PART8 ナイトメア・センチュリオン(前編)
既に終わってしまった世界の物語。
何も届かず、何も間に合わなかったお話。
完全顕現した五体の上位存在に、為すすべなく兵士や騎士たちが蹂躙されていく。
ハインツァラトゥス王国の領土が半分ほど削られ、それだけでなく人類の生存圏が圧迫され、押しつぶされていく。各国のエースたちが出動するも、無限に増殖する恐怖の軍勢を押し留めるので精いっぱいだった。
そうして限界点を迎えた。
ハインツァラトゥス王国王都防衛戦。
五体のうち一体、死の不確定性への恐怖を司る上位存在を追い詰めた。
だがタダでは死なないと、その上位存在は、自らを追い詰めた少女に対して全身全霊の、自分の存在を犠牲にするような一撃を放つ。満身創痍になっていた彼女に防ぐすべはなく。
だから隣にいたロイ・ミリオンアークが前に出て、受け止め、庇う。
「……ぅ、ぁ」
知らずの内にうめき声が漏れた。
だが画面内に映り込む、黒髪赤目の少女の姿を見て、冷静さを取り戻す。
「…………」
違う。
あれは、わたくしの婚約者ではない。
記憶の中、わたくしではない誰かの隣にいたロイの最期だ。故にわたくしに当事者のような痛みを覚える筋合いはないし、権利もない。
この慟哭はわたくしではないマリアンヌ・ピースラウンドのものだから。
『────!! ────!!』
炎に包まれた王都の中で。
腕の中で今にも息絶えようとしている彼に、少女が必死の形相で叫んでいる。
彼女の腕の中で、寂しそうに笑う少年が、何かを言おうとして唇の端から血をこぼしている。
『やっと……おれを……だけど……こんな、風には……』
そこで、光景が切り替わる。
地面に突き立てられた墓標。海を渡っていく民草。破滅した大陸。
残った戦士たちの中でもひときわ目立つ、最大戦力にして、偶然人類の味方となっているだけの、復讐鬼。
「…………これが、ナイトメアオフィウクスの力」
怨嗟に染め上げられた漆黒の焔。
ただそこにいるだけで、周囲一帯に穢れを押し付ける憎悪の力。
『あらあら』
ガバリと振り向く。
見せつけられていた記憶の主が、わたくしの背後で地面に座り込み、こちらをせせら笑っている。
『あらあら、まあまあ』
冗談じゃない。これは、これは……本当にマリアンヌ・ピースラウンドか?
鏡で何度も見た顔。確かに今のわたくしより成長している。だが大人びたわけではない。疲れ果て、擦り切れ、摩滅した表情だった。
『びっくりですわ。なんて──懐かしい顔』
「なん、で、ここに……!?」
推測だが、わたくしは軍神の覚醒者である不沈卿によって、精神を次元の狭間まで飛ばされた。
ここはなかったことにされた世界のゴミ箱。
それもただ捨てられただけじゃない。巻き戻しの際、この未来はなかったことにされ、破壊され、まさしく紙をぐしゃぐしゃに丸めて屑籠に放り込むようにして捨てられた。
人間の姿を保っているはずがない。
『なんで、と言われましても。確か『暗中蠢虫』を撃滅して、それから最後の最後に『外宇宙害光線』が出て来て……ああ。そう。リンディが片づけたのでしたね。わたくしにこれ以上罪を背負わせたくないとかなんとか。無駄なことなのに』
「……ッ」
全部他人事みたいに言ってやがる。
ていうかこいつ、世界ごとロールバックされたのに、精神力だけで存在の一部を残したっていうのかよ……!
