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PART6 命禄の教皇(前編)

 いよいよ学園祭目前!

 わたくしたちのクラスは屋台用のテントを調達すると、実際の出店スペースに立てている。


「立地は良好。正面入り口から校舎へ向かう導線上に陣取れましたわね」


 テントを立てている奥で、サングラスをかけてカーディガンをプロデューサー巻きにしたわたくしは椅子に座ってふんぞり返っている。

 飲食店もプロデュースされる時代だし全然間違ってないと思う。



〇みろっく いつの時代のプロデューサーやねん

〇日本代表 カス野郎が



【カス野郎!?

 わたくしは美少女だが!?!?】



〇日本代表 えっ、あ、すみません……え? これ謝ったけど謝る必要あった?

〇火星 勢いで勝とうとするな



 戦いで一番大事なのは勢いだろ。

 どんなに実力差があったとしても、最後に負けちまうのなら、負けた瞬間にそいつの気持ちは折れている。

 だからまあ、負ける最後の刹那になっても気迫を維持できてるやつこそ、強者を名乗っていいってことなんだ。たかが実力や戦術如きで上下は測れねえ。


「マリアンヌ、鉄板の設置は完了したよ」


 テントの設置を終えた後、焼きそば用の鉄板を準備していたロイがわたくしに声をかける。


「ええ、お疲れ様です」


 実力だけでは分からないなんて考えているのはこいつのせいだ。

 確かにクライスと比較すれば実力不足なのは否めないのだが……この間ウエスト校との模擬戦を終えてからのロイは、わたくしから見ても気合が入っている。厳密に言うと、入りすぎている。


「ロイ。アナタは、少し休んでおきなさい」

「ん……ああ、分かったよ」


 本当はもっとこう、なんというか、休息期間を置けって意味でもあるんだが。

 まあ通じないか。やむなし。

 ロイは頬を伝う汗を拭うと、クラスの男子と談笑しながら歩いていく。


「今日もかっこいいな~ミリオンアーク君」


 そんな彼に熱い視線を向けているのが、周囲で同様にテントを立てている他学年や他クラスの女子生徒たちである。

 流石は学園有数の秀才にしてミリオンアーク家の嫡男、歩くだけで黄色い歓声があちこちから上がっている。当人は気にしていないようだが、相当な人気者だ。

 まあわたくしは学園最強の天才にしてピースラウンド家の長女なので、人気者を通り超えて無敵だが。栄光ある孤立である。


「ね~! 汗かいてるミリオンアーク君めっちゃ良いよね」

「同クラが良かったなー。毎日眼福じゃん?」


 ていうか何やねんこいつら。

 カスみたいな消費の仕方をしやがって。わたくしの婚約者は鑑賞物ではないが?



〇宇宙の起源 お嬢完全にご機嫌斜めですね……

〇太郎 久々に学校パートじっくり見ると、全員学校のスターみたいなメンツでパーティ組んでるのほんとウケるんだよな

〇木の根 いつメンが完全にダイハード打線なのおかしいだろ

〇苦行むり ロイ君のファンを眺めて、感想はどうですか?



【人ですわね。殺します】



〇みろっく 想像の百倍怒ってる……

〇red moon 自動生成字幕やめろ

〇無敵 お前はいつも愚かしさで終わるものだろ



「おい、なーにしかめっ面してんだ」

「……別に? してないですけど?」


 ロイと同様にクラスのみんなと楽しくおしゃべりしていたユートが、こっちに近づいてきて首をかしげる。

 いつも通りに短ラン姿のこいつも、わたくしとは違って学校の人気者だ。

 眉根を寄せる彼に、クラスメイトが苦笑しながら補足する。


「まあまあユート君。ピースラウンドさんはミリオンアーク君が人気なのに嫉妬してるんだよ」

「あ~なるほどな。可愛いとこあるじゃねえか」

「してませんが?」


 得心が行った様子のユート。いや拗ねたりしてないが?

