20 普段の尚とは全然違う
それはともかく、針須家の書庫も、
エシオニア学園の図書館程の広さには及ばないにしても、
部屋の中には所狭しと本棚が並び、
本棚の中には学園の図書館でも見た事のないような珍しい本が何冊もあった。
その中には外国の言葉で書かれた辞典や哲学書等もあり、
読書が好きな紳士クンでも、パラパラとページをめくっただけで、
それ以上読み進む事をあきらめてしまった。
そんな中静香は尚に案内され、そこで紹介される珍しい本に興味津津の様子で、
尚と言葉をかわし、時々クスクスと笑い声を上げた。
(よかった、静香さんと針須さん、すっかり打ち解けたみたいだ)
そんな二人の背中を、少し離れた場所から眺めながら、
紳士クンはホッと胸をなでおろした。
するとそんな紳士クンの隣にいつの間にか真子が歩み寄り、
同じく尚と静香の様子を眺めながらシミジミとつぶやいた。
「フン、あんなに楽しそうにはしゃぐお嬢様を見るのは、何年ぶりかしらね」
その意外な言葉に、紳士クンは目を丸くしながら真子に尋ねる。
「え?針須さんって、いつもあんな感じじゃないんですか?」
それに対し、真子はどこかさびしげな様子でこう返す。
「基本的にあの子は、自分から進んで友達を作ろうとするタイプじゃないのよ。
あの子の周りに集まって来るのは、あの子と友達になりたいからじゃなく、
この針須家の家柄に媚びて、何か恩恵を受けようって魂胆の人間ばかりだからね。
もしくは逆にそれを妬んで、ある事ない事言いふらして、
あの子を孤立させようとする人間だったり。
そんなのばっかりが昔から尚の周りを囲んでいたから、
あの子は自然と心を閉ざして、誰とも友達になろうとしなくなったのよ」
それを聞いた紳士クンは、以前静香が尚の事を、
『素直で大人しい』と言った事を思い出しながら言った。
「そ、そうだったんですか。
僕は、針須さんに対して元気で快活なイメージしかなかったので、
ちょっと意外です」
「フン、あの子は素直過ぎるくらい素直な性格だから、
その時感じた感情をそのまま表に出しちゃうのよ。
だから、あなたがそういうイメージのお嬢様しか見た事がないと言うのなら、
お嬢様はあなたに対して、そういう感情を抱いているって事なのよ。
それはあの、静香お姉様に対してもね」
『静香お姉様』と言った時、真子の眉間が不愉快そうにゆがんだ。
どうやら真子は、まだ静香に対してわだかまりの気持ちがあるようだ。
それを察した紳士クンは、話題を変えようと口を開いた。




