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19 それだけですか?


「ねえねえ、今度の週末お出かけしない?」


 放課後の教室で恒例となった写真撮影をしながら、思い出したように間宮が言った。


 ブラウスを肩まではだけさせ、薄桃色の紐が見えていることから意識を遠ざけつつ、俺は間宮のスマホでシャッターを切る。

 肩の健康的な白さと脱ぎ掛けという妙にエロチックな雰囲気を演出するのは良いが、この時期にそれは寒いんじゃないかという思いの方が先行してしまう。


 それにしてもお出かけ、ねえ。


「断るって言ったら?」

「バラす」

「知ってた」


 結局のところ、俺に選択権など存在しないわけで。


「でもそれ大丈夫か? 他の奴に見られたらどうするんだよ」

「うーん……遠くに行くのは面倒だもんね。私だって藍坂くんと休日も一緒にいるのを見られたいわけじゃないし。あ、嫌とかじゃなく、迷惑かけるのが嫌ってだけで」

「フォロー下手か」

「本当なんだけどなあ。なら、変装でもする? 眼鏡と帽子でも被っておけば、それなりにわからなさそうだけど」


 なんかおかしな方向に話が進み始めたな。


 変装がどれほどの効力を及ぼすのかわからない以上、やっぱり二人で外出するのをそもそもやめるべきだと思うのだが。


「てか、なんで俺なんだよ」

「だって私、休日に誘えるような友達いないし」

「じゃあ俺は逆説的に友達ではないと」

「不満?」

「いや、全然。脅されている身だからな」

「悪いようにはしてないでしょ? そろそろ冬物のコートとか見に行きたかったから。男の子の意見も聞きたいし」


 そうはいうものの、本質的には荷物持ちをしろってことだよな。


 しかも服の買い物か……長くなりそうだ。

 姉がいるせいで、女性の買い物が長く険しいことだけは身に染みている。


 他の男子なら大歓迎なシチュエーションなのかもしれないけれど、俺としては是非とも遠慮したい。


 ()くして、俺の週末は間宮の荷物持ちをすることになったわけだ。



 ■



 土曜日、午前十時前。


 澄み切った秋晴れの空。

 余裕を持った日程で待ち合わせをしていた駅前に来てみれば、休みということもあってか人の数は目に見えて多かった。


 スーツ姿で仕事中と思しき人と、これからどこかへ出かけるであろう楽し気な雰囲気を漂わせる人。

 対比的な光景に悩ましいものを感じながら、念のためガラス窓の反射で自分の格好を確認する。


 上は白のVネックシャツの上からカーキ色のジャケットを羽織り、下はシンプルな黒のパンツスタイル。

 アクセサリーの類いはなしだ。

 別に自分を見せようとする意志はないのでこれでいい。


 ただ、出かける気配を察知したアカ姉に捕まり、髪をセットされてしまった。

 自分では使う機会がまずないワックスでアカ姉曰く『これでモテモテだね!』という要らないお墨付きまで貰った髪は、やっぱり似合っていないと思う。

 仮にも間宮が隣にいるわけだから、嫌悪感を持たれない程度に整えるのは良いとしても、これはやりすぎだ。


 間宮と顔を合わせたらニヤニヤ顔で煽られそうだ……今から胃が痛い。

 実は楽しみにしてたんじゃないか――そんな勘繰りをされるのが一番嫌だ。


「間宮は……まだ来てないか」


 遅れるのは良くないなと思って数分早く来たからか、まだ間宮の姿は見えない。

 間宮は良くも悪くも目立つから見落としてはいないはず……まあ、時間になって合流できなかったら連絡すればいいし。


 それまでは精神安定に努めよう。


 正直、本当に気が重い。


 全部あの日の放課後が原因だ。

 タイムスリップができたら俺は全力で俺を止める。


 とてもじゃないけど、優等生で客観的な判断として可愛い部類に入る間宮と秘密を共有して関係を持てることに対して、俺が抱えるリスクが大きすぎる。


「……誰とも会わないことを祈るばかりだな」


 心の底からいるかもわからない神様に祈りつつ、待ち合わせまでの数分間をスマホと睨めっこしながら過ごし――周囲の人がざわついているのを感じた。

 顔を上げてぐるりと見渡せば、駅にいる人の視線を一身に集める人物がいる。


