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上京狼  作者: 鳥片 吟人
30/34

御宅訪問




「あのさ、質問したいことがあるんだけど」


 ハロウは目的の家に向かう途中、アストロに言う。


「なんでしょう?」


「ぶっちゃけた話、調べるだけなら、最初から俺一人で行った方が早いと思うんだ。俺は鼻で嘘がわかるから、家主に出てきてもらって聞けば一発だと思うんだよね。家主が呪素のこと知ってた場合だけど」


「そうですね。ですが私が見つけたものですから、責任は私が持つのが筋だと思うのですが?」


「だからしんどいの我慢して、一緒に呪素の近く行ったの? 責任の取り方間違ってない?」


「そうでしょうか?」


「うん。調べるだけなら俺だけを行かせた方が良かったと思うよ? 気になるなら呪素が届かない範囲で近くにいればいいじゃん。前もって合図決めておいて」


「……むう」


 アストロは誰かとまともに組んだことは少ない。しかも最近はないと言ってもいいほどだった。そもそも仕事においては、自分が不向きだとしても、できる限り自分でやってきた。なので、他人に自分ができることを任せるということに、慣れていなかった。


「なんか微妙に納得いってない感じだね?」


「はい。君の言っていることは理解できるのですが、どうも落ち着かないと言うか……」


「そうなのか。でも、アストロは呪素には弱いんだから、今度から呪素が溜まってる場所に偵察目的で行くのは俺に任せてくれない?」


「……そうですね。私が行っても君より成果があるとは思えませんし」


 アストロが少し考え、ハロウを頼ることにする。今まではなかったことだ。


「成果なんて関係なく行ってほしくないんだけど。まあいいや」


「ですがそれでは君に利益はありませんね。なにかしてほしいことありますか?」


「いや。いいよ」


「……ん? なにもいらないんですか?」


 ハロウがなにか要求してくると予想していたのだろう。アストロは戸惑いをみせながら、ハロウに確認する。


「うん。アストロの安全に関係することだから、いらない」


「……撫でたりしなくていいんですか?」


「うん。そもそも、アストロが心配で代わりに呪素の溜まってる場所に行くって言ってるんだから、アストロが安全ならそれでいいんだ」


 ハロウにとっては、アストロが無事なことが報酬になる。


「……そうですか。心配でしたか……」


「うん。もちろん」







 二人は目的の住宅の前に到着した。アストロは呪素対策に聖水を纏っている。


「じゃあ、チャイム押すね?」


「はい」


 ハロウが門のところにあるインターホンを押す。『ジーッ』という音の後でインターホンから声が聞こえてくる。


『ご用件は?』


「国家安全特別対策室の者です。この住宅に危険物が持ち込まれた疑いがあります。その確認のため、伺いました。調査にご協力をお願いします」


 アストロが身分を簡単に言い、『とにかく家の中を見せろ』を丁寧に言う。


『……少々お待ちください』


 インターホンが切れる。それから数分で再びインターホンから声が聞こえてくる。


『どうぞ、中へお進みください』


 頑丈そうな門が開く。アストロとハロウが門の中に踏み入れるとすぐに門が閉まる。


庭は芝生が一面に生え綺麗に刈られていて、家の近くには花が植えてあるスペースがある。


門が閉まってすぐに、門の脇にあった小屋から黒服の男二人が現れる。二人ともサングラスをしていて、鍛えられている体をしている。


「……こちらです」


 黒服は聖水を纏っているアストロを見て、一瞬戸惑うがすぐに案内を開始する。


 アストロとハロウは大人しくついていく。そして小声でハロウがアストロに話しかける。


「全然似てないね?」


「なにがですか?」


「あの二人だよ。兄弟感ゼロだよね」


「……あの二人兄弟なんですか?」


「……え? 違うの?」


「さあ? もしかしたら兄弟かも知れませんが。どうして兄弟だと思ったんですか?」


「いやだって家から出てきて案内してくれてるんだよ? 家族じゃないの?」


