PART23 国王は強キャラ
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【原作に】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【流星】
『1,765,785 柱が視聴中』
【配信中です。】
〇日本代表 責任者
〇日本代表 なあ
〇日本代表 怒らないからさ
〇日本代表 既読つけて
〇日本代表 まだ間に合います。
〇日本代表 責任者さん。まずは連絡してください。
〇日本代表 一緒に相談しましょう。
〇日本代表 問題を明らかにするのが解決の第一歩です。
〇無敵 本当に怖い
〇日本代表 怒っていませんよ。
〇雷おじさん はい
〇日本代表 はい。
〇日本代表 状況を報告してください。
〇雷おじさん キャラ全体の、ステ上限値、を、その
〇雷おじさん 前回の設定をリセットした際、
〇雷おじさん 代わりに保留用の数字打ち込んで、
〇雷おじさん ……そのままにしていました
〇日本代表 分かりました。
〇日本代表 具体的に、保留用の数字はいくつですか?
〇雷おじさん ∞です
〇日本代表 は?
〇雷おじさん すみません京都に究極の京美人を探しに行かせていただきます
〇日本代表 逃げるなアアア! いや……いや、マジで! ホントマジで逃げるなアアア!
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位相のズレた空間にて。
一言目で国王がキレてしまったので、わたくしは肩をすくめて嘆息した。
これだから年食ったやつは困るぜ。
「メチャクチャ失礼なこと考えとるだろ今。もう表情で分かるからの」
「……ッ!」
わたくしは真剣に猫耳メイドがベッドの上で頬を赤らめて『ご主人様、まだかにゃん?』と聞いてくるシチュエーションの可能性を考察し始めた。
「メチャクチャやらしいこと考えとるだろ今。もう表情で分かるからの。なんで今考えた? ちょっと詳しく聞かせてくんない?」
「思ったより興味を示してきましたわね」
なんだこいつ、と胡乱な視線を向ける。
国王は気を取り直すように咳払いすると、話を再開した。
「まあ実際問題ね、二人目の禁呪保有者、それも現時点で相当に使いこなせてる人材が生えてきたのは嬉しいのよ」
「人をタケノコみたいに言わないでくださいます?」
「でもそなたにょっきり生えてきたじゃん」
「まあ……それは……いややっぱりその擬音にはかなり抵抗がありますわ!」
人はにょっきりとは生えねえ。
「というわけでね。悪魔が禁呪に手を出したのは論外としても、ぶっちゃけわしは全然そなた処刑にしたくない。もう全力で飼い殺したいの」
「本人にそれ言いますか」
「結論は定まっているからの。あとはそなたの同意が欲しい」
「交渉、ですらないのですね」
「お互いに切れる手札があって、交渉は成立するものだわい。そなた、何を切る?」
ケラケラ笑ってるが、今のは死刑宣告に近い。
なんだよ。人の良さそうなツラして、自分はお前の味方だぞって空気で、首絞めに来やがったな。
タヌキ野郎が。
「よいか、ピースラウンドの娘。ここで正面から殺し合えば、99%わしが勝つ」
断言だった。悔しいが言い返す余地はない。
1%の確率で、天才マリアンヌは逆転の一手を思いつくだろう。あらゆる状況でも、勝利を手繰り寄せる能力があることは自負している。
だが……相手が圧倒的な格上なのは、この空間に連れてこられた時点で明瞭に分かりきっていた。1%を最初に引き当てられなかったらジ・エンドだ。
「だからこの場でどうするかではなく、これから先どうするかの話が大事だぞい。わしの提案をよく考え、それから是非同意してほしい」
「……ええ。理解しましたわ」
「良い子じゃ。あと年が20近ければ、夜に酒でも誘いたかったわい」
「20近くてもそういうのは行きませんわ」
「……ま、まあそれでも年が離れすぎておるしな、うん」
「老年男性特有の『自分が若ければ若い女もなびいてくれた』という負け惜しみ、本当に聞いててきついので止めた方がいいですわよ」
「カヒュ」
国王は胸を押さえて玉座からずり下がった。
「コホー……コホー……」
「思ったより致命的に入りましたわね……」
1%引いたわ。わたくしの勝ち!
