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まるでセンター小説のようでカオスな日常

作者: モンテネ愚郎

「あ、暑い……。」

もう八月も終盤に差し掛かっているというのに未だに収まることのない猛暑の中、小林は先日購入したばかりのトゥクトゥクで坂道を駆け上がっていた。周りは自転車登校ばかりだというのに、トゥクトゥクしか与えてもらえなかった自身の家の経済力を恨みながら悶々としていると、目の前に西田先生が立っていた。

「小林君じゃないか。まだ夏だというのにそんな厚着してどうかしたのかね?」

「いえいえ、少し考えことをしていただけです。先生は?」

「ちょうど醤油を切らしていてね……。家内からおつかいを頼まれたところだよ。それはそうとサバオリの練習は終わったのかい?」

「いえ、稽古は六時半からです。同じことを何度も言わせないでください。」

「ああ、悪い悪い。しかしあれだね…。君は前は宇宙飛行士になりたいと言っていたのに今度は力士かい?節操がないねえ。」

ああ、また始まったよ…。

先生はいつも僕に合うととびきりの皮肉をぶつけてくる。きっと伝説と呼ばれたころのラッパー時代を忘れられないんだろう。

「いえいえ、先生には及びませんよ。今の奥さんはまだ二十代でしたっけ?前の奥さんは……あっ!」

「……。」

「す、すいません、ついうっかり…。」

「…いや、構わんよ。だれにでもうっかりはあるさ。」

先生の前の奥さん、恵さんは人魚になると言って海に出ていったきり帰ってきていない。大馬鹿者である。

先生はこの事をひどく悲しんでおり、村の皆はこれについて触れるのをタブーとしていた。

僕としたことがついつい口にしてしまったが、むろんわざとである。

この痴れ者に一度くらい僕の気持ちを味わせたかったのだ。

「話していたらいい時間になったね…。僕はここら辺でお暇させててもらうよ。糞が。」

先生はそう言うと長い長い坂道を降りて行った。その背中は会った時に比べひどく委縮しているように感じられた。

「っと、そろそろ稽古の時間だ。」

僕はトゥトゥクのハンドルに力を込め、少し駆け足気味に坂を上ることにした。

空には雲がかかり始め、あんなに感じていた暑さも気づけばどこか遠い所へ行ってしまったようだった。


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