の行動にアストロとリネンは戸惑う。ハロウの今までの行動からまさかいきなり暴力を振るうとは考えていなかったのだろう。
「ど、どうしたのだハロウ!? ……はっ! まさか!」
もしや、といった顔をするリネン。
「どうしました、リネン? まさか心当たりが?」
「うむ。人狼は満月のような丸いものを見ると狂暴になると聞く。もしやと思うが、署長の禿げ頭を見て狂暴化してしまったのでは!?」
「成程」
「成程じゃねえよ! こんなんで狂暴化してたら日常生活送れなくなるわ! あとそれ迷信だから」
リネンとアストロに誤解だと訂正するハロウ。その間も机に署長を押し付けている手が緩められることはない。
「では一体どうしたのだ? なぜいきなり署長にそんなことを?」
「そりゃもちろん、面倒なことにならないためにだけど?」
「どういうことですか? もう少し詳しく言ってください」
ハロウがなぜそうしたかわからなかったので、さらに聞くアストロ。
「あ~。まずさ、こいつが俺に向かって『目上の者に向かってなんだその口の利き方は』とかほざいたじゃん? そんなこと言われるってことは、俺はこいつに目下の者と思われてる。つまりなめられてるってことだよな?」
この世の大半の警察署署長は、初対面の全裸で捕まった田舎者のことをなめる。しかも穴の空いた服を着ているのでなおさらだ。
「確かにそう思われているでしょうね。それで?」
「俺、故郷で権力者になめられるとろくなことにならないって理解したんだ。だからこいつが正しい認識ができるようにしとこうと思って」
ここで言うろくなことにならないというのは、エロ本を盗まれたことを言っている。しかしここでそんなことを言うと、アストロがどう反応するかわからないので、賢明なハロウはぼかすことにした。
「そうなんですか。なにがあったかは知りませんが、いきなり暴力というのは考えものですね?」
「もちろん普通なら暴力なんて使わないよ。でも会って一瞬でなめてくるやつのために言葉で説得してやる義理もないわけじゃん? あと人間って基本なめてるやつの言葉聞かないし」
「確かに」
ハロウにそう言われて、納得してしまうアストロ。
「君の考えはわかりましたが、以後私の前でいきなりの暴力はなしでお願いします。一応法律的にはいけませんから。取り締まる必要はありませんが、見逃しっぱなしなのも外聞が悪いので」
騎士は貴族などの特権階級や警察関係者などを主に取り締まる。それ以外の一般人などは警察が、という風に住み分けが行われている。そして騎士と警察の一番の違いは騎士は取り締まるのは権利で、警察は義務だ。騎士は犯罪者を取り締まらなくとも問題ない。
しかしアストロは貴族などの犯罪者を捕まえて国に報酬を貰っている立場なので、一応注意をしておいた。彼女は真面目だが馬鹿ではないので、いちいち全ての犯罪を取り締まろうとはしない。
「わかった! ……魔威圧はいい?」
魔威圧というのは、魔素を相手に送って威圧することだ。魔素を放ちながら害意を込めると相手は恐怖を感じる。
「魔威圧は恫喝にあたるのでダメです。魔威圧を客観的に証明する方法はありませんが」
実質的に許可を出すアストロ。
「わかった。じゃあこいつ放すな」
そう言って署長を放すハロウ。
署長は自由になるとすぐに怒りを爆発させる。
「ふざけるな! お前は自分がなにをやったかわかっているのか!?」
「……確かにそうだな。よく考えれば、お前これから捕まるから権力者じゃなくなるじゃん。殴られ損だな! ハハッ」
自分がやったことを冷静に考えて、必要なかったと言うハロウ。
「この!」
署長がハロウを捕まえようとするが、ハロウは署長の目に捉えられない早さでトロフィーが詰まっている棚まで移動する。
なぜそこに移動したのか、ハロウがすぐに説明し始める。
「くさいなー。くさいなー。このトロフィーがくさいなー」
ハロウは棚の中から迷わず一つのトロフィーを取る。そのトロフィーだけ署長の臭いがべったりついていた。
