PART7 命禄の教皇(後編)
射撃練習場のベンチにて、もぐもぐとサンドイッチを食べる。
きっちり考えた栄養バランスの範疇で、最大限に趣向を凝らした逸品だ。本来知らんやつにあげる道理はないし、普通にロイ辺りはキレ散らかすと思う。
しかし年配の方には優しくするというのがわたくしのモットーだからな(アーサーは除く。わたくしより強い奴に施しを与えて勝手に勝ち誇るほど落ちぶれるわけにはいかねえ)。
「む……美味しいなこれ」
「でしょう?」
サンドイッチを一口かじったゴルドリーフさんが、思わず声を漏らす。
ホワイトに近いグレーのジャケットに、同色のベストとパンツ。綺麗に整えられた灰色の顎髭。革靴やハットをチラ見した感じ、結構いいところのおじさんだな。
……ただ、なんていうか。立ち振る舞いが貴族っぽくない。部屋への入り方、椅子の座り方に、悪く言えば気品がない。何者なんだ? わたくしと話しに来たみたいな感じだったし。
「それで一体何の用でしょうか。サインならマネージャーを通していただきたいのですが」
「マネージャーがいるのか……」
「はい。わたくしがマネージャーです」
「??」
「わたくし、セルフマネジメントも一流ですので」
「???」
〇日本代表 セルフマネジメントってそういう意味か? 絶対違うだろ
〇red moon 本来の意味の場合はルシファーとかが似合ってるんじゃないか
〇つっきー 私の推しが意識高い系になったの本気でどうかしてるぞ
【やれやれ……揚げ足取りで日銭を稼ぐ哀れな平民がいるようですわね
本来の意味とかどうでもいいのです、高貴なる存在は本質をつかみ損ねません
要するには、伝わればいいんですわよ伝われば!】
〇外から来ました だから伝わってねーんだよ!!
そんなことはない。
ゴルドリーフさんだって理解してくれてる。
わたくしは期待のまなざしでゴルドリーフさんを見つめた。
「…………で、本題に入っていいということかな?」
【ほら! 理解ってくれてる!】
〇宇宙の起源 諦観られてんだワ
言いがかりを……
わたくしはコメント欄から視線を外すと、ゴルドリーフさんに顔を向けた。
「ええ、どうぞ」
「初めまして、私はゴルドリーフ・ラストハイヤー。王立騎士団で、大隊長を務めている」
「……!?」
思わず目を見開いた。
大隊長!? 大隊長っていうとジークフリートさんが中隊長だから、ジークフリートさんより上の立場!?
ってことはこのおじさん──ジークフリートさんより強いの!? え!? 全然分かんなかったんだけど!?
「今日ここに来たのは、君と話がしたかったからだ……そう、王国の若手の中でも、不動のナンバーワンであろう君とだ」
ビッと人差し指をこちらに向け、ゴルドリーフさんが言う。
何が何だか、まだ思考が追い付かない。だが。
「若手ナンバーワン、ご慧眼ですわね! その通り、このマリアンヌ・ピースラウンドこそが最強の魔法使いですわ!」
「いや若手の中でとしか言っていないんだが」
「いいですわよ、まっとうに褒められるのは久々ですから特別にわたくしの練習記録を見せてあげましょう」
なんか気分がいいな、そう評価されるのは!
追放目指してるのにダメじゃね? と一瞬思ったが、まあ考えないことにした。
「ほら、毎日やってる日課の練習ログです」
「勤勉だな」
立ち上がって練習スペースに駆け寄ると、記録石に手をかざしてログを表示させる。
空間に投影された半透明のウィンドウをゴルドリーフさんはあきれた様子で眺め、そして動かなくなった。
「………………………………」
「ふふん、驚きに言葉も出ませんか!」
ログを何度も見返し、瞳を震わせる彼の様子に、わたくしの鼻が伸びていく。
正直毎朝やるメニューとしてはまあまあキツいからな。そのくせして成果が上がってるのかも分からん。まあ上がってると信じたい所なんだけど。
それにしても騎士団の大隊長か。一体全体何の用なんだろうか。
最近騎士がどうこうみたいな話をしたことがあるような気がするけど。何か……そう。アルトリウスさんとの話で……
『教会騎士部隊の一部による、王立魔法学園中央校……君が今通っている学校への、軍事的侵攻の計画を報告されている』
あ゛!!!!!!
