12 門の前の二人
そんな中紳士クンが、門を見上げたまま隣の静香に声をかける。
「えと、針須さんの家って、ここで、よかったんですよね?」
それに対し、静香も門を見上げたまま声を返す。
「はい、確かに、ここ、みたいです」
それは門柱の表札に『針須』とハッキリ書かれている事からも明らかだった。
「な、何だか、凄く大きな家ですね。
針須さんの家がこんなにもお金持ちだったなんて思わなかったなぁ」
この凝り固まった空気を何とか和らげようと、
紳士クンはぎこちない笑みを浮かべながら静香に言った。
が、静香はリラックスするどころか、
元々色白な肌を悲愴なまでに青白くさせながら紳士クンに訴えた。
「ど、どどどどうしましょう?
私、針須さんがこんなに立派な家柄のお嬢様だなんて全然知りませんでした。
その針須さんに私はあんな失礼な態度(第二巻参照)をとってしまって、
どう申し開きをすればいいのでしょうか?私、やっぱり帰ります!」
そう言って静香が踵を返して駆け出そうとしたので、紳士クンは
「ま、待ってください!」
と叫び、静香の華奢な右腕を掴んだ。
それに対して静香は立ち止まったものの、それを振り払うように声を荒げる。
「離してください!やっぱり私はここへ来てはいけなかったんです!
私と針須さんはお友達になる以前に、住む世界が違い過ぎるんです!」
「そんな事ありませんよ!
針須さんは心の底から静香さんと仲良しになりたいから、
こうして招待してくれたんですよ?
住む世界が違うとか、そんな事はどうだっていいんです!」
「だ、だけど、私・・・・・・」
静香はそう言って力なく呟いたが、そんな静香に力を吹きこむように、紳士クンは言った。
「大丈夫です!僕がついていますから!」
その言葉を聞いた静香はようやく手を振りほどこうとする事をやめ、
紳士クンの方に向き直り、うやうやしくお辞儀をして言った。
「どうか、よろしくお願いします」
「は、はい、微力ですが、精一杯頑張ります」
そう言って紳士クンも静香にお辞儀を返す。
人の家の門前でお辞儀をし合う二人は、ハタから見ると何とも珍妙な光景だったが、
そんな二人に、門柱のインターホンからいきなり声が響いた。




