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上京狼  作者: 鳥片 吟人
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家探し




 翌朝。ハロウとリネンはそろって出所していた。二人に警官が優しく声をかける。


「もう戻ってくるなよ」


「俺の服はもう戻ってこないけどな」


 全裸……ではかろうじてないと言えないこともないかも知れないハロウが答える。彼は牢のトイレットペーパーを腰蓑のようにしていた。いいように表現すれば古代ギリシア人の様な格好をしていた。


「まあよいではないか。こやつが盗んだわけでもあるまい」


「そうだけどよ。……これで捕まらないかな?」


「安心せよ。ハロウの服は用意してある」


「あん? どういうこと?」


「我の美人な彼女に服を持ってくるように頼んでおいた」


「え? いつの間に?」


 ハロウは目の前の牢に入っていた男、リネンにそのような暇がなかったことは理解している。


「それは秘密だ」


「そうか。てか服貸してくれるの?」


 秘密と言われたのでハロウはそれ以上詮索しないことにした。そんなことより服が大事だからだ。


「いや。やろう。その格好では買い物にも行けまい?」


「マジありがとう」


 ハロウは心の底から感謝した。


「それで彼女さんいつ来てくれるの?」


「もうすぐだとは思うのだが……来た!!」


「どれ!? どれ!?」


「あの茶髪の巨乳だ。他に美人はおらんであろう?」


 失礼なことを言いながら彼女を指さすリネン。


「お前ちょっと今反対車線でチャリンコ漕いでるおばちゃんに謝ってこいよ」


リネンに注意しつつ、ハロウはリネンの指さした方向に目を向ける。


そこには童貞を殺す服を着た茶髪の巨乳美人がいた。リネンの彼女だ。


「ミサ!」


 リネンが嬉しそうに手を振る。


 リネンの彼女――ミサ――もそれを見て微笑みながら小さく手を振り返す。


「うお! めっちゃ美人」


 ハロウはミサを見て驚く。彼が今まで見た人類の中でミサは一番美しかった。


「はい、これ頼まれてた服」


「すまんな。ミサ、この便所紙腰蓑男がハロウだ」


「どうも初めまして。ただ今、美人な彼女がいるのに覗きで捕まった男に紹介されましたハロウです。苦手なものはドレスコード」


「ふふっ。初めましてクラマ・ミサです」


「ん? もしや田舎の出身?」


「いえ、ここの近くの出身だから田舎ってわけではないけど……なんでそう思ったの?」


「名字も名乗ってるから田舎出身かなって」


「なぜ名字を名乗ったら田舎出身なのだ?」


 リネンが割って入って聞いてくる。その様子を見てハロウは自分が思い違いをしていることに気づく。


「あれ? もしかして都会では名前で呼び合うって思ってたけど、違うの?」


「違うな。なぜそんな勘違いを?」


「漫画だと大体名前で呼び合ってたから都会ではそうなのかと。リネンも名前だけだったし」


「漫画を現実に当てはめるな。我は種族的に名字を持っておらんだけだ」


 リネンの種族の様に個体数が少ない種族ではよくあることだ。


「あ、そうなんだ? では改めて、マカミ・ハロウです。よろしく……あと服をください」







 ショッピングモールにハロウとリネンは来ていた。ミサは服を渡したあと、用事があったらしく来ていない。


「でっけーな。ここで合ってる? 服買いに来たんだよな?」


「うむ。まあ、服だけ売ってるわけではないからな」


 ハロウはその大きさに驚く。彼の島の店を全て集めてもここの大きさとは勝負にすらならないだろうと思った。


 二人は目的の店の前までくる。


「ここで特注でパンツ作ってくれるのか?」


「ああ。デザインもふざけているのも多くていいぞ」


 ハロウはここにパンツを買いに来ていた。今はミサが買ってきていたコンビニで買えるものを履いているが、これでは変身のときまた破れてしまう。なので破れないような変形する魔法のパンツを買いに来ていた。


