表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/294

PART20 無秩序で雄弁な宙《そら》の希望

 大聖堂の地下深くに眠っていた太古の聖堂。

 初代聖女が使っていたというそれは、元々老朽化していた上に度重なる戦闘を行った結果、既に廃墟と言って差し支えないほど荒廃していた。


 だが──まだ戦いは終わっていない。

 規模こそ小さいものの、七聖使(ウルスラグナ)が一席である『混沌(カオス)』が顕現し、その泥の体で聖堂内のチャペルを満たし、自らは欠けた聖像を象って姿を形成している。


『ふはっ』


『ふははは』


『ははははははははははっ!!』


 嗤っていた。

 臨海学校の時とは違い、最初から人類の言語を理解し、奴は嗤っていた。

 浅はかな存在、矮小な生命、吹けば飛ぶ小さな灯。

 そういったものに過ぎない人類という存在を、嘲っていた。



〇外から来ました 前回も伝えたけど再確認しておくぞ

〇外から来ました 俺の権能は一個体であることと総体であることが両立している

〇外から来ました というかそういう概念を全部曖昧な状態にする効果があるんだ

〇外から来ました 最悪なことにお前の前にいるそれは元々枠組みに押し込められていたところから漏れ出している

〇外から来ました だから権能をフルスペックに近い形で使ってくるはず

〇外から来ました 唯一の救いは本当にただ漏れ出しただけってところだ

〇外から来ました 規模としては極小規模のはずなんだが……



「あれ? わたくしってユイさんでしたっけ」

「マリアンヌさん何言ってるんですか!?」



〇火星 ぎゃああああああ引っかかってるうううううううう!!

〇外から来ました 言ったじゃん!!前にも言ったし今言ってたじゃん!!



 ハッ!

 あ、危なかった……普通に影響食らってたわ。

 前回は全然効かなかったはずなのにどうなってるんだ。出現方法が変わるだけでここまで変わるのか?

 ていうかユイさんは効いてねえじゃんかよ!



〇日本代表 多分だけど、元々太陽は輪郭が曖昧だからだろうな

〇つっきー それで押し通せるのか!?そんなことが許されていいのか!?



「だったら宇宙も広がり続けているので輪郭とかないですが!? はい論破!」


 そう叫ぶと同時、全身に力がみなぎった。

 論破できたっぽい。



〇つっきー お前……神域権能と神域権能の激突をレスバで突破すんなよ……

〇宇宙の起源 これでこそなんだよねえお嬢はねえ!

〇一狩り行くわよ これレスバって言うの?自分の主張を叫んでいるだけじゃない?

〇power 持ち味をイカしているッッ



 わたくしに対する賞賛とアンチコメントが交互に来た。

 温度差で『ととのい』とかいうやつが生じてしまう。まあ実感したことねえけど。


「っとぉ!」

「フッ!」


 正気を取り戻した刹那、わたくしとユイさんは同時にその場から飛び退いた。

 殺到してきた泥の触手が聖堂の床を粉砕する。

 見た目とは裏腹に硬質化しているのか──いや、そういう問題じゃなさそうだ。

 硬くもあり、柔らかくもあるのだろう。二つの状態を兼ねているのだ。


「ユイさん! アレは────」

「二つの事実的位相を重ねているんですよね! どちらも取りつつどちらも否定することで、攻撃を一方的にすり抜けつつ当てたりしてくる……!」

「…………」


 なんか完璧な説明が飛んできて、私は『流星』の足場の上に着地しながら黙った。


「マリアンヌさんと連理しているからだと思うんですけど、『混沌』の情報が流れ込んできます! すごい、こんな分析能力が『流星』にあるなんて……!」

「いや……わたくし、知らないんですけどそれ……」

「えっ」


 転生オリ主より知識チートしてる原作主人公がいるってマジ?



〇power 競うな そっちは無理だ



 テメェ新顔だと思って好意的に見てたら全然アンチじゃねえかこの野郎!!