『ねえ、過去のわたくし』
違う! と叫びそうになった。
アナタは未来のわたくしなんかじゃないと、拒絶したくなった。
だってこれは、余りにも、成れの果て過ぎる。
『覚えているかしら……SN、2006gy』
目の前の女が、髪を指に巻き付けながら言う。
「……西暦世界で観測された中で、最も大きな光量を放つ超新星ですわね」
『あら。覚えているのね。とはいってもアナタって過去のわたくしだから、そりゃ覚えていて当然かしら』
「何が言いたいのです。まさかアナタの末路は、超新星爆発だと? ご冗談を」
『わたくし、冗談は嫌いなの』
ギクリと身をこわばらせた。
記憶映像の中に見た、ナイトメアオフィウクスの黒焔に取り囲まれている。
『わたくしなりにルシファーを再現した形態変成。それがナイトメアオフィウクスですわ』
「……だったら?」
『超新星爆発を起こした天体は、超新星残骸となって残るわ。ふふっ。アナタの世界には……いいえ。リーンラードの兄妹に巻き戻されたからこそ、軍神はまだ知らないわ、わたくしのことを』
身動きの取れないわたくしを眺めながら。
残骸という呼び名がこれほど相応しい存在もないであろう女が、ゆっくりと立ち上がり、黒髪を地面に引きずって歩いてくる。
『残骸に惨めに殺される彼の顔、見てみたいわ』
「……っ」
『アナタの身体ならきっと、ナイトメアオフィウクスの出力に耐えられる。お願い、譲ってくれないかしら』
お願い? しらじらしい。乗っ取るつもりだろ。
『身をゆだねなさい。アナタの窮地も救ってあげるわ。win-winでしょう?』
──この女、今なんつった。
救ってあげる、と言ったか。
『さあ』
黒焔をなんてことないように踏み越えて、悪役令嬢であることを捨てた女が、わたくしの頬に手を添えようとする。
「なるほど、なるほど。委細承知しましたわ」
『?』
その手を左手で握り。
わたくしは至近距離で、笑みを浮かべる。
「上からモノ言ってんじゃねえですわジメジメババア────!!」
思いっきり鼻っ柱に右の拳を叩き込んだ。
触れた瞬間に拳が焼け落ちるような激痛を発したが、インパクトは通した。
ぶん殴られた女が、顔を押さえのけぞる。
『!? !?』
「あの軍神という男を! あんのこちらをナメきったクソ野郎をぶん殴るのはわたくしの役目です!」
炭化し始める右の拳。気合で蝕みを抑制しながら、わたくしは叫ぶ。
「わたくしはまだ燃え尽きていない! アナタとは違う! わたくしが天に輝く限り、超新星の輝き如き打ち消してみせますわ!」
触れただけで存在を蝕む存在だと分かったうえで。
わたくしは黒焔を踏み潰し、女の胸倉をつかみ上げる。瞬時に全身を呪詛が循環し、痛みのあまり奥歯が噛み砕かれた。
だから、どうした。
『状況が分かっているの!? 今のアナタより、わたくしの方がずっと……』
「自分のステージを赤の他人に譲る馬鹿がどこにいますか!」
『────!!』
鼻と鼻が擦り合うような距離で、向こうの顔を見上げ、ドブみたいな赤い目を睨みつける。
「アナタ、もう幕を下ろしたのでしょう? 自分の意思で! ステージから叩き出されて這い上がろうとしているなら認めます。でも違う! アナタはもう、気高き令嬢の風上にも置けない死人! 生きてると嘯くのはもうやめなさい!」
気に入らねえ! わたくしの顔で絶望してんじゃねえよ!
『わたくしから、復讐の権利を奪うつもり!?』
「馬鹿が! わたくしの闘争の権利とかち合ったと理解できないのですか!」
『だったら奪い取らせてもらうわ!』
向こうがガチッと音を立てて両足を大地に突き立てた。
瞬時に力が伝導され、右の拳を最低限の動きで振りかぶり、最大出力で放たれる。
それを見ながら、わたくしも同じ動きを──しようとして。
あ、こいつわたくしより疾い。
でも、身体も精神も根っこが同じだから。
今この瞬間に模倣れる。
ガチッ! と音を立ててこちらの踏ん張りも固定される。
そこからの動きは、今までのわたくしが放っていたものから数段階引き上げられた、上質な右フックだった。
『はあ!?』
動きをパクられたことに気づき、眼前の女が素っ頓狂な声を上げる。
プロテクト噛ませてないお前が悪い!
