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誕生日特別編:流星の少女2022

 "We are such stuff as dreams are made on, and our little life is rounded with a sleep."


 ──William Shakespeare. 『The Tempest』






 ◇◇◇




「ユイさんとけんかをしてしまいましたわ……」


 わたくしは全身に力が入らなくなっていた。

 机にべったりと上半身を投げ出し、鉛なんぞよりはるかに重い息を吐く。


「それで君、元気がないのか。先週ついにPS5が手に入って、空島編の宴みたいなレベルでハシャいでた人と同一人物とは思えないよ」

「あのPS5、絶対アナタが買って業者のふりして送りつけて来たでしょう」

「なんのことかな」


 スマホをとぅるっとぅるにタップしながら、真ん前の椅子に横向きに座りこちらを見るロイは、朗らかな笑顔を浮かべて誤魔化す。

 ミリオンアーク財閥の御曹司はわたくしのストーカーだった。厳密に言えば、高校生であるにもかかわらず跡取りとしてお見合いをさせられまくっていた彼の偽装彼女がわたくしなのだが、それは話すと長いので割愛する。

 ……しっかし、金のない研究者の娘であるわたくしなんかを、偽装のためとはいえ彼女にして何がしたいんだろうかこいつ。


「それで、喧嘩って何があったんだい?」

「……あの子、部室にお菓子を置いてたんですよ。シュークリーム」


 わたくしが部長を務める天文部の部室は、たまり場としての性能を向上させるため冷蔵庫を置いてある。


「食べちゃったのかい?」


 スマホを弄る手を止めて、ロイが頬を引きつらせる。

 わたくしは突っ伏したまま顔を横に向けて頷いた。


「最悪」

「分かってますわ。だから同じものを買ってお渡ししたのですが……どうもその日から機嫌が悪く……結果的に賠償しているのに……」

「ふむ……」


 ロイは腕を組んで唸った後、指を一本立てた。


「例えばなんだけど、君が僕に本を貸したとしよう」

「はい」

「僕は意図的ではないものの、その本にコーヒーをこぼしてしまった。そこで僕は新品を用意してから、こぼしてしまったこと、代用品を購入したことを同時に告げて、謝罪と共に新品を渡した」


 ……あー。


「まず言ってくれよ、と思わないかい?」

「思いますわね……」


 痛いところを突かれた。

 新品を用意したのは、要するには補填もなしにただ謝るのを避けたことを意味する。それではこちらがノーガード過ぎるから、と嫌がったのを否定ですることはできない。


「君は信頼関係を、物質で補填しようとしてるんだ。よく女子の怒るポイントが分からないって友達から言われるんだけど、彼らの大半はここに気づいていない。帳尻さえ合わせれば問題ないというのは大きな間違いなんだ」


 ぐうの音も出なかった。

 こいつわたくしより女心分かってねーか?


「……ありがとうございます。ユイさんにもう一度謝ってみますわ」

「それがいいよ。じゃあそろそろ部室に行くかい?」


 ええ、と頷いてわたくしはスクールバッグを手に取って立ち上がる。

 教室を出ると廊下の窓から冷たい風が吹き込んできた。そろそろ二学期も終わるころだ、冬は一層厳しいものになる。


「……アナタは」

「うん?」

「そうやって相手がなぜ怒っているのかを分析したことがあるのですね、女子相手に」

「…………」

「大層おモテになるようでよろしいですわねぇ~」


 隣を歩くロイの足をげしげしと蹴る。

 ローキックを受けながらも彼は、学園の王子と謳われるに相応しい爽やかな笑みを浮かべた。


「妬いてくれるのかい? 僕は彼女である君にさえ相手してもらえたら、それで十分なんだけどね」


 ぷい、とわたくしは顔を背けた。

 ああああああああああああ! 顔熱い!! なんで偽装彼女にまでそういうこと言うのかなあ!




