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上京狼  作者: 鳥片 吟人
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研修・四


 装備屋に到着して、中に入る。


するとすぐに、ツーブロックの男性が笑顔で二人を出迎える。


「いらっしゃいませ、モンド様。本日は活きの良いハイレグアーマーが入っております」


「なんか聞いたことある感じだな! 絶対センシティブ戦士恥部の関係者だろう!」


「おや、弟をご存知で?」


「ああ、パンツ買ってる。変身しても破れないから」


「成程。本日はパンツに合わせるブレストアーマーをお探しで?」


「なんでパンツにブレストアーマーを合わせるんだよ」


「失礼。身のこなしから軽装をお探しかと思ったので」


「まず防具じゃなくて武器が欲しいんだけど?」


「そうでございましたか」


「店長、こやつは人狼のハロウ。鉄木島の出身じゃ。コネで木を仕入れることができるらしいぞ」


「どんくらいかはわかんないけど」


「素晴らしい。是非とも紹介いただきたいものですね」


「いいけど、今少量でも取引あるならやめておいた方がいいと思うよ?」


「取引はありませんね。ですが、なぜでしょうか?」


「一応、木を売ってるやつには貸しがあるけど、俺は嫌われてるから」


「……詳しくお聞きしても?」


「うん」


 ハロウはエロ本事件のことを話す。木を売っている人物はエロ本事件の関係者だった。


「私は、今、猛烈に、感動しております!」


 話を聞いて、涙を流しながら感動する店主。


「情緒いかれとんのか!? 今の話のどこに感動するとこあったんじゃ!?」


「なに仰るのですか! 攫われた姫を悪漢どもから救い出す英雄譚ではありませんか!?」


「もしかしてエロ本のこと攫われた姫って言っておる? 嘘じゃろう?」


「店長。説明がなってないよ。モンド、エロ本を自分の作品だと思ってくれ」


 ハロウが伝わりやすく、モンドに説明する。


「……うおおおおん! 悲しい話じゃ! ハロウ! お前さん、つらい目に遭ったんじゃな!!」


 モンドがハロウの肩をバンバン叩く。しっかりと伝わったようだ。


「まあ、過去のことだし」


「しかし、そのようなことをする人物は取引相手として問題ですね」


 強盗の関係者は取引相手としてためらってしまうだろう。


「まあ、次したら殺されるってわかってると思うから大丈夫だと思うよ? それにそんな相手ならぼったくっても罪悪感ないでしょう?」


「確かにそうですね。では紹介お願いします」


「うん。じゃあそろそろ武器見せて」


「かしこまりました。……おっぱいミサイル撃てるタイプのブレストアーマーは武器カウントでよろしでしょうか?」


「よろしくない。どんだけブレストアーマー買わせたいんだよ。普通の武器見せてくれ」


「かしこまりました」


 ハロウは店主に武器が置いてある場所へ案内される。そこにはオーソドックスな剣や槍などが、透明なケースの中に並べられていた。


「ハロウ様の戦闘スタイルは?」


「俺、人狼だから格闘が近いかな」


「ではこちらの爪はいかかでしょう?」


 店主が差し出した爪は手甲鉤だった。爪は三本ある。


「おー。鋭そうだな」


「はい。しかも麻痺の効果も追加できる優れものです」


「毒とか塗ってるの?」


「いいえ。魔素を充填してから発動させますと、魔法として発動します。……このように発動時には刃が紫になります。自由に変化できるので差し色としても使えますよ。紫なので落ち着いた高貴さが出る大人コーデに!」


「差し……なんて? 取りあえず武器にオシャレさ求めてないんだけど」


 店主の説明に困惑するハロウ。自分が着る服にあまり興味のないハロウには店主の言葉は理解できなかった。アストロにモテようと思ってファッション雑誌など買ったことはある。しかし彼の感性からすれば、そこに載っている服は『変だな』という感想しか出てこなかった。なので諦めた。もともと全裸で過ごしていたのだ。『服なんて飾りだ』という考えに行きついてしまっていた。