「……酷い勘違いですね。彼らは警備の者で、ここの家の住人に雇われているだけだと思いますよ」


 アストロが呆れながら言う。


「警備? 自分の家に警備とか雇ってるってこと?」


 ハロウが信じられないと言った顔で聞く。


「はい。貴族なら使用人かもしれませんが、ここの住人は貴族ではありませんし」


「マジか。金持ちって大変なんだな。警備雇わないといけないなんて」


「そうですね。やはりお金持っていると泥棒に狙われますから」


 二人は家の扉の前まで黒服たちに案内される。扉を開けると家の主である六十代ほどに見える男がいた。


「ようこそ。こんな朝早くから、お仕事とは大変ですね。それで、我が家にどんな危険物があると?」


 家主は不機嫌そうに皮肉を言う。まだ小学生も登校していないような時間なので、仕方ないだろう。


「それはまだわかりません。私達はここに危険物かないか調べに来ただけですから」


「そうですか。しかしね、いきなり来て家の中を見せろと言われましても、都合というものがありましてね……」


 家主がなんとか断ろうとする。


「お時間はそれほど取らせません。二十分以内には終わるかと。もちろん、施錠されている場合などに開錠に手間取らなければ、ですが」


「……いいでしょう。それでどこを探すのですかな?」


「ご協力感謝します。……ハロウ」


 アストロに呼ばれたハロウは顔だけ狼に変身させる。


「!?」


 それを見て家主が驚く。変身能力のある人種がいるのは知識としては知っているだろうが、実際に見るのは初めてなのだろう。


「……こっち」


 ハロウは呪素の臭いを追って家の中を進む。それにアストロ、家主と続いていく。


 そして、ハロウとアストロが大きな扉のある部屋に入った途端、後ろを大人しくついてきていた家主が後退して扉を閉める。すぐあとに『ガチャッ』と鍵の閉まる音が響く


「うん?」


 そして部屋の天井や壁から催眠ガスが噴き出す。


 それを見たハロウは鍵の閉められた扉を爪で切り裂き、部屋の外に出る。


「アストロ……は、無事だね?」


「はい」


 アストロは聖水を纏っているのでガスは効かない。


 アストロは新たに水はスライムのように部屋の外にいた家主を確保する。水は球体になり、家主を顔だけ出して確保する。


「くそっ! なんだって騎士が出てくるんだ! おかしいだろう!」


 家主が文句を叫ぶ。顔しか動かせないので、文句を言うしかないのだが。


「……アストロ。こいつ本気で言ってるぞ?」


 ハロウはにおいで嘘を見抜ける。なので家主が本気で騎士が来るはずがない、と思っていることがわかってしまった。


「やはり知らずに持っている可能性が大ですね」


 呪具と知っていて、家に持ち込んでいたら絶対に出ないセリフを家主が言った。なので、ハロウとアストロは家主が呪具のことを知らないと確信する。


「取り合えず、おっさん、なに隠してる?」


「…………」


 家主が黙る。


 しかしハロウは感情を読めるので、家主が言う気がないのではなく、言うのを悩んでいることを見抜く。


「ほう……。だんまりか。ならこの博士にもらった魔法薬、ゴーヤ・メルトダウンを飲んでもらうか。あまりの苦さに発狂するらしいぞ?」


 ハロウが影からどす黒い緑色をした液体の入った瓶を取り出しながら言う。


「ひえええ!」


 怖い刑事と優しい刑事と呼ばれる取り調べの方法がある。最初に容疑者を怖い刑事が怖がらせ、その後に優しい刑事がとりなすことで犯人が優しい刑事に心を開き、色々話してしまうそうだ。その例で言えばハロウは怖い刑事だった。


「言わなくても構いません。その場合、莫慰奉送りになります」


 しかしもう一方のアストロは優しくするのではなく、もっと怖いことを言う。ここにいるのは怖い従騎士ともっと怖い騎士だけだった。


 アストロの莫慰奉送りという言葉を聞いて、家主が青ざめる。


「な!? なぜそんなところに入れられなければいけないんだ!? 確かに動物を飼い主ごと攫ったりしたが、殺したりはしていないぞ!? そんな凶悪犯が入れられる場所に入れられるようなことはしていない!!」