 まあ、ここでわたくしの頬をつまんだり、デコピンしたりしてこないから、ユートはしょせんユートなのだが。そういうところが安心できるとも言う。


「でもあいつらの感想はムカつくよね。毎日眼福とか何も分かってない。見た目じゃなくて生き様が最高なのにね」

「え? 急に何の話を聞かされてるんだよ俺ら」

「消費の仕方でマウントを取るの、本当にどうかと思いますが……」


 急にクラスメイトがアクセルを踏んだので、わたくしとユートはちょっと引いた。


「あっ、ハインツァラトゥス君だ」

「ミリオンアーク君だけじゃなくて他国の王子様までいるなんて、あのクラスちょっとすごいよね~」


 それはそうと、ロイがいなくなったというのにこの騒がしさだ。辟易してくる。

 先ほどから聞こえる黄色い歓声は、今度はユートへのものだ。

 ロイと違ってユートは気づいていなさそうだ。自分が高い評価を受けることに対して、無自覚にその可能性を捨てているのだろうか……そんなんだからしょせんユートなんだよな。


「俺の火属性魔法で最高の焼きそばを作ってやるよ」


 女子生徒たちから熱のこもった視線を受けながらも、ユートは白い歯を光らせてよく分からないことを言う。

 本当に剣と魔法のファンタジー世界にいる王子の発言か? これが。


「ええ、ユート。アナタには期待していますわ。業務用ユートとして売り出したいぐらいです」

「王子を商品扱いしないでくんねえかなあ!」


 護衛の騎士さんも苦笑している。

 ミレニル中隊でジークフリートさんの右腕を務めている、メガネをかけた副隊長さんだ。


「すみません、テントの設立を手伝っていただいて」

「いえ、お気になさらず。見ているだけというのも、居心地が悪いですから」


 休みのジークフリートさんに代わって護衛としてついてきた副隊長さんには、出店を色々と手伝ってもらった。頭が下がるよ。


「てゆーか騎士なのに肉体労働慣れてんのウケるんだけど」


 ギャルっぽいクラスメイトが、副隊長さんにちょっかいをかけ始めた。


「? いえ、騎士は治安維持が役目ですから。災害時などは土嚢を運びますよ」

「どのー?」

「ええと、砂を詰めた袋でして……」


 ギャルに対して副隊長さんが丁寧に説明をする。

 話を聞きながら、ギャルがほえーとか馬鹿っぽい相槌を打っていた。


「とまあ、簡単に言ってしまえば臨時の堤防なわけです」

「ふーん。普段から頑張ってくれてんだ。乙~!」

「お、おつ……?」

「えっ知らんの。乙っていうのはさあ……」


 今度は先生役と生徒役が逆転した。

 いかにも堅物っぽい騎士さんとギャルが、随分とテンポよく会話できている。

 ウーム、これは……


「ラブコメの波動を感じますわ」

