3 現れたバカ兄貴
それはともかく、軽めの朝食を取った紳士クンは、そそくさと家を出た。
向かう先は尚の家ではなく、静香の家である。
夕べ静香から紳士クンの携帯に、
『明日の朝、まず私の家に寄ってもらえませんか?』
という内容のメールが送られて来たのだ。
以前も静香の家を訪れた事がある紳士クンは、迷う事なく静香の家の前にたどり着いた。
そして門柱のインターホンを押すと、玄関のドアが激しく開け放たれ、
そこから静香ではなく、別の人物が姿を現した。
涼しげな目元に整った顔立ちで、男のアイドルグループにでも居そうな男前であるが、
そういう男にありがちなナルシシスト的なオーラが、この男からも漂っている。
その男とは静香の双子の兄である迚摸色雄で、
静香をこよなく大切に思っているが、それが原因で静香が極度の女性恐怖症に陥り、
しかもそれが自分のせいだという自覚が全くないという困ったバカ兄貴である。
そのバカ兄貴である色雄はパジャマ姿のまま紳士クンの前に現れ、
紳士クンが挨拶をする前に切りだした。
「やあ!これはこれは!君は蓋垣撫子さんの妹の、蓋垣乙子さんだね!待っていたよ!
久々に会って早々に悪いんだけど、実は君にひとつ、お願いしたい事があるんだ!」
「え、え~と・・・・・・な、何でしょう?」
何だか嫌な予感しかしないながらも紳士クンがそう尋ねた時、色雄の背後から
「お兄ちゃん!」
という鋭い声が響き、玄関に珍しく怒った顔をした静香が現れた。