 よほど莫慰奉に行くのが怖いのだろう。家主はすらすら話始める。


「……それだけか? もっとなんか違法なことしてないか?」


「してない! それだけだ!」


「あれ? じゃあもしかして偶然紛れ込んだだけかな? そんなことある?」


「ありえなくはありませんが、こういう場合はまだ考えられることがあります。家主、動物を捕まえておく特別な道具を持っていませんか? 檻とか首輪とか紐とか」


「あ、そういう可能性もあるか」


「特別と言われても……。色々あるぞ? 逃走防止の電気の流れるものとか」


 なぜか家主が自慢げに言う。


「……心当たりはなさそうですね」


「じゃあこいつ役に立たないな。どうする?」


「素直に話したじゃないか! 聞く限り目的の者はないんだろう? 開放してくれ!」


「素直に話したら開放するなど言っていません。普通に莫慰奉送りです」


「あ、莫慰奉送りなんだ?」


「はい。私達の会話聞いてしまっていますし、知らなかったとはいえ、呪素関連で問題起こしているので。莫慰奉送りにした方が問題が少なくて済みます」


「へー。莫慰奉って呪素関連のやつが行くところなんだ?」


「はい。甕男とかもそうだったでしょう? では行きましょうか」


「わかった。じゃあここからは鍵とかあれば壊しながらでいい?」


「そうですね。壊してください」


「わかった。じゃあ、ついてきて」


 ハロウとアストロは一階の奥へ行き、そこから地下への階段を発見する。


「ヒャッハー!」


 ハロウはそこの扉を蹴破り、どんどん奥へと進んでいく。


「ん!?」


 しかし今まで止まることなく進んでいたハロウが、急に止まる。


「どうしましたか?」


 後ろからハロウについてきていたアストロも一緒に立ち止まり、ハロウに訪ねる。


「……呪素が少なくなった? いや、一か所に集まってる感じか?」


「本当ですか!?」


「うん。たぶん。なんか呪素がさっきまでは淀んでた感じなのに、今は流れがある」


「……それは、まずいですね。ハロウ。近くへ来てください」


「はい、喜んで!」


 ハロウがアストロの近くに行くと、アストロは聖水で三人を覆う。そして聖水の量をどんどん増やしていく。


「ハロウ。家の外に最短で行ってください。壁壊して構いません」


「はい、喜んで! 一階分上へ参ります!」


 ハロウは上の壁を殴って吹き飛ばす。そして一階に着くと、家の壁を殴って壊しながら一階を真っすぐ突き進む。アストロは家主を水を操って連れて、ハロウについていく。


「ねえ、アストロ。一体なにが起こってるの?」


「おそらく呪人が誕生しようとしています」


「あれ? それって超ヤバいやつじゃなかった?」


 とうとう壁を突っ切って家の外に出る。


 アストロはそこから聖水を地下に送り続ける。


「そうです。あとハロウ。武器を用意しておきなさい」


 アストロは服の中か小さな筒を取り出し、そこについている紐を引く。すると、筒からカラフルな煙が出始める。それを確認したアストロは筒を庭の端の方に投げる。


「わかった。その筒なに?」


 ハロウが影から手甲鉤を取り出し装備する。


「呪人が発生した事態を知らせるための道具です」


「いいの? まだ呪人見たわけじゃないけど」


「はい。呪い関係でなにか起こったことは確実ですから。これでなにもしないで、周囲が呪人に襲われたら大惨事ですから」


「そっか。……呪人って強力な恨みを抱いたまま死んだやつの近くに多くの呪素があると発生するんだよね? なんでそんなのが地下に?」


「それは家主に聞かないとなんとも……。一体どんな酷いことしたんですか?」


「し、知らん! 本当に知らん!」


「さきほど動物と一緒に飼い主を攫ったとか言ってましたね? その人達はどんな扱いを? 地下にいるのではありませんか? 言いなさい!」


 アストロがきつく言うと、店主は怯えながら話しだす。


「ど、どんな扱いですか? その、珍しい色のサーベルタイガーがいまして、飼い主に売るよう言ったんですが、その飼い主のやつが『家族を売るなんて、ふざけるな!』とか言って拒否しましてね? まあ、結局捕まえたんですが。それで動物を家族とか言う姿にイラつきましてね? 飼い主をサーベルタイガーと一緒に閉じ込めてやったんですよ。餌とかやらずに。それで、もうそろそろ死んでるころじゃないかなー、と」


 家主が自分のした非道な行為を言う。そこに怯えはあるが後悔や罪悪感は存在していなかった。


「なんてことを」


「そりゃ恨むわ。それでアストロ、聖水送ってるみたいだけど、大丈夫そう? このまま呪人なんとかなりそう?」


「いえ、おそらく仕留めるのは難しいでしょう。私が聖水を送っているのは呪人を増やさないためです」


「あー、そう言えば増えるんだっけ?」


「はい。呪素が集まっていたなら呪人の発生を阻止することはできそうにありません。なので被害が広がらないように、他の動物のところに聖水を送りました。そうすれば殺されてもその動物は呪人にならないでしょう。運が良ければ殺されないかもしれません」


