PART5 砂漠の雪(前編)
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【虫取りですわ!】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER7【なお季節は冬の模様】
『5,124,998 柱が視聴中』
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上位チャット▼
〇みろっく このタイトルは詳しくない、チョコレートオオカブトムシって何?
〇苦行むり 虫
〇トンボハンター チョコ
〇みろっく どっちだよ
〇アテム、貴様との決着はまだついていない どちらもだ!
〇適切な蟻地獄 あなたは神を使う側では……?
〇一狩り行くわよ まあ何かしらののサブクエで出てきた記憶はあるわね
〇つっきー でもサブクエだと異常発生したチョコレートオオカブトムシの群れを討伐するんじゃなかったっけ?
〇最古の女装癖 初見です チョコカブト異常発生は中盤のサブクエだったと思います
〇遠矢あてお え?敵じゃん
〇第三の性別 異常発生も何も存在からして異常だろうが
〇red moon チョコの材料として獲りに行ってませんかね……?
〇火星 カブトムシフォーム解禁来るか?
〇宇宙の起源 マリアンヌ「悪役令嬢チョコカブトムシパーーーンチ!」チョコカブトゼクター「rider kick」
〇トンボハンター パンチですらなくて草
〇最古の女装癖 そもそもチョコカブトムシパンチってなんだよ
〇外から来ました お前マリアンヌは初めてか?力抜けよ
〇最古の女装癖 俺がおかしいのか?
〇最古の女装癖 いや待ってくれ……なんでチョコカブトイベ発生してるのにまだ一年生の二月なんだ!? あれ!?
〇日本代表 大丈夫、お前は正しい 正しさが救いになるとは限らないだけ
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◇
チョコレートオオカブトムシ。
それはつまり、バレンタインチョコの材料である。
「いや生きてる虫をどうやってチョコにするんですか」
「違うよマリアンヌ。生きてる虫をチョコにするんじゃない、チョコがたまたま生きてる虫になってるだけだ」
「ロイ、アナタ何を言ってるんですか……?」
とりあえずチョコカブトが出現しているという山まで来たわたくしたち。
虫が出現しているって何? ポケモンGOなのか?
「っていうかマジ帰っていいですか?」
「お前……自発的じゃなかったらこんなにけだるげなんだな……」
ユートが驚愕の表情を浮かべているが、こればかりはわたくしが正しいだろ。
こんなクソ寒い冬に、スキーとかではなく虫取りで雪山まで来ようというやつの気が知れない。魔法や加護による暖房効果がなければ凍死しているような環境だぞ。
かなり帰りたいぜ。でもその前に冷やし土下座ごっこだけはするか。
「いやでも、外見的にはマリアンヌさんが一番やる気じゃないですか?」
「見るからにそうではあるな」
ユイさんとユートがこちらの格好をじろじろと見てくる。
わたくしは今、半袖短パンに虫かごと虫取り網と麦わら帽子を装備していた。
だってこういうのは形から入るタイプだし。
断じて久々の虫取りにテンションが上がりすぎているという事実はない。
〇適切な蟻地獄 はい虚偽罪
〇あの船を撃つのじゃあっ!! 現行犯で逮捕!
うるせえよ。二人目は誰だよ。
尊大なのじゃロリみてえな口調をしやがって。
お前ごときがわたくしを逮捕できると思うなよ……
「フン! だったらアンタは、適当に質の低いチョコでも作ってなさい」
「は?」
その時、最前列で山道を確認していたリンディが、こちらを一瞥もせずに鼻を鳴らした。
なんつったコラ?
「バカげたことを! 至高のチョコを作るのはこのわたくしに決まってますわ! カブトムシが必要というのなら即ち、カブトムシ獲りにおいても頂点に立つのみッ!」
「こいつの説得は二秒で終わるから楽ね」
「ハートセチュア嬢、それは思っても言っちゃだめだぞ……」
先頭に位置する親友と至高の騎士が何やら会話していたが、それは雪の吹き付ける音に紛れて聞こえなかった。
どうせ悪口だろ、フン。その程度でわたくしの輝きに翳りが差すものかよ。
〇みろっく 悪口を言われるようなことをしなければいい……というか、普通に素直に虫取りは楽しみですって言えばいいのでは?
黙ってろカス!
令嬢はなあ……虫取りでテンションが上がったりしねーんだよ!!
