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上京狼  作者: 鳥片 吟人
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練習と二度目の下見




 ハロウは自宅に帰ってくると留守電を確認する。リネンから電話がきていた。ハロウは残されたメッセージを聞く。


『不当逮捕の件、確認を感謝する。デートの件だが、温水プールはどうだ? 我がバイトしておったところだ。アストロは水魔なので水のある所は嫌がるまい。あと水着が見られるぞ!!』


「……すげーいいところ教えてくれるじゃん。残念ながら初デートには難易度高いけど」


 ハロウは是非とも水着は見たいが、初デートはやはり映画館にしようと思う。仮にプールがアストロに承諾されても、水着をいやらしい目で見ない自信は欠片もなかった。さきほどいやらしい目で見られて気持ち悪いと感じたので、アストロに嫌われるかもしれないという思いを強く感じた。


「あ。そう言えばリネンに聞きたいことできたんだった」


 ボコボコにしていい人間のことだ。さきほどのガラの悪い集団でも練習したが、まだ完璧ではない。すぐさま気絶させることができるようになるまで練習しておきたかった。


「んー。でも九時過ぎてるし電話かけるのはマナー違反か?」


 ハロウはいつまでが電話をかけていい時間なのか、今まで独りだったのでわからない。


「うーん。仕方ない。やることないからハンターの登録でも行くか」


 リネンからいつでも開いていると聞いていたので、ハロウはハンターに登録することにした。すぐには稼げなくても続けてやっていればいつかは稼げるようになるだろう。そんな気持ちで登録することにした。


 そして家を出て教えてもらっていたハンターの登録ができると言う場所に向かう途中、家の下にあるコンビニから声が聞こえた。


「ああ!? なんでトイレ使えねえんだよ!?」


「すみません。規則で……」


 客がコンビニ店員にトイレを貸せとすごんでいる。そこでハロウは考える。


――これは俺が出ることじゃないよな?


 ハロウが頼まれたのは店長一家に身の危険が迫ったときに助けろというものだ。一般の店員の危険でないトラブルまで解決する必要はない。


――でもいいや。暇だから助けよう。ここ気に入ってるし。


 ハロウは親切心で助けようとする。断じてここがくっころ倶楽部を仕入れているからというわけではない。


 ハロウはコンビニに入り店員に話しかける。


「すみません。トイレ貸してください」


「すみません! 規則でお貸しできません!」


 トイレを貸せという人物が増えたことで焦りを強くした店員が強めに言う。


「そうですか。無理言ってすみません。あ、じゃああのコーヒーください」


「はい!」


 ハロウは店員に拒否されると、大人しく引き下がり、あったかい飲み物のコーナーにある筒状のコーヒー缶を注文する。ひねって蓋を開ける飲み口が広いタイプだ。


「…………」


 さきに店員にトイレを貸せと言っていた男はそれに対してなにも言わない。自分の前で素直に引き下がられてしまったのでなんと言えばいいのかわからないのだろう。


 ハロウは買ったコーヒーを飲み干し、缶を見ながら独り言を呟く。


「最悪これでいけるな」


 こうしてハロウはコンビニを出た。


 すぐあとにトイレを貸せと言っていた男もコンビニを出る。しかしコーヒーなどは買っていない。男は我慢してトイレを探すことにしたようだ。







「おー。ここだよな? 工場とかじゃないよな?」


 ハロウはハンターの登録に来ていた。彼が訪れた場所は外から見ると非常に広く、工場のように見えた。


「……でもここだよな」


 看板に自然環境保全課の文字がある。ここでハンター登録するのだとリネンから教わっていた。


「まあ、間違ってたらそのときはしょうがないか」


 ハロウは建物の中に入る。すると番号札をお取りくださいという看板が目に入ったので、番号を取る。するとすぐに自分の番号が呼ばれる。


「ハンター登録お願いします」


「はい。では身分証の提示をお願いします」


「はい」


 ハロウは魔法カードを起動しながら出す。これで本人と確認できる。


「はい。ではこちらの書類を熟読の上サインをお願いします」


 そう言って受付が書類を差し出す。内容は狩猟の決まり事やなにかあっても国に責任はない、ということが書いてあった。


 ハロウはサインをして提出する。


「はい。以上で登録は完了となります。登録証の発行まで椅子に掛けてお待ちください」


「はい」


 ハロウは少し待ってから登録証を貰った。これで狩りができる。とくになにもすることがないので一狩りいくことにした。







――きゃっほおおおおおおお!


ハロウは思い切り走っていた。ここのところあまり動いていなかったので一度体を動かしたかった。どんどん奥へと入っていく。そこに躊躇いはない。彼は感覚でこの近辺に強い魔獣などいないことが理解できていた。


――もしかして蝙蝠か?


