PART22 天に輝く日輪
【第一天、覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】
【第二天、新規覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】
【第三天、覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】
【第四天、覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】
【第五天、覚醒者の暴走的活動を確認。接続安定状態。第一天の覚醒者に対応を委ねます】
【第六天、覚醒者の活性的活動を確認。接続安定状態】
【第七天、覚醒者による迎撃権限の活動凍結を確認。接続安定状態。活性化の兆候があるため待機します】
【──全覚醒者の確認完了】
【禁呪保有者に対する戦闘準備、完了】
◇
神様の皆さん、わたくし視点なの本当に申し訳ねえ。
そう思うぐらいには重要で、最高のイベントが眼下で起きている。
大聖堂から出てきたユイさんがリョウを隣に置いて、自分こそが次期聖女であると国民みんなに宣言する場面だ。
〇日本代表 もっとスチルっぽい角度から見れない?
〇つっきー スクショしようとすんな
まあユイさん推しなら間近で見たいだろうな。わたくしだって見たいし。
でも今回はちょっと距離を取って、半壊した大聖堂の高層階屋外テラスから眺めさせてもらっている。
マリアとして参戦したわたくしはこの瞬間は邪魔だ。ちゃんと事実関係を整理した(いろんな人にもみ消してもらうという意味だ)後じゃないと合流できない。
「また君はこんなところにいて……」
チラと横を見れば、呆れた表情のロイがわたくしの隣に来ていた。
「よく分かりましたわね
「君って事態を収拾した後になぜか高台から見下ろしがちだからね」
「…………」
誰がどう見ても恥ずかしい中二病ムーブを指摘されて、無言で顔を背けた。
今それ言う必要なかっただろ。
「アナタだって、行かなくていいのですか」
「今は教会勢力を立て直すのが先決だろう。最悪の事態は免れたけど、貴族院に与しているはずの僕がいると色々と厄介だ」
まずはユイさんを中心として、教会が勢力を再編しなくてはならない。
貴族との融和方針を打ち出すのはそれからというわけだ。
「ま、最終的には丸く収まりましたわね。バッチリですわ」
「助かったよ。地下では随分と大変だったみたいだけど……」
「あれぐらいどうってことありません。まあなんか仕留めそこなったような感覚もあるのですが」
「えぇ……?」
ちょっと様子見をしていたが復活する気配もなかったし、倒したと思っていいだろう。
逃げおおせていたとしても活動すればすぐわかる、その時に改めて叩き潰すさ。
そう思っていると、ロイがふとユイさんたちからわたくしへと視線を切り替えた。
「君がいなくて寂しかったよ」
「そうでしょうね」
「分かってるのなら改めてくれよ、色々とさ」
声色は真剣なものだった。
しょうがねえな、とわたくしも彼に顔を向ける。
「僕は……おれは君を失いたくない。君がいないだけで人生が全部損なわれてしまったような気がしたよ」
「…………」
「たくさん、君以外の友達がいて、君じゃない大切なものがあって、君が映ってない思い出があったのに。その全部が価値をなくしてしまったんだ」
「……大きな大きな勘違いですわね」
思わずでっかい溜息を吐いてしまった。
なんでもかんでもわたくしが影響を与えているなんて思い上がるつもりはない。
「アナタが自身の手で勝ち取ったものに、わたくしがいるいないは関係ないでしょう」
「ああ、言うと思ったよ。そしてそれは違うんだよマリアンヌ、おれは君がいたから勝ち取ろうと思った、そう思って生きてきたんだ」
ぐ、こいつ今回は随分と譲らないな。
なんだかんだで、惚れさせ過ぎているという自覚が最近はある。ちょっとこいつ、わたくしのことが好きすぎるんだよな。わたくしのためなら死ぬことだって選べるだろう。
一時の感情に任せてとかではなく、冷静にすべての物事を把握して、合理的に判断した結果としても、死を選べてしまう気がする。
それは、だめだ。
お前はユイさんと結ばれて、わたくしを追放する舞台装置なんだから。