「オシャレな感じにもできますよ、ということです」


「そうなんだ。これって変身で体の大きさ変わっても対応できる?」


「そちらの魔法処理でしたら可能です。さらに追加の効果を持たせることができますが、いかがいたしましょう?」


「追加の効果って麻痺の効果とどうなるんだ? 個別に発動する?」


「別に発動します。同時には発動できません」


「……う~ん……おすすめは? 相手の動き阻害するものがいいんだけど」


「では氷結などいかかでしょうか? 切ったあとに血が出ないようになりますし、動きを阻害できますよ。そしてこれで扇げば風呂上りに超涼しいですよ?」


「最後の使用方法要らないな。でも、それお願い」


「ありがとうございます。すぐに魔法処理いたしますね」


「どれくらいでできそう?」


「三十分ほどいただければ」


「ん? 早くないか? パンツのときはサイズ調整するのだけで、もっと時間かかったけど? 今回は追加効果のぶんもあるのに、ここはすぐできるの?」


「はい。実は下着にするより簡単なんです。装備がサイズ調整などの魔法処理をすることを考えられて作られてますから」


「へー」


「あと防具はどうされますか?」


「そうだな。動きを阻害しないで、俺の変身時より頑丈なのがあれば買いたいな」


「失礼ですがハロウ様の頑丈さはわかりかねますので、変身を見せていただけませんか?」


「これなんだけど」


 ハロウは腕だけ狼に変身させる。腕がふさふさの毛に包まれる。


「ふむふむ」


「どう?」


「これほど毛深いお客様は初めてです」


「脱毛に来てるわけじゃないんだけど」


「非常に強靭ですね。少し抜いて調べさせてもらませんか?」


「いいよ」


 ハロウは毛を抜いて渡す。人狼への変身でいくらでも毛は生やせるので禿げる心配はない。


「ありがとうございます。さっそく調べますね」


 店主は店員を呼んで毛を調べるように指示を出す。店員は毛を受け取って店の奥へ向かった。


「なあ、調べ終わるのに時間かかる?」


「はい。最速で行いますが、最低でも一時間は……」


「じゃあさ、店頭で言ってたハイレグアーマー、見せてもらえる?」


 ハロウは、さきほど店主が言っていたハイレグアーマーに非常に興味があった。いや、異常に興味があった。


「喜んで! どうぞこちらです!!」


 店長はハロウをハイレグアーマーの元に案内する。店主は今までで最大の笑顔でハロウを案内する。自分の自信作に興味持ってもらえて嬉しいのだろう。


ハロウが案内されたさきには、ハイレグアーマーだけでなく色々な装備があった。ビキニアーマー、パイロットスーツ、紐、など様々だった。


 ハイレグアーマーは部屋の中央に飾られていた。飾り方は服だけでなくマネキンに服を着せる展示方法だ。ここからも店主が力を入れているのがわかる。ハロウはハイレグアーマーをぐるりと一周して見回す。


「ほほう。いい仕事してるなー。角度が良い」


 ハロウがハイレグアーマーの角度を褒め称える。角度は大事だ。たった一度違うだけでもその印象は雲泥の差となる。


「わかりますか!?」


「ああ。下品にならないギリギリのラインを攻めている。……いい!」


 ハロウは力強く言い放つ。


「そうでございます! いやー。こだわりの部分を評価してもらえるのは、いいものですねー!!」


 店主は接客用ではない、本当の笑顔を浮かべて上機嫌になる。


「ふふ。ちゃんと商品の後ろに回れるように配置されてるからな。これはこだわってない店ではやらない配置だ」


 ハイレグアーマーのチェックに前面からと背面から行うのは常識だ。


「ええ! ええ! そうでございますとも。ハイレグは後ろ姿を確認しないわけにはいきませんからね! 前だけ見せるなぞ、阿呆の極み」


「なんで中央にハイレグアーマー置いておるのかと思ったらそういう理由なんじゃ?」


「モンドはわかってなかったのか!?」


「うむ。儂は全裸派じゃから」


「それでよく装備屋に来るな」


 ハロウは呆れる。モンドが言ったことは、着衣派の店主を否定するような言葉だからだ。その歯に衣着せぬ物言いに、ハロウは驚く。


「いや、ここ本来は普通に装備買うところじゃからな? エロ装備は店長の趣味で置いておるだけじゃから」


「え? じゃあこれ非売品なの?」


 ハイレグアーマーを購入する気満々のハロウは動揺する。


「いいえ。ちゃんとお売りいたしますよ?」


「よかった。これください」


「ありがとうございます! オプションの魔法処理の方はいかかがなさいますか?」


「なにあるの?」


「はい。サイズ調整は無料で、有料なのですと……」


「ほほう。素晴らしい! じゃあ、これとこれと……」


 ハロウがハイレグアーマーを買っている間に毛の分析が終わり、店員が知らせに来る。


「……これは素晴らしいですね。正直、防具の必要性はほぼありません」


 その性能を見た店主は驚きの声を上げる。


「そうなの?」


「はい。ハロウ様の毛以上のものですとドラゴン製の防具しか思い浮かびません。しかしドラゴン製の防具は素材がなかなか手に入りません。なのですぐにご用意できかねます。しかも、いつできるかも予想すら困難です」


