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上京狼  作者: 鳥片 吟人
10/34

買い出し




 焼き芋屋にリネンを送り届けたハロウ。


リネンが焼き芋の余りを確かめると少ししかなかった。なのでアストロには余っていたらと言われたが、新たに焼くことにした。


そして急いで焼き芋を準備しているリネンにハロウが話しかける。


「夜食ってなにが太りにくいんだ?」


「我が知るか」


 ハロウは驚愕する。リネンが知らないなど考えもしなかった。


「マジかよ! じゃあ俺なに買っていけばいいんだよ?」


「我頼みだったのか。まあ、我は知らんがミサは知っているはずだ。聞いてやろう」


「流石リネン! お願いします」


「ふはっ! 任せよ。……もしもしハニー?」


「ハニー?」


 リネンは彼女に電話をする。そして夜食で太りにくいものを聞いていく。


「……ふむふむ。おでんとか? あとは……」


 ミサは色々教えてくれたようだが、ハロウが買える心当たりはおでんしかなかった。


「リネンありがとう。おでんなら心当たりがある」


「ほう。そう言えばコンビニの真上に住んでいたな」


「あん? あ、そう言えばコンビニでもおでん売ってたな」


「その言い方だとコンビニでないのか? もういいおでん屋見つけたのか? いつの間に?」


 ハロウは都会に来てからほぼリネンと一緒であったはずだ。


「今日の昼間。指輪泥棒と一緒に食べたけど?」


「なにをやっておるのだ、友よ」


 若干あきれた様子でリネンはハロウに言う。


「ま、まあこうやって役に立ったことだし。……まあ、リネンの言葉でコンビニでだいたいいけそうだとは思ったけど」


「まあ、そうであるな」


「あ、飲み物もいるよな? 太りにくい飲み物ってなに? 水?」


「まあそうであるが、お茶、紅茶、コーヒーとか、水以外にしておけ。水はアストロが出せるからな。まあ、そこらへんは警察署にあるかも知れんが」


「……ほほう」


 にちゃり、とハロウが笑みを浮かべる。


「なにか悪いこと考えておらぬか? もしくは変態的なこととか?」


「いやいやそんな。……てか変態的ってなに!? 俺そんな感じで笑ってた?」


「うむ。手錠が似合いそうな感じであった」


「SMプレイに興味はあるけど……」


 おそらくばれているあろうことを言うハロウ。


「牢屋の方だ。プレイの方ではない」


「全裸が似合いそうってことか?」


「友の中では牢屋と全裸がイコールで結ばれておるのか?」


「うん」


 ハロウの中では留置所で全裸で過ごしたのは衝撃的であった。


「我は全裸ではなかったであろう?」


「……そう言えば。ごめん。男のパン一なんか見ても嬉しくないから忘れてた」


「友よ……。記憶力が……」


「なんかこのやりとり記憶にあるな!」


「アストロが不安になるのもわかるな」


「くっ! このままでは俺の二つ名が忘却になってしまう!」


 蹲るハロウ。


「なに忘れっぽいことを忘却とか格好つけておるのだ?」


「いいじゃないか! ただの馬鹿っぽい人よりいいと思うよ!?」


「いや、変な格好つけたその果てが、ガカクみたいな人物だと思うのだが?」


「……馬鹿な! 俺は今腐れナルシストになりかけていた?」


 ハロウは驚愕する。まさか自分があのようなおぞましい変態に近づいていたなどと思いたくなかった。


「では忘れっぽいを全力で格好良くやってみたらどうだ? それで恥ずかしくなったら、それはもうガカクではないだろう」


「成程! 集中するから少し待って」


「うむ。さっきからずっと芋焼いておる」


 ハロウは考える。最高に格好良い忘れっぽい感じを。少したってイメージがついたハロウは手を頭に当ててカッと目を見開き言い放つ。


「ぐっ! まただ! また、『空白の期間(ヴォイドターム)』が生まれた。一体俺はあのときなにを? ……思い……だせない! なにか大切なことを忘れている気がするのに! ……ってただの厨二病じゃねーか!!」


