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上京狼  作者: 鳥片 吟人
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アストロの家。二人は一旦戻ってきていた。


「じゃあ、いつ行く? アストロの体調が万全になったらすぐ行く?」


「はい。……ところでどうしてさっきあんなに真剣に体調を万全にしようと言ったんですか?」


「アストロ、どんな敵と戦うときでも油断はいけないよ。俺はそうした油断のせいで命が危なくなったことがあるんだから」


「そうだったんですか。なにがあったんですか?」


「俺が森で狩りをして生活してたのは知ってるよね? そこで兎みたいな魔獣がいたんだけどさ、そいつはかなり弱くてね。危険な目にあったのはそいつを狩ろうとしたときなんだ。ある日、俺は少し風邪気味だった。けど狩るのは雑魚の兎にすれば問題ないだろうって思って狩りに出た。風邪気味で鼻がいつもより利きにくかったけど、無事兎を発見した。そいつを狩ろうとして狼の姿で飛びついたんだ。当然兎は狩れた。でもその瞬間に木の上から豹型の魔獣に襲われてね。がっつり怪我したんだ」


 その頃はハロウはまだ幼く、多種多様なにおいを嗅ぎ分けるには経験不足だったのもあって豹型の魔獣に気づかなかった。一番の原因は風邪気味で鼻が利きにくくなっていたことだが。


「豹型の魔獣って……確かかなり強めの魔獣ですよね。不意打ち受けてよく無事でしたね」


「なんか運よく少しだけ避けられたから。直撃してたらマジで死んでたかも知れない」


「見かけによらず結構危ないことしてるんですね。……でもそれって油断ですか?」


「当然だよ。確かにいくら風邪気味であっても兎は狩れた。でも森にはなにが潜んでいるのかわからないんだから、それを警戒しないといけなかったんだ」


「成程。私の場合はどんな呪具が出てくるのかわからないのに、体調不良でいくのは駄目だと思ったんですね?」


「うん。アストロは呪素に弱いんだから、なおさら気をつけないと。確かに呪素に有効な手を持っているかもしれないけど、万全にするべきだ」


「……そうですね。君の言うとおりです。先日呪具で危ない目にあったばかりなのに、考えが足りませんでしたね」


「わかってくれて嬉しいよ」


「いえ、言ってくれてありがとうございます」


 アストロは優しくハロウを撫でる。その手つきは今までよりも丁寧だった。


「わっふ。……一段と気持ちいい!」


「……お腹が空きましたね。時間もあることですし、どこか食べに行きましょうか?」


「行こう行こう!」


「どこに行きましょうか? そう言えばハロウの好きな食べ物はなんですか?」


「……あれ? よく考えたらないかも?」


「え? ないんですか? 本当に?」


「いや、あるけど、今この場で答えるのには違うなって感じなのしかない」


「なにが好きなんですか? 言ってみてください」


「完全栄養食のパンとか」


「……理由を確認してもいいですか?」


「狩りのときスッゲー便利なんだ。それだけ。味は好みじゃないからね?」


 むしろ味はまずいよりだ。しかしそのまずいのを食べながら狩りをしていると、『こんなにストイックに頑張ってる俺、カッケー』となり非常に心地よく狩りができる。どうせ味の良いものを食べても、敵を噛み殺せば血の味で台無しになるので、そこまで問題ではない。


