8 予定は、ない
その後ろ姿を眺めながら、精神的にも体力的にも大きく消耗した紳士クンは、
思わずその場にへたりこんでしまった。
紳士クンは尚の事が決して嫌いではなかったが、
そのえも言えぬエネルギーに、いつも圧倒されてしまうのだった。
するとそんな紳士クンの背中に、おずおずと声をかける女子生徒が一人。
「あ、あの、乙子さん?大丈夫、ですか?」
その声に紳士クンが振り向くと、いつの間に戻って来たのか、
静香が心配そうに腰をかがめ、廊下にへたりこんだ紳士クンを見下ろしていた。
それを見た紳士クンはすぐに立ち上がり、静香の方に向き直ってこう返す。
「大丈夫です。ただちょっと、尚さんの迫力に圧倒されていただけですから」
そう言って紳士クンは気丈に答えたが、
静香は申し訳なさそうな様子で紳士クンに言葉を続けた。
「あの、ごめんなさい、私をかばってもらって。
針須さん、私が逃げたりして、凄く怒っていたのではないですか?」
それに対し、紳士クンは両手をブンブン横に振って言った。
「全然怒ってませんよ。
それより、ぜひとも静香さんと僕を自分の家に招待したいって言ってました。
あの、今度の日曜日、静香さんの予定は空いていますか?」
「こ、今度の日曜日、ですか。
その日は、あの、私、その、ちょっと、予定が、え~と・・・・・・」
「無いんですね?」
咄嗟の嘘が出てこない様子の静香に紳士クンがそう言うと、
静香は観念したようにコクリと頷いた。
その静香に、紳士クンはひとつ息をついて言った。
「まあ、静香さんがどうしても嫌だというなら、
針須さんに丁重にお断りしておきますけど、
せっかくこれだけ熱心に誘ってくれるんですから、
一度くらいお伺いしてもいいんじゃないですか?
針須さんは静香さんの事を本当に心から慕っていて、
仲良くなりたいからこうして誘ってくださっているんですよ?
何も怖がる事はないですよ」
「本当に、大丈夫でしょうか?」