これ──ちょっとまってこれそういうこと!?
「確信した……やはり、君は」
「やっぱりわたくしのこと、殺すべきですか!?」
「えっ!? あ、うん」
わたくしとゴルドリーフさんの視線が重なり、直球での殺害宣言をいただく羽目になった。
◇◇◇
アルトリウスの立ち去った路地裏。
「……どう思いますか」
ユイは隣のジークフリートに問う。
「大隊長クラス……三人が来るのだとすれば、もうそれは戦闘として成立しないだろうな」
騎士の中にも序列はある。
加護を授かり、魔法耐性を得た騎士はそれだけでも卓越した戦闘力を誇る。
だが小隊長レベルを超え、中隊長となればそれだけで一つの戦略兵器として扱うことも可能だ。敵軍500名に対して、シュテルトライン王国なら中隊長クラスの騎士を一人派遣するだけで容易に敵を殲滅できる。
それすら凌駕するのが大隊長。
剣の一振りは都市を両断し、雲海を裂くと謳われし王国の三大騎士。
不屈の力に覚醒したジークフリートとはいえ、一対一ですら勝てる気はしないような相手だ。
「タガハラ嬢は、オレより顔を合わせているかもしれないが」
「い、いえ……儀礼的には対面していますが、呼び出すことはないですし。向こうも勝手にやっており、指示や報告もまた書類のみでしたから」
「なるほど。教皇様なりに、そのあたりはまだ任せられないと判断したのだろう」
ジークフリートの言葉に、むっとユイが頬を膨らませる。
「まだ頼りないですからね」
「そう拗ねるな。大隊長が出動するとなれば、それは上位存在や、あるいは禁呪保有者といった限られたケースになる。君がまだ関わる必要もない分野なんだ……本来は、だが」
その禁呪保有者とこれ以上無く密接に関わってしまっている現状に、思わず紅髪の騎士は嘆息する。
「……ジークフリートさん」
「ん、なんだい」
「その禁呪についてです。ユート君から、禁呪に関してお話を聞きました」
それは、学園祭の準備をしながらのことだった。
生徒たちの喧騒に紛れて、近づいてきたユート。
彼は何でもないことのように、巧妙な隠ぺいを行ってユイに語った。
『禁呪保有者の出現とか、被害とか。そういうデータは残ってる』
『被害?』
『ああ。なんつーか……禁呪そのものってワケじゃねえ。禁呪保有者は基本的に災害みたいな扱いだったぜ』
『そ、そうなんですね……やっぱり基本的に、悪い人が使っていたってことですか?』
『そこは流石に分からねえな。だが、これで明瞭に疑問点が浮き彫りになった』
『え?』
『なあユイ、お前、記録が残ってたって聞いて何を知りたいと思った?』
首を傾げた後、ユイはハッとした。
『禁呪保有者を、どうやって倒したのか……です』
『だよな。俺も気になったのはそこだ。だけどよ、記述がねえんだよ……いや、もっと大昔、大陸統一戦争の頃とかの記録はそもそもほぼなかったんだが。それにしてもそこから現代にいたるまでの期間ですら、どうやって禁呪保有者を倒して来たのかが分からねえ』
そこで言葉を切り、ユートは顎先を指でなでた。
何かを言い淀んでいる仕草だった。ユイは息を吐き、彼の瞳を見つめる。
『ユート君。何か推測があるんですよね』
『うっ……いやまあ、推測って言えるかも怪しいんだけどよ』
『根拠がないとしても、可能性は共有してください。私は、貴方の洞察力だけじゃない。理論的に考えられる人だからこその直感も信用しています』
『……随分とまあ、聖女様らしくなってきたじゃんかよ』
『あら。でしたら、聖女らしい口調に変えた方がよろしいかしら』
『いやそれぜってーマリアンヌだろ!』
流石に気恥ずかしくなったのか、ユイはわざとらしい咳払いをおいて、ユートに続きを促す。
『踏み込んで考えていくとだな……そもそもの話、記録に残ってる禁呪保有者の数自体が少なすぎるんだ』
『……倒した際の経緯だけでなく、存在そのものを抹消されている禁呪保有者がいると?』
『恐らくは歴史の闇の中に葬られた禁呪保有者が相当いるはずだぜ』
ある意味当然ではあった。他の魔法とは異なり、禁呪は行使自体が死罪に等しい。
だからこそ、禁呪の力に目覚めたという事実がなかったことにされるのは自然な流れに感じる。
問題は──それを、誰が行っているのかという一点だ。
『それで、ユート君はどう思っているんですか』
『多分、なんだけどよ。禁呪保有者みたいな存在がもう一種類ある』
『……!』
言われて、これが半年前のユイであれば『まさかそんなはずは』と笑い飛ばしただろう。
