7 手作りクッキー
すると食卓の上に、辞書くらいの大きさの箱が置かれているのが目に入った。
それはチェック柄の紙で丁寧にラッピングをしてリボンが結んであり、
お店で買って来たように綺麗にまとめられているが、
どことなく手作り感の漂う温かさも感じられた。
それに目をやりながら紳士クンは静香に尋ねた。
「あの、これってもしかして、針須さんへのプレゼントですか?」
すると静香は一転して表情を曇らせ、ひどく不安げな様子で声を漏らした。
「はい・・・・・・実は今朝、早起きをしてクッキーを焼いたのですが、
上手にできたか不安で、やっぱり持って行くのはやめようか、迷っていたんです」
「そんな、せっかく針須さんの為に焼いたんだから、持って行けばいいじゃないですか。
きっと針須さんも喜びますよ?」
「ですが、もし針須さんのお口に合わなくて、
気を悪くさせてしまったらどうしようと思うと・・・・・・」
「いやぁ、そんな事はないと思いますけど・・・・・・」
と、紳士クンは答えたものの、何でも自分の気持ちを素直に表現してしまう尚なので、
もし静香のクッキーが口に合わなければ、悪気がなくとも、
それを言葉にして出してしまうかもしれないとは思ったので、
紳士クンはおずおずと静香に尋ねた。
「ちなみに、ご自分で味見はやってみたんですか?」
「はい、自分的には食べられる程度にはできたつもりなんですが、
それが針須さんのお口に合うのかどうかは、また別ですので・・・・・・」
「う~ん、それじゃあ、僕にも味見をさせてもらってもいいですか?
まだ残っているクッキーはありますか?」
「あ、はい。実はその為に、乙子さんにここに来てもらったんです」
静香はそう言うと、クッキーの入った箱の横に置かれたタッパを手に取り、
そのフタを開けた。
中には一部が欠けたクッキーや、
完全に割れてしまっているクッキーがいくつか入っていて、
そのタッパを紳士クンに差し出しながら言った。
「これ、焼き上がった時に割れたり欠けたりした物なんですが、
味は同じなので、ちょっと味見をしてもらえませんか?」
「ええ、喜んで」
紳士クンはニッコリほほ笑んでそう言うと、
タッパに手を伸ばしてその中のひとつを取ろうとした。
と、その時、それよりわずかに早く静香が欠けたクッキーを手に取り、
それを紳士クンの口元に持って来て言った。
「はい、どうぞ」