「安心しました。それならまだ理解できます。しかし完全栄養食のパンとは……。確かに答えるのには不適当ですね」


「でしょう? さすがに田舎者の俺でもそれくらいわかるよ?」


「田舎者関係ないですけどね。……でも故郷から出てきて今まで食べた中でどんな味が好みか、わかりますよね?」


「ぶっちゃけ、どこも合格ラインだったから、よくわかんないな。てかアストロはどうなの?」


「私の好きな食べ物? ……パスタ系や、フルーツは大体好きですね」


「パスタとフルーツって結構違うね。……あれ? なら冷製フルーツパスタとかは大好物なの?」


「それはむしろ嫌いな方です」


「そうなの? 好きなものと好きなものの組み合わせなのに?」


「はい。よく言うでしょう? カレーとハンバーグは好きでもハンバーグカレーは好きとは限らないんです」


「そうなんだ」


「ハンバーグで思ったのですが、君はハンバーグは食べれるのでしょうか?」


「うん。普通に食べられるけどなんで?」


「犬って玉ねぎ食べたら駄目なので」


「俺、人狼だからね? 本当の犬じゃないからね?」


「柴犬形態で言われても説得力がありませんね」


 アストロはハロウを撫でながら言う。


「わんわわん! わおん」


「犬に寄ってしまってますが?」


「いや、今のはアストロのせいでしょう? 明らかに俺を撫でて犬に寄せようとしたよね?」


「撫でられたこと非難してます?」


「そんなことないよ! もっと撫でて!!」


「嫌いな食べ物はなんですか?」


 アストロは持てるテクニックを駆使して撫でながら聞く。


「撫でてながら聞いても誤魔化されないんだからね! 納豆とパクチー。においがえぐい」


「誤魔化されてますね。君は鼻が利きますから納得ですね」


「臭すぎて味がどうこうって次元の話じゃないんだよね。アストロは?」


「食べ物というか、フルーツを温かくして食べるのは嫌いですかね」


「え? そんなのある? あ、酢豚のパイナップルとかか。じゃあ俺もそうだわ」


「あれは好き嫌いが分かれますからね。では、好き嫌いもわかったことですし、食べに行きたいものありますか?」


「……てか、今早朝だけどやってる店あるの?」


「……そう言えばファミレスくらいしか開いてませんか」


「アストロやっぱ本調子じゃないね?」


 普段なら時間帯を忘れるといったことはしなであろう。


「そうみたいですね。では、行きましょうか」


「わん」


「待ちなさい」


「なに?」


「どうして犬のまま行こうとしているのですか?」


「……あ、慣れすぎてて自然と行こうとしてた」


 ハロウは影から服を出していき、人間形態に戻りながら着る。パンツは柴犬形態のときに最初に履いた。


「よし。……そう言えばアストロは変装したままで行くの?」


「いえ、もう変装する意味はありませんから着替えてきますね」


「わかった……」


 アストロは家の奥に着替えに行く。アストロが視界からいなくなったのを確認したハロウは顔を狼にして、深呼吸を始める。


「すう~。……すう~! すううううう!!」


 深呼吸を始めたが、吸いを通常の三倍の深さでおこなった。全てはアストロの匂いをより吸うためだ。ちなみに口は使わず全て鼻で吸っている。変態の面目躍如である。


「ふ~」


――素晴らしい!


 そしてゆっくりと鼻から吐き出す。これが、くんかー式深呼吸だ。


「……すーふーすーふーすーふー」


――最高だな!!


 今度は浅い呼吸を鼻で短く繰り返す。匂いを余すところ無く堪能しようという先ほどの深呼吸とは違い、今度の呼吸は一番いい匂いを堪能できる呼吸だ。料理に例えると、前者が南極料理、後者が高級料理だ。


