26 四者四葉
ルールはできるだけシンプルにするため、
一ゴール一点で、スリーポイントは無し。
コートの半面を使い、攻撃側のチームが一点取るか、
守備側のチームがボールを奪ったら、攻守を交代してゲームを再開する。
その中で先に十点取った方が勝ちとなる。
尚は純粋に楽しそうにニコニコし、
真子は明らかに何かを悪だくみをしている様子でニヤニヤし、
紳士クンは無事に事が運びますようにという様子で苦笑いを浮かべ、
静香はとにかく自信なさげにおどおどと目を泳がせている。
四者四様、様々な思いと表情の中、試合の火蓋が切って落とされた。
尚と紳士クンがジャンケンをした結果、
最初の攻撃は紳士クンと静香のチーム(以下、チーム図書館と記す)となり、
守備は尚と真子のチーム(以下、チームお金持ちと記す)になった。
最初に紳士クンがボールを持ち、右手でドリブルをしながらゴールの輪っかを目指す。
チームメイトの静香はゴール前でパスをもらう為に動き回っているが、
真子がピッタリと張り付くようにマークして、パスコースを完全に消している。
そしてボールを持つ紳士クンの前には、
「ここは通しません事よ!」
と、やる気満々の尚が、両手を広げて立ちふさがった。
紳士クンはドリブルをしながら左右に揺さぶりをかけるが、
尚のスラッと長い手足にはばまれ、そこを突破する事ができない。
そんな中尚は紳士クンの隙を狙って、
「そこですわ!」と声を上げ、紳士クンのボールに手を伸ばす。
それを紳士クンは反射的にかわし、尚に背を向けて何とかボールをキープした。
しかし尚はあきらめる事なく、後ろから紳士クンにおおいかぶさるように、
手元のボールを狙って手を伸ばして来る。
(こ、これじゃあ静香さんにパスが出せないし、ドリブルでかわす事もできない!)
と、紳士クンが何とかボールを取られまいと苦心していた、その時だった。
ポヨン。
紳士クンの背中に、それはそれはやわらかく、ふくよかで幸福に満ちた感触が広がった。