「でりいやああああああああああああッ!!」
理想的な軌道を描き、こちらの腕が向こうの拳の外側を回り、そのまま頬へと突き刺さる。
向こうの攻撃をギリギリで避け、クロスカウンターが成立する。
「悪い夢なんて、早く醒めなさい! 今を生きる者の足を引くんじゃありませんッ!!」
完全に拳を振り抜いた。完璧に捉えた感触だったのに、女の身体が吹き飛ばされることはなく、ただ上体をのけぞらせるに留まった。
存在の密度が違う。全身全霊の一撃が、ゴムボールが当たったぐらいにしかならない。
だけど。
『……ああ、そう。譲ってくれないのね』
「ええ」
頬をさすりながら、女がこちらを見る。
全身にまとわりつく黒焔。
さっきまでこちらの身体を焼き尽くそうとしていたそれが、今は肉体を補填するように蠢いている。
「アナタの絶望に呑まれはしません。わたくしは、その絶望を抱いて駆け抜けましょう」
『できるとでも?』
「できます。何故なら──」
右手で天を指す。
同時、微かな光が漆黒の闇に差した。何が起きたのかは分からんが、元の世界へ続く扉が軋みを上げて開いているのだ。
ほら見ろ。わたくしは神に愛されてるんだよ。わたくしが勝利の女神だからな!
「わたくしが、夜空に輝く者! 闇を切り裂く者! 原初の円環を疾走する者! 『流星』の禁呪保有者にして世界最強の悪役令嬢、マリアンヌ・ピースラウンドだからですわ!!」
その宣言を聞いて。
悪夢の女が、少しだけ、眩しそうに目を細めるのが見えた。
そうして自分の成れの果てを押しのけて現実に帰還し。
わたくしはナイトメアオフィウクスを完全解号し、不沈卿に一撃を入れていた。
「ぐ……!」
「不沈卿、それは!?」
わたくしに殴られた頬を押さえ、立ち上がろうとした軍神が力なく膝をつく。
どうやら効果はてきめんのようだ。むしろさすがは【七聖使】とほめてあげるべきだろう、魂を蝕むデバフを食らっても、人間の形を保てているのだから。
「近づくのは下策か……! 今度こそ圧し潰す!」
肩で息をしながらなんとか立ち上がり、軍神が右腕を振るう。
刹那、稲妻が落ちる。彼への道を遮るように、複数体の巨大な上位存在が顕現した。
見下してんじゃねえよ殺すぞ!
「これらは蛇竜種に黎明巨星を──」
「ナーフですわ!!」
「は?」
足元から魔法陣を広げ、軍神が召喚した上位存在たちを一気に巻き込む。
黒紫色の輝きが大地を満たした。
「あれもナーフ! これもナーフ! それもナーフ!」
そして、激発させる。
地面から流し込まれた憎悪の波動を受けて、上位存在が内側からぶくぶくと膨れ上がり、泡を吐いて潰れ、痙攣するように跳ねて弾けていく。
十数に及ぶ巨大な敵影が残らず腐食、爆散していった。
「わたくし以外の総て、全部ナーフですわッ!!」
これは憎悪の光。
存在そのものを否定する呪いの禍光。
普段のファイトスタイルからは遠いが、元々万能選手だから全然余裕で扱えるね!