「成程。動物でも呪人って言うんだ?」


「そこ気になります? まあ、最初に発見されたのが人ですし、動物がなることはほぼありませんから。呪人で問題ないのでは?」


「ほうほう。……てか来ないね? いや、なんか地下から振動感じる」


 その言葉の直後、庭に穴が開き、地下からなにかが飛び出してくる。


「「ぐうああああああ」」


 飛び出してきたのは呪人と化した人とサーベルタイガーだった。呪人は首に大きな穴が開いていた。サーベルタイガーに噛まれたのだろう。


二体とも飛び出してきて、着地するのに隙が生じる。


「はあっ!」


 アストロはそれを見逃さず、聖水を二体にぶつける。


「「ぎいいいああああ!!」」


 苦しむ二体は方向も確認せずに急いでその場から離れる。


「ハロウ」


「わん」


 苦しんでいるサーベルタイガーにハロウが襲い掛かる。サーベルタイガーの方が身体能力が優れているだろうから、という理由だ。


「アストロの水は美味いだろう? お代は命でいいぞ?」


 アストロの聖水を纏ったハロウの手甲鉤がサーベルタイガーを襲う。


「がああああああ!」


 手甲鉤は見事にサーベルタイガーの顔面と右前足を捉えた。ハロウはサーベルタイガーの右腕側を手甲鉤で攻撃しながら通り過ぎる。振り返ると、サーベルタイガーは自慢の牙と腕を一本失っていた。


「あれ? 顔面捉えたのに? 普通に生きてる?」


「ハロウ。生きてるように見えるかもしれませんが、呪人は生きていません。そしてそう簡単にくたばらないので綺麗に殺すことは考えないようにした方がいいです。過剰に攻撃するくらいでちょうどいいかと」


 アストロが飼い主に聖水を放ちながら言う。そのせいでサーベルタイガーの元へ向かっていた飼い主の足が止まる。


「そうなんだ? じゃあ、手甲鉤とかいまいちなチョイス?」


 ハロウはサーベルタイガーの右足を切りつけながら言う。サーベルタイガーは回避しようとするが、元々の速さに差があり、さらに腕を怪我しているので、回避はできなかった。これでサーベルタイガーは右足も失った。


「はい。せっかく影に収納できるんですから長物の方がいいと思います」


「早く言ってよ」


 今度はサーベルタイガーの左腕を切り裂きながら、ハロウが文句を言う。事前に相談しなかったハロウが悪い。


「まあ、扱いにくい武器を使うくらいなら、慣れてる手甲鉤の方がいいと思いますよ?」


「まあ、武器全般慣れてないんだけど」


 最後にサーベルタイガーの左足を切り裂くハロウ。これでサーベルタイガーは四肢がすべてもがれたので動けない。


「へへっ、動けないだろう? この手甲鉤には相手を麻痺させる効果があるんだ!!」


 紫色に染まった手甲鉤を掲げて、ハロウは自慢げに言う。


「それ手甲鉤の効果ではなくて、単純に四肢をもがれたせいで動けないだけだと思います」


「いや、四肢もがれただけなら、まだのたうち回れるはず。でも動かないってことは麻痺が効いてるんじゃ?」


「それ、たぶんどうすればいいのか、わからないだけだと思います。あとは私が聖水で消滅させますね。ありがとうございます」


 飼い主を聖水で囲んで仕留めながら言うアストロ。


「いやいや~――危ねっ!?」


 照れるハロウ。照れ隠しに頭を掻こうとするとして、手甲鉤が自分の頭に当たりそうになる。なんとか避けて、そのままアストロを眺めていたハロウだったが、ふと不思議に思うことができた。


「……あれ? ねえ、アストロ。聖水は呪具に直接効かないんだよね? 呪人には効くの?」


「効きます。ただし、全員に同じように効くわけではありませんが。そのへんは複雑なので仕留めながら説明しますね」


「わかった」


 アストロはサーベルタイガーを聖水漬けにする。しばらくするとサーベルタイガーが動かなくなる。


「なんか寿司屋で似たような光景見たな。ほら、水槽に魚泳いでたりするじゃん?」


「こんな元気のない魚しかいない生け簀ありませんけどね。そもそもそこ大丈夫ですか? お腹壊しませんでした?」


「全然大丈夫だった。美味しかったよ? カルビ寿司」


「お魚頼みましょうよ」


「自分で他のこと言っといてなんだけど、呪人の説明をよろしく」


「そうでした。呪人にも種類がありまして、普通タイプと眷属タイプです。飼い主が普通。サーベルタイガーが眷属です。見てもらったとおり、眷属タイプは聖水だけで仕留められます。あとは普通タイプの飼い主ですが、こいつは眷属タイプのサーベルタイガーのようにはいきません」