しかし夏休み、自分たちが一体全体何と戦っていたのか、忘れたはずもない。
『【七聖使】……!』
『ああ、そいつらだ』
ユートは腕を組んで頷いた。
『勝った側が歴史を好きに弄れるってのは、当たり前の話だ。だからこそ、そこしか抜け道が見当たらねえ。勝ったやつらが、禁呪保有者の記録だけは僅かに残しつつも、自分たちの存在は徹底的に抹消したんじゃねえかなって……』
『筋は、通りますね』
『これについては、むしろ俺よりジークフリートの方が詳しい話を聞けるかもしれねえな』
学園祭の準備をしながらも、見上げたユートの横顔には、隠しきれぬ不安感がにじんでいたのを覚えている。
「……ッ」
その話を聞き終えて、ジークフリートは渋面を作った。
「まさかユートのやつ、ハインツァラトゥス王国の禁書を漁っているのか? 王子がそんなことをすれば……」
「私も流石に釘を刺しはしたんですけど。気にするなって」
「まったく」
しばしの沈黙。
壁に背を預けるジークフリートに対して、ユイはごくありふれた聖句を唇に乗せる。
「大悪魔の使徒が、世界を焼き尽くす」
「……そう思うか?」
「分かりません」
意外な返答に、ジークフリートは目を丸くする。
「無論、そうだ。確かに分からない。それでもオレは、彼女が進む道をたがえることはないと信頼している。だがもしそうなれば……」
「分かっています。だけど」
二人は同じ言葉を発した。『だがもし』『だけど』。
そんなことにはならないと信じている──信じたいのではなく、信じている──それでも、最悪の可能性を思考の外に置くことは出来ない。信じているからこそ、それはできない。
(聖女としてではなく、ただのタガハラ・ユイとしてわがままを言っていいのなら)
ユイは空を見上げた。裏路地から見る蒼空は切り取られ、やけに窮屈に感じた。
(マリアンヌさんが見せてくれたこの世界なんだから。それを、マリアンヌさんと一緒に生きていきたい……)
初めて生まれた灯火は、ずっと胸の内に根付いている。
我儘と呼ぶにはいささか敬虔すぎるその灯りを掲げ、今日もユイ・タガハラは、自分の進むべき道を探し続ける。
◇◇◇
わたくしとゴルドリーフさんは、至近距離で見つめ合う。
「殺す、と。わたくしを殺すと。そう仰いましたね」
「ああ……うむ。殺す、と言った。『流星』の禁呪保有者であるマリアンヌ・ピースラウンドを、私は殺さなくてはならない」
さっきはかなり事故に近い形での意思確認だったので、改めて問えば、向こうもシリアスな表情と声色で答えてくれた。
「やはり禁呪保有者は危険だと?」
「危険だ。故に殺さなくてはならないと判断した──他の誰がそれは違うと言おうとも、私はこの決定を覆さない」
むむ……組織的な話だと思っていたんだけど、これ意外と個人の話だったりする?
だとすると、アルトリウスさんがかなりフカシを入れていたってことだ。あいつはあいつで行動原理がまったく分かっていない、このあたりの情報を全部信じられるはずがないのはそうなんだが。
腕を組んで考え込みながら、とりあえずゴルドリーフに気になった点を問う。
「アナタ個人の問題というのなら、何か禁呪と因縁でも?」
「私は禁呪保有者に妻子を殺された」
──…………ッ。
あ、あぁ、やば、わたくし、何やってんだ。
それは、そうだろ。常識的に考えて、禁呪を振るう側じゃなくて、保有者を殺そうとしてるって、そりゃそうだろ。
「それは……殺したい、でしょうね」
「存在が許せん。君個人に罪がなくともだ」
存在が許せない、か。
それだけの悪意を込めたセリフは久々だ。どうにも据わりが悪い。
受け止めなきゃなと思いつつも、お前が守るこの国自体がスーパー禁呪ブラザーズみたいに禁呪保有者跋扈する魔の国と化しているんだが……と考えていると。
「陛下が禁呪保有者なのに、と言いたいのかね?」
「!? あ、アナタ知っていて……!?」
「他の大隊長二名も察しているよ。陛下の風属性魔法は卓越している。卓越しすぎている。対魔法使いの戦闘を極めた我々だからこそ……分かる。あれは既知の魔法とは一線を画した代物であり、まったく別次元のものだとね」
わたくし相手に殺害を宣言しているのだ、この軸がぶれることはないだろう。
で、あるならば。
「国王アーサーも殺すのですか」
「そうしようと思っていたよ」
「?」
「できなかった。返り討ちにあった」
「!?」
実行済み!? 国王暗殺を!? なのにまだ大隊長!?