「…………は?」
展開した軍勢が刹那に全滅し、軍神がぽかんと口を開けて固まる。
その間抜け面を見て、わたくしは鼻を鳴らした。
「馬鹿が。身の程を知りなさい。数を揃えただけで勝てるとでも? アナタが喧嘩を売っていい相手ではなかったということですわ」
「……巫山戯るなァッ!!」
安い挑発に激昂し、軍神が大地を叩いて立ち上がる。
彼の背後に姿を現したファンネル(何らかの権能だろう)がビュンビュン飛び交い、四方から魔力弾を撃ち込んでくる。
普段なら飛び跳ねて避けたり腕でガードしたりするところだが、今はそんな動き必要ない。
身に纏った黒焔に触れた途端、魔力弾は溶け落ちるようにして輝きを失い、無力化されていく。その光景に不沈卿は目を見開く。
「なん、だ、それは……」
「さあ何でしょうか。わたくしがたどり着いたとはいえ、それは今のわたくしではないので」
言いながら、我ながら空々しい嘘だと思う。
展開した刹那から分かっている。絶えず鼓膜の内側で響く悲鳴と怨嗟の声がうるさい。
彼が死んだのだからお前も死ねと、あらゆる存在を憎悪している。
あの閃光がかき消えたのだからお前達も影に沈めと、万物万象に怨嗟を吐いている。
分かっていますわよ、と口の中に言葉を転がす。
これはそういう力だ。はっきりと断定できてしまう程度の、世界を滅ぼすための力だ。
〇無敵 何何何何
〇日本代表 いや本当になに?
〇宇宙の起源 あ、え?
実時間上数秒ぶりに見たコメント欄が、驚愕と困惑に埋め尽くされている。
「ふ、不沈卿……!」
信者たちの代表と思しき男が、声を震わせ軍神の元に駆け寄ろうとする。
だが瞬きをした刹那、彼の行く先にはわたくしが立ち塞がっていた。
「それで?」
「……!」
「それでアナタたちは何なんです?」
首を鳴らして問う。
不沈卿にくっついてるだけの連中だが、恐らくこいつらがハインツァラトゥス王国の神殿残党だろう。
代表らしき男が前へ一歩進み出た。
「私の名前はヤハト。我々は聖なる予言のもとに行動している」
「ヘェ~」
「世界に混乱をもたらせと、大いなる存在は仰っている。故に、上位存在を顕現させて、世界を焼かねばならないんだ。分かってくれ、流星の少女よ」
……ああ。脚本家の少年が、神殿の巫女を介して色々と暗躍してたやつの影響が残ってたのか。
とはいえここまで長く、そして根深い活動になるのを見越してはいなかっただろう。
何より予言と実際に行っている行動が違い過ぎる。軍神にいいように扱われてるな。
「フ~ン。軍神の覚醒者に泣いて縋り付き、リーンラード家の守護精霊というおこぼれを手に入れ。アナタたちは無事、単なる暴力装置になり果てたわけですか。いやあ、めでたい話ですわね」
わたくしが腕を組みながら告げると、ヤハトは唇を戦慄かせた。
「……我らのことを何も知らぬ小娘が、愚弄するか」
「愚弄ではありません。全否定しています。エセ神様の言うとおりにすればいいと思って。アナタたちみたいな連中のことを、馬鹿っていうんですよ」
「貴様!!」
沸点低すぎでしょ。
ヤハトは懐から短刀を引き抜き、こちらに切っ先を向ける。
まずいな、と内心で舌打ちする。出力を極限まで絞っても、魔法使いでも騎士でもない一般人相手じゃ即死攻撃しか打てない。
どうしたものかと悩みながら、ヤハトとにらみ合っていると。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「……!」
裂帛の声を上げた軍神が、全身に上位存在の権能をフル搭載してこちらへ突撃してきた。
「へえ! 考えましたわね、片っ端から使い潰す作戦ですか!」
何の上位存在なのかは分からねえが、何重にも権能の加護を展開しているな。本体に到達する前に次から次へと張り直されたら、確かに侵食勝ちは難しい。
突撃してきた軍神のサーベルを右手で受け止める。余波に大地が爆砕する。
