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上京狼  作者: 鳥片 吟人
24/34

バッティングセンター


 ハロウはリネンに電話をかけていた。


『もしもし、ハロウだ』


『どうした友よ?』


『リネンの焼き芋ってダイエット効果があるって言ってたよね?』


『うむ。体が温まる効果があるので体にも良いぞ!』


『じゃあ、ちょうどいいか。今度、差し入れに焼き芋持っていきたいから、今度の焼き芋屋日は少し多めに芋仕入れといて』


『それは構わんが、差し入れってどこに持っていくのだ?』


『王城の事務』


『なぜそんなところに?』


『え? 先輩から事務に気を遣っておけって言われたから』


『いや、そもそもなぜ王城の事務に友が差し入れを?』


『従騎士になったからだけど』


『そんなこと聞いておらんが!?』


 電話の向こう側から大声が聞こえる。


『あれ? 言ってなかった? ……そういや、なってから話すの初めてか。俺、従騎士になったよ』


『なぜそんなことに?』


『デート中にアストロに任命してもらった』


『なぜそんなことに!?』


『実はな……』


 ハロウはリネンにデート中の襲撃の話をする。


『どうしてすぐ教えないのだ?』


『忙しくて……。あとリネンの暇な時間知らないから電話かけにくいんだよね』


『留守電残してくれればいいのではないか?』


『そうだけど、留守電にデートの話残すってどうかと思わない? そもそも長々と留守電に話さなくないか?』


 きちんとした要件ならともかく、必要でないことを長々と留守電に残すのは憚られた。


『確かにな。我は焼き芋屋をやっている火曜以外は基本的にほとんど暇だぞ?』


『え? 焼き芋屋ってそんな儲かってなくないか? 金足りる?』


『儲かってはいないが、金はあるぞ』


『どんな仕組みだよ』


『まず焼き芋の残りは全部知り合いの菓子屋に売っておるから損はしない。そして他にぼろい商売があるのでな』


『アストロだけじゃなくてリネンもなの?』


『我の力を込めた石とか売っておるぞ』


『石!? 売れるの?』


『当然だ。サウナのあるところから鬼の様に注文がくるぞ』


『そんなところに売っているとは』


『汗が滝の様に出ると評判とのことだ』


『いいなー。俺もぼろ儲けしたいな』


 どうしてもぼろい商売をしているリネンを、ハロウは羨んでしまう。今のところは金に困っていないが、あればあるだけいいと思ってしまう。


『ハロウは嘘がわかるのであろう? いくらでも儲けられそうな気がするが』


『儲けられるかも知れないけど、もめそうじゃん? できれば穏便に荒稼ぎたい』


『それは難しいと思うぞ?』


『やっぱそうだよなー。そう言えばさ、基本暇なら今度どっか遊びに行かない?』


『む! それはいいな! どこがいいか。……友は希望はあるか?』


『できれば軽くでもいいから体動かせるのがいいかな? 都会は魔獣が弱くてな』


 運動不足な気がしているハロウだった。


『では裏バッティングセンターどうだ?』


『裏ってなに?』


『球が野球のものではなかったり、バッターのこと狙ってきたり、スピードが異常に速かったりするな。だから普通のバッティングセンターより体がかなり疲れると思うぞ?』


『そこ面白そうだな。でもリネンはそこでいいのか?』


『当然だ。我と友とどちらが高得点をだせるか勝負しようではないか』


『得点でるんだ?』


『うむ。得点に応じて賞金貰えるぞ?』


『いいね。でも本当に勝負でいいの? 正直、身体能力の高い俺の方が有利だと思うけど』


 ハロウは身体能力では誰にも負ける気はしなかった。


『ふふ。身体能力だけでどうこうできるほど甘くないぞ?』


『じゃあ勝負な』


『うむ』




●バッティングセンター




 鉄木島から船が出ている港町。そこにあったバッティングセンターは外から緑の網が見えていて、遠目からでもバッティングセンターだとわかった。しかしハロウがリネンに連れてこられた場所は違った。外から網は見えず、全て壁に覆われている。その壁は武骨で頑丈そうではあるが、娯楽施設には全く似つかわしくない。ハロウが行ったことのある港町のバッティングセンターとは似ても似つかなかった。