駄目だワケ分かんねえ。この国、治安最悪過ぎる。もう引っ越そうかな……
「ただまあ、凄いですわね。勝算があったと?」
「正直、そこまではなかった。だが私には……戦う理由があった」
ゴルドリーフさんはそこで、ふいと顔を背けて歩き出した。
「顔見せ、だったというわけですか」
「ああ。そうだ、ついでに聞いておきたい。君の戦う理由は何だ」
え、と思わず聞き返した。
練習場入り口まで戻ったゴルドリーフさんが、こちらに振り返る。
「私が、誰に何を言われても、禁呪保有者を殺害するように……君にも戦う理由があるはずだ」
「戦う理由……」
彼にはある。
妻子の仇を討つという、身を焦がすような感情の波濤。
では、わたくしは。
「戦う、理由……」
思えば。
ユイさん、ロイ、ジークフリートさん、リンディ、ユート……カサンドラさんやお父様も、理由があって覚悟を決めていた。
アルトリウスさんにもきっとあるのだろう。
ならば、わたくしは──
「なんにもないですわね~」
「は???」
頭をかきながら正直に答えた。
特に重い過去とかねーし。因縁もねーし。そりゃ急に生えてきた奴なんだから当然なんだけどもさ。
「今結構真剣に考えたのですが、まあ、特になかったです。強いて言えば、わたくしが最強であることを証明したい、ぐらいでしょうか。でもそれも副産物ですし……」
最後の最後に追放されるまでは負けられない。
だからこそ、仮初の最強、主人公たちの前に膝をつく結末の手前であり続けなければならない。
「……理由なき刃を、そこまで力強く振るえるのか」
「理由がなきゃ振るえないんですか?」
「ほざいたな」
視線が重なり、殺意の奔流同士がぶつかり合った。
「当日を楽しみにしておきたまえ」
「そっくりそのままお返しします。当日を楽しみにしておきなさい」
「……私が何を楽しみにすればいいんだ」
同じ言葉を返され、ちょっと殺意を弱めて困っているゴルドリーフさんに。
わたくしはビッと親指を下に向けた。
「カーペットにしてやりますわ」
「どういう煽りなのかが伝わってこないんだが……」
「定期的に一気読みしたくなるので」
「何を??」
◇◇◇
中央校を訪れた日の夜。
自分の影が飲まれていく屋外公園で、ゴルドリーフは壁に背を預け、ぼうっと煙草を吸っていた。
「いい香りですね」
それは突然現れた。
闇が輪郭を得て、三次元的に出力された──そう言っても信じてしまいそうなほどに、ただ闇の中から、ぬうと現れた。
「……すまないな、黒騎士。外でしか会えないのは心苦しく思っている」
「いえ。貴公は元々、直轄として三名の部下を重用していましたからね。そこに割って入った私は、のけ者であり、邪魔者でもある。会うなら人目を避けるに越したことはない」
重々しい甲冑とは裏腹に、漆黒の騎士はよく回る舌でゴルドリーフに語りかけた。
悪い意味でなれなれしいと言うべきか。だが漂う演技臭さがまた、眼前の『暗天卿』の部下たちから疎まれている理由でもあった。
「私の方こそ、心苦しい。マリアンヌ・ピースラウンドが禁呪保有者であるという情報を提供し、また騎士としても実力を証明したが、それ以外には何もない。まったくもって怪しいと言わざるを得ないこんな私を、よく取り立ててくださいました」
黒騎士がもう一歩踏み込み、大騎士の顔をのぞき込む。
甲冑の隙間から覗く双眸に対して、ゴルドリーフがさっと顔を逸らす。
「その目で私を見るな」
「貴公は防げるはずですが?」
「……どうだかな」
ゴルドリーフは鼻を鳴らした。
「今日、マリアンヌ・ピースラウンドと会ってきた」
「ほう」
「……見ただけでは。優秀な魔法使いなんだろう、ぐらいしか分からなかったよ」
「見ただけでは。つまり何か得るものはあったと」
「彼女が毎日しているという訓練の内容を、見ることが出来た」