 怒りに震えながらも、わたくしはかっとんできた泥の触手を数十枚重ねた流星ガードで受け流す。精神への干渉と物理的な威力、どちらもこれだけガードを重ねれば遮断できるようだ。


「ユイさん!」

「ちゃんと見てましたよ──六重祝福(ブレッシング・ヘキサ)!」


 フルスペックの『大和』だが、やはりその力を引き出すためには祝福という形式を守るのがやりやすいのだろう。

 しかし今発動した聖女の力は、感じる存在の重みや規模が以前とは段違いだ。


「先生を返してください……ッ!」


 自分で作った足場に留まっている私とは違い、ユイさんは聖堂の床に立ち、ゆっくりとチャペルに向かって歩き始めた。

 近寄る『混沌』の泥が、円を描く一定圏内に接した瞬間にジュッと音を立てて蒸発していった。ペイントソフトの消しゴム機能で色を消してるみたいな光景だ。


「え……強……わたくしの出番ないのでは……」


 今回は『混沌』を殲滅、あるいは元居た場所に弾き戻すのが目的だ。

 ハッキリ言ってもらい事故みたいな突発戦闘なので、さほどモチベーションもなく、このままユイさんに任せてよさそうなものだが……


「マリアンヌさん」

「はい?」


 眩い太陽の神秘を身に纏う聖女が、泥の中で足を止める。


「来ます」


 直後、聖堂中で荒れ狂う泥の中から、何人もの人影が立ち上がった。

 否──それは泥で象られた存在。不定形でありながらも尖兵としての形を明瞭なものとした、わたくしたち二人を殺害するための特殊攻撃フォーム。


「さっきまでは外殻担当だったはずですが……ああいえ、臨海学校でやってましたわね。見たことがあるのはこっちが先でしたか」


 足場から飛び降り、おっかなびっくり泥の中に着地する。

 展開している宇宙と『混沌』の泥が接触した瞬間に、泥の方がブチブチと音を立てて弾けていった。良かった、このレベルならわたくしも弾けるっぽい。


()ッ」


 ユイさんの体がブレた。遅れて足元の泥が蒸発する。

 間合いを詰めた瞬間に格闘戦闘が始まる。兵士たちは自分の体を刃や盾に変形させ、即座にユイさんに打ち砕かれ、瞬く間に再生した。

 やはりというべきか、ユイさんの太陽領域(これ表現合ってる? 合ってるとしても人間に使う表現じゃないよな?)の中に入っても泥の兵士たちは蒸発しない。



【ユイさんが本当に太陽を再現しているのならコロナの層を突破しているということで、コロナの層って百万度以上の温度なんですけど……】



〇無敵 物理法則で考えすぎるな

〇外から来ました 性質を考えるのなら、兵士たちの出力を上げることで『熱の影響を受けない状態』と『熱の影響を受ける状態』を混在させてるんだろうな



【……あの、そんなんされたら何でもありになっちゃうのですが?】



〇外から来ました すみません……本当にすみません……

〇つっきー 腐っても世界を守るための概念として選ばれた七つのうち一つだからな

〇鷲アンチ 今思い出しても外宇宙からこいつらが飛んできたときの絶望感凄かった

〇火星 二度と戦いたくない

〇苦行むり 戦いたくても戦えなくなったのでセーフ

〇外から来ました 本当にすみません……本当に申し訳ないです、すみません……



 担当らしき神がコメント欄で平謝りモードに突入していた。全然激熱じゃないモードだ。謝ってる暇があったらこの狂った世界をなんとかしてほしい。

 まあ神頼みなんて性に合わないから別にいいや。自分の……いや、自分たちの手でなんとかするよ。


「とりゃあああああっ!」


 ユイさんに背後から右腕の槍を突きこもうとしていた泥野郎の頭部に、真横から膝蹴りを叩きこむ。

 パァン! と音を立てて頭が丸ごと吹き飛んだ。

 もんどりうってひっくり返った泥野郎の首から下だったが、周辺の泥を補填して頭部を形成すると、迅速に立ち上がる。

 これユイさんとリンクしてるからダメージ通ったけどわたくし単体だとノーダメだったな。結局さっきまでの輻射波動ごっこ、外殻には何もできなかったし。


「無限再生持ち相手に付き合ってられないんですが」

「同意見です」


 ユイさんと背中合わせに立ち、泥人形共をギッと睨みつけ、そのまま視線を横へスライドさせる。


「殲滅しましょうか」

「こっちは任せてください」


 刹那、同時に動き出す。

 わたくしは右手を天井に向けてかざし、頭上に魔法陣を展開。そこから圧縮した流星レーザーを無秩序に乱反射させて放つ。