しばらく待っていると、なんとか心肺機能の蘇生に成功したらしく、国王が玉座に座り直す。
「あ、危なかったわい……親父殿の顔が見えていた……心臓を風で圧迫しなければ昇天しておったわ……」
「便利ですわね、そちらの……ええと、『烈嵐』だったでしょうか」
「ああ、うむ。七種ある禁呪の中でも、最も汎用性に長けた代物だわい。正直いくら『流星』に選ばれたからと言ってもそのまま習得する奴の気が知れん」
「結構直球の悪口が飛んできましたわね……」
ムカつくが、そんな気はしていた。
相対した『激震』は、恐らくは振動衝撃を纏わせることで防護壁にも、不可視の攻撃にもなっていた。
そして『烈嵐』もまた、自分で心臓マッサージをしたり、空間の位相をずらすことすら可能にしている。
それ比べるとなんというか。やだ、わたくしの『流星』、応用が利かなさすぎ……?
〇ミート便器 そもそも原作だとどのルートを目指しても禁呪七つは出てこねえんだよなあ
〇適切な蟻地獄 OSTのライナーノーツに一応名前だけ出てくるんだっけ?
〇火星 流星と激震と烈嵐と禍浪と灼焔だけだな名前出てるの、それも明確に使い手が出てきたのは禍浪と灼焔だけだし
なんかコメント欄に情報がドバーッと出されていた。
どうやら連中にとってもかなり予想外が続いてるらしいな。
「それで、提案は単純だわい。そなたが禁呪保有者であることは、見てしまった者たちを例外として国家機密扱いにし箝口令を敷く。そなたの存在を秘密にする代わりに、わしと同様に禁呪を修めているであろう他国の禁呪保有者を潰して欲しい」
「……直球ですわね。わたくしを戦力として認めると」
「禁呪保有者の数は国力に直結する。二人目が生まれたことはこれ以上ないアドバンテージになる」
重々しい、実感のこもった言葉だった。
「あら? 騎士で対抗できるのでは?」
「答えはNOだ。それなりに育った騎士なら大勢居るが、結局の所、極まった禁呪保有者に対抗できる極まった騎士を生み出すには至らなかった。そなたぐらいのレベル相手ならまだ対応できるかもしれんが……いやなんかそなた、とんでもねえことしでかして勝敗をひっくり返してきそうなんだよな……」
戦法に関してはそれなりに悪印象を抱かれていた。
まあ祝福重ねがけはちょっと自分でもゲーム脳過ぎるとは思ったしな……
「そもそも教会とは、禁呪保有者に依らない戦力を生み出すための祝福システムを運用する、単なる場に過ぎん。建国の英雄が祝福システムを開発し、神の加護が強い者の手によって純化した強化加護を授けて騎士を生成できる仕組みを整えた。それが近年は勢力闘争に明け暮れ、困ったもんだと思っておったわ」
「……もしかしてわたくしが聖女を、ついでに教皇の失態を暴いたのは」
「偶然ながらも幸運だった。いやもののついでで暴くようなスケールじゃなかったけどね。だから手出しできなかったわけだし。そこは本当にどんな偶然だとは思うが……感謝する」
国王がまた頭を下げる。
さすがに理解が追いついてきた。
この人、周りに与えている印象と内実がかなりかけ離れている。それも計算してのことだ。
顔を上げたとき、そこには一国を背負う王の気迫があった。
「よいか。大賢者セーヴァリスは確かに、禁呪を平和のために開発した。七種の禁呪を用いて、大陸を二分する大戦争に幕を引いた。だが……統一は成らず、七種の禁呪も散らばってしもうた」
「はあ」
「現状の世界が、平和であろうハズもない。極めて危ういバランスの上に成立している、一時的な小休止に過ぎん」
「はあ」
「一切の脅威を葬らぬ限り、真なる平和は訪れない。無言の抑止力は、争いを根絶するのではなく押し留めるだけだ。いつかはせきを切る」
「……」
「わしに温情を感じる必要はない。君を使い潰そうとしているのだからな……わしはこの大陸に平和をもたらしたい。そのためならなんでもしよう。後世にどれほど暗君と罵られようとも、必ずや成し遂げてみせる。そのためにこそ、王になったのだ」
「……」
「目的のためなら、願いを果たせるのなら、わしは喜んで悪となろう。だから──」
そこまで言って、玉座から立ち上がり、国王アーサーは昏い眼差しで告げた。
「自由という旗を背負い、愛と平和を守り抜くために、力を貸してくれ」
……あ、これリアクション求められてる?