◇
「で、カブトムシどこですか?」
「それさっきから30秒ごとに聞いてくるのやめなさい。ノイローゼになりそうだわ」
〇無敵 めちゃくちゃテンション上がってて草
ザクザクと雪を踏みしめながら進むことしばし。
わたくしたちは真っ白な雪に覆われた道を進んでいき、山の中腹ほどまでたどり着いていた。
「ねえリンディ、カブトムシ……」
「シッ! 息止めて死になさい」
「静かにしてくださいを凶悪にするにもほどがありませんか?」
随分と激しめの制止を食らった後に、わたくしたちはそっとしゃがみこむ。
前方にどうやら目的地があるようだ。
背後ではユイさんやロイたちが暇そうにしているが、こいつらやる気なさすぎるだろ、もっと真剣にしろよ。
「私が作ったチョコカブト専用暗視装置によれば、あの木に集まっているみたいね」
「その発明力を他の何かに活かしてほしかったですわ」
ゴッッッツイ双眼鏡を取り出して、我が親友が何やらのたまっている。
今日のリンディは全体にハジけていた。
もっこもこの防寒装備にしか見えないのに、なんか各ポイントに動作補助魔法を入れてるから超動きやすいらしいし。
ハートセチュア印の開発力をふんだんに振るいすぎだと思う。
「ほら、あれよ。アンタの何も見えていないに等しい目でも見えるでしょ?」
「はっ倒しますわよアナタ。めちゃくちゃ、何もかも見えていますが。もうこの世界の未来とか見まくってますが」
「上位存在の権能を引っ張って来てまで反論するのは反則よ」
リンディが指さした先を中止すると、確かに雪の中にぽつんと大きな樹がある。
葉は枯れ落ちているのだが、本当に虫が集まるのだろうか。
つーかちょっと待ってくれよ。
虫って樹液に集まるけど、チョコカブトムシってそれ自身が虫を集めるじゃん。
意味が分からないんだけど。マジでどういう生き物なの?
〇red moon 分からん
〇日本代表 何なんだろうな、チョコカブト……
クソッ、深く考えると負けっぽいな。
負けたくないし考えるのはやめておくか。
「ともかく捕まえるとしますか……ユイさん、ジークフリートさん、ついてきてもらえますか」
「はい!」
「構わないが、どういう選抜基準なんだ?」
立ち上がったユイさんと首をかしげるジークフリートさん。
わたくしは騎士の問いかけに対して、腕を組み鼻を鳴らす。
「上から強い順ですわ」
「…………そうか」
ジークフリートさんがちらりを後ろを見た。
そこには死ぬほど剣呑な目で剣の柄を握っているロイと拳に炎を纏わせているユートの姿があった。
こいつらが言いたいことは分かる。だが――
「思春期の青少年が全能感に身を任せるのは勝手ですが、何が起きても対応できるメンバーを選抜するのならわたくしとユイさんとジークフリートさんになるのは自然の摂理でしょう」
『ぐうっ……!』
男子二人が屈辱に唇をかんだ。
お前らは別にわたくしと肩を並べて戦うのはいいけど、わたくしが積極的に頼る相手ではまだない。
だってジークフリートさんいるもん。実力的にも精神的にもこの人を選ばない理由ないでしょ。
……というかお前らの場合はこうして戦闘シーンで頼れるかどうかじゃないところに価値があるんだけどなあ。なんかここでの価値にすげー重きを置いてるよなあ。
もっと別のところで本質的に強いんじゃないのかなあお前らはさ。
「というわけでさっさとカブトムシを取りに行きますわよ」
「マリアンヌ嬢、チョコカブトムシを捕まえるうえで虫取り網は本当に有効なのか?」
「は? 知りませんが」
そういう問題じゃねえんだよ。
これが礼儀を守るための服装なの。
「じゃあ行ってきますわ」
ロイとユートとリンディを後方に待機させたまま、わたくしたちはスタスタと樹に近寄る。
確かに近づけばより鮮明に見えてくるが、カブトムシが何匹も木に張り付いていた。
立派な角の伸びた、日本のカブトムシに近い……というかまんま日本のカブトムシだなこれ。
まじで雪山の中でこの光景は脳がバグりそうだ。
どう考えてもおかしいだろこれ。
何をどうしたらこの極寒の環境の中でカブトムシが活動できているんだろう。
不思議とかじゃなくて、これは普通にありえないだろ……
「まあいいでしょう、とりあえずカブトムシを捕まえますわよ」
現代の聖女と最強の騎士を連れて、わたくしは前に進んでいく。
どう考えたって単純に虫を取る上では過剰な戦力なのだが……
まあいいか!