「ぶはっ! すまん。ちょっと芋が焦げた」


「やらしたのに笑ってんじゃねーよ!」


「すまんすまん。予想より厨二してたものでな。……しかし忘れっぽいことと厨二病、結構相性がよいな。……む? では老人が厨二病になればリアルにあの光景が見られる?」


「それはたぶん、忘れてるの飯か薬じゃないかな?」


「ふがふが……ふが」


「入れ歯もかな?」


「む……だんだん焼けてきたぞ?」


「マジか……あれ? リネンが焼いてくれてる間に他の買っといた方がよかったかな?」


 そうすれば時間の無駄が省けたのではハロウは思い至る。


「うむ。……いや我の焼き芋はすぐには冷めんが、おでんはすぐに冷めるからな。署で温めればいいだろうが、おでんは最後に買うのがよいのでは?」


「おお。成程。それで、焼き芋ってあとどれくらいかかる?」


「……もうそろそろできるぞ? 買ってきたらどうだ?」


「そうなん? じゃあ、俺はおでんとか買ってくるから焼き芋よろしく」


 そう言ってハロウはコンビニに急ぐ。


 コンビニに入るとコンビニの店主であるおっちゃんがいた。ハロウは会釈してお目当ての物を探す。そして色々探しているとまさかのお宝を発見する!


「こ、これは!」


 くっころ倶楽部である! ハロウが探し求めていたくっころ倶楽部である! 彼が田舎から出てくるきっかけとなったくっころ倶楽部である!


「なんという幸運!」


 ハロウは金に関係なく、ここのコンビニを守ろうと決めた。


「取りあえず二冊買っておこう」


 一度盗まれてしまったという事実がハロウに保存用という概念を与えた。


 他にも籠に入れ、レジに向かう。会計のとき、おっちゃんに良い笑顔を向けられる。ついでにおでんをいくつか買う。この買い物で最低限の物はそろった。


 ハロウはすぐにおでん屋に向かわず一旦自宅に向かう。なぜならくっころ倶楽部をもっているから。二冊も。


 家に着くまでの間におでんを食べる。


――おでん屋の方がだいぶうまいな。


 ハロウはあのコンビニに大分好意的だが、味で比べてしまうと指輪泥棒の行っていたおでんの屋の方が明確に上だ。やはりおでん屋でおでんを買うことにした。


 ハロウは家に入り、くっころ倶楽部を置き、シャワーを浴びる。服に穴が空いてしまったので、着替えておこうと思い、せっかくなのでシャワーを浴びることにした。彼は狼になり犬の様にふるえることで体の水をあっという間にとばせるので五分とかからず終えた。


 そして着替えておでん屋に向かう。運よくおでん屋はまだやっていて、しかも客がいなかった。


「おじさん昼間ぶり」


「あれ? また来てくれたんだ? なににしますか?」


「差し入れで持っていきたいから、全部いける?」


 ハロウの予想外の言葉におでん屋が驚いた顔をする。


「全部? ……いけるけど本気?」


「ああ。できれば」


「じゃあ、今から鍋に詰めてあげるからそれごと持ってって」


「ありがとう」


 ハロウは魔法カードで支払い、鍋をもって自宅に走る。人狼の身体能力は高いので、まるで鍋をもっていように、揺らさずに走れる。


 そして自宅でコンビニで買ったものを持ち、リネンの焼き芋屋に走る。


「待っておったぞ!」


 ハロウはリネンから小分けにされた焼き芋の袋を受け取る。ここでも魔法カードで支払う。


「そう言えばおでん少しいる?」


「ふむ。いただこう」


 ハロウはリネンに少しおでんを分ける。これであとは警察署に行くだけだ。


――早く嗅ぎた……会いたいな!