「死ぬほどどうでもいいですわ」
「えっ」
〇鷲アンチ 知 っ て た
〇みろっく ですよねー
〇外から来ました ストレートしか持ち球ねえのか
「まず最初に、こうしてお話しする機会を設けてくださったこと。そしてわたくしに助け船を出してくれたこと、それらに心の底から感謝致します」
「え、あ、うん」
「で、す、が! 僭越ながら申し上げますわ! 悪になる、などという言葉の時点でもうわたくしを説得するのは無理でしてよ!」
闇に閉ざされた世界。
それはまるで、使命のために一切を切り捨てることを厭わない、国王の心象風景のようだった。
気に入らない。気に入らない! もう全力で気に入らねえッ!
「悪とは演じるもの! 悪に成り果てることは思考停止と同義! 投げやりに、ヤケになっているだけの証拠! そんな人間相手に力を貸す者などおりませんわ!」
「────!」
「いいですか国王陛下。悪になってはなりませんわ。完璧に計算し尽くし、最後の一手まで自らの手で配置し! そうして悪という仮面を被り通すこと! それを放棄しての悪役など片腹痛いですわ! 禁呪保有者としては上手のようですが、悪役としてはわたくしの足下にも及びませんわね!!」
〇TSに一家言 めちゃくちゃ偉そうなこと言ってるけどこいつ現状ガバしかしたことないじゃん
〇無敵 全部録音してマリアンヌ・ピースラウンドってやつに聞かせてやりてえよ
〇ミート便器 最後の最後にしれっとマウント取りに行くのやめろ
言いたいことを言い切って、わたくしは深く息を吐いた。
「……ですので。悪になれという相談には応じられません。ですが、悪の仮面をかぶれというのなら。このわたくし、喜んでお力になりましょう」
要はお前のスタンスが気に入らねえからそれだけは改めろ、というイチャモンである。
国王は目を丸くして呆然としており……それから、ゆっくりと、肩を震わせた。
「くっ、くふふふ……」
「何を笑っていらっしゃるのですか」
「ははっ、いや……真っ向から怒鳴られるなど、記憶にはなくてな。随分久しいわい、と思ってな」
「なるほど。もっと怒鳴った方が良いですか?」
「いや遠慮させてくれ。流石に鼓膜破れるかもしれん」
そんなに声でかかったかな。
「……ピースラウンド嬢。感謝する。霧が晴れたような気分だ」
「感謝なんてとんでもございません。当然のことを申し上げたまでですわ」
見れば彼の表情は、晴れやかな物だった。
先ほどまでの昏い諦観はない。
「改めて問おう。世界に平和をもたらすため、わしは悪を演じてみせよう。そのために、そなたの力を借りたい」
「かしこまりました。このマリアンヌ・ピースラウンド。国王アーサー様の下で、禁呪保有者に相対する禁呪保有者として、この力を存分に振るいましょう」
「うむ」
ここに契約は成立した。
飼い殺しと見ようと思えばそうだろう。だがわたくしには勝算がある。
ちょうどその時、この空間が解けていくのを感じた。
位相のズレが元に戻っていく。正常な世界に帰還するのだ。
「……そういえば、忘れそうになっておりました。一つだけお願いがございます」
「ふむん?」
わざとらしくならないよう切り出した。
促され、わたくしは息を吸うと。
「全ての禁呪保有者を打倒した暁には──わたくしと戦ってくださいな」
「……は?」
「できれば騎士団や憲兵団もひっくるめて戦いたいですわ。そう、わたくしを反逆者として扱うレベルでなければ意味がありません」
「何言ってんの??」
訳が分からないと言った様子で国王が目を白黒させる。
崩壊していく世界の中で。
まさかそれに負けて追放してもらうため、とまでは言うわけもなく。
わたくしは剥がれていく漆黒の天空を指さして叫ぶ。
「当ッ然! 誰が相手でも! 異なる禁呪保有者が相手でも! このわたくしこそが最強である、その証明をうち立てるためですわッ!!」
そうして視界が真っ白になっていく。
一連の騒動。
ユイさんとの出会いから、教会との権力闘争を発端としたこの騒動において、わたくしが最後に見た光景は、眩いほどの輝きだった。