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14 したくないですか?


 スマホの画面に映るのは俺のベッドに寝ている間宮の全体像。

 まずは、その姿を切り取るようにシャッターを押した。


 どことなく(うれ)いを帯びている表情。

 カメラ目線ながら伏せがちになった目元。

 ほんのりと赤く染まっている頬の色合いと相まって、雰囲気が妙に色っぽい。


 紛れもなく俺のベッドを占有しているのは間宮ユウという清楚可憐な隣の席の女の子で――やっぱり、いけないことをしているような気になってしまう。

 俺が間宮という清廉(せいれん)な花を汚しているかのような、そういう背徳感。


「……適当にポーズ変えてくれ」

「わかりました」


 俺の指示とも呼べない要求に間宮は頷いて、もぞりと寝たまま体勢を変えていく。

 寝返りを打ち、横向きになって枕を腕の中に抱いて、脚も畳んで丸くなる。


 枕に間宮の胸が押し上げられ、その存在が強調されていた。


 肌が見えるとかそういうわけではないものの、やはり、男としてはそれに目が向いてしまうのは避けられなくて。

 一瞬だけ目線を奪われるもの、じろじろ見るのは失礼だなと思って逸らすが、間宮は視線に気づいているのか目を細めて笑みを浮かべる。


「藍坂くんのそういうところ、とてもいいと思います」

「……そういうのじゃない」

「では、私に魅力がありませんか?」

「わかってて聞いてるだろ」

「藍坂くんの口から聞きたいんです」


 (とろ)けた間宮の瞳。

 そこに溢れるのは、優等生の姿では見せることのない感情で。


 だからこそ、ちゃんと答えなければならないと、そう思った。


「……間宮は可愛いよ。でも、まだ、その気持ちに応えられないから」

「それならいいじゃないですか。私は藍坂くんが好きで、全部全部、私を余すことなく見て欲しいんです。それを藍坂くんが気に病む必要はありません」

「…………なんか、間宮は将来ダメ男を引っかけそうだな」

「そうならないように一番近くに藍坂くんがいてくれたら嬉しいのですが」


 プロポーズのように聞こえなくもない言葉。

 同時に間宮は俺の方へ手を伸ばし、長袖の裾を指先でつまんでみせた。


 甘えるような仕草。

 手を振り解くのは簡単だったけど、実害はないのだからと甘んじて受け入れる。


 まだ間宮の気持ちには応えられないから、せめて近くにいて欲しいと求められるならその通りにしたいという思いもあった。

 俺の気持ちも間宮のことが好きな方へと天秤が傾いている自覚はある。


 中途半端な気持ちすら受け入れてくれる間宮に俺ができることはこれくらい。


 そう。


 これくらいなのだ。


 カメラの倍率を上げて、顔をメインに映し出す。

 安心しきった、無防備とも言える緩んだ表情を撮る。


「せめてこう……警戒くらいしてくれ」

「藍坂くんの何を警戒すればいいのでしょうか?」


 何一つ疑問にすら思っていないらしい間宮が小首を傾げつつ口にして、俺は頭を抱えてしまう。


 休日、二人だけの家で、自分の部屋のベッドに自分を好きだと言ってくれる可愛い異性が無防備なまま寝ている。

 これで俺が何も感じないと思われているのなら、それは大間違いだ。


 でも、何があっても手を出すことはないと断言できる。


 俺は間宮の恋人ではなくて、ただの友人。

 間宮から好意を寄せられていて、その想いに応えたくても、今の関係はそうなのだ。


 無責任なことは出来ないし、したくない。


「……わかってるよ。俺が何もしなければいいだけだからな。体勢変えてくれないか? 起き上がって適当にポーズを取ってくれ」


 そう言えば「わかりました」と返事があって、間宮が身体をゆっくりと起こした。

 枕を胸に抱いたまま脚をぺたんと畳んでベッドに座る間宮の姿をカメラに収めて、写真を撮る。


「どんな感じですか?」

「確認してみるか」


 間宮にスマホを返すと、撮った写真を次々と流し見て――


「刺激が足りませんね。健全過ぎます」

「……ほんとにいつもみたいなやつを撮るのか?」

「ええ。そうでなきゃ、勿体ないじゃないですか。遠慮しなくていいんですよ? 清楚可憐な優等生のあられもない姿を撮っていいのは……藍坂くんだけです」


 誘惑するように(ささや)いて、間宮は俺にスマホを返した。

 その拍子に手が触れ合う。


 じんわりと温かな手の熱が、理性の壁を溶かすように伝わって。


 離れた間宮の右手が向かった先はロングスカートの裾。

 迷いなく裾を摘まんで上へ上へと引き上げるとミニスカートくらいの丈になってしまい、遂には太ももの肌色が目に飛び込んできた。


「生で見たのは初めてですよね。どうですか?」

「…………綺麗、だと思う」

「好きに触ってもいいんですよ」


 ……いや、それは無理です。


 素の間宮相手ならいざ知らず、同一人物だとわかっていても抵抗感がある。

 しかも、触るのなら俺の手とそことでは何も(へだ)てるものがないわけで。


「踏ん切りがつかないのなら、私からしてもいいですか?」

「………………好きにしてくれ」


 間宮から求められれば断れるはずもなく、俺の右手に間宮の左手が重なった。

 そのまま、右手が白い大地へと誘われる。


 初めに触れたのは指先。

 しっとりとして滑やかな肌触りなのに、指を押し返す弾力のある感覚。

 それでいて奥には心が温まるような熱量が秘められていて――遂に、ぺたりと手のひらもついてしまう。


 タイツ越しとは違う、生の感触。


「藍坂くんの触り方……ちょっとエッチです」

「……別に、そんなつもりはないからな」

「わかっていますし、私も気にしていません。だから――」


 間宮は少しだけ脚を開く。

 影になった部分からちらりと見えるのは、フリルのついた白の下着。


 明らかにわざと見せているそれは、誘蛾灯(ゆうがとう)のように視線を吸い寄せて。


「もっと悪いこと、したくないですか?」


 天使とも悪魔とも判別できない、(とろ)けた笑みを浮かべながら囁いた。


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