 ◇◇◇




 結局部室に行ってから、ちょっと用があると言ってユイさんを外に連れ出して謝り、なんとか許してもらうことには成功した。

 代わりに一月一日、つまりわたくしの誕生日に共に初売りに行くという約束を取り付けられたが、これは元々行くつもりだったので構わない。


 というわけで、わたくしたちはショッピングモールに来ていた。


「マリアンヌ、ここ7階にメイトあるわね」

「むっ」


 フロアマップを一瞥した瞬間、カサンドラさんが目ざとくメイトを発見していた。さすがの観察眼である。

 高校の入学式にて、新入生代表挨拶で講堂の全員に『入試でわたくし以下の成績だった皆さんこんにちは!』とマウントを取ったところ完全に孤立したわたくし相手に、カバンの中にラノベが入っているのを見逃さず友人になりに来た女は伊達ではない。


「いいですわね。今月の新刊でも買いに行きますか?」

「いやいや、一応今日は初売り買いに来たはずなんだけど」


 もこっとした服装のリンディが頬をひきつらせる。

 彼女の隣ではぶすっとした表情のユイさんが『言うんじゃありませんでした……せっかくの誕生日デートが……』とぶつぶつ言っている。


「ほらユイさん、人がたくさんいますからはぐれないように」

「え? あ……はい!」


 手を差し出すと、ユイさんは一転して笑顔になり、わたくしの腕に抱き着く。

 いや手をつなごうかなぐらいのノリだったんだけど……まあ……役得だしいっか!


「それはそれで邪魔でしょう」

「普通に人とぶつかるから辞めといた方がいいわよ」


 他の二人からはボロクソだった。

 わたくしのすぐ隣から『チッ!』とかなりデカめの舌打ちが聞こえた気がしたが──まあ美少女であるユイさんは舌打ちなんてしないので聞き間違いだろう。




 ◇◇◇




「このコート、いいわね……」


 ショッピングモールのファッションフロアについて店を見て回っていた時。

 カサンドラさんが目をつけたのは、薄いピンク色のコートだった。


「意外ですわね、そういう色も好きなのですか?」

「似合うと思うわよ、黒髪の子って意外とこういう色合うから」

「はあ……ん!? もしかしてわたくしに似合うかどうかで見てます!?」


 なんで仮想マネキンわたくしなんだよ! 自分の服見ろよ!

 ただ、よく見ればちゃんとカラバリのあるコートだった。

 わたくしはピンク色の後ろから、白のバージョンを引っ張り出す。


「こっちならカサンドラさんにピッタリでしょうね」

「貴女も自分じゃない人で見てるじゃないの……」


 呆れたように肩をすくめるカサンドラさん。

 顔立ちが女優顏負けなので普通にサマになっており、ちょっと萌えた。


「うっわ、あれ着るつもりよあいつら」

「身長ある人しか着こなせませんよね……」


 後ろを見れば、ユイさんとリンディが恨めしそうな視線を向けている。


「お二人も着てみればいいのではなくて?」

「最近流行りのこういうロングコート、私たちだと親のを着てきたみたいになるのよ」

「せめて横にももっと広ければまだ着れたんですけどね……」


 その言葉はその言葉で敵を作るだろとは思ったが、これ以上ヘイトを稼ぎたくなかったのでぐっとこらえることにした。


「大体、背が高くて足が細いなんてもう何着ても最強じゃないのよ!」

「そうですよ! ずるです! ずる! ずーる!」

「まあ確かにカサンドラさんは何着ても似合うと思いますが、それを言うならお二人もなのでは……」

「貴女は顔でしか判断してないでしょう」


 美少女は何着ても似合うと思ってるんだけど、現実はそう甘くないらしい。

 悲しいね、バナージ……


「背が低い人用の服なんてこの世に存在しないのよ! アパレル業界は身長165cm以上の人間用の服しか生産しない縛りによってデザインの出力を底上げしているに違いないわ!」


