7 ガピシャーン!
「それに私は、乙子さんの事もとても好きなんですのよ?
前にも言いましたけど、乙子さんは人付き合いが苦手な静香お姉様が心を許す、
唯一の存在と言ってもいいお方。
その理由は、こうして何度かお話しさせていただいて分かって来ましたの。
乙子さんはとても包容力があって、
どんなに相手が心を閉ざして悲しい気持ちに沈んでいても、
その心を無理にこじ開けるのではなく、それを優しく包みこみ、
癒し、慈しみ、自然に相手に心を開かせる。
そんな聖母様のような深い思いやりを、乙子さんは持ち合わせています。
きっと将来はとてもいいお嫁さん(、、、、)になり、そしてお母様(、、、)になると思いますわ」
ガピシャーン!
これは、尚の言葉に紳士クンが雷に打たれたようにショックを受けた音である。
尚は最大級の敬意を込めて紳士クンの女性らしさ(、、、、、)をほめたのだが、
男らしさを求めて止まない紳士クンにとって、
その言葉は心に大きな深手を負わせた。
それは例えるなら、プロ野球選手を目指す野球少年に、
『君には野球の才能は全くないけど、タコをゆでる才能はプロ級だね』
とほめるようなものである。
人をほめるというのは、かくも難しい事なのだ!
それはともかく、その事を尚に悟られてはいけないし、
尚も決して悪気があってそんな事を言った訳ではないので、
紳士クンはその場にひざまづきそうになる所を何とか持ちこたえてこう返した。
「そ、そんなことは、ありませんよ。僕なんか全然、女性らしくないんですから」
しかし尚は
「そんな事ありません!」と叫び、
更に紳士クンに顔を近づけてこう続けた。
「乙子さんほど女性らしくて可愛らしい女の子はそうそう居ませんもの!
だからもっと自分に自信をもってください!」
「は、はい・・・・・・ありがとう、ございます・・・・・・」
と、答えた紳士クンだが、
内心は自信を失って今にもひざから崩れ落ちそうな勢いだった。
が、そんな紳士クンの心の中なぞは露知らず、尚は訴えるように言った。
「それで、乙子さんと静香お姉様のご都合がよろしければ、
今度の日曜日、私の家にお招きしたいと思っていますの。
その時は精一杯の心を込めておもてなしいたしますわ。
だからその事を静香お姉様にも、お伝えいただけないでしょうか?」
「わ、わかりました。
僕は大丈夫なので、静香さんにも都合を聞いて、またお返事します」
「お願いしますね。今度の日曜日が無理ならその次の日曜日でも、
そのまた次の日曜日でも構わないので!」
「わ、わかり、ました」
鼻がぶつからんばかりに顔を近づけて訴える尚に、
紳士クンは顔を真っ赤にしてのけぞりながらそう答えた。
すると尚は紳士クンの肩から両手を離し、丁寧にお辞儀をして、
「それでは、よいお返事をいただける事を、心より願っています」
と言い残し、踵を返して真子に
「行きましょう」
と声をかけ、優雅な足取りで去って行った。
そして傍らに居た真子も、何やら面白くなさそうな目で紳士クンを一瞥し、
尚の後に続いて去って行った。