「お前の言ってる言葉はよく分からねーけど、お前の言ってることは分かるぜ」


 ユートも二人を眺めながら頷いた。

 なんかの間違いで伝説の木の下にでも行こうとしようとしたら、こいつらは通してあげようかな。でもそういう怪しい力に頼るという性根は気に入らねえんだよな。

 いやそもそも普通に会話してるだけの男女相手にこんなこと考えるのがぶしつけか。いかん、前世のカプ厨っぷりがここにきて響き出している。


「なーに頭抱えてんのよこいつ」

「さあ?」


 己のカプ厨指数を戒めていると、羊皮紙の束を片手にリンディがテントを訪れた。

 必要な食材やら何やらの発注を頼んでいたが、どうやら終わったようだな。


「頼まれてたの、終わったわよ。これが発注書ね」

「どうもありがとうございます、助かりましたわ」

「あと、向かいに出店する二年生のクラスも屋台みたいよ」

「ホォ~?」


 斥候として周囲を見回ってきてくれとも頼んでいたリンディが、わたくしのすぐそばにやって来て囁く。

 サングラスをチャッと指で下げて向かいを見れば、確かに鉄板を運び入れていた。


「随分と剛毅ですわね、正面衝突とは。叩き潰して差し上げますわ!」

「いやそういう競技じゃねえからこれ」


 ユートの冷たい言葉を、わたくしは賢いので無視した。


「にしてもユイのやつ、どーこいったのかしらね。サボりなんて初めてじゃない?」


 周囲を見渡しながらリンディが呟く。

 教会の仕事が入ったらしく、女子寮の食堂で朝一番に挨拶を済ませてから彼女はそそくさと外出していった。


「サボりではなく公休でしょう」

「本気で信じてるの?」

「まさか……」


 リンディの言葉に肩をすくめる。

 朝見たユイさんの服装は、制服や正装ではなかった。教会本部で着替えるのかと思ったが、私服としても地味過ぎる。

 なんていうか……目立ってはいけないときに着る服装だった。

 まあいいんじゃねえの。そういう日もあるだろ。


「では、わたくしも席を外しますわね」


 サングラスとカーディガンを外して、わたくしはバスケットを片手に椅子から立ち上がる。


「どこに行くんだ?」

「軽く昼食に」


 今日は静かに食事をしたい気分なのだ。

 正門前は学生でごった返していて、正直うるせえ。学園祭用の資材を搬入する業者も出入りしてるしな。

 チラと見れば、ハットをかぶった初老の紳士が、校門に佇む生徒会役員に何やら書類を見せている。


「すみません、入校許可証をいただいている者ですが」

「確認します……え!? あっ!? ゴルドリーフ・ラストハイヤーさん……?」

「許可はいただいておりますので」


 あの人も何か学園祭関連だろうか。手ぶらで一人だし、受付の人えらいビビってたけど……

 まあ、わたくしには関係ないか。ガハハ!