 演説してる時のギレンみたいな勢いで世迷言をぶち上げるリンディ。

 そういやこの間ウチに遊びに来た時、わたくしとユイさんがモンハンやってるの完全に無視してずっと呪術読んでたな……こいつさては帰ってから全巻ポチっただろ。


「とかなんとか言ってますけど。わたくしたちにも似合わない服はあるでしょう?」

「どうかしらね」


 クールな笑みを浮かべてカサンドラさんは首を横に振る。


「顔も身長も完全に勝利してしまっているから、(わたくし)たち、正直何着ても注目されると思うわよ」

「「ハ????」」

「カサンドラさん! あっちの二人、神楽が河童釣りあげた時の銀さんと新八みたいな顔になってますわ! わたくしたち殺されますわよ!」


 ユイさんとリンディは、友達相手に向ける目ではなくなっていた。

 素直に怖すぎる。


「でもまあ、事実ですよね。選ばれし者って感じです……」

「つまり、どんなストライカーパックを装備してもある程度サマになってしまうストライク状態……?」

「何言ってるか分かんないけど、多分半分ぐらいはそれで合ってるわ」


 低身長組二名が恨めしそうに頷く。

 いや別にわたくしも高身長ではないんだけどね。相対的に高いっていうだけだし。


「ちなみに(わたくし)はストライクEよ」

「主張強っ」


 カサンドラさんは不敵な笑みでわたくしに勝ち誇る。

 なんで上を行こうとするんだよ。


「二学期の期末考査での学年一位は誰だったかしら? 敬語を使いなさい」

「殺しますわ!!」


 初笑いの前に初喧嘩が始まってしまった。




 ◇◇◇




 しばし服を物色した後、わたくしたちはショッピングモールのレストランフロアで遅めのランチを食べていた。

 わたくし以外の三名は実家が太く、もうクレカ十枚ぐらい持ってんじゃないの? みたいな勢いなので、それはそれはバシバシに服を買いまくっていた。

 平日は学校なんだから全部着るのに数年かかりそうだが、こういうのは着るために買うのではなく買ったから着るかもしれないらしい。

 何言ってんだ? こいつら。意味分からん……


「マリアンヌさん、良かったんですか? 誕生日プレゼントなんですからあと百着ぐらい買っても良かったんですけど」


 おかしな桁を出してくるユイさんは実家が土地をたくさん持っているらしい。

 リンディは大企業の代表取締役の御令嬢で、カサンドラさんはある海外の国の王様の血が流れているんだとか。

 なんでお前ら公立高校にいるんだよ。おかしいだろ。


「わたくしはこれだけで十分ですわ」


 三人から一着ずつ買ってもらった服の入った紙袋をぽんぽんと叩く。

 春用、夏用、冬用の上着だ。我ながらいくらなんでもケチ過ぎる買い方だとは思うけど、長く着るつもりだし多分正解。


「誕生日にする話ではないかもしれないけれど、もう三学期からは受験勉強になるのよね」


 ビーフストロガノフを食べながらカサンドラさんが寂しそうに言った。


「行事も次が最後と考えると、色々とやりたいですわね」

「アンタ色々とやりたいとか言って、去年の文化祭で校舎を焼きかけたでしょ」

「キャンプファイアーは禁止ですからね」


 隣のユイさんと向かいのリンディにくぎを刺され、唇を尖らせる。


「停学一歩手前になったのは反省していますわ。今年はもっと平和なものをやります」

「具体的な案はあるんですか?」


 ハヤシライスをさくっと平らげたユイさんの言葉に、わたくしはパンケーキを切り分ける手を止めて唸る。


「そう、ですわね。例えば……大喜利大会とかですかね」

「へえ……いいんじゃない? 人が死んだりしなさそうなら正直なんでもいいけど」

「お題! 『カブトムシのアンチ、どんなの?』」

「今ここでやるの!?」


 リンディが悲鳴を上げる中、ユイさんが手を挙げる。


「回答速いですわね。ではユイさんから」

「『いつまで主人公気分?』」

「怖い……」


 リンディがユイさんを見る目に、明らかな怯えの色が混じり始めた。


「じゃあ次にカサンドラさん」

「『羽化中に攻撃したらワンパンで沈みそう』」

「アンタたちカブトムシに何の恨みがあるわけ?」


 和風パスタを巻き付けたフォークを皿において、リンディは二人から距離を取ろうと椅子をずらす。


「そういうリンディは無回答のままですか?」

「え? えーっとね……」

「ちなみにわたくしが出すなら『ガキの奴隷』です」

「思い出を汚すような回答はやめなさいよ!」


 しばらく考え込んだ後、リンディは恐る恐るといった様子で唇を開く。


「『クワガタの逆張り』」

「「「うわ……」」」


 わたくしたちは三人揃ってドン引きした。

 本物じゃん。


「はあああああああああ!? 何で私だけそんな反応もらわないといけないワケ!?」

「だって貴女それ、本当に嫌いな人からしか出てこない言葉でしょう」

「そんなことないわよ!? 弟たちと一緒に取りに行ったこともあるし!」

