16 屋敷に居る時は、一応『お嬢様』と呼ぶルール
しかし紳士クンはそれでも何とか笑顔を取り繕いながら、尚に尋ねる。
「ところで、あの、どうして剛木さんは、メイドさんの格好でここに居るんですか?
剛木さんが言うには、
自分はここでメイドとしてお勤めしているという事なんですが・・・・・・」
それに対して尚は、傍らに立っていた真子を抱き寄せながら言った。
「そうなんですの。
真子の家系は代々我が針須家に、執事やメイドとして仕えてくれていて、
真子もそれを受け継いで、学校や部活がない時は、
こうしてこのお屋敷でメイドとして働いてくれているのです。
どうです?真子のメイド姿はなかなか板についているでしょう?
私としては、この何の色気もない足首まであるスカート丈を、
太ももが見えるくらいまで短くして、
レースやフリルをふんだんにあしらったメイド服を着て欲しいのですが、
真子がどうしても嫌だと言って着てくれないのです。
きっととっても可愛くて、真子に似合うのに」
すると真子は尚の手を振りほどきながら声を荒げる。
「そんなメイド喫茶のコスプレみたいな格好できる訳ないでしょ!
今の格好でも十分恥ずかしいのに!
おまけにそれを同じ学園に通う生徒に見られたなんて、
今すぐにでも落下した隕石にブチ当たって死にたい気分よ!」
「あ、あはは・・・・・・」
恥ずかしさと怒りで、
顔を溶鉱炉で溶かされた鉄のように真っ赤にしている真子を前に、
紳士クンは見てはいけないモノを見てしまった罪悪感と申し訳なさで、
ただただ複雑な笑みを浮かべる他なかった。
そんな紳士クンをビシッと指差して、真子は剣を突き刺すような口調で言った。
「分かってると思うけど、この事は他の人間には絶対に言わないでよね⁉」
「い、言いません、絶対に」
そう言って紳士クンが何度もうなずくと、
真子はその背後に隠れる静香にもギロリと目配せをした。
すると静香は「ひっ」と小さく声を上げ、
それ以上に小さく体を縮めながらコクリとうなずいた。
そんな中尚は、至って軽い口調で口を挟む。
「別に誰に知られても構わないじゃないの、
真子は針須家のメイドとして立派に勤めくれているのだから、
誰に恥じる事もないのよ?」
「そういう問題じゃないのよ!
これ以上何を言っても、お嬢様には分からないでしょうけどね!」
真子はそう言って両腕を組むと、プイッとソッポを向いてしまった。
(言葉づかいは学園の時とほとんど変わらないけど、
ここでは針須さんの事を『お嬢様』って呼ぶんだ)
紳士クンはそう思いながら、真子の中にあるメイド魂のようなものを感じ、
真子に少しばかり親しみを持ったのだった。
その真子を横眼で見やりながら尚は
「やれやれ、相変わらず真子は照れ屋さんなんだから」
と肩をすくめ、紳士クンの背後を覗きこむように声をかけた。