 ハロウはアストロに会うために警察署に急ぐ。







「あのー、これっていつまでかかるんですかね?」


「おそらく今日は泊まり込みですね? 色々調べないといけないことがありますから」


「はー。でもまさか署長が犯罪してたなんて」


「普段の様子からしそうではなかったのですか?」


「いや私達は普段の様子とか知りませんけど。なんか偉そうにしてる話が長い人ってだけしか知りません」


 アストロは給湯室で女性警察官と話していた。署の警察は、署長の書類からは犯罪に関係なさそうな者達は一室に集められ、署長のしでかしたことの説明を受けていた。そして他の犯罪などに関わっていないか簡単に調べられていた。その面倒さにアストロはハロウに頼んでしまおうかという気持ちが一瞬わいてきたほどだった。


 現在は休憩がてら話しているだけだ。そうしていると女性警察官の腹が鳴る。


「……お腹減りましたね」


「カツ丼でもとりましょうか?」


「やっぱまだ疑われてる!?」


「いえ、君は疑わしくないと判断したので安心してください」


「じゃあ帰してくださいよー」


「帰る許可は出しているはずです」


「先輩とかまだいるんですから、ここでさきに帰ったらあとでいじめられるじゃないですか!」


「それは具体的に誰のことですか?」


 アストロの視線が刺すようなものに変わる。もしや問題行動のある人物がいるのかと思ったからだ。


「ああ! 待ってください! べつにチクリじゃないですからね?」


「わかっています。ただ普段の様子が知りたいだけです。情報源を秘匿するのは警察なら当然ですよ?」


 アストロは自信満々に答える。その様子で守ってもらえると思った女性警察官は話し始める。


「あの交通課の人、なんか高いバッグとか色々持ってて不思議なんですよね……。あとあの人は……」


 色々と情報が出てきた。アストロはしっかりと全てメモする。


「ありがとうございます。助かりました」


「いえいえー。でもアストロさんは凄いですよね! 美人ですし、騎士ですし! いいなー。憧れるなー。モテモテだろうなー」


「いえ、そんなことは……」


「またまたー。それだけ綺麗なら一目惚れとかされるのでは?」


 女性は笑顔でアストロを褒めて、質問する。しかしその言葉を聞いてアストロは難しい顔をする。


「一目惚れ……ですか」


「はい! ってなんです? 難しい顔して」


 女性は驚いた顔をする。まさかここで難しい顔をされるとは思っていなかったのだろう。


「その、見た目でなく匂いで惚れられたことがあるんです」


「え? 変態の話ですか?」


「変態かどうかはまだわかりません」


 アストロの中ではビンタしてほしいと言う男は変態ではなかった。兄がそのタイプだったので不思議に思っていない。理解はできていないが。


「でも、匂いで惚れたって変態じゃないですか?」


「そうですか? 恋人の匂いが好きというのはたまに聞く話ですが?」


「それはそうですけど、匂いで惚れるなんて言う人いませんよ」


「では、やはり変態?」


「たぶんそうですね」


「そうだったんですか」


 この会話のせいでアストロの中でハロウが変態と決まってしまった。


「しかしそんな人もいるんですねー。アストロさんくらい魅力的だといい男もいっぱい寄ってくるでしょうけど、そんな変なのも呼び寄せちゃうんですね」


「……う、う~ん」


 アストロは口説かれた過去を思い出して返答に困る。


「どうしたんですか?」


「変なのしか寄ってきたことない気がする」


 そうアストロが言ったとき、隣からハロウの声が聞こえてきた。


「買ってきたよ」


「っ!」


「ぎゃー!」


 驚いて刀に手をかけたアストロだが、ハロウの姿を見て力を抜く。


「気配を消して忍び寄らないでください! 危うく切るところでしたよ?」


「ご、ごめん。癖で。それより夜食とか買ってきたよ」


 ハロウが暢気な顔をしながらおでんの鍋などを差し出す。


「あ、ありがとうございます。……大量に買ってきましたね」


 アストロはハロウの持ってきた量が予想より多く驚く。


「ああ。どれくらいの量が要るのかよくわかんなかったから。それより、これ、焼き芋ね」


