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INTERMISSION39 暗闇の中に咲く花(前編)

 神聖な場所。

 邪悪な者が立ち入ることは許されない礼拝堂。



【残念ながら今この時に限っては、敬虔な心を持つのはわたくしだけだった】



〇日本代表 開幕大嘘モノローグやめろ

〇red moon 黙ってろ禁呪保有者兼大悪魔の因子持ち

〇無敵 ここ神聖さ失ってるからむしろお前にお似合いだろ、神への反逆ダブルビンゴ女がよ



 いやいやいやいや。

 でもさ、わたくし以外は全員マフィアなんだぜ?

 しかも聖堂をアジトにして、神の加護がなくなるレベルまで機能を損なわせた連中ときた。

 この中でだれが一番マシかっていえばそりゃわたくしでしょ。


「僭越ながら、祈りは済ませましたか? 今ならわたくしが代わりに祈ってあげてもいいですわよ、来世はなんとか虫にまでオマケしてもらえるようにと」

「言ってくれるな」


 目の前のスキンヘッドの男は動じなかった。

 だが周囲は違う。殺気が膨れ上がる。トリガーに指がかかるのを空気の流れで感じた。

 わたくしは今聖堂のちょうど中央に佇んでいる。まんべんなく全方位に敵が控えていた。二階席からもクロスボウが向けられている。

 シャワールームじゃなくて良かったよ。まあわたくしはニコラス・ケイジみたいにイケてるから死なないがな。


「それで……結局のところ、目的は何だ」

「マルコというおぼっちゃまに用件があります。ラカンさんへの抹殺命令の取り消しをお願いしたいのですが」

「……ボスに直接会うことは考えなかったのか」

「効率的ですがスカッとしませんわね」


 右の拳を胸の前まで上げて、ごきりと関節を鳴らした。

 その音が合図だった。四方から攻撃が再度浴びせられる。


星を纏え(rain fall)


 馬鹿が。たとえ魔力を激発させる形式の火器であっても、魔法使いの一節詠唱はそれより早い。発音言語が追いつかずとも意味言語は即時発動する。挙句の果てに原始的なクロスボウときた。

 顕現した流星のビットが散った。ヴェール上に展開されわたくしへの攻撃を阻み、逸らし、別方向へと受け流す。


「ギャッ」

「ぐわっ」


 そこらの三下がひっくり返り、二階席の刺客が肩や腹部を押さえ一階に落下した。

 スキンヘッドの男──めんどくせえハゲでいいや。ハゲはさっと首を傾げ、自分に逸らされた銃撃を回避した。彼の背後で聖像の頭部が弾け飛ぶ。



〇外から来ました 敬虔な人間は聖像の頭部を破壊しないぞ



 これは……その……

 じ、事故だよ事故。事故だからしょうがねえだろ。なあ!


「魔法で攻撃の方向を変え、同士討ちさせたのか……魔法使いにとってはたやすいのか?」

「わたくしにとっては、ですわ。残念ですがアナタの前にいるのは、大陸最強の魔法使いです」


 これが魔法使い同士の激突であれば話は変わっただろう。

 相手を害するための魔法を簡単に跳ね返すことはできない。


「通していただけます?」

「できないな」


 ハゲは言うや否や踏み込んできた。間合いを殺せば、か。逆だっつーの。

 コンパクトに振るわれた拳を、かがむ形で回避する。


「むっ──」

「──シッ」


 息を吐いてこちらからローキック。素早く片足を持ち上げ回避された。

 素早く足を戻し、今度はこちらから距離を詰めつつワンツー。拳の裏で打ち払うように無効化される。

 こいつ、攻撃はそれなりってレベルだが、防御はかなりやるな。前世で言うムエタイに近い技術を織り交ぜてるのか。

 ワンツーを放った右手を戻し、その際の勢いを、腰を介して左腕に伝達。ガードごと突き破るべく左ストレートを打ち込んだ。


「フッ」


 だがそれも空を切る。ガタイに反して俊敏な動きで、左腕を掴まれた。

 関節を即座に極められそうになる。


「チィッ……!」


 舌打ち交じりに、身体をぐるんと回転させる。

 肘を引き抜きつつ、勢いを載せて顎を狙いアッパー。だがハゲはのけぞって避けた。

 訂正する。打撃以外の攻撃もなかなかやる!