 ユイさんは震脚で聖堂の床を踏み砕き、まるで地の底から湯水が湧きだすようにして神秘の輝きをぶちまけ、波濤として叩きつける。


『ふはっ』


 聖像の醜い笑い声が聞こえた。

 わたくしたちを取り囲んでいた泥人形たちが、その根っこの泥ごと蒸発させられて消え去っている。

 だが聖像を起点として、『混沌』の泥は絶え間なくあふれ続ける。


「本体を砕きましょうか」


 首をごくりと鳴らして告げた、その瞬間だった。



『────ふは』



 カチリ、と世界が切り替わった。

 地下深くに眠っていた太古の聖堂にいたはずなのに、頭上には星が一つもない夜空が広がっている。


「これは、世界を切り替えたんですか!?」


 臨海学校でルシファーやファフニールもやっていた世界の上書き現象だ。

 今回は上書きしたというよりも、聖堂とこいつの世界を混ぜられたんだろう。


「面倒ですわね、わたくしの宇宙で上書きして──……っ」


 その瞬間だった。

 視界がぐらつき、足がふらつく。

 ユイさんがとっさに受け止めてくれなければ、その場に倒れ込んでいた。


「ぐ、ぅっ……?」

「どうしたんですか!? マリアンヌさん、マリアンヌさんっ!?」


 わたくしの『流星』が圧迫されている。息が詰まる。権能がバラバラに砕けてしまいそうになる。

 何か、根幹的なところで干渉を受けている。



『──ふはっ、はははは。流星は宇宙の中で輝くもの』



 聖像から垂れ流されるおぞましい声。

 そうだ、その通り、宇宙の中でこそ輝くのがわたくしだ。

 で、何なんだよこれは。



〇外から来ました あぁ……うん……性質上、その……外宇宙から飛来した俺の権能だから、『流星』を包括しうるんじゃないかなあ

〇つっきー 『流星』を確実につぶせる権能ってこと? 

〇火星 なるほどな。対禁呪保有者を意識して組んでるとは言っていたから、相性差で確実に勝てる組み合わせを作っておくのは自然だな



「マリアンヌさん大丈夫ですか!?」

「……っ、大丈夫ですわ」


 垂れ流されるがままにこちらへと這い寄る泥の流れを、ユイさんが太陽フレアを放出して蒸発させている。

 頭を振って、彼女に寄り掛かる形でなんとか立ち上がった。


「わたくしの『流星』が、『混沌』に包括されそうになっているようです……相手が宇宙の権能だから、相性差があるようですわね」

「え? ……これが、宇宙?」


 わたくしを支えながら、ユイさんが周囲を見渡す。

 光のない、見ているだけで体の内側がうすら寒くなってくる景色。



『そうだ、宇宙だ、おまえが最も輝く場所だ』



 泥の神の言葉が、何かの予言のように荘厳な響きを持つ。

 孤独で、一人ぼっちで、どこまでも続く無為の空間。


 ……大体わかった。

 わたくしが『流星』を活性化させるフィールドとして宇宙を提供し、しかし宇宙そのものをデバフに反転させることで、わたくしの権能を抑え込んでいるのだろう。


『私はお前を知っている。マクラーレンの時もそうだった、海の時も、今も、ずっと自分を未知の領域へと投機している。故にお前が輝く場所はここが相応しい』


 ユイさんがこちらをちらりと見た。

 孤独そのものである宇宙の中でも、彼女の瞳には変わらない輝きがある。

 だからわたくしは何度だって立ち上がれるし、何度だって叫ぶことができる。


「オイ! 勝手してんじゃねーですわよ泥野郎!」

『……?』


 ビシイと聖像を指さした後、わたくしはそのまま右手を偽りの天へとかざす。




「こんなものが宇宙であってたまりますか!!」




 バキン!! と音を立てて、偽物の宇宙が切り裂かれ、元の聖堂へと光景が回帰した。


『…………なるほど』

「薄汚い破滅願望を形にしただけのセンスの欠片もない落書きに宇宙なんて名前つけてイキってんじゃねーですわよ!」

「マリアンヌさん流石に言い過ぎじゃないですか……?」


 ゼエハアと肩で息をしていると、ユイさんからやんわりと注意されてしまった。

 自分でもちょっと言い過ぎかなという感覚はあった。


『では、やはり、輝きを奪うとしよう』

「黙りなさい! 混乱と破壊をもたらすことしかできない分際で、よくもまあ正義の味方集団の一席を名乗れますわね! 子供たちのクリスマスをぶち壊しにしたこと、恥を知りなさい!」


 思いきり罵声を浴びせると、『混沌』の動きが緩やかに遅くなっていき、最終的には静止する。

 え? どうした?

 なんか効いてるっぽいじゃん。サンタクロース志望だったりしたのか?