「……都会のバッティングセンターって凄いな。こんな、なんか、ごつい感じなの?」


「いや、ここがごついのは裏バッティングセンターで危険だからだ。都会とかは関係ない」


「やっぱ、そうなんだ。港町で見たのとは違い過ぎるからな」


「さあ、こっちだ」


 ハロウはリネンと一緒にバッティングセンターに入る。


 バッティングセンターに入ると受付にいた男が話しかけてくる。


「お、元チャンピオンじゃないか!! 記録塗り替えにきたのか?」


「なに!? 我の記録抜かれたのか!?」


 自らの記録が抜かれたと知らされ驚くリネン。


「元チャンピオンだったの!?」


 重要な情報を隠されていたことに驚くハロウ。


「我の記録でもどれが抜かれたのだ? シュート? それともポンドか?」


「二つも記録持ってるんだ」


「ポンドだ。あとお連れさん、元チャンピオンはヒットバックってのでも記録持ってるぜ?」


 しかしリネンのもつヒットバックの記録は、理論的に最高点なので破られるわけはないのだ。なのでリネンも言わなかったのだろう。


「う~む。ポンドはパワーが大事であるからな。力自慢のやつが来ればありうるか」


「なあ、リネン。ポンドとかってなに? 裏特有のやつ?」


「……む。すまん。説明していなかったな。ここではただ球を打ち返すだけではないのだ。賞金とかがあるのでな。そして遊べる種類がヒットバック、シュート、ポンドの三種類だ」


「それでポンドでリネンがチャンピオンから陥落したと」


「ぬううう! 今日で取り戻すのでよいのだ!」


「頑張れよー。元チャンピオン」


 少し不機嫌なリネンを店員が煽る。


「ま、まあ、今日は友と遊びにきたので、後回しだ。取りあえず登録してくれ」


「わかった」


 ハロウは裏バッティングセンターに会員登録する。これでバッティングをする前に機械に会員証を入れることで記録の管理が可能になる。


「できたぞ」


「うむ。まずは肩慣らしにヒットバックでもやるか?」


「ああ。教えてくれ」


「うむ。ヒットバックは普通のバッティングセンターでやることに近い。ただ、球が普通でなかったり、球を打ち返すところにより得点が変わる。まあ、見た方が早いな。こっちだ」


「ほうほう」


 ハロウがリネンに連れてこられたヒットバックの場所は、説明どおりハロウが知っているものとあまり変わらなかった。違いは向かい側の壁に奇妙な絵が描かれていることと、放たれた球を受け止めるところが非常に頑丈そうな素材でできていることだった。その絵は数多の触手を生やしたスライムに大勢の人間のパーツを福笑いで配置したような絵だった。人間のパーツは顔が丸ごと描いてあったり、目だけだったりする。しかし総じて怒り、憎しみ、悲しみ、哀れみなど負の感情を滲ませている。そして、その絵には得点が書かれている。


「……なんだあの不愉快なクリーチャーは?」


「確か画家が描いた絵で、タイトルは『世間の風』だったはずだ」


「いや、そういうことじゃなくてね。……てか画家の人、精神状態大丈夫?」


「大丈夫だと思うぞ? 次の作品で『家族』ってタイトルの絵があったはずだ」


「どんな絵なの?」


「足を組んで豪華な椅子に座った男と年老いた夫婦と椅子に座った男よりも年をとった男が描かれた絵だ。椅子に座った男以外は土下座をしていて、椅子に座った男が頭を踏みつけている」


