1 今回は夢オチではない?
「紳士、紳士―――――」
意識の遠くで、自分の名を呼ぶ声がした。
「紳士、早く起きなさい」
聞きなじみのある、ハリがあってよく通る声。
「紳士!」
これは、当物語の主人公、蓋垣紳士クンのひとつ年上の姉である、
蓋垣撫子の声だ。
「ん・・・・・・」
その声に導かれ、紳士クンはようやく目を覚まし、上半身を起こした。
そしていつもと違う朝の目覚めの感覚に、妙な違和感を覚えた。
(おかしいな?こういう朝って大体変な夢の記憶があるんだけど、
今朝は全然夢の事をおぼえてないや)
そう思いながら紳士君は頭をポリポリとかく。
するとそんな紳士クンの目の前に、
撫子は紳士クンの学校の制服をズイッと差し出して言った。
「まだ寝ぼけているの?急がないと学校に遅れてしまうわよ?
ホラ、早く起きてこの制服に着替えなさい」
「え?」
撫子の言葉に再び妙な違和感を覚える紳士クン。
(お姉ちゃんって、こんなに女性らしい言葉づかいだったかな?)
いつもはもっと男勝りでぶっきらぼうな物言いをする撫子の言葉づかいに、
紳士クンは少なからぬ違和感を覚えたのだ。
しかも撫子が紳士クンに差し出した制服は、
いつも紳士クンが着て行く白を基調にしたセーラーカラーのワンピースではなく、
黒を基調としたブレザーだった。