38 ふ~ん・・・・・・
尚の屋敷から帰る道すがら、紳士クンは静香にシミジミとした口調で言った。
「よかったですね、尚さんや真子さんと仲良しになれて」
それに対し、静香もシミジミとした口調でこう返す。
「はい。これも乙子さんのおかげです。本当に、ありがとうございます」
「そんな、僕はキッカケを作っただけで、
尚さん達と仲良しになれたのは、静香さんの人柄ですよ。
尚さんや真子さんは、本当に自分が好きになった人としか、
お友達にならない感じじゃないですか」
「そう、なんでしょうか。
私、尚さんや真子さんに、好きになってもらえたんでしょうか?」
「きっとそうだと思います」
「もしそうなら、嬉しいです・・・・・・」
そしてしばらく沈黙が続いた後、再び静香がポツリと口を開いた。
「ところで・・・・・・」
「はい?」
紳士クンが聞き返すと、静香は少しばかり、
言葉にトゲを含ませたような調子で言った。
「乙子さんは、あの、尚さんのように、
その、グラマーな女性が、えと、好み、なんですか?」
「えぇっ?な、何でいきなりそんな事を聞くんですか?」
「乙子さんはバスケットの試合をしている時、
尚さんと体がくっつくたびに、その、変な気持ちになって、
試合どころではなかったのでしょう?
真子さんと体がくっついても、そんな風にはならなかったのに」
「なぁっ⁉そ、そ、それは、違う!
・・・・・・事も、ないんですか・・・・・・
と、とにかく!
だからと言って、僕が尚さんみたいな女性が好みという訳ではありません!
断じて!」
「そうなんですか?」
「そうなんです!」
「ふ~ん・・・・・・」
そして静香はそれ以上何も言わず、紳士クンもそれ以上何も言う事はできなかった。
(な、何なんだろう、一体・・・・・・)
静香がどういうつもりでそういう事を言ったのか、
紳士クンには全く見当がつかなかった。
一方静香は静香で、どうして自分がそういう事を言ったのか、
イマイチよく分からなかった。
そんな二人を優しく見守るように、
赤い夕陽が、
西の空にぼんやりと浮かんでいた。