「……足の数足らなくない? 三人同時に踏めないでしょう?」


 人間は大体が足二本だ。


「大丈夫だ。椅子に座った男の左足は三本描かれている。それぞれに頭を踏んでおった」


「成程。大丈夫そうではあるな。問題が山積しているようだけど」


 問題は山積みでも構わない。崩れない限り問題視されないのだ。


「うむ。さて、そろそろやってみるか?」


「ああ。もちろん。基本高得点の場所狙えばいいんだろう?」


「そうだ。だが難しいぞ?」


「まあ、でも、バッティングセンターには行ったことあるし、まあまあいけるでしょう。……高いな! え? 値段おかしくない?」


 なんと値段が一回千円二十球であった。


「賞金や賞品があるからな。一回の値段が高いのだ」


「でもこれだと金持ちしか練習できないじゃん」


「大丈夫だ。ちゃんと当たれば得点にはならんが、一回が無料になる券を貰える的がある」


「どこよ?」


「あの鼻が花みたいになっておるところだ」


 リネンが示した場所には鼻が花弁のように配置されていた。


「本当だ。よしやってみるか」


「初心者なので練習もかねてさっきの無料になる的を狙うのがおすすめだ」


「わかった。……おりゃああ!」


 ハロウは向かい側の壁から放たれた球を打ち返す。しかし壁には当たるが、的からは外れてしまい得点にならなかった。


「……バットで打って的狙うって結構難しいな」


「であろう? 慣れるまで苦労するぞ」


「ま、次こそ当ててみせ……なにこれ!?」


 ハロウに放たれた二球目は球とは言えないものだった。立方体のものが飛んできたのだ。ハロウはバットに当てるが、球は壁に届かず地面に直撃した。


「立方体タイプの球か。通称、サイコロだ。芯で捉えねばまともに飛ばんぞ」


「球じゃないじゃん!」


 憤るハロウ。


「裏バッティングセンターなのでな。ほら、次がくるぞ」


「なんでもありかよ。次は……なにこれ!?」


 ハロウに飛んできた三球目はまたしても球になっていなかった。円錐のような形をした球だった。円錐は先端をバッターに向けて飛んでくる。ハロウは懸命にバットを振るも、上に打ち上げてしまい、的には当たらない。