 ハロウは時間を忘れるほど呼吸を繰り返していく。


「…………」


 それを着替え終わったアストロがゴミを見る目で見つめていた。


「……あ、アストロ着替え終わったの?」


 アストロに気づいたハロウが事もなげに言う。


「ええ。ところで、なにをしていたのですか?」


「もちろん深呼吸だけど? 許可は取ってあるし問題ないよね! むしろここでやらないとくんかーじゃないね」


「許可って……さっきの散歩のときですか」


「そうそう」


「う、う~ん。確かに許可しましたが、ここまでとは」


 アストロは少しばかり後悔しているようだった。


「ありがとうございます!」


「……吸うにしても、もっと密かに吸ってください」


 アストロはせめて自分にわからないように、してもらいたようだ。


「わかった! 今度からサイレントモードでいく。じゃあ、店行こう!」


「待ちなさい」


「どうしたの?」


 家から出ようとしたハロウが振り返って聞く。


「どうして首輪をつけたままなのですか?」


 服は着たが、首輪は外してなかった。


「アストロからもらったものを外すなんてとんでもない!」


「いや、首輪は外しなさい」


 アストロが首輪に手をかけて、外そうとする。ハロウは必死に抵抗する。


「そんな! せっかく着けてもらったのに!」


「……では聞きますが、君に大量のフリルがあしらわれたドレスをプレゼントしたとします。それなら着続けますか?」


「……着続けてアストロからの好感度が上がるなら着る」


 一瞬悩むが、すぐに覚悟を決めるハロウ。


「思っていたより覚悟していました。……ではその首輪をつけっぱなしは好感度下がるからやめなさい」


「……外すとさらに好悪感度が下がるって落ちはないよね?」


「ありません」


「なら仕方ないから外すよ」


 ハロウは首輪を外し影に収納する。


「……これでおかしなところはありませんね。では、行きましょう」


「う~い」


 二人はファミレスに移動する。







 ハロウとアストロはファミレスに入った。二人は店員に案内されボックス席に座る。


「……なんか思ってたのと違うな」


 ハロウの故郷の島にファミレスはなかったが、船が出ている先の港町には普通にあった。ハロウはそこでファミレスに行っていた。しかし今日アストロと訪れたファミレスは行ったことのある場所とは雰囲気が大きく違っていた。


「そうですか? 私が知ってるファミレスはこんな感じだと思いますが?」


「……都会と田舎の違いなのかな?」


「さあ? まずなにがどう違うんですか?」


「全体的な雰囲気。ファミレスは小綺麗にしているって感じだけど、ここは小洒落てるって感じだ」


 ハロウが行っていたファミレスでは、大きな窓ガラス――近くで見ると結構汚れている――があり、外の景色が見えていた。壁は無地だった。


 しかし今いるファミレスは違う。窓ガラスがなく外の景色は見えないが、逆に見られることもなく食事に集中できる。壁も木を削って編んだような形にしていて、自然のぬくもり溢れる空間になっている。


「言いたいことはなんとなく伝わりました。まあ、小洒落ているって感じるのなら、問題ありませんね」


「いや、緊張するんだけど……」


「まあまあ。味はまあまあいいですから」


 二人はメニューを開き、注文するものを選び始める。


「……もう一つ違う所見つけた」


「なんです?」


「俺が行ってたファミレスのメニューはセットで千円以下なのが主だった。価格帯がこっちの方がワンランク上だな」


 このファミレスは千円越えのメニューが多くあった。千円から二千円の値段のメニューが主力に見えた。


「結構違いがあるんですね」


「さすが都会」


 実はここが高級な店だっただけで、ハロウが行っていた店も首都にある。


「サラダバーはおすすめです」


「そうなの? ……よし、決めた」


「私も決めました。店員呼びますね」


 アストロは机の上に置いてあるボタンを押して店員を呼ぶ。店員がすぐに来て二人は注文を言う。


「スパゲッティ・アラビアータとサラダバーとカフェラテお願いします」


「カルボナーラとサラダバーをお願いします」


 ハロウはアラビアータを頼み、アストロはカルボナーラを頼んだ。


 店員が注文をお確認して去って行ったあとでハロウが話しだす。


「ドリンク頼まないの?」


「あとで頼みます」


「初めて見る注文方法だ」


「そうですか?」


「うん。俺が行ってたファミレスでは大体一気に頼んでた。……食事目的の人はね。もしかして都会では飲み物を後で注文する人が多いの?」


「いいえ。そうでもないと思いますよ? 私はただ最後にサンデーを頼もうと思っているので、それと一緒にエスプレッソを頼んでアフォガードのようにして食べようと思っていただけです」


「ほほう。……あほがーどってなに?」


 ハロウはお洒落な単語に弱い。アラビアータやエスプレッソでギリギリだ。


「アフォガードです。アイスにエスプレッソかけたものです。さあ、サラダバーに行きますよ」


「そうだった。行こう」


 二人はサラダバーのための多くの野菜が並んでいるコーナーに行く。そこには二十近くもの種類の野菜が置いてあった。ドレッシングも八種類と豊富だ。そしてサラダを盛り、ドレッシングをかけ席に着く。


