PART15 臨海学校オーシャンズ(後編)
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【海に着いたら】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA PART3【竜殺し!】
『869,243 柱が視聴中』
【配信中です】
〇鷲アンチ 水着回じゃい!
〇ミート便器 待ってました!
〇無敵 同級生シカトしてジークフリートさんコミュを進めるお嬢、流石だ……スクショが捗るぜ
〇第三の性別 新スキン出てからウッキウキやなこいつ
〇みろっく 臨海学校はどういうイベントなの?
〇適切な蟻地獄 原作だと本物の悪役令嬢の顔見せだな
〇苦行むり 禁呪初登場チャプターにやっと到達したってマジ?
〇red moon あの皇女来るのかなあ、来るんだろうなあ……
〇太郎 どんな化学反応が起きるのか本当に不安
〇宇宙の起源 俺たちのお嬢ならきっとうまいこと……うまいこと……
〇太郎 絶対ぶち殺しにいって全部終わりだゾ
〇外から来ました 流星探偵マリアンヌ3「臨海学校殺人事件・水平線に沈みゆく浜辺の殺意」、放送未定!
〇101日目のワニ 火サスやめろ
〇火星 流星探偵って何だよ……
〇日本代表 @無敵 滅茶苦茶面白いこと言っていい?
〇無敵 え、はい、何すか?
〇日本代表 その海辺、悪竜反応が最大値叩き出してる。多分ファフニール来てる……
〇無敵 は???????????
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ビーチバレー等を一通りエンジョイした後。
初日の自由時間を終えて、わたくしたちはシャワーを浴びて着替えてから、旅館に舞い戻っていた。
夕食時間までの僅かな空き時間。
お手洗いを済ませて、ユイさんとリンディが待つ部屋への道を歩いていると。
「おや?」
廊下の先に見たことのある、長身痩躯に灰色の長髪を持った男がいた。
あれは──!
「んじゃあ、ウチの方でボイラー用の魔力炉心を新調できるようツテに当たってみますわ。いやあ、老朽化ってのはどこも大変ですね……」
「ルーガーさん!」
「うおぉっ!? って、マリアンヌ……!?」
背後からどっかーん! と抱きつきにいった。
世界中の格闘術に精通した肉弾戦最強の男、我が師ことルーガーさんは、まあ普通に合気の要領でわたくしをそのまま投げ飛ばした。
「あべし!」
「やべっ手癖で投げちまった。顔面からいったけど大丈夫か……?」
「か、完全に気配遮断して不意打ちできたはずなのに……!」
旅館の従業員と話していたルーガーさんは、わたくしを引っ張り上げて気まずそうな顔になる。
「いや、魔法学園が臨海学校の時期ってのは知ってたけどよ……こうも綺麗に遭遇するとは思わねえわ」
「つまりわたくしに会いに来てくれたということですわね!」
「話が噛み合わねえ……!」
従業員さんが戸惑った様子でわたくしとルーガーさんを交互に見る。
ルーガーさんは慌てて何でもありませんと言うと、わたくしを引っ張って廊下の角に押しやった。
「こっちは仕事で来てんだよ。わりいが構ってる暇はねえ、戻れ戻れ」
「まあ、せっかく会えたといいますのに……あ、でしたらこれだけ聞いておきますわ」
「あ?」
「どうでしょうか、わたくしの浴衣姿は」
その場でくるりと一回転。
最後は視線を重ねてバチーンとウィンクする。
ルーガーさんはしわピカみたいな顔になった。
「……それ、婚約者とかにやれよ」
「こんなことしたら全身の穴という穴から液体を噴き出して死にますわよあの男」
「分かってて俺にやるの、タチ悪すぎんだろ」
「身の回りにはウブでネンネな童貞しかいないので、こういうムーブ全然できませんの。その点ルーガーさんは安心ですわね!」
「っせーな。どんな嫌な信頼だよ。こっちは仕事なんだよし・ご・と! お前に付き合ってる暇はねえ!」
「もう! 一言ぐらいコメントを下さればよろしいのに」
頬を膨らませてぷんすこと怒る。
頭をかいてから、ルーガーさんは嘆息した。
「……まあ、馬子にも衣装ってやつなんじゃねえの」
「似合ってる、ということですわね。ありがとうございます」
「ポジティブシンキングの鬼かよ。お前そんなにはしゃぐキャラだったんだな……」
「せっかくのバカンス……いえ。ヴァカンスですからね。はしゃがなければもったいないというものですわ」
「いや学校行事だろ。バカンスじゃねーってそれ」
「バカンス? ノンノン。ヴァ・カ・ン・ス・ですわ」
「クソ腹立つ」
指をチッチッと振って発音を訂正する。
額にビキバキと青筋を浮かべて、ルーガーさんはわたくしの頭頂部にチョップを落とした。
ふふん。いつまでもやられてばかりと思うなよ!