 店主が申し訳なさそうに言う。


「へー。そんな希少なんだ。でも素材が手に入ったら加工はできる?」


「はい。当店はドラゴン製の服を貴族様にご注文いただき、感謝状盾も送られたことがございます」


 店長の指した方向の壁には感謝状があった。それは盾の形をしていて、金色に輝き、一目で高価なものだとわかる。


「おー。高そうな感謝状。なになに……ん?」


 ハロウは送り主の名前を見て、疑問に思う。ハロウが捕まえた貴族の息子が似たような名前だったはずだ。


「ゲオ・アテニ?」


「はい」


「……ゲオ・ヒキニじゃないんだよな?」


「その方はアテニ様のご子息ですね」


「おう!」


 ハロウは自分が捕まえた貴族がゲオ・アテニだったと知る。同時にアテニに自分の牙が効かなかった理由を理解する。ドラゴン製の服を着ていたのだろうと察しがついた。


「お知合いですか?」


「知ってると言えばそうだな。……この感謝状、しまった方がいいと思うよ?」


「なぜでしょうか?」


「アテニもヒキニも莫慰奉にぶちこまれてたから。飾ってたら悪評の元じゃない?」


 莫慰奉は入ったが最後、出てこられない監獄として有名だ。


「なんと!? それは知りませんでした。……ではこんなものポーイッ!」


 店主はすぐさま感謝状を取り外し店の奥へ投げ捨てる。そこから一切の未練も感じられない。


「容赦なく捨てるな?」


「まあ、べつに思い入れなどございませんし」


「さっきドラゴン製の服を作った証みたいな感じだったけど?」


「そうでございますが、莫慰奉に入れるのは基本的に騎士のすることですので。騎士御用達のこの店には、あんな感謝状を飾っておくわけにはまいりません」


 そんなことをすれば、装備ではなく反感を買われるのは目に見えている。


「成程」


「それで、結局ハロウは防具どうするんじゃ?」


「ドラゴン製のものないみたいだから、なしでいくよ。全裸スタイル」


 原始人でも中々になさそうなスタイルだ。


「あの、防具としてではなく魔法具の効果を期待して、腕輪やベルトはどうでしょう? それなら服のように邪魔になりませんよ? 回復や解毒の効果をつけていたら、いざというときにも安心ですよ?」


 店主が裸ベルトを薦める。


「おう。成程。確かに欲しいな」


「ではこちらに」


 こうしてハロウは店主に言われるがままに、腕輪とベルトも買った。


 最後に会計をして、商品を渡される。


「どうぞ、武器や防具は持っているだけでは意味がありません。ちゃんと装備しないと効果を発揮しませんからね?」


「知ってるよ!?」


「すみません。決してお客様を馬鹿にしているわけではございません。クレーマー対策に言っているのですが、一部の馬鹿にだけ言うと、そこからまたクレーマーが湧いてしまうもので」


「おう、そっか。苦労してるんだ」


「まあ、最近は騎士御用達になったので、あまり意味はなくなっていきたんですけど」


「そっか。じゃあ、また来るわ」


「はい、またのご来店をお待ちしております」


 ハロウとモンドは店を出る。装備屋を出てモンドがハロウに話しかける。


「これで研修は終わりじゃの」


「一日だけで終わるんだ?」


「うむ。従騎士は色々特殊じゃからな。本当に必要最小限のことだけじゃ。あとはアストロに教えてもらえ」


「そうなんだ。いやー。今日はありがとう、モンド。色々勉強になったよ」


 ハロウは礼を言う。教えてもらった稼ぎ方は非常に有用だと思えたからだ。


「ガハハ! アストロは装備屋はともかく、金稼ぎは知らんじゃろうからな!」


「まあ、アストロが人間引きずり回してるのは想像しにくいけど」


「違わい。アストロは水でぼろ儲けしとるからの。こんな小銭稼ぎは知らんのじゃ」


「あ、それ聞いたな。どうやって水で稼ぐんだ?」


「あん? 知らんのか? アストロは聖水を国に売りさばいとるんじゃ」


「……あー! そういうことか。呪素に効く聖水は売れるに決まってるよな。てっきりヤバい宗教的な売り方してるもんだとばかり」


「酷い勘違いじゃな」


「だって非課税で売ってるって言うから」


「それは仕方ないかもしれんの」


 二人は王城の前に行く。そこにはアストロがいた。さきほど装備屋で連絡しておいたのだ。


「お疲れ様です。モンド、今日はありがとうございました」


「なに、大した手間じゃなかったわい。じゃあの。二人とも。またなんかあったら連絡してこい」


「じゃあな! 今日はありがとう」


「では、また」


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