「で、す、が! 正面衝突はいささか無謀でしてよ!」
「ほざくな小娘えええっ!」
軍神が背部を光らせ、一気に加速する。
荒野から神殿付近の戦場まで直線でぶち抜き、最後にわたくしを大きく弾き飛ばす。
「死ねよ、禁呪使い!!」
収束された加護の光が放たれる。
目標を貫通したそれがまっすぐ伸び、神殿の残骸に直撃し轟音を響かせる。
「……っ!」
貫通したのがデコイの黒焔だと気づき、軍神が表情を歪め、数瞬後に振り向く。
おっそい。振り向いた刹那に頬へハイキックが直撃、加護の光が砕け散る。
「マリアンヌッ!?」
「無事だったんですね!」
軍神と間合いを取り直すわたくしに、リンディとユイさんが声をかける。
「ええ! ですがこちらは!?」
「流星の砲撃が消えたから、押し込まれつつあります……!」
空を埋め尽くそうとする蛇竜種相手に、みんなよく戦っている。
それでも数の差は覆し難い。ロイとジークフリートさんというエース格は巨神兵の相手で精一杯。
「陣形を崩すんじゃないヨ青二才共!」
青騎士さんが必死に戦線を維持している。
ここを突破されたら総崩れだ。殲滅戦となるのは目に見えている。
「チッ。ユイさん、加護が残っていればわたくしにかけてください。もう一度二重詠唱して弾幕を──」
その言葉の途中で、ふと音が聞こえた。
遠方から凄まじいスピードで地面を疾走する音。走ってるんじゃない。車輪が回転する音だ。
「え……」
その音をわたくしは知っている。
ガバリと振り向く。遥か遠方からどんどん大きくなっていくシルエット。
「え、あれ何?」
「増援? でも、聞いてないです」
二人が戸惑う中、わたくしは唇を震わせる。
「ネズカーと、巨大ロボット……!」
〇みろっく え、ロンデンビアのあれ?
〇鷲アンチ 何で来てんの!? いや何しに来てんの!?
ああそうだ、何しに来たのかが正しい。
確かに兵器として質が高いのは認めるが、神秘が跋扈するこの戦場で役に立つとは思えねえ。
「何をしに来ましたの!?」
乗ってる人間が誰かなんて分かり切っている。
わたくしが問いを叫ぶと同時、外部スピーカーを通じてパイロットがアンサーを返す。
「決まってんだろ、借りを返しに来たんだ!」
「嬢ちゃんには助けてもらったからなあ!」
「不審な動きがあり、何やら戦の準備をしていると聞いたからな。数日前から、軍事演習の名目でこちらに来ていたんだ!」
順番にマルコ、ラカンさん、ローガンの声が聞こえた。
ついに戦場へと到達したネズカーたちが、勢いよく空を舞う。
「行くぜッ、三獣合体ッ!」
『PUGYU!』
なんて??
「ネズキャスト、ゴー!」
マルコの掛け声とともに、ネズカーがまんまるで愛らしい瞳をキリッとさせると、身体を90度に折り曲げ胸部から腹部にかけてを象る。
か、カワイイ~!!
「ロボアームズ、ゴー!」
ラカンさんの掛け声とともに、巨大ロボがばらばらになり、四肢となって接続される。
か、カッコイイ~!!
「プテラバック、ゴー!」
ローガンの掛け声とともに、プテラノドンが飛んできて、背中に張り付いて背部ウィングになる。
お前誰!?!?!?
「「「三獣合体ッ!!」」」
「誰!? 最後のプテラノドン誰ですの!? 当然のように交じってますが初見ですわよ!?」
ガシャァアアン! と豪快な音を立てて、ネズカーの天井からカッコイイロボの顔が生え、ツインアイが光を宿す。
拳を打ち合わせてから、巨大ロボがポーズをばっちりキメて、全身から光条を放つ。
「「「ネズカーZZZッ!!」」」
どこに出しても恥ずかしくない巨大ロボが、戦場に舞い降りた。
「何ですのこれェッ!? こんな変形機能あったんですか? 嘘つきなさい確か最新型と旧型でしょ!? どう考えたって合体機能あるわけありませんわ! ていうかそのプテラノドンは誰!?」
〇映画化おめでとうございます。見に行きます。 PUIPUI!
