表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/294

INTERMISSION11 ジェシー・レーベルバイト

 気に入らない。

 婚約者がありながら、王子からすら庇護を受けるその姿。

 多くの人々が、優雅にダンスを踊る二人に見とれている。悔しいことにロイすらも、絵になると認めざるを得なかった。

 マリアンヌ・ピースラウンドと第三王子グレンが、この場を完全に掌握していた。


(……気に入らない)


 レーベルバイト家の三男、アキトと視線が合う。

 彼は即座に表情を歪めると、顔を背けた。蛇蝎の如く嫌われているという自覚はあった。

 ジェシー・レーベルバイトは、アキトにとっては受け入れがたい新たな母だった。


(……私は、何もかもうまくいっていないのに。どうしてお前はそうやって、私の上をいくんだ)


 噛みしめた奥歯が嫌な音を立てた。

 握ったドレスの裾に爪が食い込む。

 流れる円舞曲に一区切りがつき、マリアンヌとグレン王子が手を離した。恭しく一礼した後、マリアンヌは──真っ直ぐに、こちらへ向かってきた。


「お久しぶりですわね、ジェシーさん。いえ……レーベルバイト夫人」


 一回りは離れた年齢だというのに。

 その尊大な立ち振る舞いは不快さではなく、こちらを圧倒するような重みを誇っていた。


「……ッ。久しぶりね、ピースラウンド」

「ご結婚のお祝いを申し上げられず、誠にすみません」

「いいわ。式も身内だけだったし」


 二十歳を過ぎ、結婚の適齢期を迎えたタイミングで、ジェシーはレーベルバイト家当主と結婚した。年齢の離れた結婚は珍しく、社交界で噂の的となった。

 構わない。どんなに後ろ指を指されようとも、これでいいと決めた。決めていたはずなのに。


「そうですか。ちょうど今、社会見学の一環でレーベルバイト家の工房に出入りさせていただいておりますの。もしかしたら顔を合わせる機会があるかもしれないと思っていましたが」

「フン。あんな暑苦しいとこ、行くわけないでしょうに」


 結婚するまではうまくいった。元より当主との間に愛などない。手を繋いだことすらないまま、縁談が突然持ち上がり、最後まで行き着いた。

 日々を屋敷で過ごす。当主や義理の息子たちが慌ただしく外に出かけ仕事に没頭するのを見守る。それだけの日々。

 本当は自分は、どうなりたかったのだろうか。


「……それで、何の用かしら。かつて競い合った相手が名ばかりの夫人をやっているのが哀れで声をかけたの?」

「ええ。本当に哀れで、無様ですわね」


 聞き間違いかと思った。

 目を見開き、正面にて腕を組み佇む少女を見据える。


「……貴女。今、なんて?」

「取り潰し寸前の家を救うため、会ったこともない男と結婚し。家庭にはなじめず、やりがいもなく、ただ日々を無為に過ごすばかり──顔に書いてありますわよ。不平不満、恨み辛み、そして妬みが」

「……何が。貴女に何が分かるのよ、ピースラウンド」

「なーんにも分かりませんわ! だってわたくし、アナタのような負け犬ではありませんから!」

「吠えたな、小娘……!」


 ざわめきが広がっていく。

 会話の内容までは聞こえずとも、二人の顔色から何かを言い合っているのだと分かった。

 よりによって王子殿下がいるタイミングだ。


「マリアンヌ──」

「ああ、ストップですミリオンアーク君。止めないで」


 思わず割って入ろうとしたロイを制したのは、あろうことかグレン王子だった。


「王子殿下!? しかし……!」

「面白いじゃないですか。確か、ピースラウンドさんは御前試合では無敗。しかし……非公式の、魔法使い同士の早撃ちを競う競技会で、一度レーベルバイト夫人に敗れていますね? ああいえ、その時はまだ、夫人ではありませんでしたが」


 一回り年下の神童相手に、接戦の末勝利をもぎ取ったジェシーの姿は、当然参加していたロイの記憶にも残っている。


「つまりこれは……ピースラウンドにとってのリベンジってことか?」

「ああ……彼女ならそう考えてそうだ」


 アキトの指摘に、ロイは呻くようにして肯定した。

 仮にそうだとしても、社交界でやることじゃない。

 だが主催者である王子が、最もこの状況を楽しそうに見守っているではないか。


「私ごときでは、彼女の行動を予測するのは難しい。いよいよ楽しみですよ。君がなにをやってくれるのか……」


 レンズを光らせ、くいと眼鏡を押し上げるグレンの視線の先。

 マリアンヌが、怒り心頭といった様子のジェシーに告げる。


「負け犬相手に遊んで上げましょう。決闘ですわ──アナタの最大の得意分野である、早撃ちで!」


 社交界が、決闘場に変貌する。





────────────────────────────────

【喧嘩と決闘は】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【貴族の華】

『993,439 柱が視聴中』


【配信中です。】


〇鷲アンチ    喧嘩売りまくるRTAでもやってんのか?

〇TSに一家言   登場人物全員に喧嘩売るトロフィーでもあんのか

〇恒心教神祖   ありそう……

〇第三の性別   社交界をハイロー次元に落とすな

〇宇宙の起源   ドレス姿助かる

〇日本代表    この見た目で蛮族は無理でしょ

〇苦行むり    グレン王子ウッキウキで草

〇外から来ました こんなにイキイキしてるメガネ初めて見るわ

〇太郎      個別ルートクッソ暗いもんな……

〇みろっく    社交界って喧嘩売れるものなんだ、初めて知った

〇無敵      その知識は早急に捨てろ

〇日本代表    転生する先として本当に嫌な野蛮さがあるよなこのゲーム

────────────────────────────────

ご愛読ありがとうございます。

よろしければブックマーク等お願いします。

また、もし面白かったら下にスクロールしたところにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価を入れてくださるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族の社交場がいきなり刃牙の世界になる不思議。 [気になる点] 背中オープンなドレスで伸びの良い打撃やったら、肩が露わにならんかな? [一言] 痛快。その一言に尽きる。
[良い点] 恒心教神祖…… 無能弁護士も神格化ってか上位存在になってるのか……
[一言] ジャンケンで覚醒するし社交界は喧嘩売れるしルシファーは変形機能がある、常識ですよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