「……っ、マリアンヌさん」

「どうしましたか?」

「『混沌』がギリギリでリンク対象に掠っています。今反応が出てきました」

「え。それは、その……人格あるっていうことです!?」


 ユイさんが小さく頷く。

 い、いや落ち着け、手持ちの情報を照らし合わせて考えるのなら、この『混沌』というのはかつてのお父様の戦友、グレイテスト・ワンのはずだ。

 そして権能のオーバーロードに耐え切れず人間を辞めてしまったみたいな感じのはずなんだが……あ? わたくし会ったことあるんだっけ? いやそれは今はどうでもいい!


「人格のサルベージは可能ですか?」

「多分、今は無理です……リンクできそうな気配を、聖像の奥に感じる程度で……」

「なるほど、ルシファーの端末顕現に近い形ですか」


 最近は全然見かけないけど、元はあいつの端末と遭遇したことで色々と始まった感じがあるからな。

 そう思っていると、背後で気配が膨れ上がった。また出てきたのかよ。


【理解の方向性としては合っているが、厳密には差があるな。おれの場合はあくまで観察を主目的としているが、やつの端末は端末にあらず、斥候と本命を兼ねている。いけそうなら無限に増殖することで世界侵略を完了してくるぞ】


 ハッピとハチマキを装備したルシファーが、赤いペンライトを輝かせながら補足してくれた。見た目のせいで一ミリも参考にしたくない。


「……チャンスですわね、決めに行きましょう」

「でも、先生が」

「使えるものは使っておきましょうか」


 わたくしは上を指さした。

 上を見上げて、ユイさんがハッとする。


「じゃ、よろしくお願いします」


 向き直った瞬間に、『混沌』がこちらを睥睨する。目はないものの、視線を感じる。


「不躾な……!」


 呪詛の込められた視線を腕の一振りで弾いて、泥の中を直進していく。


『マクラーレンは元気か?』

「アナタが知る必要はないでしょう」

『私のやっていることは間違いか?』

「ちょっと、アナタ……いろんなものを混ぜすぎて、自分のことすら分からなくなってませんか……?」


 泥の兵士がもがき苦しむような動きと共に現れ、行く先をふさぐ。


「邪魔」


 裏拳を顎に当てると、きゅぽっと変な音と共に首から上が吹っ飛んでいった。


『……違う。私は秩序を乱し、物語を破綻させる者。感傷にあらず、情念にあらず、舞台装置として嵐を巻き起こす者』


 滔々と告げられる事実は、明らかに何かを覆い隠そうとしていた。

 思わず声をかけそうになったが、ぐっと堪える。今はそこを触っている場合じゃない。


「ユイさん、同時攻撃です」

「はい」


 小さく呟くと、音もなく聖女がすぐ隣に現れる。


「いっせーのーせで飛んで、それから同時にキックですわ。悪役聖女令嬢流星墜落キックで行きましょう」

「タイミング全部相手に教えちゃうんですか? 流星墜落キックだと明らかにネガティブに聞こえるんですけど、あと悪役聖女令嬢ってなんですか?」


 信じられないレベルでタコ殴りにされてしまった。

 わたくしは肩を落とし、もういいです……とぼやく。


「じゃあ、とにかく行きますわ!」

「はいっ!」


 床を蹴って二人して同時に飛び蹴りを放つ。

 掛け声がないからまったくテンション上がらんものの、威力自体は、多分地球を何回か砕けるぐらいあるはずだ。主にユイさんが悪い。

 直撃はまずいと察したのか、聖堂中を満たしていた泥たちが結集し、防壁を形成する。


『神へと至る道に触れるな小娘共が──!!』

「神なんかどうでもいいんですけど! わたくし流星ですから!」


 バチィ!! と音を立てて、防壁を砕くと同時にわたくしとユイさんが後方へと弾き飛ばされた。

 威力の余波で泥が吹き上がり、呑み込まれていた先生の腕が露わになる。


『笑止! 流星の輝きではなく、底なき混沌の闇こそが!』

「ならもっと笑ってくださいよ、ちゃんと分かりやすく!」


 ニヤリと笑いながら『混沌』に問いかける。

 向こうも気づいたのだろう。こちらの様子を見ていたはずの、リョウの姿が見当たらないことに。




「無刀流改──烈・禍ッ!!」




 泥を砕いて飛び出したリョウは、フル出力の『大和』の加護を受けているだけあって、デバフを受けたりした様子はない。

 そしてその腕には、『混沌』の顕現と同時に泥に呑まれてしまっていた先生が、ぐったりした様子で抱えられている。


「リョウ! 超ファインプレーですわね!」

「こっちはやることやったぞ、後はそっちだ!」


 追いすがる泥を手刀で切り落としながら、リョウが即座に退避する。

 ユイさんが真の意味で聖女になり、初めて加護を与えた相手がリョウというのは──運命的でいいじゃないか。