わたくしとユイさんとジークフリートさんが揃ってて負ける相手はいないっしょw
『グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
刹那、大気を爆砕する咆哮が天から降ってきた。
「うわっとぉ!?」
虫取り網を片手に、その場から飛び退く。ユイさんとジークフリートさんも、わたくしよりコンマ数秒早く既に退避していた。
大質量の砲弾を叩きこまれたかのように、雪山の表面が爆発する。
「どうしたんだいっ!?」
「分かりませんわよ! 何かが降ってきて……!?」
文字通り稲妻の速度で駆け付けたロイが、わたくしの前に出て剣を抜く。
こいつこのわたくしを差し置いて前に出るとは――いや、まあわたくしが勝ったとはいえ同じぐらい強いし、それぐらいの無礼は許してやろう。
「結局何なのよ! 雪で全然見えないんだけど!」
「気を付けてください! この気配、上位存在です!」
リンディを庇うユイさんがそう叫んだ直後。
爆心地から広がった風圧が、砂煙と吹雪をまとめて消し飛ばした。
『…………ッ!!』
不可思議なことに、チョコカブトがいた樹木は無傷。
見えない力で守られているのか、枝一本足りとも傷ついた様子はない。
そしてチョコレートオオカブトムシたちを守るようにして舞い降りた剣。
それは滑らかな黒い体表と、艶やかに照る漆黒の翼を持った、チョコレートの翼竜だった。
は?
え?
「チョコレートワイバーン!? 伝説のレア魔物じゃないか!?」
「伝説のレア魔物なんてワード初めて聞きましたが……」
著しく対象年齢の下がったフレーズをぶち上げて、ロイが驚愕する。
〇外から来ました うおっ伝説のレア魔物だ!
〇第三の性別 伝説のレア魔物じゃん
〇火星 フレーバーテキストにマジで伝説のレア魔物って書いてあるんだよな……
合ってるんかい!!
なんでこいつだけ初期の遊戯王みたいになってるんだよ。
おかしいだろ。
『いかにも。我が名はチョコレートワイバーン。この大樹の守護者にして、原初の七つの罪から血潮を引く者!』
しかも喋るんかい!!
何なんだこの世界。もう助けてくれ。
わたくしが言い出したとかなら分かるんだけど、連れてこられた先でなんでこんなワケわかんねー生物がぽんぽん出てきて戦う羽目になるんだよ! おかしいだろうが!
……ただ、まあ。
とはいえ今回は、相手が悪かったとしか言いようがないな。
「ジークフリートさん! 竜殺しの剣を見せるときですわ、やっておしまい!!」
「絶対に今じゃない!」
悲鳴に近い絶叫を挙げながらも、トレーナーよろしく指さすわたくしの前にあくタイプ最強の男が飛び出す。
雪山の中で鮮烈に輝く紅髪を視認した刹那、チョコレートワイバーンが驚愕に目を見開いた。
『貴様……ッ!? あの悪竜の子孫か! 面白いッ!!』
「まあ理由がどうであれ、剣を振るう甲斐はあるか……!」
ワイバーンが咆哮と共にブレスを吐き出し、それをジークフリートさんの一閃が切り裂こうとした。
しかし接触の途端に彼は目を見開くと、手首をしならせて受け流した。
「む……! これは!」
ファフニールの時とは、明確に違う対応だ。
対悪絶対無敵状態の彼が攻撃を受け流す、というのは異様な光景である。
「ワイバーンだしチョコだし言うほど悪じゃないしで微妙に判定が入らんようだ……! 頑張れば攻撃無効には持ち込めるが特攻が入らないな……!」
「いや竜殺しの権能でチョコの翼竜に対応できるの普通にドン引きなんですが」
「君がやれと言ったんだろうッ!?」
あと、権能が効かないと気づいた刹那に受け流しに移行した技術も普通に怖い。
わたくしの背後ではユイさんたちも引いていた。
みんな薄々、『あれ? この人覚醒したの大分前だけど、なんかずっとトップ層に居座ってない?』『後発組の自分たちの覚醒と遜色ないレベルに、なんで夏の段階で勝手にたどり着いてたんだ?』と気づいていた。
インフレに全然ついてきてるもんなこの人。
そろそろこう、諦めてナーフを入れるべきだと思う。
『――今のは。まさか、まさかまさかそうか!』
じゃあもう全員で攻撃して仕留めようかな、とか考えていると。
チョコレートワイバーンはジークフリートさんだけでなく、わたくしたちの方まで見渡した後、翼を大きくはためかせ咆哮を上げた。
『あの大悪魔がよく許す! 原初の罪と処断者が手を取り合い、ゼロの極点へと手を伸ばしているとはな! 極光の方は認めんだろうが、愉快な時代になったものだ!』
「…………ぇ」
〇宇宙の起源 は?
〇火星 あのこれちょっと反応がちょっと
〇日本代表 待って待って待って
さあっ、と自分でも顔が青ざめるのが分かった。
わたくしだけではなく、他の面々も事情を察して呆然としている。
え? 嘘だろ?
だってチョコでできた翼竜だよ? 絶対にシリアスイベントに出てこれないよ?
なのに今の口ぶりは、それは、つまり――
『委細承知したぞ禁呪使いと七聖使よ! 新たな時代の息吹、このニーズヘッグが試してやろう!!』
ぎゃあああああああああああああああ知らない本編始まっちゃったああああああああああ!!!
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