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はじまり

よろしくお願い致します。

主人公には、頑張って周りの人を曇らせてもらいたいです。

 最低限の衣・住とドリンクバー、それと美味しい食事にスマートフォンとネット環境、そしてそれらを楽しむ時間さえあれば良い。


 金も女性も、もちろん名誉や権力なんて無くたって、お腹いっぱいでネットに垂れ流される娯楽さえあれば十分だ。


 いよいよ就活が始まると言う時に、自分自身について省みたときに、何を自分が求めているのかを考えてみた結果、そう言う答えが出た。


 何て向上心の無く、退屈で、つまらない夢だろうか。


 意外性は無く、にじみ出る己の怠惰で傲慢な己が欲望は、多くのものに嫌悪されてしまうのではないだろうか。



 いま目の前にいる、この自称女神様以外は……



 「ええっと、つまり私はこれから異世界に向かって」


 『はい』


 「勇者として活動する」


 『はい』


 「だけどそれは見せかけで、」


 『はい』


 「あくまで私は勇者の影武者」


 『はい』


 「魔王の気を私が引き付けている間に、本物の勇者が奇襲を仕掛けて魔王を倒す。上手く成功したらちゃんとこの世界に戻してもらえて、失った時間は帰ってこないけど、最後までやり遂げられたら日給10万円換算でお金がもらえる……って言うことですか?」


 『はい』


 「それって、別に私じゃなくて異世界の人が影武者になれば良いんじゃないんですか?何でわざわざ私を……」


 『はぁ……』


 さっきから最低限しか言葉を発しない自称女神を名乗る女は、神様なのかどうかは置いておいて、少なくとも人間ではないのかもしれない。


 ふと、目を閉じて自称女神を思い浮かべると、自然と絶世の美女を感じる。

 だが、決して自称女神を上手く思い浮かべることが出来ないのだ。


 料理の名前と味は思い浮かべることが出来るが、細部や材料に何が使われていたかを思い出せないような感覚だ。


 その対象の自称女神が目の前にいると言うのに……


 目の前に居て、認識できている……認識できていると思っているが、いざ思い浮かべようとしてもそれが出来ない。


 言葉に出来ず、思い浮かべることが出来ず、なのに理解し、認識できていると思い込んでしまう……



 就活の面接対策にいくらか話し方を練習したから、一人称は"私"で統一しているが、それでも俺はちゃんとした男だ。


 名前は 上杉 太陽、見たまんま"たいよう"だ。


 遅生まれで、つい1ヶ月前の03月03日に21歳の誕生日を向かえた、今年の春から大学3回生だ。


 いちいち説明しなくてもわかると思うが、俺は本当に頭がおかしくなりそうだ。


 気がついたらよくわからない場所に居て、自称女神を名乗る誰かに『これから異世界に行ってください』、だからだ。


 これがまだ、『勇者として私の世界をお救いください』ならまだしもだな……


 『勇者の影武者として異世界に行ってください』……いや、どう言うこと?


 

 今まで機械的だと思ったが、それは違ったみたいだ。


 この自称女神を名乗る人物は、余計な手間を省いていただけで機械的に事を進めようと言うわけではなかったのだろう。


 その証拠に、途轍もなくめんどくさいと言う感情を少しも隠そうともせず、大きな溜め息をつきながら、どんな芸術品すらも色褪せて感じさせてしまうだろう顔に皺を寄せながら口を開く。


 『あなたにも分かりやすく説明しましょう。宇宙船の打ち上げの成功予測は100%です。何故なら0.01%でも失敗の確率があるなら打ち上げは行われないからです。獅子は小兎を狩る時にも全力を尽くします。つまり勇者の影武者はただの影武者ではなく、勇者である必要があるのです。影武者かどうか疑われてはならないのならば、影武者も本物であれば、疑うも何も無いわけです。影武者もまた本物なのですから。』


 

 文字じゃあ伝わりきらない、言葉の音に乗る嘲りの色が俺の頭の中を駆け回る。


 そんなこともわからないのか、と。

 赤子じゃああるまいに、ママにお手々を引っ張ってもらえないと歩けないの?、と。

 指示待ち人間は糞食らえ、ってか……


 21歳でまだ新3回生なところからわかるように、大学は1度浪人しているし、俺は決して順風満帆な人生なんて送れてこなかった。


 心を曲げられ

 思いを嗤われ

 志を貶められ

 誇りを汚され

 そうして生きてきた。


 