 これで条件はクリアした。


「マリアンヌさん! 後は思いっきり叩き込むだけです!」

「いっせーのーせ! いっせーのーせですわよ!」

「すみません! 実はリンクしてるので、タイミングとか全部分かります!」

「…………はい」


 じゃあさっきなんで一緒にやってくれなかったんだよ、と心中でキレながら。

 わたくしはユイさんと共に前へと踏み出し、大きく跳躍した。


『……!! 摂理の果てより来たれ!!』


 決着の刹那と感じたのか、『混沌』も新たな泥をぶわっと呼び出し、それを三角錐状に構築してこちらへと突き込んだ。

 真っ向勝負か、やるじゃねーか。だがわたくしたちの方がずっと熱くて眩しいんだよ!


 矢のように引いた右の拳。ユイさんも同様に引いている左の拳。

 視線を重ねて頷いた後、『混沌』めがけて二つのパンチを叩き込む!






「「超必殺・悪役聖女令嬢聖夜殲滅ダブルパァァ────────ンチッッ!!」」






 狙い過たず──三角錐の頂点と拳が激突し、飛沫を飛ばしながら泥を粉砕する。

 先端から順に粉砕していった果て、泥の聖像の中心点に、わたくしとユイさんの拳が直撃する。


『こ、れは……っ!?』

「ていうか! アナタが来た理由ホント意味不明なんでとっとと帰りなさい!」

「そうですそうです! マリアンヌさん相手に宇宙詐称なんて本当に重罪なんですからね!」


 激しくスパークしながら神秘と神秘が激突し、砕き合う。

 刹那に直感する。『混沌』がダメージを受けている状態と受けていない状態を混在させて逃げようとしている。馬鹿が逃がすか!


「アナタの宇宙よりわたくしの宇宙の方が大きいから、内側で包括されているのはそっちですわ! だから逃げる場所なんてありませんわよ!」

『……!?』


 状態を固定! お前はここで散れ!

 リンク先のユイさんからリソースを拝借して、わたくしは背中に生えている流星の輝きの翼からアフターバーナーの要領で加速推力を吐きだした。


「「とりゃああああああああああああああああああああっ!!」」


 裂ぱくの叫びと同時。

 泥の奥にひときわ固い何かの感触を捉えた直後、二人の拳がそれを打ち砕く、甲高い音が響き渡った。






 ◇






 白い煙を上げて、泥が潤いを失っていく。

 床に固着したそれらから、もう神秘を感じることはない。

 祭壇に転がっている聖像も、半ばでへし折られる形で砕けている。


 聖像をめしゃりと踏みつけにして、わたくしは右手で天を指さした。






「記憶をなくしても魂の輝きは変わらず! 最強の令嬢ことマリアンヌ・ピースラウンドの疾走する道はずっと変わらない、天空へと続く常勝の覇道! 清純派日常の象徴可愛い幼馴染系ヒロインすらやれるという事実を引っ提げて凱旋ですわ! わたくしがいなくて寂しかったエピソードを一人五個は話しなさい、全国放送でッ! オーッホッホッホ!!」









「俺の初恋返してくんねえかな」

「リョウ今なんて言いました?」

「ヒッ! こ、怖い姉さん顔怖い顔顔!」


 視界の片隅で、姉弟が密着に近い状態でなんかわちゃわちゃしていた。

 仲がいいのはいいことだなあ。ヨシ!




お読みくださりありがとうございます。

よろしければブックマーク等お願いします。

また、もし面白かったら下にスクロールしたところにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価を入れてくださるとうれしいです。


コミカライズが連載中です、良かったら読み終わった後のgoodもお願いします。

https://ichijin-plus.com/comics/23957242347686

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 混沌の本質は量子の嵐かあ だとしたらたしかにこのふたりとの相性悪いですね。太陽で照らし流星で貫けば泥の奥底にあろうが観測されてしまう。 え? 流星そんなにいらない? 代用可能? ………………
[良い点] このChapterの敵は倒したな?天を差し勝鬨を上げたな?後は年末まで何もすることはないな? では──マグロ・ポンテンヴィウス狩りだ!!! [気になる点] なんとなく「マリアンヌの事だしま…
[良い点] 何を見て「ヨシ!」って言ったんですかねぇ? [気になる点] 大丈夫だリョウ。 こんなんでも世界一ってか、宇宙一の美少女だから……こんなんでも(遠い目 [一言] RPGなら流星はもう火力不足…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