 艶のある長髪を秋の冷たい風に(なび)かせ、背の低いヒールの足音を鳴らして歩くのは俺の見慣れた顔――間宮だった。

 ただし、その装いは見慣れない私服。


 グレーのゆったりとしたシルエットのニットセーターに、スタイルの良さを際立たせる脚のラインに沿った白のスキニーを合わせたカジュアルなものだ。

 制服姿しか見たことがなかったものの、ファッションに疎い俺でも似合っているなと素直に思えるセンスの良さだった。


 胸の前には銀色の小さな雫型のネックレスが揺れていて、落ち着いた服装のアクセントになっている。

 肌の露出は少なめの、いかにも楚々(そそ)とした様相。


 間宮は俺を見つけたのか、緩やかな微笑みを浮かべながら近づいてきて、


「おはようございます、藍坂くん。待たせてしまいましたか?」


 あくまで丁寧な口調のまま、そう挨拶をしてきた。


 注目を集めていた間宮の相手が誰なのかと期待していた周囲の人から視線が一気に集まって、大変居心地が悪い。

 俺だって本意ではない外出なのに、どうして針の筵みたいな思いをしなければならないのか。


 全部間宮が悪いのだが、そう言っても仕方ないので諦めと共にため息をついて、平然とした表情を作る。


「おはよう、間宮。遅れたら悪いから数分早めに来てたんだ」

「……そこは「今来たとこ」と答えるべきでは」

「大して待ってないんだから似たようなものだろ」


 別にこれは男女の関係……いわゆるデートなどではなく、俺は単に間宮から荷物持ちを押し付けられただけに過ぎない。

 外から見た関係性はともかく、そのスタンスを崩す必要性が感じられなかった。


 なにやら間宮は渋い顔をしていたものの、こほんと一つ咳払いをして、


「それで、これから二人でお出かけをするわけですが」

「ですが?」

「今日の私に何か言うことはありませんか?」


 含みを込めた笑みを向けながら、間宮は問いを投げた。


 今日の間宮に言うこと……?


 間宮が求めそうなことと言えば……あれか? 服装でも褒めたらいいのか?

 多分そうな気がする。


 アカ姉も「女の子の服装は褒めること!」とか言ってたし、一般論的には合っていそうだ。

 俺から言われても何一つ嬉しくないと思うけど。


 間違ってたら謝ればいいか。


「私服、似合ってるぞ」


 思っていたことをそのまま言えば、間宮は笑顔のまま固まってしまう。

 やや時間をおいて、


「…………それだけですか?」


 どこかぎこちなくなった笑顔のまま返事をした。


「それだけって、他にどう言えと?」

「もっとこう、詳細に褒めようと思わなかったんですか」

「恋人でもない男にそんな褒め方されても気持ち悪いだけだろ」

「……あー、はい。そうですよね。藍坂くんはそういう人でしたね」

「なんで呆れたような目を向けられているのでしょうか」

「自分で考えてください」


 くるりと身を(ひるがえ)して、間宮は背を向けて駅の構内へ歩き出す。

 不機嫌にさせてしまった原因が本気でわからないまま俺も間宮を追って隣を歩いている途中。


「それはそうと――今日はかっこいいね、藍坂くん?」


 ふふ、と屈託のない笑みを零しながら間宮が(ささや)いて。


 俺は一瞬何を言われたのかわからないまま立ち止まってしまい、思考の再起動を経てから慌てて先を行っていた間宮を追いかけた。

新年あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!


ということで、本作とは関係ありませんが一つご報告があります。


第六回カクヨムコンテストの現代ファンタジー部門で【特別賞】を受賞しました『モブ陰キャの俺、実は『暁鴉』と呼ばれし異能世界最強の重力使い 〜平穏な日々を守るため、素性を隠して暗躍します〜』の書籍化が決定しました!!


詳しい情報は随時公開予定ですが、先んじて書籍化の報告をさせていただきました!


なろうかカクヨム内でウェブ版を読むことができるので、興味がある方はぜひ読んでみて下さい!

なろうは下にリンクがあるのでそこからどうぞ!

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