 二人は下着専門店<センシティブ戦士恥部>の店に入る。


 二人が入るとすぐに奥から髪をツーブロックにした男が出てくる。店長だ。


「いらっしゃいませリネン様。どれになさいますか? 本日は活きの良いブーメランが入荷したてでお勧めでございます」


 パンツに活きが良いとかないだろうと思いながらハロウは店長を見る。


「今日は客を連れてきたのだ。変身能力のある者が履ける下着が欲しいとのことだ」


 リネンはハロウを見ながら説明する。


「そうでございましたか。当店は魔法処理も取り扱っておりますので、下着をお選びいただいたあとに変形できるようにしますので、どうぞお好きなものをどれでもお選びください」


「わかった」


 デザインを自由に選べるのはいいことだが、ハロウはあまりデザインにこだわらない。なのでいくつかふざけたものを選び、あとはプロにお勧めしてもらおうと思った。


 店内を探し回ってハロウが選んだのはなかなかに酷いものだった。


「本当にそれにするのか?」


「ああ、気に入った」


 リネンが変なものを見る目でハロウを見る。その手が持つカゴの中にはパンツがいくつも入っているがどれもデザインがウケ狙いの物だ。例えば、黒地のボクサーパンツに股間のところに白の吹き出しが描いてあり、そこには『くっ、沈まれ俺の股間』や『俺の股間が……疼く』など厨二的な台詞が書かれている。


「それ変身をしたら人に見られる可能性があるのをわかっておるか?」


「男はいつまでも少年の心を忘れないもんだろう?」


「そこの時期は忘れていいのでは?」


 リネンにパンツのセンスを疑われていると、そこに店長がやって来て話しかける。


「素晴らしいセンスです」


「見ろ。店長も褒めてくれている」


 ハロウが得意気な顔でイキる。


「いや、客のセンスけなす店長はおらぬであろう」


「うっ……いいんだよ。これが気に入ったんだから」


「それはなによりでございます」


「店長、お勧めの女子にモテそうなパンツを教えてくれ」


「無理です。もしくは全部です」


「どういうこと?」


「パンツを見られる関係までいけるならもうモテてますよ」


「成程。と言いたいところだが俺は変身でパン一になるから初対面の人にもパンツを見られる可能性がある。そんなとき、いい印象になるパンツのデザインは?」


「パンツで好印象は無理だと思います。できて悪印象をいだかれないくらいですかね」


「なんで好感度がマイナスになるだけでプラスにならないんだよ」


「おしゃれは引き算と申しますから」


「それそんな意味なの?」


「もう遊んでないでさっさと選んでもらえ。店長、こやつに似合うものを選んでくれればいい」


「かしこまりました」


 リネンが口を出してからは早かった。十分ほどで決まり、店を出る。パンツの魔法処理があるので、あとでハロウが取りに来ることにした。


「なあ、次はどこ紹介してくれんだ?」


「借家だ。確か食材など近くで買えるのがよかったのだったな?」


 ハロウとリネンは昨夜色々と会話していた。その中で家のことなども話していた。


「ああ。もしくは定食屋が近くにあるとこ」


「任せよ」


「マジ助かるわ」







「ここなの?」


「うむ。正確にはここの三階だ」


 ハロウは五階建てのビルを見上げる。まだ新しく見えるそのビルの一階にはコンビニがあり、ここに来る途中近くにスーパーも見かけた。さらに今度、リネンが近くのおすすめの食事処を教えてくれるらしい。値段は聞いてないが条件にはぴったりだ。