ゴルドリーフはそれを見て、うすら寒いものを感じた。
大隊長として、新人騎士の訓練を視察することがある。当然ながら、ゴルドリーフは現在若手きってのホープであるジークフリートの新人時代も見ている。
モノが違うな、と感じた。間違いなく、自分たち……三大騎士と謳われる、現在の大隊長三名の時代が、彼が率いる時代によって塗りつぶされるな、と直感した。
だがその時も、こんなにも、感情が揺れはしなかった。
恐ろしい、と思ったことはない。狂気だ、と感じたことはない。
模擬射撃場に残された記録カードの並んだ数字の羅列。
練習パターンは常軌を逸していた。彼女は数百数千のエネミーを仮定して戦っていた。
毎日、毎日、毎日毎日。来る日も来る日も、朝一番に学校を訪れると、一国の軍隊に相当する敵と戦い、それらを蹂躙し、虐殺し、それを日課として終えてから、学友らの待つ教室へと向かっていた。
敵を殺傷したという記録の並びに、無数の修羅場をくぐって来た身体が震えた。おぞましさすら感じた。
「怯えているのですか」
黒騎士の言葉に、ゴルドリーフは目をつむった。
何に対してなのかなど分かり切っていた。
「強くなるために、多くをこなし、質も高める。言うは易い、それができれば誰も苦労などしない。だが彼女はやっている……」
「……私の方でも少々リサーチをしました。彼女の成長は、明らかに度を超えたレートで行われている。まだ齢にして15だというのに、まったくもって恐ろしい……」
そこで。
漆黒の甲冑を纏った騎士が、ぽんと手を打つ。
「ああ──生きていれば、お子さんはあれぐらいの年齢ですか」
「黒騎士」
低い声だった。
王国最強の座に位置する騎士の眼光を受けて、黒騎士はその甲冑を鳴らして首を横に振る。
「怖い目ですね、ゴルドリーフ殿。味方に向けるものではない」
「分かっているぞ。お前は私を、手のひらの上で踊らせようとしている」
「そうでしたかね?」
煙に巻くようなセリフが聞こえたと同時、ゴルドリーフの腕が跳ねた。
ジャケットの内側に仕込んでいた柄を引き抜き、魔力により刃を展開しながら振るう。
「私は軽口が好きではない」
「承知しています」
王国最強の騎士の斬撃が、黒騎士の後方に植えられていた大木を切断した。
木の影が音を立てて地面へ沈む中、黒騎士はひらひらと右手を振った。
「痛いですよ。加護を反転させてもいないのに、どうやって斬撃を伸ばしているのやら」
「フン……これを痛いで済ませていることの方が異常だろうに」
ゴルドリーフは刃を消して柄をしまい込み、その場から歩き去る。
「手筈通りに進めろ。他の大隊長2人には、全てが終わるまでは絶対に情報が漏れないよう。また学園の他の生徒たちにも、絶対に被害が出ないよう……この2点さえ承知しておけば、後は好きに暗躍するがいいさ」
「分かっています。すべては計画通りに」
恭しくお辞儀をする黒騎士からは、感情の色を読み取れない。
完全に自身の精神を制御できている証拠だ。
彼は顔を上げ、ゴルドリーフの姿が消えているのを確認し、そっと息を吐く。
「さて。役者は超一流、脚本はド三流。だが開演にこぎ着けられただけでも僥倖か」
「アドリブがやはり必要になってきそうだが……そこはそれ、俺なりに頑張ってみるとしよう」
「そもそも分かっていたこと。主演の彼女が、こちらで定めた筋書きなど守るはずもない」
「やれやれ、本当に彼女で良かったのか? いや、オンリーワンであり、効率面はともかく、期待値は群を抜いているのも事実か……」
シュテルトライン王立魔法学園中央校。
数多の感情が、使命が、そして切望が交錯する学園祭が──始まる。
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