「…………」
それを見て黙ってしまう署長。なにかあると言ってるも同然だった。
「そしてこれをこのくさいところに置くとー?」
ハロウはそのトロフィーを棚の奥の特定の場所に置く。するとガチャッという音がしたあと棚が横にずれ始める。トロフィーと同じく臭いを辿れば簡単に見抜ける。
「なっ! 待――ぎゃひっ」
わかるはずのない仕掛けを一瞬で見抜かれてことで驚きの声を上げる。すぐにハロウ達を制止しようとした署長は、次の瞬間自ら飛び上がり床に受け身も取らずに落ちる。ハロウの仕業だ。
「む!? ハロウよ! 今のは一体なんであるか!?」
ハロウの仕業であると見抜いたリネンが興奮しながらハロウに聞く。
「今のは魔威圧の応用だ。小さいときに叱られないために編み出した技だ」
ハロウは自慢げに答える。
この技は魔威圧を用いて相手に無理矢理回避させることを連続的に、適切な個所とタイミングで使用することにより、相手が自ら跳んだように投げられる技だ。まさに達人技と呼ばれるに相応しい技だが、親に叱られないためという小さな理由で編み出された。
「すごいではないか!!」
リネンに称賛されて照れながらハロウは言う。
「いやあ。なんなら教えようか? 実際にはあんま使いどころないけど」
このような芸当ができるなら、普通に魔威圧で相手を動けなくできるので使い道は少ない。
「おお! よいのか!? 是非との頼む!!」
しかし、技の敵が自ら飛んで行動不能になるという見た目がリネンの琴線に触れたのだろう。リネンは笑顔でハロウに頼む。
「もちろんだ。だって、し――」
――まずい!
ここでハロウの頭に危機感がよぎる。ハロウはこのあと『縛り方教えてくれたじゃないか? お相子だろう?』と続けるつもりであった。しかし、彼の近くには思いを寄せるアストロがいる。そんな相手に縛り方云々の話は聞かれたくなかった。引かれたら落ち込むどころで済むものではない。なので『し』から始まる状況に合う単語を模索する。そして短い時間の中で一つ閃いた。ハロウはそれを吟味することなく言葉として発する。
「親友じゃないか!」
ハロウにとってリネンは、色々と教えてもらったので恩人ではあるが、親友というほど仲は深まっていない相手だった。
――会って一日ぐらいしかたってない相手に馴れ馴れしかったかな?
そう思いながらリネンの様子をうかがうと満面の笑みを浮かべていた。
「そうであるな! 友よ!」
どううやら親友でいいらしい。ハロウはリネンとの仲が深まったことを感じた。
「……盛り上がっているところ恐縮ですが、手伝ってくれませんか?」
そんな二人をジト目で見ながらアストロは手伝いを要求する。普段の彼女ならそれは本来仕事として一人で黙々とやっていたであろうが、今日は違った。
彼女は、これまで幾度か告白されてきたが、どれも断ってきた。短命種ならばそれを理由に。長命種で彼女に声をかけてきたのは女好きだけだったので、これも断った。精霊系統の種族は基本的に浮気は許さないからだ。そして彼女に断られて、なお受け入れる条件を聞きそれに合わせると言ってくれたのはハロウが初めてであった。
なので彼女はハロウのことを意識していたのだろう。
しかしそんな彼女の目の前で、彼女を放っておいてハロウはリネンと友情を築いていた。それを見て彼女は微妙に面白くなさそうな顔をする。
「はい、ただいま!」
「任せよ」
しかしハロウはそれに気づかない。いやアストロの感情の変化には気づいているが、それの正体は気づけない。なぜなら彼の能力でにおいは嗅ぎ分けられるが、それがなにかを理解するのはハロウである。だから、彼の人生において無縁だったものはよく理解できない。なので彼は自分がリネンと遊んでいたので、その不真面目さに対する不満だと思った。
アストロの機嫌を直すためハロウは真面目に犯罪の証拠などを探す。
隠し部屋には署長が脅しに使った証拠や金などが保存されていた。
「おいおい。貯め込んだな」
