7 盗み聞きをしていた訳ではない
「あ、あの、希里お姉様?
もしかして、僕とあの男の人のやりとりを、聞いていらっしゃったんですか?」
それに対して希里は、さも愉快そうにニンマリと笑ってこう返す。
「もちろん聞かせてもらったわ。
いえ、勝手に聞こえて来たという方が正しいわね。
私は別に、乙子達の話を盗み聞きする為にあそこに居たんじゃないもの。
私がいつものようにこの木の上で昼寝をしていた所にあなた達がやって来て、
木の上まで聞こえるような大きな声でやり取りをしていたのよ。
もし、私が盗み聞きをしたと思っているのなら、それは大きな間違いよ」
「そ、そんな事は思っていないのですが、
あの、この事はくれぐれも内緒にしてもらえませんか?
特にお姉ちゃんや静香さんには、知られたくないので・・・・・・」
紳士クンが両手を合わせながらそう言うと、
希里は両手を腰にあて、いたずらっぽい笑みを浮かべながら言った。
「言いやしないわよ。そもそも私は撫子さんに大層嫌われているし、
静香さんとは全くと言っていいほど話をした事がないし、
私が何を言おうとしたところで、とりあってはもらえないでしょうよ」
「そ、そんな事は、ないと思いますけど・・・・・・」
「それよりも、随分面白そうな・・・・・・
いえ、随分困った事になっているみたいね?」
「僕はとても困っているんですが、
希里お姉様はとても楽しそうですね・・・・・・」
「あら、そんな事はないわ。
私の数少ない友人である乙子が困っている事が、とても心配なの。
だから私も何か力になれないかと思って、こうしてあなたの前に馳せ参じたのよ?」
「馳せ参じるって・・・・・・
ともかく、希里お姉様の力をお借りするような事は何もありません。
何もしないで静かに見守っていただけるのが一番ありがたいです」
「そう、わかったわ。私は何もせずに、静かにあんたを見守る事にするわ」
希里はそう言ってあっさり納得し、ズイッと紳士クンに顔を寄せてこう尋ねる。