 ◇◇◇




 昼食休憩に向かうマリアンヌを見送った後、リンディは書類をマリアンヌが座っていた椅子に置いた。


「で、結局準備って終わってるのかしら?」

「ああ。マリアンヌが速攻片づけたぜ。あいつなんだかんだこういうとこ要領いいよな」

「普段の馬鹿さ加減からは信じられないわよね」

「だよな。にしても、別クラスの生徒って意外とこう……いや、あれだな。ウチのクラスが慣れ過ぎなんだよな」

「あら、お疲れみたいね。てっきり視線に気づいてないかと思ったわ」

「いや~気づかなかったらマジの馬鹿だろ。肩身が狭いぜ」

「本物の馬鹿ならちょうど今昼食休憩に入っていったわよ」


 リンディが肩をすくめたその時、他クラスの男子たちの会話がユートたちの耳に入ってくる。


「ピースラウンドさん、マジで可愛いよな~」

「分かるわ。同じクラスだったらめっちゃ嬉しかったけどなー」


 その内容を聞きながら、ユートは呆れかえった表情で口を開く。


「あいつマジで気づいてなさそうだったよな。他クラスの男子、通り過ぎながら何度もマリアンヌのこと見てたのによ」

「本当にその辺がなってないのよね。ナンパとかかわすのヘッタクソなのよあいつ」


 二人がマリアンヌの対人力をボコボコに貶めている間にも、他クラスの男子たちがマリアンヌの話題で盛り上がっていく。


「結構あれなんだよな、無防備なとこがいいよな」

「見た目超クール系なのにな。さっきとかもうちょっと角度頑張ればスカートの中見えそうだったわ」

「おまっ、やめとけよ。良くねえよ」

「いや分かってるけどさあ」


 思春期男子特有の会話に、リンディが眉をピクリと跳ねさせ、気持ちだけは分かるユートが嘆息する。

 二人だからこの反応で済んだのであり、ユイがいれば殺人現場一歩手前になっただろう。

 だがユイと同様の思考回路を持つ人間が、残念ながらこの場にはいた。


「あ、まずいわね」

「ん?」


 不意にリンディが顔をあらぬ方向へ向け、頬をひきつらせる。


「………………………………」


 彼女の視線の先には、談笑を切り上げ、静かに、他クラスの男子たちの元へ歩いていく青年の姿があった。


「向こうにいるミリオンアークが魔素を魔力に転換し始めたわ」

「うおおおおい!!」




 ◇◇◇




 わたくしが昼食場所に選んだのは、校舎裏手にある模擬射撃場だ。

 練習用アリーナもあるが、あっちはたくさんの生徒が毎日押し掛けるからな。

 こっちは設備系が若干しょぼいしレーンの数も少ない分、割と空いている。

 毎朝教室に行く前にここで一通り射撃魔法を試すのが日課だ。


【戦術魔法レベルを選択してください】

「いいえ」


 中に入って来たわたくしに反応して、魔法石が自動で録音した音声を流す。

 設備がしょぼいとは言ったが、あくまで最新型ではないというだけ。

 何なら最高難易度に関してはこっちの方がはるかに高いまである。毎年ログはリセットされてしまうが、お父様も使っていたそうだ。いやそう考えると年季の入り方エグイな。


「ん?」


 ベンチに腰掛けてバスケットを開いた時、入り口に影が差した。

 見れば先ほど生徒会役員と話していた初老の紳士が、上品なジャケット姿で射撃場に入ってきていた。


「失礼。入校許可証はいただいております」


 紳士は帽子を外して、軽く一礼する。

 懐から取り出された入校許可証に目をやった。


「お邪魔でしたらわたくし……」

「ああ、いえ。いてもらって大丈夫ですよ」

「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきますわ」


 浮かせた腰を、改めてベンチに落とす。

 え? 孤独なグルメ、全然できねえじゃん……




 ◇◇◇




 マリアンヌたちが学園祭の準備を進めている一方。

 学校を休んだユイは、騎士ジークフリートと連れ立って王都の繁華街を訪れていた。


「情報によるとこのあたりだが」


 繁華街から道を二本ほど外した裏路地。

 陽光の差さない薄暗い道を進み、人目を避けるようにして二人は何かを探している。


「あれですね」


 ユイが指し示したのは、魔法石によって蓄光するタイプの──マリアンヌが勝手にネオンと呼んでいる──看板だった。

 夜になればピンクと緑のけばけばしい光を放つそれは、昼はこと切れたかのようにうすぼんやりとした灰色に染まっている。