「クワガタの逆張りの虫だなあって思いながら捕まえてたんですか?」

「思い出を汚すような言及はやめなさいよ!」


 大喜利やるなら司会はリンディかなと思っていたが、どうやら回答者の素質があるようだった。

 ユート辺りにやらせようかな、司会。




 ◇◇◇




 お昼ご飯を食べた後。

 三人に先導され、わたくしはパセラを目指して歩いている。


「パセラって陽キャのジャングルですわよね? 行きたくないです」

「黙って歩きなさい陰キャ」

「どつき回しますわよ!」


 リンディの心ない一言を受け、わたくしは電信柱にしがみつき威嚇を開始した。


「急激な温度変化に生物は弱いのです! 北風と太陽ぐらい読みなさい!」

「うっさいわね! さっさと哺乳類になりなさい!」

「人の心とかないんですの!?」

「ないわよ!」


 引っ張ろうとするリンディとそれに抵抗するわたくしが周囲の視線を集め始める。

 離れたところでユイさんとカサンドラさんが並んで苦笑していたが、止める様子はない。


「はい、はいはい。分かりました。行けばいいんでしょう行けば……」

「そうよ、アンタのために予約したんだから」


 そういう言い方はずるい。

 好意には好意で報いたくなるのが人情というものだ。


 導かれるがままパセラに入り、笑顔の受付に会釈してエレベーターに乗る。

 カサンドラさんが迷わず最上階を押した。パーティールームじゃねえか。広すぎるだろ。


「大丈夫よね?」

「はい」


 リンディの問いかけにユイさんがスマホを見ながら頷く。

 何の話かと聞く前にエレベーターが到着のチャイムを鳴らした。

 扉が開き部屋に入る、途端にパンパンパーンとクラッカーの音が連続して鳴り響いた。


『ハッピーバースデー、マリアンヌ!』

「…………!?」


 完全に思考停止した。

 部屋は馬鹿みたいに広く、そして見知った顔であふれていた。


「女子会は楽しかったかい?」


 わたくしにテープをこれでもかとかぶせたロイが爽やかな笑みを浮かべて言う。


「ほら、これかけとけ。分かりやすいからな」


 棒立ちになっているわたくしに『今日の主役』と書かれたたすきをかけながら、ユートが歯を見せる。


「サプライズは初めてで、うまくいくか自信はなかったが……大丈夫か? 気後れしていないか?」


 ジークフリートさんが反応を返さないわたくしを心配そうにのぞき込む。


「…………」


 会場を見渡せば、食堂を取り仕切っているリインさん、国語科のアモン先生、技術と体育のレーベルバイト先生夫妻、ユイさんの家庭教師であるルーガーさん、用務員のラカンさん、学校の生徒会長とその三人の弟、クラスメイトのリーンラード兄妹やその他にも多くの人々がいた。隅っこにお父様とお母様までいる。


 ……なんだかんだわたくし、友達多かったのかもしれん。

 ちょっと、というか完全に思考が追い付いていないけど。



「それじゃあ、マリアンヌさん」

「ほら、行こうか」



 わたくしの両手を、それぞれユイさんとロイがそっと握る。

 頬がほころぶのが自分で分かった。


 二人に導かれ、わたくしは祝いの場の中央へと向かうのだった。




 ◇◇◇




 プレゼントの山は郵送してもらえるらしい。

 あのボロアパートに入るんだろうか。お父様もお母様も涙ぐみながら祝ってくれていたけど、家帰ってプレゼント届いたら真顔になるんじゃねえかな。


 宴もたけなわというところだったが、高校生らしく夜遅くになりすぎる前に解散となった。

 てきぱき会場の片づけをしているみんなから、お前は手伝うなお前が手伝ったら意味分かんないだろ! と追い出され、わたくしはパセラの外で冷たい空気を浴びてリセットしている。


 いやあ、ちょっとびっくりするぐらい嬉しいな。

 入学式で史上最悪の高校デビューを飾った時は終わったと思ったけど、あれから普通に友達も増えていき、こうしてみんなに祝ってもらって。


「まあ、わたくし最強の悪役令嬢ですし……」


 口に出してから、首をかしげる。

 最強の悪役令嬢? どういうことだ。なろうの読み過ぎかな?




【そうか。これが、おまえがもとめているものか】




 声が響いた。

 わたくしはゆっくりと後ろに振り向いた。


「…………」


 佇んでいたのは、世界を鎖す十二枚羽。

 視線が重なる。その黄金色の輝きを直視した瞬間、わたくしはすべてを理解した。











 ◇◇◇











「くあ……」


 あくびしながら上体を起こす。


「お目覚めか」

「ええ、まあ。え? あっここ精神世界……え? 精神世界で寝てましたの?」

「そうだぞ」

「ちょっと意味分かりませんわね」


 周囲は業火に包まれていた。

 カスの光景過ぎる。


「なんだか、夢を見ていたような気がします。けれど思い出せなくて……」

「……ならば、そう大事なものでもないのだろう」

「そう、なんでしょうか」


 本当に?