 あーダメだ。

 食らい感情が心を占めていく。


 目の前が真っ赤になりそうだ……

 

 落ちつけ……主観を持つから我を忘れてしまうんだ。


 体すら自分の物でないと思え。


 そうすれば、自然と心が離れていく……



 いつからそうするようになったのか、気づいたときには感情を制御する時のルーティーンが出来上がっていた。


 とは言え、いくら心を落ち着けられたからと言っても、こんな不快な思いをさせられてまで、お願いを聴いてやりたくはなかった。


 ゆえその言葉を自然と口に出す。


 「断ることは出来ますか?」


 『不可能です。時が来れば貴方は異世界に呼ばれます。下手に何かすることはせず、流れを身を任せてください。余計なことをしなければ問題はありませんが、万に1つで、死ぬよりも辛い目に合うかもしれません。』


 そこは神らしく、こちらに何かを選ぶ権利はなかった。


 慈愛も、友愛もへったくれもない。


 ペットならまだましだったかもしれない。

 家畜であっても大事に育てられ、死の瞬間は苦痛を感じぬように手間をかけて命を取る。


 例えるならばギャンブルのチップだろうか。


 チップはギャンブルをするのに必要不可欠だが、その一枚一枚に何かしらの思い入れなど持ち合わせない。


 チップには、拒否権はもちろん、チップの意思を確認したり優先したりはしない。


 そして、

 「ああ、これは話を〆にかかっているな」


 そう思わせられる内容が語られ始めた。


 最低限、伝えることだけ全部伝えて、やることはもうやったので後の事は知らぬ存ぜぬと。


 そう言いたいんだろうか……


 『貴方に話しても理解には時間がかかるので省きますが、貴方が異世界に行くことで、いわゆる超能力のようなものが身に付きます。』


 超能力のようなもの……


 変なところはしっかりテンプレなんだな。


 『では最後に、要石(かなめいし)は暗闇のなかで薄く、空色に光輝きます。では、その時までしばらく、こちらでの生活を送ってください。幸運を祈っています』

 

 「ちょっと、まっ……」



 そうして俺は再びペットボトルの散乱した部屋に戻ってきた。


 あまりの出来事があったにも関わらず、先程までは一瞬の間に見た夢のように、元通りに戻されていた。


 だが、あれは夢ではなかったと示すように、コーラを入れていたグラスの氷は全て溶けていて、結露した雫がテーブルに小さな水溜まりを作っていた。


 まだ十分冷たいが、気が抜けて氷で薄くなったコーラをストロー越しに喉に流し込む。


 喉は乾いておらず、しっかりと湿り気を持っていたはずなのに、グラスいっぱいに入っていたコーラを全部飲み干した俺は、フゥゥ、と大きく息を吐き出した。


 あまりにもぐうたらな、ある意味男らしい、乾いたままベットに投げ捨てられた洗濯物や、ペットボトルが100本以上も散乱している部屋を見渡して立ち上がる。


 まずはこの汚部屋をかたずけようか。





◇ ◇ ◇



 ーー4月1日の午後06時頃、大学生の上杉 太陽(うえすぎ たいよう)さん(21歳)が交通事故で心肺停止の状態で病院に搬送され、死亡が確認されました。警察の調べでは、まだ事故か自殺かは断定はできていないとのことです。ーー



 ーー昨日4月1日に上杉 太陽(うえすぎ たいよう)さん(21歳)が交通事故で亡くなられた事件で、3月の間に掛け持ちで働いていたバイトを全て退職していたことや、部屋の片付けを突然、頻繁に行っていたことがわかりました。部屋には、遺書のようなものは見つかりませんでしたが、警察の調べでは、自殺の可能性が高いとのことで、事故のあったトラック運送会社との話し合いで……ーー



 ーー『えっ、上杉くんですか?』

   『あー、そうですね……』

   『すごく良い人でした……よ?』

   『もちろん知ってますよ』

   『同じ学科だったので』

   『何度か教室で顔を会わせたことが』

   『えっ、いじめ……』

   『そんなことしてるわけないじゃないてすかっっ!!』

   『いっ、いい加減にしてください!』

   『名誉毀損で訴えますから!訴えます!』

   『今すぐに名刺、渡してください』

   『いいから早くっ!』



  



最後まで目を通してくださり、ありがとうございます。

エタらないように頑張りたいです。

週一更新と、10万文字を目指してがんばります。

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