3 寝ても覚めても撫子さん
「単刀直入に言おう。
俺は君のお姉さんである蓋垣撫子さんに、心を奪われてしまった。
こんな事は生まれて初めての事なんだ。
俺は今まで数多の女の子と浮き名を流してきたけれど、
どれも表面的で浅はかで、俺の心を本当に満たしてくれる相手は居なかった。
相手は俺の表面しか見ていなかったし、
俺も相手の目に見える部分しか見ていなかった。
だけどあの日、君のお姉さんに投げ飛ばされたあの時、
あの人の内に秘めた深い愛情が、俺の奥底で固く閉ざされていた心の扉を、
いとも簡単に開け放った。
そして彼女は俺の心の中に足を踏み入れ、俺の心を一杯に満たしてしまった。
それからというもの、俺の心の中には常にあの人が居て、
頭の中でも、あの人の事を想わずにはいられないんだ。
おまけに夜眠っている時でさえ、あの人は俺の夢の中に現れ、
あともう少しで手が届くという所で、
まるではかない霧のように消えていってしまうんだ。
寝ても覚めても彼女が俺の心をかき乱し、
惑わせ、正常な思考を奪っていく。
俺が今まで一人の女の子に、
こんなにも心を奪われた事があっただろうか?
いや、ない。正真正銘、生まれて初めての事だ。
俺は彼女に恋をしてしまった。
これが俺にとって、本当の意味での初恋なんだ。
そして恐らく、彼女以外の女の子を、
こんなにも深く想いこがれる事はありえないだろう。
今まで俺にとって一番大事な女の子は、双子の妹の静香だった。
が、静香には悪いけど、今では撫子さんが、
俺にとって最も大切で、愛しい存在なんだ。
だからこの初恋にして最後の恋を、何としても成就させたい。
そこでだ!君にぜひともお願いしたい!
俺と撫子さんの仲を、君が取り持ってくれないか⁉頼む!この通り!」
そして色雄は両足をそろえ、
ひざにつくのではないかというくらい頭を下げた。