「いいじゃん。これって内見どうすんの?」


「このビルの持ち主は知り合いでな。さきほど電話をかけておいた。そこのコンビニで待とう」


「さきほどって牢屋出てすぐのときのこと?」


「そうだ。そのときに連絡入れておいた。向こうは乗り気だったぞ。しかも条件次第では月三万だ」


「へー。安くない? 都会は普通に十万超えるって聞いてたんだけど? なんだよ条件って?」


 ハロウはかなりの額を貯金しているが、ハンターで稼いでいけるまで時間がかかりそうなので出費が少ないにこしたことはなかった。


「それはな……」


 二人がコンビニに入ると出迎えたのは店のチャイムではなく、男の叫び声だった。


「金出せええええ!!」


「はいいいいいい!」


 ニット帽にグラサン、マスクの不審者が店長の禿げた中年男性に拳銃を突き付けながら金を要求していた。


「こういうとき守ってくれとのことだ」


「よっしゃ」


 ハロウは強盗犯が反応するより早く、強盗犯に近寄り拳銃を掴み上げ顎を殴り気絶させる。ちなみに全裸になっていない。服をしっかり着ている。


「おっちゃん無事? 怪我とかしてない?」


「は、はい。ありがとうございます」


 店長の無事を確認すると、強盗犯の処遇をリネンに尋ねる。


「おいこれどうすんの? 外に転がしときゃいいの?」


「いやいや。外に転がすのはいいが、縛っておいて警察につきださねば」


「えー。あいつらに? 大丈夫なん?」


 先日の対応で不信感が山ほどつのっているのでリネンの言葉に難色を示す。


「大丈夫だ。おそらく。それに大丈夫でなくとも表通りの騒ぎで警察に任せないのは店のイメージが悪くなるのでやめた方がいい」


「あー。そういうことも考えないとか。わかった」


 警察を待ってる間、奥から店長の奥さんが出てきてハロウに礼を言う。


「本当にこのたびはありがとうございます」


「無事でなにより」


「こやつはハロウ。ここの三階に住もうと思っている者だ」


 リネンが二人にハロウを紹介する。


「まあ、本当ですか? それは心強いですね。よろしくお願いします」


「いや、まだ決まったわけじゃないから。これからこのビルの持ち主と話す予定なんで」


「そうなんですか? でもハロウさんならきっとお義母さんから住んでほしいと言われますよ」


「お義母さん?」


「この二人はビルの持ち主の息子とその嫁だ」


「ああ! だからあんな条件を?」


 なぜコンビニの平和に貢献しただけで家賃が安くなるのか得心がいった。


「うむ」


 警察を待っていると警察より早く一台の車が来た。ビルの持ち主の車だ。ここに来る途中、強盗のことを聞き、急いで来たのだのだろう。車から一人の老婆が急いで降りてくる。老婆ではあるが、背筋は伸び、衰えを感じさせない。


「ゴンゾウ! ミエコさん! 無事かい!?」


 老婆が自分の息子と嫁の名前を大声で呼ぶ。


「母ちゃん。二人とも無事だよ!」


「……みたいだね。よかったよ。あんたがやってくれたのかい?」


 安堵の表情で息子達の無事を確認し、途中からハロウに向かい尋ねる。


「ああ。けどよくわかったな。リネンかも知れないのに」


「はっ! リネンがやったらそこで転がってるクソ野郎に火傷がないわけないからね」


「一瞬でよく見てるな」


「まあね。そんなことより本当にありがとうよ」


 深く頭をさげた老婆にハロウが戸惑う。故郷では基本的に避けられていたので礼を言われるのになれていないからである。


「あ、うん。どういたしまして? それより内見したんだけど」


「話は聞いてるよ。あんたなら歓迎だ。すぐにでも見てもらえるよ」


「警察とか待たなくていいのか?」


「いいんだいいんだ。鈍間どもがぐだぐだ言ったらそのとき相手にしてやりゃいい」


 老婆が笑顔で言う。


「じゃあ、よろしく」


「こっちだよ」


 老婆達は店のわきにある入り口からビルに入る。入り口はロックされており老婆がカードを当てると開いた。ハロウは実際初めて見るカードキーに密かに興奮する。真っすぐ進むとエレベーターと階段が見えるが老婆は階段の方を上っていく。そして二階を通るとき話しだした。


