17 愁衣を成仏させたい訳ではない
と、紳士クンが内心不安に思っていると、
そんな紳士クンにピッタリ寄り添っている水落衣が、
息がかかるほどに紳士クンに顔を近づけて言った。
「それは、もしかしたら私のせいかもしれません。
乙子さんが私の練習に付き合って、私にずっと見詰められていたせいで、
私の能力が、少しだけ乙子さんにうつったんだと思います。
私も、幽霊の類が視えますので」
「へ、へぇ、そう、なの。不思議な事が、あるもんだねぇ」
紳士クンは水落衣から顔をそむけるようにしながらそう返す。
部屋は決して暑くないが、紳士クンの顔は真っ赤にほてり、
今にも湯気が立ちのぼりそうだ。
一方、そんな紳士クンの湯気が一瞬で凍りそうな冷たい声で、
香子は紳士クンに言葉を投げかける。
「実際にそうなってるんだから、そういう事なのよ。
それで、あなた自身はどうしたいの?
その幽霊を成仏させて、二度と目の前に現れないようにさせたいの?」
「いえ、そういう訳ではないんです。
色々とイタズラ好きの幽霊ですが、根っからの悪霊という訳じゃあないみたいなので。
ただ、何だか僕に対して凄く怒っているみたいなんで、
そこの所だけ何とかわだかまりを解きたいと言うか、
とにかく彼女が望まない形で、無理矢理成仏させるという事はしたくないんです」
それを聞いた香子は呆れたような、諦めたような深いため息をつき、
すっかり毒気の抜けた様子で言った。
「あなたって底抜けのお人好しというか、人を憎んだり怒りを感じたりしないのね。
まあ、水落衣ちゃんがそれだけあなたになつくのも納得できる気がするわ。
それで、その幽霊の子はどういう理由であなたに怒っているの?
あなた、その幽霊を怒らせるような事をしたの?」
その問いかけに、紳士クンは露骨にうろたえ、
チラチラと水落衣の方を見やりながら言葉を絞り出す。
「え、え~と、したというか、されたというか、
何とも説明しにくいんですが・・・・・・」