「同じように身動きできてないけど?」


 飼い主はアストロの聖水に捕まって苦しんでいるだけだった。


「サーベルタイガーはすぐに動かなくなりましたよね? 一方飼い主はまだ動いています。飼い主の方が先に捕らえたのに」


「あ、本当だ。今までの流れだと普通タイプは聖水だけだと仕留めきれないとか?」


「正解です。よくわかりましたね」


「いや~、自分のインテリジェンスが怖いわ~」


「そんな自慢するほどのことでもないんですが」


「まあまあ。この知的キャラ一直線の人狼に、普通タイプのことを教えてよ?」


「直線だとすると目標の点の反対側にも伸びてるの理解してますか? まあ、教えますけど。君の言ったとおり、普通タイプは聖水だけでは仕留めることはできません。なぜなら普通タイプは体内に呪素を発生させる核を持っているからです」


「てことは眷属タイプは核を持ってないんだ? じゃあ、どうしてその違いが生まれるの?」


「呪人が生まれるのは強い恨みを抱いているからです。強い恨みがなければ呪人になりません。普通タイプは、その恨みの結晶である核を持ちます。その普通タイプが誰かを殺したとします。このとき、殺されたものに殺した側である呪人の恨みが流れ込みます。それが原因で眷属タイプが生まれるんです。ゾンビで言うと、普通タイプがキャリア。眷属がそうでないタイプです」


「ん? いつの間に官僚の話に?」


「キャリアって、その意味ではありません。保菌者とかの意味です」


「あ、へー。ごめん、そんなゾンビもの詳しくなくて」


「でしょうね」


「まあ、どんな感じかわかったよ。じゃあ、眷属タイプに殺されて、眷属タイプが発生するってことはないの?」


「はい。聞いたことありませんね」


 実際には発生することはあるが、それは殺された者が強い恨みを抱いていた場合だ。眷属タイプに殺されたという理由で、呪人になったということではない。


「話を聞くと普通タイプが厄介で、眷属タイプは雑魚って感じ?」


「いいえ、そんなころはありません。確かに普通タイプの方が厄介ですが、眷属タイプもかなり厄介ですよ?」


「どの辺が?」


「聖水を大量に使える私なので雑魚に感じるかもしれませんが、聖水が使えないとなかなか死なない厄介な相手です。実際、君が四肢を引き裂いても大丈夫でしたよね? 要するに急所というものが存在しないんです」


「……確かに」


「一方、普通タイプです。今は安全策で弱らせていますが、最初からこういうこともできます。……ふん!」


 アストロが気合いを入れると、飼い主を閉じ込めていた聖水の球が激しく回転し始める。そして、呪人の中からなにかが飛び出てくる。出てきたのは青い石だった。飼い主は先ほどまでと違い動いていない。


「あの浮いてる石が核?」


「はい。そして今やって見せたように、普通タイプは核を体の外に出されると、まともに動けなくなります。要するに急所が存在するということです」


「成程。てかなんかあっさり終わったね。これなら呪人発生したこと知らせる必要なかったね。応援もまだ来てないし」


「呪いに有効な聖水を、遠距離からばんばん使えますからね。最初から警戒していたらこんなものです。甕男は私にとって相性の悪いものをそろえていたので、あそこまで手こずったんです。それと、呼ばなくてよかったのは結果論ですからね? もし呪人発生したら絶対に知らせないと駄目ですからね? ここが人の多いとこなら大惨事ですよ?」


「そっか。呪人は増えるんだった」


「はい。一般人になられても困りますが、万が一戦える人材が呪人になったら大惨事です。基本的に生前の能力が高い方が、呪人になっても強いんです」


「そっか。だから安全に遠距離から仕留めてるのか」


「はい。それと大事なことを言い忘れてました。呪人は放置すると、爆発的に強くなる可能性があるので、迅速に抹殺してください。知恵を取り戻し、魔術など使われたら厄介なんてものではありません」


「そうなの?」


「はい。呪素は魔術魔法の効果を高めるんです。呪具の効果が凄まじいことは体験しましたよね? 呪人の使う魔術は、その簡易版みたいなものと考えればいいです」


「マジか。確かに厄介どころじゃないな」


 ハロウは甕男のことを思い出し、頬が引きつる。


「はい。なので迅速に呪人は抹殺です。……ところで、君は遠距離攻撃は咆哮しかないんですか?」


「一応、影に収納しているものを投げるとかできると思うけど?」


「ちょっと威力が心配ですね。私の予備のロケットランチャー、好きに使っていいですからね?」


「あ、うん」


 そのあと、応援に来た準騎士たちに家主の聞き取り調査など任せて、アストロとハロウは報告書を書いて家に帰ることにした。


 その後、呪素が溜まっていた原因は家主が大量の動物を地下に閉じ込めており、その恨みで呪素が大量に溜まっていたらしいとハロウ達に知らされた。



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