「ロイ、そろそろ真の愛とか見つけたくありませんか?」
「ずっと隣にいるよ。君だけがおれの愛だ」
さすがにこの即答は──効いた。
「…………っ」
「おや、珍しいね。おれの愛の言葉に照れてくれるなんて」
「うっさいですわ」
ぽこ、と彼の肩を殴る。自分でもびっくりするぐらい力が入らなかった。
ロイは目を細めて、唇を開く。
「マリアは……君が言っていた名前を冠する権能を使ってたよ。星座、だったっけ。星と星を結んで図形や絵を連想し、名づけるという行為……」
「ああ、彼女はわたくしですからね。とはいえブルーアイズガンギマリドラゴンはいくらなんでもカッコ悪すぎですが。わたくしならブルーアイズバッキバキドラゴンとかにします」
「大差ないなあ」
くすりと笑う男の顔に、なんだか体から力が抜ける。
ロイとこの距離で、いつもみたいに会話ができている。
それがすごく、帰って来たという実感につながった。
「だからさ。マリアを見ていて思ったんだ……君は輝いているだけで、それにおれたちが勝手に意味をつけているのかもしれないって」
多分そうだと思う。
わたくし、基本的には自分がやりたいことをやっているだけだしな。
「でもそれも悪くはないと思うよ、星座のことを知った後なら。名前を与えてあげるのは、星と親しむためだったんじゃないかな」
「今日は随分と詩的ですわね」
「色々なものを勝ち取った後だからね。例えば、あの光景とかをさ」
ロイは下を手で指し示した。
視線を落とせば、ユイさんたちがみなこちらを見上げて、手を振っている。
降りて来いと、輪の中に入れと言っている。
「呼ばれちゃったみたいだ。秘密のデートはここまでだね、僕と二人だけの秘密にしておこう」
「……アナタ、わたくしがいない間に女性経験でも積みました? 凶悪になっている気がするんですが」
「会えなかった分を発散しているのさ。君の銅像をこれ以上増やすわけにもいかないからね」
「え? わたくしの銅像? 何? 今小声でやべって言いましたよね? ちょっ……何笑って誤魔化そうとしてるんですか!? ねえ! わたくしを量産したんですか!? 答えなさいちょっと!」
◇
地下区画で『混沌』を完膚なきまでに消滅させた後。
ナイトエデンは地上に出てから、半壊した大聖堂を見つめて呟く。
「計画の進行は、準備段階としては70%に到達したかと」
音もなく彼の背後に現れたウルスラグナ一派の男が、自分の主人に膝をついて報告する。
「教会勢力は大幅に弱体化。貴族院もまた我々の味方が勢力を握りつつあります」
「今回の騒動、リョウ君たちに支援をしていて正解だったね」
「顔を見せる必要があったかは疑問ですが……」
「別にいいさ。ジンが敗北することはほとんど自明だったんだ、ならリョウ君と面識を作っておいた方が今後話を通しやすい」
リョウ一派、厳密に言えばジン・ムラサメが率いていた私兵軍団。
彼らが生活できていたのは、ひとえにウルスラグナ一派が支援をしていたからに尽きる。
もちろんリョウは知らず、ジンとてナイトエデンたちの本質的なところまでは知ろうとしていなかった。
「トラヴィス・グルスタルクの挙兵によってシュテルトライン正規軍の動きを把握することができた」
目を閉じて、ナイトエデンはここまで起きた動乱による成果を振り返る。
「ジン・ムラサメの教会内クーデターによって騎士団の勢力を大幅に弱体化させることができた」
すべてが自分のために動いているのではないかと錯覚しそうになるほど、上手くいった。
魔法使いを主とする正規軍に関しては貴族院の掌握が順調に進んだため解決。
騎士を主とする騎士団に関しては内部混乱によって制圧難易度を引き下げて解決。
(正直、アーサー・シュテルトラインを打倒できるかどうかがすべてになってきた気もするが……それは恐らく問題ない。あとは時期の問題だ)
ナイトエデンは瞼を開け、その黄金色の双眸で世界を見渡す。
「ひと月……いや、ふた月後かな?」
「クリスタルの奪取が可能な直近の時期は、2月になりますね」
「仕掛けることは向こうにも割れているだろうね。正面衝突になる……王都は燃えるな」
そう呟く彼の顔が微かに歪んだのを、側近の男は見逃さなかった。
「やむをえません。必要な犠牲です」
「……ああ、そうだね」
──本当に?