「ありがとうございます」


「あと、おでん買ってきた。それとコンビニで色々。よかったらどうぞ」


 ハロウは買ってきたものを説明しながら、袋を広げて見やすくする。


「いただきます」


「飲み物も買ってきたけど、要る? 水出せるんだよね?」


「はい。出せますが、せっかくなのでコーヒーをください」


「どうぞどうぞ。ところで、アストロが出せる水って硬水なの? 軟水なの?」


 そうハロウに問われてアストロは考える。そのようなことを問われたのは初めてだった。


「……それは把握していません。ただ、普通に飲み水として使える水です。味も美味いとしか言われたことありません」


「そうなんだ。あの、できたらでいいんで、飲ませてもらえないかな?」


申し訳なさそうな顔でハロウが聞いてくる。


「もちろんいいですよ? そんなに畏まらなくとも、言えばいくらでもあげますよ?」


 アストロは紙コップを出し、その中に水を入れて渡す。彼女にとっては大した手間ではない。


「ありがとう! んぐっ。んぐっ。ぷはーっ! うまし! おかわりお願いします」


 ハロウは美味しそうに飲んでおかわりを要求してくる。


 またコップに水を満たしてやるアストロ。


「ありがとう。じゃあ、俺、腐れナルシストに届け物あるから」


 そう言ってハロウはいい笑顔で去っていく。


 それを見送って今まで黙っていた女性警察官がアストロに話しかける。


「あ、あの狼顔の人は誰ですか? 騎士の方?」


 アストロと気安く話し、ガカクを腐れナルシストと呼ぶのを聞いたので、そう思ったのであろう。普通は騎士をそんな呼称はしない。


「いいえ、違います。その……あれが匂いで惚れてきた人です」


 アストロは残念そうな顔で答える。それを聞いて質問した女性は憐みの表情を浮かべる。


「……苦労、なされてるんですね?」


「いえ、あの人は普通に言うことを聞いてくれるので、全然苦労してませんね」


 気配を消して無音で近づいてくる者が苦労に入らないと言うアストロ。それに引く女性警察官。


「大変に苦労なされてるんですね」


「…………」


 アストロはなにを言えばいいのかわからなかった。







「ほらよ腐れナルシスト。ビタミンゼリーとスパークリングウォーターだ。あとおでんとか焼き芋とかあるから食いたきゃ取りに行け」


 ハロウはガカクにコンビニで買ってきた物を渡す。


「ご苦労、不遇顔面。使いっぱしりくらいはできるようだね」


 そう言ってガカクはスパークリングウォーターを飲む。


「……うまいか?」


「なんだい? ……まさかなにか入れたんじゃあ?」


 ガカクが訝しみながら飲み物を見る。


「そんなことするかよ。第一しっかりキャップついてただろう? 炭酸飲めないから疑問だっただけだ」


「なんだ炭酸も飲めないのか? これだから不遇顔面は」


「いや顔面と炭酸飲めるかは関係ないだろう」


「まあいい。親切な僕は教えてあげよう。……美味しいとも」


 なぜか前髪をかき上げながら答えるガカク。


「なんか引っ張ったわりに普通の感想だな」


 ハロウとしてはもっと面白い感想を期待していた。


「なんだと!? じゃあフグガン君は一体どんな感想が言えるのかな!? さぞや凄い感想なのだろうね!?」


「不遇顔面を略すなよ。わかりにくいだろう。俺の感想? この手に持ってるのの?」


――かかった!


 そう思いながらハロウは自分が持ってきた紙コップを掲げて尋ねる。


「そうだよ! その……なんだい? それ」


「炭酸じゃない水」


――ただしアストロが出してくれたものだけどな!


 ハロウは優越感を顔に出さないように必死にこらえる。


「その感想を聞かせてもらおうか!?」


「いいぞ。んぐっ。んぐっ。美味い。このためなら命賭けられるわ」


 真実である。


「砂漠で放浪でもしてたのかい!? ふっ。しかし水ごときに命賭けられるとか馬鹿みたいな感想だね」


 ハロウが真剣な表情で感想を言うと、ガカクは小馬鹿にしたように鼻で笑った。しかし次の瞬間ハロウの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。