ネズカーZZZは腕を振り回し、全身の各部から魔力弾を放ち、すげえ勢いで邪竜種を薙ぎ払い、撃ち落としていく。
は? 普通にキルスコア1位取る勢いだが……
「い、一気に戦局が押し戻されましたね……」
「そうね、助かったわ。アナタが呼んだんでしょ?」
「いえ、まったく。完全な飛び入りです」
「は?」
あっけにとられる二人から顔を背ける。
〇木の根 えっ呼びつけたわけじゃないの?
〇苦行むり マジで勝手に応援として駆けつけた……ってコト!?
いやまあ結果オーライってことでなんとかなりませんかね? ならねえな。
ともかく蛇竜種の総数がガクンと減り、かなり盤面をフラットにできたのは確かだ。
できればもう一手打って、確実に優勢としたいところだが。
「……っ!? 新手!?」
「え!? 何ですか!?」
ぶわりと膨れ上がる存在感にリンディとユイさんが反応し、空を見上げる。
だがこれもまた、その、知っている存在の感覚だった。
「ああ、もうめちゃくちゃですわ……」
眉間を押さえ、重い息を吐く。身に纏う黒焔も心なしかしょげている気がした。
直後、空中に展開されていた魔法陣が、まとめて薙ぎ払われる。這い出ている最中だった蛇竜種が身体の半ばで空中に放り出され、自壊して砕け散る。
『脆い! 脆すぎるな! なんだこの脆弱な存在たちは!』
空を埋め尽くしていた魔法陣を片っ端から打ち壊していくのは、竜だった。
水を司る竜、アイアスである。
彼は大地を見下ろし、哄笑を上げ、その最中にわたくしと視線が重なる。
『クハハハッ! 矮小な存在よ。ここは既に我のりょうい……あれ?』
「あれ? じゃありませんが!!」
さすがに天を仰いで絶叫した。
こんな、こんな形で因果が成立することがあるかよ!
『えっなんでこんなにいるの!? 人間が! ていうか君もなんでここに!?』
「そりゃ今は人間同士の内ゲバの真っ最中ですからねえ!」
突然現れた天然の上位存在を見て、全員動きが固まる。
ええい! こいつはどうしてこう、人の集まる場所に来るんだ!
「あーもういいですわ! 来たからには手伝いなさい! その雑魚を処理してもらえますか!」
『む……いやしかし、我はお前の友達とかではないんだが……』
「うっさいですわね! ここにいる全員をけしかけてあげましょうか!?」
『それは嫌だ! 分かった、分かった! 協力する!』
うっし! もう一手の押し込みもできた!
「ユイさんとリンディは……あら。もう『外宇宙害光線』は撃滅したのですか。素晴らしい戦果ですわね。ではもうひと踏ん張りです、戦線維持に戻ってください。かなり楽になったはずです」
「はい!」
「ま、私はお役御免かしらね。ちょっと後ろに下がって、全体進行の補佐に回っておくわ」
よしよし、いい感じだ。
こっちのペースになりつつある。予想外の増援が二つだったが、めちゃくちゃありがたい。
「さてと」
拳を鳴らしながら、顔を向ける。
「辞世の句とかあります?」
向こうは向こうで戦況を把握してたらしい軍神が、ゆっくりとこちらに向き直る。
「……何なんだ、これは。お前は一体何なんだ」
「哲学的な問いかけですわね。ですが既に答えた質問です」
「ああ、そうか。そうだったな……認めよう。君は正しく、私にとっての悪夢だ」
軍神は嘆息して、戦場を見渡す。
神殿の防衛線は健在。
「だが、君だ。君さえ倒せばこの戦いは終わる」
「同意見です。アナタを叩きのめせばそれでゲームセットですわ」
視線が交錯する。
互いに目的は分かり切っていて、手段もはっきりしている。
目の前にいるこいつが邪魔だ。
だから──勝負だ! 決着をつけようぜ!
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