「円錐タイプの球は、通称、タケノコだ」


「これ的に当てられる気がしないんだけど? てかさっきから球って呼んでいいものじゃなくないか?」


「まあ、普通のは球であるし、いいではないか。ではそれが終わったら、我の華麗なプレーを見せてやろう」


「当てられるの? マジで見たいわ」


 そのあとも変な球にハロウは苦しめられる。


「なにこれ、重!」


「通称、ヤンデレだ」


 見た目はほぼ普通の球なのに、バッターに向かって飛んでくる異常に重い球があったり。


「なにこの派手なの? 中身、スッカスカなんだけど?」


「通称、意識高い系だ」


 綺麗な見た目で、中身が空気の軟式の球があったり。


「……透明!!」


「通称、愛だ」


 非常に見えにくく、捉えたと思っても、すぐに行方知らずになる球があったりなどした。


「これで高得点無理だよ!!」


 ハロウは苦戦しながら全二十球を終えた。なんとか運よく一球のみ、目的の無料の的に当てることができた。


「「「うおおおおおおおおお!」」」


 そしてなぜか周りが歓声をあげた。


「まあ、最初はそうであろう。そもそも無料になったことが奇跡であるからな?」


「まあ、そうなんだけど……」


 ハロウは苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「なにが不満なのだ?」


「いや、無料の的に当たったのが愛なのが、なんとなく嫌」


 ハロウは透明で見えにくい球――通称は愛――で無料になったのがスッキリしなかった。


「うむ。なんとなくわかる」


「だろう?」


「まあ、高得点の出し方を我が見せてやろう。しっかり見ておくのだぞ。ヒモ王よ」


「変な渾名つけんな」


「いや、友の様に愛で無料になった者はここではヒモと呼ばれるのだ」


「嫌な慣習だな。……王はどこから?」


「愛で無料の的に当てて、かつ、それ以外的に当ててない者がヒモ王だ。非常に珍しいぞ!」


「……もしかしてこの歓声は?」


「うむ。新たなるヒモ王の誕生を祝してのことだ」


「い、要らねえ」


 ハロウの顔が引きつる。


「まあ、我が打ち方教えるので、それを聞けば今度からヒモ王は避けられるはずだ」


「そうか。頼むわ。……ん? 最初から教えてくれればヒモ王にならずに済んだんじゃあ?」


「うむ。しかし教えるにしても相手のレベルがわからんことにはどうしようもないのでな。最初にやってもらうのがよいと考えたのだ」


「正論だよ。チクショー」


「まあ、見ておれ」


 リネンがバッターボックスに立つ。


 最初の一球が放たれるが、リネンは見事に最高得点の的に当てる。


「うっま」


 ハロウは心から称賛する。


「まあな!」


 ヒモ王の称賛にご機嫌になるチャンピオン。


 たった一打で実力を見せつけるリネン。そうしてハロウに次々と打ち方を教える。


「サイコロは球の中心の少しだけ下を叩け。バットの軌道と球の軌道を合わせるように意識するのだ。その軌道を覚えておけばコントロールしやすい」


 サイコロの打ち方。


「ここでは一回しか球を打ってはいけないなどというルールはない。タケノコは一回真上に打ち上げろ。そして落ちてきたと所ところを打て」


 タケノコの打ち方。


「スピードと球の変形をよく見ろ。変形が少なければヤンデレだ」


 ヤンデレの見分け方。


「力いっぱい振れ。壊す気でな」


 意識高い系の対処法。


「目で見ようとするな。心で感じるのだ」


 愛の捉え方。


「……まあまあだな」


「すっご」


 リネンは結果として十八球最高得点の的に当てた。


「なあ、これリネンの最高記録って、もしかし全部最高得点の的に?」


「うむ。さすがに狙っては出せんがな。不調なときでも十五は当てるぞ」


「やり込み過ぎだろう」


「まあな!」


「でもそんなリネンの記録を抜くって凄いな。ポンドだっけ? どういうルール?」


「ポンドは非常にシンプルだ。壁に球を打って衝撃が計算される。その衝撃の時間内の合計が得点だ」


「確かにシンプルだな。それで、今からやるの?」


「うむ」


「頑張れー」


「む? ハロウはやらんのか?」


「興味はあるけど正直リネンのプレーが見たいな」


「そうか。まあ、ポンドは初心者が高得点は難しいからな。それでいいかも知れん。では我が三冠王に返り咲く姿を見ると良い」


「自信満々だな。……三冠王ってそんな意味だっけ?」


 ハロウとリネンはポンドの会場まで移動する。そしてリネンは会場の横にある係員の部屋に行く。


「おい。バット出してくれ」


「お! やっと来たか。待ってたぜ」


 店員はリネンに言われたとおりバットを持ってくる。しかしそのバットは普通の野球のバットと比べて明らかに異なっていた。全体的なフォルムは持ち手の部分が長い拡声器に似ている。リネンのマイバットだ。普段は預かってもらっている。


「なにこれ? バット?」


「うむ。ポンドはスイングの威力が結果に直結するからな。マイバットがないといい点は出んぞ」


「へー。……でもそれで威力出るの? 振りにくくない?」


「ふふ。まあ、見ておれ」


 リネンはバッターボックスに立ち、球が来るのを待つ。そして球が向かいの壁から発射される。


「ぬおおおおお!」


 リネンが声を上げながらバットを振る。振りだしてすぐにバットの後ろ側――拡声器で言うと口に近づけない方――が爆発して、スイングスピードが跳ね上がる。そしてバットが球を捉えるとバットの前側――拡声器で言うと口に近づける方――も爆発して球が壁に向かって吹き飛ぶ。


「ほわっちゃい!!」


 それを後ろで見ていたハロウは爆発の余波を受けて熱がる。すぐに後ろに下がったので火傷も負っていない。


「すまん!」


「あとでなんか奢れよ!」


 リネンがすぐに謝ってきたので、ハロウは簡単に許す。火傷はしておらず、熱かっただけだからだ。


「日焼け止めでいいか?」


「日焼け止めに爆発に耐えられるようになる効果ないから!」


「ぬあああ! ミサにはあるって聞いたぞ?」


「マジで?」


 球を打ちながら会話するリネン。その顔にはチャンピオンになれるかどうかの挑戦だというのに緊張は浮かんでいない。そして全ての球を打ち終えた。結果は今までの最高記録を見事に上回っていた。


