18 まるで恋人のような去り際
そう言いながら目を泳がせる紳士クン。
そんな紳士クンを水落衣は首をかしげながら見詰めていたが、
紳士クンの目を見て、その事情を一通り視(、)て取った香子は、
大きく頷いて腕組みをした。
そして少し間を置いた後、水落衣の方に目を向けて言った。
「水落衣ちゃん、そう言えば今日、お父様とお母様はお仕事で遅くなるから、
水落衣ちゃんが夕飯を作ってくれるんだったわよね?
そろそろ帰って支度をしないと、夕飯の時間に間に合わなくなるわよ?」
そう言われた水落衣は露骨に不服そうな顔で、
風船のようにぷくぅっと頬を膨らませたが、
やがて諦めたように息を吐き、名残惜しそうに紳士クンに言った。
「乙子さん、今この場でお別れをするのは、
胸を裂かれるように辛いのですが、家でのお手伝いがありますので、
先に失礼します。
もし、姉様に相談しても解決しないようでしたら、
遠慮なく私に相談してくださいね?
私はこの命を賭けてでも、乙子さんのお力になりますので」
「あ、ありがとう。また、明日ね」
紳士クンが何とかほほ笑んでそう返すと、
水落衣も心からの満面の笑みを浮かべて紳士クンの手をキュッと握り、
占いの館から出て行った。
そしてそれを見送った紳士クンが前に向き直ると、
香子がまるで般若の面をかぶったように恐ろしい表情で紳士クンに言った。