「……美味いな。野菜の風味はあるけど、臭くない」


 ハロウは野菜を食べて少しばかり感動しながら言う。行ったことのあるファミレスでは、ここまで野菜の味はしなかった。


「はい。……しかし人狼なのに野菜たくさん食べるんですね」


「もしかして人狼に肉食ってイメージ持ってる? 肉ばっか食ってると思ってる?」


「少しそんな感じに思ってました。でもラーメンのおすすめトッピングが海苔とメンマって言った時点で違いますね」


「でしょう? まあ、そういうタイプもいるけど、結構肉好きじゃないのいるよ?」


「そうなんですか? 意外です」


「そうかな? 人狼の生活を冷静に考えてみたら、結構納得すると思うよ?」


「……? よくわかりません」


「あんま食事どきに相応しい内容じゃないけど理由聞く?」


「そうですね。お願いします」


「人狼は成人前から狩りするからね。そこでどうやって獲物を仕留めるかって言うと、牙なんだ。爪もあるけど、人狼にとって牙が一番の武器だ」


「ふむ、それで?」


「それで、牙で狩るってことは仕留めたとき、口に血の味とか広がってる。さらに肉を嚙んでるから命が失われる感じがダイレクトで伝わってくるんだ」


「それは嫌ですね」


 アストロは想像してしまったのか、眉を寄せる。


「そうそう。それで肉嫌いになるやつが一定数いるらしい。そこまでいかなくてもレアは嫌だとか」


 ハロウの故郷では肉はウェルダンが一番人気だ。


「その言い方だと君は平気だったんですね」


「……まあ」


 ハロウはばつの悪そうな顔で答える。


「どうしました?」


「いや、べつに。俺もレアはあんまり好きじゃないし」


「そうなんですね。私はなんでもいけますが」


「許容範囲広いな」


「広くないと、くんかーに対して怒ってると思いますよ?」


「文化の違いだなー」


 ハロウの故郷はくんかーが多くいた。


「君の故郷が、においを普通に言う風習と聞いていなければ、変態扱いするレベルです」


「悪気はないからね?」


 ハロウにあるのは本気だ。


「一応信じましょう。それに気分の問題というだけで害にはなりませんし」


 セクハラかどうかを決定するのは気分の問題である。


「あ……カルボナーラできたみたいだよ?」


「…………来ませんが?」


 アストロは辺りを見回すが店員はいない。


「たぶん皿とかに盛ってるから、まだ来てないんじゃない?」


「そもそもできたかどうか、ここからわかるんですね? さすがの嗅覚です」


「まあ、わかっても特に意味はないんだけど」


「ここではそうですね」


 話しているうちに、アストロの注文が届く。ハロウの注文もすぐに届き、二人は食べ始める。


「美味い。……ここファミレスだよね? 高級なレストラン的なのじゃないよね?」


 ハロウは店の雰囲気や値段から高級なのではないか、と思う。


「はい。値段は少しだけお高めですがファミレスですよ。そもそも本当に高級なお店はこんな朝早くから開いてません」


「そうだよなー」


 ハロウがなにか腑に落ちない感じで話す。


「どうしたんですか?」


「いや、その、前に故郷の近くにある港町で、高級そうなところに行ったんだ。予約しないと入れないところ。そこで食べたのより確実に美味いんだ」


 ハロウは納得がいかなかった。その店はここより値段が高かったので、一層納得いかない。


「それは……まあ、高ければ必ず美味しいというわけではありませんから」


 基本的に高い料理の方が味がいいのが出てくる可能性が高いが、絶対ではない。世の中には、べつに特段健康にいいわけでもないのに、ラーメン五個分の値段を取っておいて、コンビニおにぎり以下の味の弁当のも存在するのだ。