そう囁く声が聞こえた気がした。女の声だった。
傲慢不遜で、なのにいつも正義を貫く眩い女の声。
いつもこうして、自分が信じているものを揺るがそうとしてくる女の声。
「……ッ」
ナイトエデンは頭を振って声を打ち消した。
いい加減決着をつけなければならない。
この世界に必要なのは夜空に光る星ではなく、もっと徹底的に闇を打ち消す眩い輝きなのだから。
そうだと、信じたいから。
◇
大聖堂から飛び降りてみんなのところに合流すると、一部の人間が凄い気まずそうにしていた。
「お前、スカートで飛び降りんな。見えそうだったぞ」
言葉にしてハッキリ言ってきたのはリョウだった。
見えねえよ美少女なんだから、と言い返そうしたが、先んじてロイが笑顔で前に出る。
「僕の婚約者をあまりそういう目で見ないでもらえるかな」
「ちっ、ちげえよ! 見たことねえ動物が横切ったら誰だってガン見するだろ、それと同じ感覚だ」
「言い訳なのは分かっているけどその気持ちも痛いほど分かってしまうな……」
「あと……ちょっとでも目を離すとその……何かしそうだろ、その女は」
「まったくもってその通りだ。多分何かされてきたんだね君も」
「ああ……」
ロイとリョウは爆速で打ち解けていた。
わたくしを差し置いて何を盛り上がっとんねん。
「じゃあリョウはわたくしのことを何だと思っているのですか?」
「声がデカくて生命力の強い女」
「でかつよじゃないですか……」
確かにわたくしは小さくないし激強いものの、器は大きいんだぞ。
憤慨しているわたくしだったが、視界の外からちょいちょいと袖を引かれ、いったんリョウから視線を切る。
「さっきはありがとうございました、マリアンヌさん」
ちょっと焦げた聖女の礼服を着たユイさんだ。
風格というか威厳みたいなものはないけど、似合っていて可愛らしい。
「こちらこそ。久々に爽快な戦いでしたわ」
「あはは……でもアレ、連理でしたっけ。何なんですかね? マリアンヌさんを感じることができてよかったですけど」
めちゃくちゃ怪しい言葉遣いをするじゃん。
ちょっとみんなピクッてなってるし。狙ってやってるなら立派だけど全然そんなことはなさそうな顔だし。
「とにかく、次期じゃなくって、これで正式に聖女になりました」
「そうですわね。学校は大丈夫ですか?」
「ちょうどこれから冬休みで助かりました。休み明けからは問題なく通えるようにしておきたいですけど……色々と大変だとは思います」
たはは、と笑う彼女の表情にこちらも笑みがこぼれる。
「リョウたちをよろしくお願いいたします」
「もちろんです。お姉ちゃんとして頑張りますから!」
むん、と拳を作るユイさん。リョウがめっちゃくちゃ嫌そうな表情をしているのは、指摘しないのが優しさか。
「……アナタという日輪は天に輝いて、これから進む道を照らすでしょう」
「私が照らす側なんて、自信ないですけど。でもいっぱい照らしてもらった分は返さないといけませんね」
照らしてもらった? 何が? ああ友達たくさんできたからか。
「私、気づいたんです。私が『大和』の力をここまで使いこなせるのは、みんなのおかげだって」
「絆の力ってやつですか」
「はい。絆を出力に転換することで、私でも太陽になれるんです!」
はは……このセリフで本当に太陽になってるんだから恐ろしいよなあ……
ぶっちゃけアレ勝てるのか分からん。いやそれぐらい強い方が追放されるときに無様に負けられていいんだけど、実際問題、攻略法を色々と考えないと本当に何もできないまま負けそうな気がする。
太陽を宇宙内部に組み込む形の認識でなんとかいけねえかな。でもそうなるとリソース勝負になるしな……
そう考えこみながらユイさんを見つめている時だった。
彼女の顔を遮るようにしてウィンドウが立ち上がった。
SYSTEM MESSAGE ▼
条件を満たしました ▼
【災禍の御末/最後のヤイバ】ルートが解放されました ▼
「…………」
絶叫を必死にこらえた。
今そこに出て来るのは明らかにおかしいだろ!
〇みろっく お、これも隠しエンド?
〇日本代表 は?
〇苦行むり うわ
〇トンボハンター 草
【オイまたですか!? なんでちゃんとしたエンド出てこないんですか!?】
〇みろっく このタイトルは詳しくない、どういうエンドなの?
〇火星 教会の頂点にたって全人類を救済するエンドじゃなかったっけ
〇みろっく 追放じゃなさそうなのはいつも通りとして……ハピエンってこと?
〇外から来ました 全然違う
【いや……えっと……全人類を救済って言葉でハッピーを連想する方がおかしいでしょう?
ていうかなんでわたくしが教会の頂点に立つことになるんですか??】
〇鷲アンチ いや……ユイと一緒に権力を掌握する、みたいな感じじゃないか?
〇宇宙の起源 連理だっけ、リンクしたからそういうフラグが立ったのか?
〇火星 ちなみに当然ながら救済って全人類の意識が統合される感じのラスボスが言う救済だから
【ですよねー……】
〇日本代表 お前マジでいい加減にしろ 推しの一面として認めるしかないけど絶対に認められないエンドなんだよそれ
〇つっきー 心が二つあるじゃん
〇無敵 人類補完計画、お前なら成し遂げられる
〇第三の性別 全人類が流星教になるのめちゃくちゃ嫌だな
【上でもう言われてましたけど、一応、念のためになんですが、これって全人類の意識を統一した上でわたくしだけは合流しなかったら追放ってことになりませんか?】
〇日本代表 普通に詭弁だし何よりあのエンド無理だから無理
〇スーパー弁護士 お前、審判の私情でアウトってわけ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
お読みくださりありがとうございます。
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コミカライズが連載中です、良かったら読み終わった後のgoodもお願いします。
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