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5 友達だ

色々と落ち着いたので、しばらくは土日20時過ぎの週2更新にします。もしかしたら突然予告なしに時間等変わるかもしれませんが、ご了承ください。


「ふう……ただいま我が家。今日も疲れたわね……ああ、ユウちゃんも楽にして頂戴ね」

「ではお言葉に甘えて。お邪魔します」


 背を逸らして伸びをするアカ姉に促されて、間宮が藍坂家の玄関へ足を踏みいれた。

 その後ろで眉間にしわを寄せつつ、どうしたものかと思考を巡らせる。


 マンションのエントランスでアカ姉と遭遇してしまい、女性不信の俺と一緒にいる間宮という存在に興味を持ったのか「よかったら夕ご飯一緒にどう?」と誘ったのだ。

 てっきり間宮は断るだろうと思っていたが、予想に反して受け入れ、こうして俺の家に間宮がいる――なんて理解に苦しむ状況が生まれている。


 間宮が家に来るのは遅かれ早かれだったけれど、そこにアカ姉がいるのは話が違う。


「アキ? どうしたの?」

「……なんでもない」


 考え込んでいた俺にアカ姉が聞いてくるも、それに不愛想な返事をすると何を思ったのかニヤニヤとした笑みを浮かべながら口を耳元に寄せてきて、


「秘密の彼女ちゃんがバレたから気まずいんだ」

「違う」


 全く外れた憶測にはしっかりと反論し、靴を脱いでリビングへ。


 間宮は俺の彼女なんかじゃない。

 あくまで友達で、秘密を握られ共有するだけの、ちょっとばかり不純な関係。


「てか、夕飯作るの俺なんだけど」

「細かいことは気にしないの。あの子に手料理を振舞う機会が得られたと思えば……ね?」


 ね? じゃないよ。

 そもそも俺の手料理に間宮が喜ぶのだろうか。


 多分、間宮の方が料理の腕は上だろうし。

 食べたことはないけど。


「えっと……よろしければ、私も手伝いましょうか?」


 おずおずと会話を聞いていた間宮が控えめに手を上げつつ言った。


「いいのいいの。それより、私とお話しよ? 学校のアキのこととか聞きたいから。うちの弟、素直じゃないからあんまり話したがらなくて」

「素直じゃないは余計だ」

「ほらね? そういうことだからさ。それに、折角のお客さんを動かすわけにもいかないし」


 俺も頷けば、逡巡しつつも間宮が「では、お言葉に甘えて」と申し訳なさそうな笑みを浮かべつつ答えた。


 それにしても、学校であんなことを言っていたにもかかわらず、間宮には緊張の色が窺えないのはなぜだろう。

 多分普段のように優等生の仮面で覆い隠しているだけなんだろうと思うけど……気にならないわけがない。


 アカ姉がいる手前、本人からこの場で聞きだそうとは思わないけれど。


 家に入った順に手を洗って、俺は部屋着に着替えてキッチンに立つ。

 間宮は俺の方に軽くお辞儀をして、先にソファに座って片手にビール缶を携えたアカ姉の誘導に従って隣に座る。

 面倒な相手を任せてしまうことに罪悪感がないでもないが、間宮なら大丈夫だろうと信じて送り出す。


「……まあ、仮に間宮が手伝うって言いだして隣にいられると落ち着かないし。二人分も三人分もあんまり変わらないし」


 第一、そんなことをしていたらアカ姉に揶揄われるのが目に見えている。


 冷蔵庫に買い溜めしてある材料を確認し、米を研ぎながら今日の献立を考える。

 あの中身なら……生姜焼きとか丁度よさそうかな。

 千切りキャベツと味噌汁もあればバランス的にも問題ないだろうし。


 炊飯器のスイッチを入れてから、


「今日は生姜焼きにしようと思ってるけどいいか?」

「――それでそれで、うちのアキとはどういう関係なのかな?」


 キッチンから顔を出して聞いてみれば、アルコールも入って饒舌になりつつあるアカ姉に質問攻めされている間宮の姿が目に入った。

 こういう相手と接することがないのか、どことなくたじろぎつつも間宮は「友達ですよ」と笑顔のまま返している。


 そこに思うことがないでもなかったけど、その気恥ずかしさを胸の内の押し込んで、


「あんまり間宮を困らせないでくれ、アカ姉。間宮も嫌なら答えなくていいからな」


 遠巻きから声を掛ければ、気づいた二人がほぼ同時にこっちを見た。


「お気遣いありがとうございます、藍坂くん。ですが、私はお姉さんからお話を聞けてとても楽しいですよ?」

「そゆこと。線引きはちゃんとしてるから心配しなくてもいいわよ。それとも……自分だけの可愛い彼女ちゃんを取られないか心配なの?」

「違う。あと彼女じゃない。友達だ」

「一緒に帰ってくるほど仲のいい?」

「……友達だ」


 語気を強めて言えば「そういうことにしておくわね」とまるで納得していなさそうな言葉が聞こえるも、反論すれば揚げ足を取られる可能性を危惧して口を噤む。


 間宮も生姜焼きでいいとのことで、キッチンに戻って早速調理に取り掛かる。


 醤油をベースにチューブのショウガや砂糖、調理酒、みりんなどで味を調えて、それをパックから出したバラ肉にもみ込んでいく。

 普通はロースを使うのだろうけど、バラ肉でも問題ない。

 薄くて味が染みやすい分、短時間で作りやすいと思う。


 味がしみ込むのを待つ間に味噌汁の用意を進める。

 鍋でお湯を沸かしつつ、具材となる豆腐、油揚げ、タマネギなんかを食べやすい大きさにカットして投入。

 そのあたりで肉の準備もいいだろうと思い、熱して油をしいたフライパンで先に残しておいたタマネギを焼きはじめた。


 完全にしんなりする前にバラ肉も一緒に焼き始め、食欲をそそる匂いがキッチンに充満していく。


「おっ、焼いてる焼いてる。もうちょいかかりそう?」

「もうちょいだね。ビールのお代わりでも取りに来たの?」

「ま、そゆことね。ユウちゃんのお話を聞いてたらお酒が進んで進んで」

「……ほどほどにしてくれよ。絡み酒をされる間宮が困るから」

「わかってるわよ」


 本当にわかってるのかと疑わしいも、追求する前にアカ姉は冷蔵庫からビール缶を探し当ててリビングに帰った。


 余計なことを言わないでくれよと心の中で祈りつつ、生姜焼きに添えるためのキャベツを千切りにしていく。

 シャキシャキ感を保つために切ったものを水を張ったボウルにつけておきながら、フライパンで焼く肉を焦がさないように気を付ける。


 頃合いになったところで火を止め、水を切ったキャベツと共に皿に盛り付けて完成。


「できたぞ」


 皿をリビングに運んでいけば、二人が揃ってこっちを見た。

 そして、アカ姉の話し相手をしてくれていた間宮がソファから立ち上がる。


「私も運ぶのを手伝わせてください」

「助かる」

「まったく、お客さんを動かそうと言うのかね君は」

「じゃあアカ姉が動いてくれ」

「だってあたし仕事で疲れてるしぃ~?」


 俺と間宮も学校で疲れてるんだよ。

 まあ、アカ姉を動かそうとは思えないので間宮と一緒にキッチンへ戻り、盛り付けを済ませた皿を次々とテーブルに並べた。

 それから三人でテーブルを囲み、


「「「いただきます」」」


 油断ならない夕食の時間が幕を開けた。


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