「ってことはクサナルはこの水に命賭けないと?」


「当たり前だろう。あと腐れナルシストをクサナルって略すな。……いやそもそも腐れナルシストとか呼ぶな!」


「くくく、ふふふ、はーっはっは!」


 ハロウは歓喜する。あとは水の真実をガカクにばらすだけだ。


「笑い方が……醜い」


 三段笑いをしたハロウにガカクが引く。


「この水の正体を教えてやろう。……アストロが! 俺のために! 出してくれた水だ!」


「……え?」


 ガカクは愕然とする。自分の発言の内容の意味を知って、自身がアストロのことをけなしたも同然のことを言ったと理解したのだろう。


「ひゃーっはっは! お前にはスパークリングウォーターがお似合いだよ! ああ! 水が美味い!」


「ぐっぬっぬ……」


 ガカクは明らかにアストロの水を飲んでいるハロウを羨んでいた。しかしさきほどの発言的に今からくれなどと言えないだろう。殺意のこもった目でハロウを見ている。


 異常なテンションでガカクを挑発しながら、ハロウは水を飲む。ガカクの屈辱に耐える顔を見ながら飲むアストロ製の水はまさに甘露であった。また、ガカクからの殺気を感じているので、そのだらしない表情とは裏腹にしっかりと警戒していた。







 一触即発のハロウとガカクは放っておかれ、アストロたちが差し入れのおでんを食べてもいいと言ったので、部屋にいるように命じられていた警官達はおでんをとり食べ始める。


 皆おでんを食べて和んでいる中、一人だけ和めていない者がいた。


――なぜこのおでんが? 似ているだけか? いや間違いない。あの店の物だ。もしかしてばれているのか?


 その者はおでんを食べて焦っていた。なぜなら彼がよく行くおでん屋の味だったからだ。もちろんそれだけなら彼が焦ることはない。しかし彼がここを利用するときは犯罪者と密会するときだった。密会では警察の情報などを売っていた。


――いや、ばれているならこんなことする必要はない。しかしなぜここのおでんをわざわざ?


 このおでん屋はここから近いわけではないし、おでんならコンビニなどでも買えるのでなにかこのおでんを出した理由があるはずだと彼は思った。


実際はこのおでんを買いに行ったハロウがおでん屋をあまり知らず、運ぶのに苦労しない能力を持っていたからだ。


 だれも彼のことを注目していない。完全に彼の取り越し苦労であった。


 しかしここにはにおいに異常に敏感なハロウがいる。彼はしっかりと焦っている者がいることを認識していた。ハロウは焦っている者の肩に手を置き質問する。


「どうしたんだ? やけにそわそわしてるな?」


「え? いや」


――まずい!


 犯罪者と密会していた男は焦りが強くなる。


それを感じ取ったのだろうハロウは、密会男にさらに質問する。


「このおでん屋。俺が昼間に捕まえた泥棒が食べていたところのなんだ。泥棒に聞いたんだけど、この店の店主、口が堅いから密会に利用されてるらしいね?」


 密会男は自分がこの狼顔に疑われていることを悟る。


――大丈夫だ。あの店主からもれるなんてないだろう。


密会男は自分がボロを出さなければいいと思い、全力でとぼけることにした。


しかしその思いはハロウには筒抜けだった。


「そうなんですか? どうしてそんなところのおでんを?」


 自分のことが知られたくないとき、相手に質問して話題をそらすのは常套手段だ。


「美味しかったから。客一人減らしちゃったから。そして――」


 ハロウが密会男の顔を見ながら言う。


「もう一人減るみたいだから」


「……っ!」


――ばれている!


 密会男は自分がよからぬことをしていることが狼顔に確信されていると気づく。


「アストロ。この男、なんかやってるよ?」


「ほう?」


 ハロウに言われてアストロがやってくる。そして密会男に質問する。


「……なにをやりましたか?」


「なにもやってませんよ」


「あ、嘘ついた」


 ハロウが嘘を見抜く。


「署長のやった件と関係することですか?」


「……いいえ」


 密会男は答えたくなかったが、答えなければその時点で認めるようなものだ。


「これは本当」


 密会男は本当に嘘を見抜かれていることがわかり泣きたくなる。


「……この者を連れていきなさい。あとで調べます」


「そんな……」


 密会男は連れて行かれた。




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