「中に入る必要はない」


 声はユイたちの後ろから投げかけられた。

 緩やかに二人が振り向くと、そこには詰襟をきっちりと着込み、制帽をかぶった青年が佇んでいる。


「よりにもよって君たちか」


 ユイたちが探していた人物は、薄暗い路地に溶け込むようにして、逆に二人を待っていた。


「アルトリウス・シュペール。いいえ……アルトリウス・シュテルトライン殿」

「その名前は捨てた」


 ジークフリートの声色には確かな敬意がこもっていたが、アルトリウスはそれを一言に切って捨てた。


「初めまして、ではないですね」


 ユイが確かめる様に問う。

 ウエスト校アリーナのエントランスで遭遇した時とは、まるで別人。身に纏う鉄のような空気には、何度こすっても落ちない、血の匂いが染みついている。

 双子の弟です、と言われても信じられるほどに、外見以外のすべてが違う。


「……そうか、そうだな。教会がかかわる以上、君たちが来るのも当然か」


 不意に。

 アルトリウスが、ゆっくりと右手を上げて、かけている眼鏡をずらした。


『…………ッッ!!』


 視線が重なった──それだけで、ユイとジークフリートが。歴戦の猛者であり、国内有数の動ける人間であるはずの二人が、一切身じろぎできなくなった。


 眼鏡越しにはごく普通の瞳でしかなかったはずなのに。


 今は底知れぬ深海のように、揺らめき、うねりを見せる蒼の双眸。


「君たちが祝福を活用するように、俺からも祝福を贈らせてもらおう。とはいえ次期聖女の前で披露するには、おこがましいが……」


 右手を伸ばし、アルトリウスがユイを指す。


 カチリと。


 蒼い蒼い瞳に、一瞬だけ極彩色の火花が散った。



「『均等虐殺機構/産声は零落と共に』」

「──!!」



 その名を聞いた刹那、ユイの足元から、言いようのない不快感がせり上がって来た。


(え……!? 呪詛の類!? でも今は加護を二重にかけている、発動できるはずがないのに……!)


 続けざまに、アルトリウスは右手の人差し指をジークフリートへ向ける。



「『悪夢を絶ち切る断末魔の鏡像』」

「──!!」



 ジークフリートの呼吸が凍り付く。

 その名が、明らかに自分へと干渉しているのを感じた──干渉されている。何らかの攻撃として成立している!


(馬鹿な! 加護を貫いた!? いいや、加護がそもそも反応していない! 精神干渉系の類ではないのか!? しかし……!)


 息が詰まり、膝から崩れ落ちそうになる。

 ユイとジークフリートだからこそ、必死に立っていることができた。


「……ああ。これは、攻撃じゃない」


 アルトリウスは二つの名を呟くと、頷いて眼鏡をかけなおした。

 ガバリと面を上げた二人が、即座に加護を再起動させる。身体や精神に異常はない。あるいは、異常がないと刷り込まれているのか。


「言ったはずだ、祝福だと。俺の目的と君たちの目的は重なってすらいる。きっと今の名前が、君たちを助けてくれるはずだ」

「……信じられません。ドブを喉に突っ込まれた気分ですよ」

「同意見だな」


 警戒心をあらわにする二人に対して、アルトリウスは肩をすくめた。


「そんなことはどうでもいいだろう。本題に入ってくれ、時間がなくてな」

「……学園祭への、騎士による襲撃計画。存在まではつかめましたが、どこが出どころなのか分かりませんでした。貴方は知っているんじゃないですか」

「ほお? 何故そう思った」


 答え合わせを楽しむようにアルトリウスは促す。

 ユイは逡巡した後、キッとまなざしを鋭くした。


「貴方は、マリアンヌさんに接触した。それは多分、騎士が学園祭を襲撃するとき、マリアンヌさんの味方をするためですね」

「……正解(イエス)だ」

「貴方の所属は、教会ではない。だけど教会とつながりはある。元王子としての経歴を考えれば、憲兵団内の極秘部隊……教会と人員を出向させあい、技術を取り入れ合っている、王国所属の退魔部隊ですね」

「……正解(イエス)だ」


 そんな部隊があるのか、とジークフリートが静かに目を見開く。


「だからマリアンヌさんを襲撃する計画は、例えば教皇様やそれに類する上層部による、トップダウン式のものじゃない。私がつかめず、貴方がつかめている。これは多分、現場レベルの話のはずです」