 走っているとハロウの鼻が蝙蝠系統のにおいを捉える。今までに嗅いだことがないにおいなので初めて会う種族だろう。


――この感じ……魔獣だな。


 ハロウは未だ見たことない魔獣を狩ることにする。蝙蝠系統なら超音波を使ってくるはずだ。練習中の声の調節に調度いいだろうと思った。においから多数いることがわかるが、買い取ってもらえるのは一匹のみだ。無駄になるが、今は稼ぎのことより練習だ。そう決心して、蝙蝠魔獣がいる洞窟へと足を踏み入れる。そして狭かった洞窟内が広くなる場所へ踏み入れたとき、超音波に襲われた。


――おわっ!


 ハロウは急いで元の道に戻る。さきほどまで彼がいたところが弾ける。蝙蝠魔獣達の超音波攻撃だ。攻撃を避けたハロウだったが、頭を悩ませる。


――あれは受けても平気かな?


 さきほど思い至ったのだが、ハロウは超音波系の攻撃は食らったことがない。今までは食らう前に倒していたからだ。しかし、今回ハロウは声の調節の練習できたので先制攻撃で倒してしまっては意味がない。彼の目的である練習のためには蝙蝠魔獣の超音波と音を合わせるのがよい。しかし、敵の超音波を食らわずにそんなことはできない。しかも蝙蝠魔獣たちは多数いるので、無防備に超音波を食らって共振のせいで大ダメージを受けたらたまったものではない。


――面倒だけど一匹ずつ声で気絶させるのを繰り返すか。


 ハロウは声の調整の練習でここを訪れたが、本来声で相手を気絶させるのが目的だ。人ではないのだが、声の調整の練習にはなるだろうと思い一匹ずつ試すことにした。


 そうと決まればハロウは素早く攻撃を受けたところまで行く。すぐさま攻撃がくるが、蝙蝠魔獣達とはもともとの反応に差があり過ぎる。一匹を狙って声で攻撃するのはハロウにとっては簡単だった。最初に見つけた一匹に向けて魔素を込めた声を放つ。


――はい、一匹目!


 声で攻撃した結果は爆散。もう少し威力を抑える必要があるようだ。ハロウは一旦退避してから、また攻撃しなおす。


――二! 三! 成功! ……じゃない。


 三匹目は爆散しなかったが、死んでしまっていた。


――結構難しいな。


 ハロウは気絶させるのが予想よりも面倒だと気づく。それよりは殺す方が余程簡単だ。ただ力いっぱいやればいいのだから。ハロウは気合を入れて練習する。


 ハロウの攻撃により蝙蝠魔獣の数が減ってきた。成功率は九割を超えるまでになった。


 そしてこのままでは全滅させられると感じた群れの長が撤退を始める。それをきっかけに生き残りの蝙蝠魔獣達は続々と洞窟の奥へと向かっていく。ハロウの後ろにある出口以外の三方向に分かれて逃げ去っていった。


――よし。これで危険はほぼないな。


 ハロウは気絶していた蝙蝠魔獣達を一匹ずつ起こして、声の練習をじっくりとする。気絶から目が覚めた蝙蝠魔獣が抵抗する。その出した音に合わせて、自分の声を調整して音を打ち消すことを繰り返した。


――ふふっ。上出来だ。あとはチンピラで試せば完璧だな。


 練習をたっぷりできたハロウは満足した。そして買い取ってもらうため一匹だけ持って帰った。







「なにを考えてるんですか!!」


 ハロウは怒られていた。倒した魔獣を買い取りしてくれるところに蝙蝠を持っていった途端に、そこの職員に本気で怒られた。


 聞くと魔獣の中には危険な菌などを持っているものもいて、それを鷲掴みにして持ってくるなど言語道断とのことらしい。おまけに装備もしていないことも怒られた。


「すみません」


 ハロウとしては故郷ではこのようなことを言われなかったので全く気にしていなかった。


 しかしここは人間が大多数を占める都会だ。人間は人狼よりはるかに菌などに弱い。人狼基準で行動すれば病気が広がってしまう。


 ハロウは故郷が狩場としては最高峰のものだったことを理解する。


 幸いハロウが持ち込んだものは大丈夫であったらしく少し怒られるだけで済んだ。次から気をつけようと素直に聞こうとしたハロウだったが、すぐにその職員の言うことが信じられなくなった。なぜならハロウが菌を持ち込まないようにする道具はどこで買えるか尋ねると、その職員は知らないと答えたからだ。


――ふざけやがって。知らないわけないだろうが。


 ハロウはこの職員が無責任に発言しているだけだと確信した。職員の臭いも嘘をついている者の臭いだ。


 職員は魔獣の討伐を確認して誰がやったのか証明をするのが仕事だ。どこで道具が買えるのかハンターに紹介するような業務ではない。なので迷惑をかけられたこちらが教えてやる義理などない。大体それぐらい自分で調べろ。職員としてはそのような考えだろう。