「おあいにく様! そのわたくしは残像、本体はもう背後にいましてよ!」
「残念、その俺も残像で、後ろを取ってるんだなこれが」
「たわば!」
後ろからチョップされて、わたくしはもんどりうって廊下に転がるのだった。
とまあ思いがけない遭遇こそあったが、初日はさほどトラブルなく進んだ。
夕食を宴会場に並んで食べ終わり、夕食後の簡単なレクリエーションも終えて。
〇宇宙の起源 お風呂だーーーーーー!!
〇火星 お風呂の間はちょっと真面目に仕事に戻るか……
〇宇宙の起源 全裸待機
〇日本代表 いや流石にお風呂配信はちょっとBANの可能性が
〇宇宙の起源 うるせえ! ここを配信しなくてどうする!
〇無敵 マジでファフニール来てんじゃん……マジかよ……うげぇ……
大浴場はいくつかの班ごとに時間を割り振られ、その指定時間内に入るというルールだった。
わたくしはユイさんたちとお風呂に向かい、ねっとりと、いやじっくりと二人の肢体を堪能しようと思っていたのだが。
「すみません。やるべきこと……成さねばならないことがあるので、遅れていきます」
「ユイさんアナタ武士みたいになってますわよ」
「私も同じよ。先に行っといて」
「は、はあ……分かりましたけど……」
何か、やたら決然とした表情の二人を見送り。
こうして一人で大浴場の『女』というのれんの前に突っ立っているのだった。
【正直未だに、こういう時に女の方に入っていいのかって感じはしますわね】
〇101日目のワニ そのへんはもう気にしなくても良いんじゃない?
〇TSに一家言 その調子だ
【どっちですの?
ま、まあユイさんたちが来るまではのんびりしましょうかね
そういうことなので、しばらく配信切りますわ~】
〇宇宙の起源 え、なんで?
【え? 配信なんで切らないんですの?】
〇鷲アンチ 世の中にはお風呂配信というものがあってですね
【……?
あ!!!!
そういうこと!?!?
ばっ、バッカじゃないんですか!? 音声映像全カットに決まってるでしょうが!】
〇宇宙の起源 ガチ照れお嬢いただきました
なんだこいつ無敵か?
〇日本代表 ハラスメントで通報するぞお前……あーそれと、お嬢、ちょっと風呂上がってから大事な話あるから、雑談枠作れる?
【構いませんわよ】
〇日本代表 サンキュー、悪いね
〇無敵 うげー悪竜の話する? やっぱしないと駄目だよなあ……やだなあ……
〇外から来ました 諦メロン
〇日本代表 あっ、そうだ配信切ってる間は音声も映像も来ないようにしとくけど、今完全にライン切れちゃうと復旧できないから、最低限の接続だけは維持したままでもいい?
【音と映像がそちらにいかないのなら何でも大丈夫ですわ~
ではまた後で!
ブンブン! シーユー・ネクストタァイム!】
〇苦行むり 今のアイキャッチ何?
〇外から来ました びっくりするぐらいセンスなくて草
うるせーよ。必死に考えた結果なんだよ。
配信画面を閉じて、ふうと息を吐く。
脱衣所で浴衣をしゅるりと脱いで、編み籠の中に畳んで入れた。
「大浴場を大欲情って誤字するの定番ネタみたいですけど、よく考えたら大きく欲情するって意味分かりませんわよね」
独り言を呟くも、友人もコメント欄もない以上返事はない。えっ、何コレ寂しい……
いや、ちょっとびっくりするぐらい人が全然いねーんだわ。クラスメイトはおろか、他のクラスの生徒すら見当たらない。
タオルを片手に大浴場に入れば、やっぱり人の気配はまったくなかった。
「もしかしてお風呂場間違えてたりするのでしょうか……」
こわごわと周囲を見渡す。
服着てねえから心細さも倍増なんだよな。ホームじゃないアウェイに一人、全裸で立ってるって言い換えると、そりゃもう怖いって。
いかん。心細さがすぐメンタルに効いている。
頭を振ってしゃがみこみ、桶で風呂の湯をすくって肩にかける。
ひとまず身体を温めて、ユイさんたちを待とう────
と、思っていた、その時だった。
「……あら? あらあら? もしかして、マリアンヌ?」
「……ッ!?」
ガバリと顔を上げた。
濃い湯気に紛れて見えなかったが、この大浴場には先客が一人だけいた。
美しい白い素肌。
銀髪を湯に浸からないようまとめ上げて。
美しい曲線を描く肢体を惜しみなくさらけ出し。
「まあ──なんて偶然なのかしら。貴女とこんなところで会えるなんて、私、ちょっと今日の占いが一位だったのに感謝しているわ」
カサンドラ・ゼム・アルカディウスがそこにいて。
あっソッチも銀色なんですね!!!!!!!!!!!
「どこを見ているのかしら……」
「いかなる逆境にも挫けない信念が呼び込む希望の光を見ていましたわ」
「本当ォ?」
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