「ええ。しかも書類を見る限り署内のかなりの数がこのことを知っていますね」
「これはどうするのだ? 応援を呼んだ方がいいのでは?」
「……そうですね」
アストロは王城から応援を呼ぶことにした。署長室から電話をかける。
「……アストロです。手が足りないので、応援をお願いします……」
アストロが電話をかけている間、することもないのでハロウはリネンに技を教えることにした。受けるのはもちろん署長だ。
「う~ん。そんな風に連続で威圧する感じじゃなくて、最初っから避ける場所を予想しといて、そこに威圧を置いとく感じかな? 最初は大雑把に二回連続威圧を目指してみれば?」
「ふむ! こうか?」
アドバイスをもとに試してみるリネン。しかし署長はビクッとするだけで跳ばない。
「惜しい! 二回目以降は、なんて言うか、威圧を発するんじゃなくて、弱く威圧しといてから適切なタイミングで強く威圧する感じかな? 威圧するのが二回なら、威圧の線が二本じゃなくて、二個に枝分かれした一本になるように」
「む? こうか!? ……なにかつかめた気がする」
またも試すリネンだが、今度はさきほどよりも大きく署長が動く。
「え? もうできたの? 早くない?」
早速リネンにコツを掴まれたことで、自分の苦労はなんだったのかと落ち込むハロウ。
「友の教え方が上手いからだな」
「それにしても早過ぎだろう。くっ! せんべいを齧りながら編み出した技が!」
ハロウは技を編み出すまでの苦難を思いだしながら嘆く。
「すまんが苦労が伝わってこんな」
ちょうどリネンがコツを掴んだところで、アストロが大声を上げる。
「なぜです!? 止めてください! ……もう出ていったので無理?」
声を上げながらアストロがチラッとハロウを見る。それに気づいたハロウが大喜びで手を振る。そんなハロウを見つめてから、アストロは軽くため息をつく。
「はあ。……最悪騎士が一人減るかも知れませんから」
そう言い捨ててアストロは電話を切る。
「どうしたの?」
「まずいことになりました。これから応援が来るんですが、それがトラブルを起こしそうで」
アストロは苦い顔をして答える。
「そんなやつ応援によこす?」
「……問題起こしそうなのは君なんですが?」
「え? 俺?」
ハロウは全く心当たりがないので首をかしげる。
「ええ。応援に来る人物なんですが……その人に会うたびに軽く口説かれるんです」
アストロのことを好きハロウとアストロを口説いてくる人物。その二人が一緒にいればトラブルになりそうなことなど簡単に予想できる。
「おおん?」
アストロが応援に来る人物がどんなものか言うと、ハロウの雰囲気が変わる。さきほどまでの間抜けな感じから、表情が抜け落ち、感情を感じさせなくなる。
「待ちなさい! 私はその人に応じる気はありませんから! 間違ってもさきに手を出さないように」
「……そういうことなら」
ハロウはアストロがそいつになびく可能性はなさそうだと思い、いつも通りに戻る。
「あと喧嘩になってもできる限り殺さないでください。その人は国にとって非常に重要な役割があるりますから」
「気をつける」
若干不満げながらも約束するハロウ。彼にとって成功する可能性が低くともアストロを口説く者は敵だ。
「まあ、喧嘩になったときは我もハロウに加勢するので、うっかり殺すことは減るであろう」
「……リネンって炎操れるんだよね? 手加減に不向きじゃない?」
ハロウがもっともな指摘をする。
「いや、友が腕とか引きちぎったら即座に焼いて止血できるぞ? 失血死する確率減るであろう?」
「そうだけど、火傷でショック死とかしないっけ?」
「む? そう言えば我、炎使って手加減したことはないな」
「……喧嘩しないように気をつけるよ」
リネンが加勢したら死人が出るなと思ったハロウは喧嘩をできるだけしないようにすると言う。
「そうしてください」
「「「…………」」」
「不安だ」
「不安ですね」
「不安であるな」