正解(イエス)。驚いたな、次期聖女は名探偵も兼ねられるのか」

「あいにく、私は名探偵の助手です」


 軽口に応じながらも、腕を組んだユイは、こちらを揶揄うように唇をつり上げるアルトリウスをねめつけた。


「でもここからが分からないんです。私が探りを入れてみたところ、空振りでした。中隊長程度の小さな話だとは思えない。あっジークフリートさんすみません」

「いい、気にするな。中間管理職なのは分かっている」


 中隊長が決起するにしては、規模が大きすぎる。学園への潜入・暗殺など、大隊長に把握されないはずがない。

 教皇クラスからの指示にしては、情報のプロテクトが強固過ぎる。何よりユイに察知されずに進められる話では決してない。

 顎に指をあてて唸るユイに対して、アルトリウスは優しい声色で語りかける。


「そこだ。そこだろう、次期聖女。そこで一歩踏み込んで考えれば、正解がある」

「……現場レベルかつ影響力を持つ存在となると、中隊長では不足しています。それこそ大隊長クラスしか……え?」


 口にした憶測を自分の耳で聞いて、ユイは完全に凍り付いた。

 彼女がたどり着いた結論を察し、ジークフリートもまた完全に停止する。


「そうだ。正解(イエス)だよ、次期聖女」

「嘘だ!! ありえない!!」


 ジークフリートの叫びは悲鳴に近かった。

 彼にとって超えるべき壁、尊敬する先達。王国に三人しかいない大隊長が、たった一人の少女を抹殺するために動くなど、信じられるはずがない。


「……ッ。ジークフリートさん、でも、筋は通ります。大隊長クラスが、信頼できる部下のみで固めて動くのなら、私には情報は入ってこない。そしてなおかつ、学園側に協力者を送り込むのも容易です」

「本気で言っているのか、タガハラ嬢! 大隊長は、王国を守る最強の盾にして無双の剣! そんな彼らが……!」


 ジークフリートが歯を食いしばり、深く、深く息を吐く。

 自分を律そうと、騎士としての冷静さを取り戻そうとする。

 その間にユイが、改めてアルトリウスを見据えた。


「仮にそうだとして……私がなんとか交渉をしてみます」

「通じるとは思えないな」

「なら、騎士としての資格を剥奪するまでです」

「それでも来るぞ、連中は」


 アルトリウスは断言した。


「知っているはずだ、次期聖女。騎士の権能は、一定ラインを超えればその個人のものとして進化し始める。そこの騎士だってその領域に手が届いている」

「……ッ」


 ユイはちらりとジークフリートを見た。

 彼に加護を与えたのはユイだが、既に彼の力はユイが奪おうとしても奪えない領域に届いている。


「大隊長クラスともなれば、偽りの前聖女でなく、現教皇から加護を与えられている。多くの経験の中で生き残り、自分の力として加護を発展させてきた傑物だ。彼らが死を覚悟してでも動くのなら、それは武力によってしか止められないだろう」


 滔々と語られるその理論に、反論を差しはさむ余地はない。

 そんなことは、ユイもジークフリートもよく分かっている。二人は大隊長クラスの強さをよく知っている。


(大隊長、クラスが、本当に動くのなら……勝て、ない。武力でしか止められないのに、絶対に武力で相手しちゃいけない……)


 思考が停止するのをユイは自覚した。

 言葉を失っている二人に右手の甲を向けると、アルトリウスは人差し指と中指と薬指を順に立てて、名高き騎士たちの名を謳い上げる。



「王国の三大騎士。

 『透律卿』ことチェルグラス・マラガン大隊長。

 『髭猫卿』ことミケ・タウ大隊長。そして……

 『暗天卿』こと、ゴルドリーフ・ラストハイヤー大隊長」



 アルトリウスは、愉しそうに、邪悪に唇をゆがめた。




「くじ引きは好きか? 3本全部ハズレだがな」






 ◇◇◇






「マリアンヌ・ピースラウンドさんだね。私の名前はゴルドリーフ・ラストハイヤー……聞いたことがないとは言わせない。私がここにいる意味、分かってもらえるかな」

「めっちゃ名前かっこいいですわね。強キャラ確定じゃないですか」

「なんて?」

「でも……わたくしの名前の方がかっこいいですから!」

「なんて??」

「というわけで敗者には施しを与えましょう。サンドイッチをどうぞ」

「え???? あ、はい、いただきます……え?????????」







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[良い点] >聞いたことがないとは言わせない >まあ私には関係ないか。ガハハ! ガチで知らないやつなんだよなぁ
[良い点] 勢い任せで神から謝罪をもぎ取る女。 此処まで怒涛の勢いで駆け抜けて来ただけはありますね。
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