「ここが息子夫婦が住んでるとこ。家のことでなんかあったら言いに来な」


「あれ? 婆ちゃんのとこに言うんじゃないの?」


「それでもいいけどあたしは忙しいからね。すぐには対応できないかもしれない。だけど息子夫婦ならいつでも連絡が取れるだろう? あと自己紹介してなかったね。フドウ・トミだよ。よろしくね」


「成程。俺はマカミ・ハロウ。よろしく」


「我はリネン」


「「知ってる」」


 三階に着く。三階には二戸あり、そのうちの一つがこれから内見するところだ。


「ここだよ」


 部屋は都会では広い部類に入る。トイレ風呂別、部屋は二個あり、窓もある。一人暮らしには十分だ。


「おほー!」


 ハロウは喜びながら見てまわる。


「そうそう。一応言っとくけど窓はあるけど開けるときは注意しな」


「なんで窓を開けるのに注意を?」


「ここじゃないけど、下からベランダに上がってきた不審者が捕まってね」


「そんなやついんの? 都会怖いな……下着ドロ?」


「そうだね。そうとも言えるのかね?」


「なに? そんな複雑な感じ? そもそも下着に複雑とかあるの?」


「いやね、捕まったそいつの家を調べたら夥しい数のスパッツが見つかってね。どうやらスパッツ専門の泥棒だったみたいでね」


 マニアックな泥棒だった。


「あ~一応スパッツって下着扱いなの?」


「そこで迷ってね。まあ、そんなわけだから気をつけな。あんたは大丈夫だろうけどね」


「わかった。教えてくれてありがとう。いいな、ここ。婆ちゃんここって、さっきみたいなとき息子さん夫婦守ったら家賃安くなるんだよね?」


「そうだよ。さっきの強盗見た感じあんたなら大丈夫そうだね。敷金礼金無しの月三万でいいよ」


「リネンに聞いたときも思ったけど安過ぎない?」


「もともと空いてた部屋だからね。それで安全になるなら安いもんさね。あと息子夫婦には一人娘もいるからその娘も頼むよ」


「わかった。ここっていつから住める?」


「お望みなら明日から住めるよ」


「じゃあそれで頼むわ」


「はいよ。支払い方法はどうするね?」


「魔法カードで頼む」


 魔法カードはハロウの唯一の持ち物である。それは首にかかっているカードだ。


 魔法カードというのは個人に国から発行されるカードで身分証明や支払などに使える。これは魔紋という魔素の指紋のようなもので区別されていて一人一人違う。


 ハロウはこの魔法カードに故郷で貯めた金を入れている。


「あいよ。じゃ、登録するからこのあと一緒においで」


「え? すぐ? このあとリネンの焼き芋屋とホテルに案内してもらう予定だったんだけど」


「今日は焼き芋屋の日じゃないだろう」


「いや、売り子としてちょっと働かせてもらおうと思って」


「じゃあ、あたしが知ってるから教えたげよう。ホテルはどこだい? 予約は?」


「しておらん。サトウのカプセルに連れていく予定だったのだが」


 リネンが案内する予定だったのは知り合いが経営するカプセルホテルだ。


「もっといいとこ教えてやんなよ」


「いや、俺がトイレとシャワーがきれいでいつでもチェックアウトできるとこって言ったんだ。焼き芋屋、朝早いらしいからさ?」


 リネンの焼き芋屋はまだ暗いうちから開ける。普通のホテルのチェックアウト可能な時間では不便なのだ。


「ああ、焼き芋屋手伝うんなら普通のホテルじゃ不便だね。じゃ、そこもあたしが教えたげるよ」


「じゃあ、それでお願い」


「あいよ」


「ではハロウよ。明日四時に焼き芋屋だ。遅れぬようにな」


「ああ。わかった」




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