「お! おめでとう!」


「まあ、我にかかればこんなものだな」


 ハロウとリネンが話していると、ちょび髭の中年男性がやって来る。


「リネン様、三冠王おめでとうございます」


「ありがとう、オーナー」


 リネンとちょび髭オーナーは少し話して別れる。


「これからどうする? ポンドやってみるか?」


「いや、あんな装備持ってないし、ヒットバックするよ」


「シュートは……いいか。ルールはできるだけ早く動く的全部にノックして球を当てるだけであるからな」


「そうなんだ? まあ、今日はヒモ王から抜け出したいからヒットバックやるよ」


「ちなみに全部的に当てないと扇風機って呼ばれるぞ」


「ここでの呼称、さっきから嫌だな」


「まあ、慣れてくれば面白いぞ」


「まあ、できてない状態でもまあまあ面白かったからな」


 その日は、ハロウはリネンにアドバイスもらいながらヒットバックを楽しんだ。


 帰り道。


「そう言えばハロウ」


「どうした?」


「ポンドのときは気づかずに熱い思いさせて悪かったな」


「いいよ、いいよ」


「では握手だ」


「うん? うん」


 ハロウは差し出された手を握る。すると手からなにか力が流れ込んでくる。


「……あれ? これ加護じゃない?」


「うむ。アストロからもう貰っておるようであるから問題はないであろう。効果は耐火性の上昇と火が少し操れるようになるぞ」


「おー。ありがとう」


「ふむ。よくわかっておらんようだな。これがあればアッツアツの食べ物平気で食べれるようになるぞ。鍋焼きうどんも素麵のごとくズルズルいけるぞ」


「それはいいな!」


 ハロウは加護の有用性に感動する。


「あと上級者用の蝋燭でも火傷は負わんぞ」


「ありがとう友よ」


「うむ! 喜んでもらえてなにより」


「じゃあまたな、リネン!」


「うむ、またな! ……じゃなかった! おい、ちょっと待ってくれ!」


 リネンがハロウを呼び止める。


「どしたん?」


「ちょっと鼻を貸してくれ。この服の持ち主の男を探してほしいのだ」


 リネンがカバンから真空パックに入れられた服を取り出す。


「いいぞ。……くんくん」


 ハロウは狼面になり、においを探しだす。


「こっちだ」


 ハロウは屋根に飛び移りながら、においを辿りだす。


「おう。さすがだな。こんなにすぐにわかるのか」


 リネンも後を追いながら、ハロウの鼻の能力に感心する。


「まあな。ところでこれ誰探してるの? においからして男だけど?」


「ふふ。友も存在だけは我の口から聞いたことあるぞ?」


「え? ……うーん。わからん」


「そうか……。正解は、我を覗き呼ばわりしたバカ女の彼氏だ」


「あ、そうなの? でもなんでそいつ追ってるの?」


「む? 当然復讐のためだが?」


「そいつ俺の鼻でないと追えないほどのやつなの?」


「わからん。試しに探偵を雇ってみたのだが、成果がなくてな。もっと時間をかければ見つかるかもしれんが、だんだん面倒になってきてな。それで友に頼むことにしたのだ。あまり時間が経つとにおいで追えなくなるかも知れんからな」


「成程。まあ、追えるから任せろ」


「うむ」


 二人はにおいを辿って、寄り道しながら小一時間ほど移動した。そして目的の人物を見つける。


「あいつだと思う」


「うむ……。確かに我が探していたのだ」


 探していた男はバイク屋で働いていた。その態度は悪く、明らかにやる気なく店にいる。


「よくあれで解雇にならないな。……で、これからどうするの?」


「うむ、一人になるまで待って襲撃だな」


「ふむふむ、張り込みみたいだな。牛乳とアンパン買ってこようか?」


「ピザまんとコーラを所望する」


「張り込みでそんなにおいの強いもの所望すんなや」


「大丈夫だ。ここから距離はあるので、においなど届かん」


「わかったよ。コンビニのでいい?」


「無論だ。むしろコンビニ以外でピザまんとか見たことないぞ?」


「確かにな」


 ハロウはリネンのために買い物をしてくる。


「ほい、ピザまんとコーラ」


「すまんな」


「いいよいいよ。それとこれ、俺の予備の双眼鏡貸してやるよ」


 ハロウは自分の影から双眼鏡を取り出し、リネンに渡す。


「ぬお!? なんだそれは!?」


 ハロウの影収めの術にリネンが驚く。


「言ってなかった? 俺、最近忍術習い始めたんだ」


「聞いておらんな!」


「まあ、詳しいことは見張りながら話すよ」


「うむ!」


「あと、これ、折り畳み式の椅子。長時間の張り込みに便利だぞ」


 ハロウがまたしても影から便利なものを取り出す。


「すまんな……ってやけに手馴れてないか?」


「ふっ。それも話してやろう。忍者に関係あるからな」


「ちょうどいい暇つぶしになるな!」


 ハロウは張り込みをしている間リネンに忍者の話などして、時間をつぶした。


 そしてリネンを覗き呼ばわりした男が一人になったのを見計らって、リネンが復讐を開始する。


「ふん!」


 リネンは指先から炎を出して、男の目と口を焼く。


「おー。これだけでいいの?」


「うむ。我は優しいからな」


「そっかー。そう言えば、あいつの彼女とリネンを捕まえた警官は?」


「それなら簡単に居場所がわかったので、もう済んでおる」


「ならよかった。じゃあそろそろ帰るか?」


「そうであるな。礼を言うぞ友よ。おかげで完遂できた」


「いいよいいよ。お安い御用だ」


「ではまたな!」


「ああ、また」



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