 何か、すごく、ちゃんと大切なものを見ていたような気がするのだが。


「気にするな。それより、ゆっくり休めたか? 学園祭が終わってからぐっすり眠るのは久しぶりだろう」

「ああ、そうですわね……それを言ったらアナタだってそうでしょう。アルトリウスさんに打ち込まれたデバフとかいうのはもう大丈夫ですか?」

「ほお? おれを心配するとは、随分なものだな」


 軽口を叩きながら、寝る前に散らかしてしまっていたルシファーの世界を見渡す。

 カードやらゲームやらであふれていた。燃えてなければニートの家っぽい。


「紙しばくのも飽きてきましたわね」

「お前がひたすら一撃必殺居合ドローデッキで8000バーンしてくるからだろう。流石に10回やって10回成功させられたのは因果律の操作を疑っているぞ」

「映画でも見ます? 息子を殺された父親が復讐に走ったらマフィア同士の抗争を誘発してしまうコメディ映画なんですが」

「リーアム・ニーソンのやつか?」

「そっちはリメイクされたやつです。こんなことを言うのはアレですが、やはりと言いますか、映画ってリメイク前の方が基本的に当たりですわよ」


 ごくたまにだが、わたくしが要求するとルシファーは娯楽系のデータを引っ張り出してくれる。

 世界の成り立ちに影響が出ないレベルならいいらしい。アーマードコアの新作を聞いたらそれは世界の成り立ちに影響が出ると言われた。ボケが。


「……お前は映画を見る時、自分と主演を重ねるか」

「流石にそこまで驕ってはいませんが……それに、実際に生きている以上は映画というより舞台ですわね」

「ならば、いつか終わりが来ると?」

「当たり前です」


 ぴしゃりと言い放つ。


「終わらない演目などありません。終幕の時まで、いかに全力で駆け抜けられるか。それが人生というものでしょう」

「そう、か……ならばお前は、どんな終わりを望むんだ」


 今日は随分とこの話題にこだわるな。

 わたくしは腕を組んで唸る。


「舞台を降りる時が来るのなら……きっとそれは、泣きわめきながら引きずり降ろされる感じでしょうね」


 悪役令嬢なのだから、全力で挑み、負け、そして潔さとは正反対にボロクソにされなければならない。

 目指す先は変わらない。なるべくみじめにユイさんやロイたちに負けることこそ、わたくしの終着点だ。


「……変わらないな。力が増え、高みへと至ってもそこは譲らないか」


 わたくしの言葉を聞いて、ルシファーはフッと笑みを浮かべる。


「ではおれだけは、その終わりに拍手をもって歓迎しよう」

「『テンペスト』でも見たんですか? わたくし、拍手をしてくれと観客にお願いしたりはしませんわよ」

「自由になった後のお前に見せる世界は、さっき決まったからな」

「話聞いてます? ていうかやっぱりアナタ何か夢見せてたでしょう!? 何見せたんですか!?」


 問い詰めるも、暫定ラスボスは首を横に振るばかり。

 キイ~~~~! お前!! 思い出したかのように超越者ムーブしやがってムカつくんだよ!!


 取っ組み合いを挑むわたくしとそれをいなすルシファー。

 業火に照らされた赤い空の下で、しばらく騒ぎは続くのだった。




お待たせしました。五章もぼちぼち開始します。

その前にハーメルン版で掲載しこちらに載せるのをすっかり忘れていた去年の誕生日短編、マグロ漁編を掲載します。もう少しだけお待ちください。


お読みくださりありがとうございます。

よろしければブックマーク等お願いします。

また、もし面白かったら下にスクロールしたところにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価を入れてくださるとうれしいです。


コミカライズが連載中です、良かったら読み終わった後のgoodもお願いします。

https://ichijin-plus.com/comics/23957242347686

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― 新着の感想 ―
[良い点] この現パロ悪役令嬢、百合と王道ラブコメの間をものすごい勢いで反復横跳びしてそう [気になる点] 精神世界で寝てたって、マリアンヌの知らないうちに診断とかされてそう 想い人(?)がよくわから…
[良い点] 現代世界のストーリーも良き……。 [気になる点] 現実でも寝て、精神世界でも寝る……つまり、2倍疲れがとれてると言っても過言ではないのでは!? [一言] マグロ、ご期待下さい。
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