 この場合客観的に見て職員が正しい。実際に、店を教えることは彼の業務ではない。彼は職務は全うしている。むしろ余計なことをしてトラブルにでもなったら困るのでそんなことしない方がいい。非常に堅実で正しい選択だった。


 しかし職員は言葉にする内容は間違えた。素直に職務の内容ではないと言って断り、べつの職員に聞いてくれと言えば怒りは買わなかった。面倒だからといって知らないと嘘をつかなければ怒りは買わなかった。


 職員は理解していないのだろう。客観的な正しさは第三者にとって大事なことだが、当事者にとっては知ったことではないということを。いや、当事者は自分こそが正しいと思っているということを。そして目の前にいるのが職員が理解できない力の持ち主で、少しばかり警察に良い思いを抱いていなくて、なおかつ暇人であるということを。


 ハロウは目の前の男の臭いを記憶する。どこまでも追跡するために。


――カメラってどこで売ってるかな?


 その日はハロウは大人しく帰った。その職員を追い詰める準備をするために。







 翌日。リネンから教えてもらい、カメラを買い、映画を見まくる。


 幼児向けのものだったり。


――あ、この主人公、ミラテンのキャラに似てる


 激しいアクションや銃撃戦が売りのものだったり。


――俺ならこのくらい平気だから主人公のピンチや活躍にワクワクドキドキできない。ずっと遊んでるように見える。


 メリーバッドエンドの恋愛ものだったり。


――え? 夢オチ?


 ミステリーものだったり。


――くっ! 登場人物多すぎて覚えられない! においとかあればわかるのに。


 知っている漫画の実写映画化されたものだったり。


――は? なんだこれ?


 色々見たがそれなりに満足したものに出会えなかった。


「や、やべー。これじゃデートが悲惨なことになる!」


 ハロウは絶望した。見た全てで見ない方が良かったという感想しか出てこない。


――いや、ミステリーは犯人誰かわかったから、二回目見たら話が理解できるか?


「くそー。どうすれば」


「やあまた会ったね」


「あん?」


 悩んでいるハロウにいつの間にか現れていたホッターが話しかけてきた。


「おう。確かホッターだったな」


「そうそう覚えててくれて嬉しいよ。そう言えば君の名前は?」


「……そう言えば言ってなかったっけ? ごめんごめん。ハロウだ」


「覚えたよ。ハロウ君はなにか悩んでるみたいだたけど、どうしたの?」


「いや、デートで見る映画探してんだけど全然見つからなくて」


「そうか。それは問題だね。お相手はどんなタフガイなの?」


「タフガイじゃねえよ! 美女だ」


 ハロウの言葉に一瞬停止するホッター。


「……まさか両刀使いだったとは!」


「違う。そもそも俺は男性に性的に興奮しない。女性にのみだ」


「異性愛者……だと?」


 ホッターはあまりにの驚きに口を大きく開けて震えだす。


「なんで雷に打たれたみたくなってんだよ」


「だって! バラニワーッ買ってたじゃないか!」


 ホッターは手を広げながら叫ぶ。興奮しているのだろう。


「あれはデートの相手がどんなジャンル好きなのかわからないから、片っ端から見ようとして買っただけだ。純粋にバラニワーッに興味があって買ったわけじゃない」


 ハロウが同類でないとわかり肩を落とすホッター。しかしすぐに立ち直る。


「異性愛者なのは残念だが、先日お世話になったからね。お礼にデートにいい映画を教えてあげるよ」


「マジか。行き詰ってたからありがたい。是非頼む」


 ハロウは藁にも縋る思いだった。


「任せて」


 ホッターはバチッとウインクを決める。







「これなら楽しめたわ! 教えてくれてありがとう」


 ハロウはご機嫌であった。ホッターから紹介された映画に満足したからだ。コメディ系の映画であまり下品な感じでもなかったので、これならいいだろうと思えるものだった。


「お役に立ててよかったよ」


 なぜかホッターも一緒に映画を見ていた。


「よかったわー。楽しめる映画に当たんなくてさ。困ってたんだ」


「デートが成功するといいね」


「ああ。ホッターはここら辺結構知ってる?」


「まあまあ来るけどどうしたんだい?」


「いや、映画のあとで喫茶店とかに寄って話したいんだ。でも俺ここら辺詳しくなくてさ。知ってたら教えてほしいんだ」


「それならおすすめは二個かな? 少しお高めだけどメニューはどれもおいしい店と、変わったメニューがたくさんある店」


「個人的には後者がめっちゃ気になる。けど両方教えてくれ」


 ハロウは両方とも教えてもらった。デートで後者に行くには勇気が要る。




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