「そうだね」


 二人は食べ終え、アストロは店員に予定どおりサンデーとエスプレッソを頼む。


「……よし。サラダでドレッシングを冒険してくる」


「私もサラダお替りに行きます。……なにかけるつもりですか?」


 二人は席を立ちサラダバーのコーナーへ行く。


「海苔ドレッシングに挑戦しようかと」


「あの異彩を放っているドレッシングですか? なぜ今?」


「いや、サラダとかパスタとか美味かったから、もしかしたら変なドレッシングでも美味いのかなって。カフェラテを飲み切っていない今が最後のチャンスなんだ」


 飲み切ってしまったら、後味のことを考えると挑戦するのは勇気がいる。


「そうですか。では私もなにか挑戦してみますか。……サボテンドレッシング? これにしましょう」


 アストロもハロウに倣い攻めたドレッシングを選ぶ。


「攻めるねー。てか味想像できないんだけど?」


「私もです」


 二人は席に戻り、ドレッシングをかけたサラダを食べる。


「……海苔美味いな」


「どんな味なんです?」


「チョレギサラダに海苔の佃煮を少しかけて和風にした感じ」


「それサラダに合います?」


「うん? 美味いけどサラダに合うかと言われると微妙だ。ご飯になら合う思うけど」


「まあ、美味しいなら良かったですね」


 今度はアストロがサラダを食べる。


「……サボテン?」


 眉をひそめるアストロ。


「どうしたの? サボテンドレッシング美味しくなかった? てかどんな味なの?」


「美味しいですよ? でも、なんでしょうこれ? サラダには合ってませんね。味は……南国系の甘いフルーツを爽やかにした感じですかね?」


「確かにドレッシング自体は美味そうに聞こえるけど、サラダには合いそうにないな」


 二人がサラダを食べ終わるとサンデーとエスプレッソが運ばれてきた。


「あむあむ」


 アストロが幸せそうにサンデーのフルーツを食べる。


――かわいい!


 ハロウはそれを幸せそうに見る。


「……あの、見られていると食べにくいのですが」


「あ、ごめん」


「欲しいなら頼んではどうですか? 時間はまだありますし」


「いや、サンデー欲しくて見てたわけじゃないから」


「そうですか?」


「うん。シンプルにアストロが笑顔だったから、見てたんだけど」


「……恥ずかしいので、あまりじろじろ見ないでください」


「じゃあ、横目でチラ見にするね」


「見ないという選択肢はないのでしょうか?」


「……ちょっと考えてみる」


――どうすればいいんだ!? どこを見れば!?


 ハロウは困っていた。獏のオーナーのアドバイスでアストロの太ももをチラ見することを避けているのが現状だ。しかもそのアドバイスは、『顔を見れば太もも見なくて済むぜ!』というものだった。なので顔を見るなと言われるとどうすればいいのか全くわからなくなってしまった。


 ハロウは顔を伏せて考え込む。熟考したが答えは出ない。


「……あの、もう食べ終わりましたよ?」


「え!?」


 ハロウが悩んでいる間にアストロはサンデーをすべて食べ終えてしまっていた。


「そんな……」


「なんでそんなにショック受けてるんですか?」


「アストロの幸せそうな顔もっと見たかった」


 目の前にあったのに逃してしまったので、ハロウは一層落ち込む。


「……あの、たぶんですけど、なにか注文すれば良かったのでは?」


「うん?」


「パスタ食べている間は普通に話せていたんですから、私が気になるのは一方的に見られる場合だと思うんです。なので君もなにか頼んで、食べながら話せばよかったのでは?」


「……教えてほしかった」


「私も恥ずかしくて、焦ってましたから。なので今思いついたことですし」


「そっか。教えてくれてありがとう。……てか食事焦らせてごめんね」


「いえ、君はべつに悪くありませんから」


「え? 見られて恥ずかしかったんだから、俺が悪いんじゃないの?」


「他の人と食事していて、恥ずかしいと感じたことはないです。なので、君だけ駄目というのはおかしいでしょう」


「そういうもんかな?」


「おそらく……。まあ、次からそうすればいいのでは?」


「そうだね!」


 二人は呪素が溜まっていた家に向かうことにした。



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