 へえ、いいねいいねいいねえ!


「盛り上がってきましたわね!」

「待っていたのは、お前じゃないがな」

「……あ゛あ゛!?」


 突然冷や水をぶっかけられ、わたくしは一瞬でキレた。


「全部わたくしですが!? 世界で最も選ばれし存在! 万物万象の頂点に立つ女! そんなわたくしの相手をしておきながら、お前じゃないですってェ!?」

「想像の百倍ヤバい女だったな……」


 わざわざ魔法を使わず接近戦を挑んだのは、こいつの土俵だからだ。

 同じステージでぶちのめしてこそ意味がある。前哨戦を相性差でゴリ押してどうするんだ。



【遠距離から圧殺したところで、勝利の美酒がノンアルになってしまいますからね!】



〇宇宙の起源 申し訳ないけど流星(メテオ)今すぐ返上してもらえるか



【だめでーす。

 既にわたくしと流星は一心同体なので返品不可でーす】



 コメント欄がぶわっと罵詈雑言であふれかえった。

 見るに堪えないので無視。もたざる者の嫉妬は醜いねえ。まあ反骨精神ってとこまでいってれば大好きだけどな。


「さて、仕切り直しましょうか」


 大体の戦法は分かった。

 ガンガン攻めてくる感じじゃない。どっちかっていうとカウンター主体。ならやることは簡単、向こうの返す刀より早く打ち抜くだけ。

 脳内で瞬時にシミュレーションを済ませた。百回やって百回わたくしが勝つ。


「……ッ」


 気配の変化をきっちり感じ取ったのだろう。

 ハゲが一歩後ずさった。

 わたくしは一歩距離を詰めた。

 その時だった。


「嬢ちゃん。悪いがそこまでにしてくれないか」


 振り向けば聖堂の大扉が開け放たれていた。

 右足はわたくしが治療した。解呪したのだから、そりゃ自由に動けて当然か。


「ラカンさん……」

「お前の相手は俺だ」


 バトルジャケット姿の掃除屋は、粛然と告げた。








「いいんですね?」

「マルコも俺がカタをつけたいが。嬢ちゃんの気が晴れないか」

「話を聞くだけでムカついてきます。是非とも前歯をすべてへし折ってあげたいですわね」

「なら頼んだ。俺はこいつを片付けた後、入れ歯の注文をしておく」

「よろしく頼みますわ」


 マリアンヌは無防備にすたすたと歩き、ローガンの隣を過ぎていった。


「残念ですがお遊びは終わりですわね。アナタ勝てませんわよ」


 通り過ぎざまの、忠告にもならない一言。

 それを聞いてもローガンは動けなかった。なぜなら、ラカンが視線の先にいたから。

 背後でバタンと扉の閉じる音がした。それを確認してから、ラカンが静かに唇を開く。


「ローガン……マルコにつくとは、馬鹿な真似を」

「……何とでも言えばいい」

「これ以上は言わない。かける言葉もないほど、愚かで、手遅れだ」


 言うや否やだった。

 ラカンは懐から魔導器(アーティファクト)を引き抜いた。注視していたのにまったく追えなかった。

 遠い平行世界では拳銃と呼ばれる形のそれを見て、ローガンが微かに表情を硬いものにする。

 確かにマリアンヌには及ばなかった。だがローガンも早撃ちに関しては卓越した使い手だ。そのローガンが、ラカンには一度も速度で上回れたことがない。

 既に抜かれた。撃たれるまでコンマ数秒もない。死を覚悟した。


「これでいい」

「────────」


 カランカランと空々しい音が響いた。

 見慣れた魔導器が床に転がっていた。ラカンはそれを投げ捨てた姿勢で、無表情でこちらを見つめている。

 ローガンは自分の視界が真っ赤になるのを感じた。


「貴様」

「これで対等だ」


 両手を膝の側に落とした自然体で、ラカンはローガンを見つめた。

 武装はない。互いに徒手空拳。

 過程こそ想像の埒外だったが、ローガンが待ち望んだ光景がここにあった。


「お前が求めていたのは、これだろう?」

「……恵んでもらうつもりはなかったがな」


 ラカンは両手を持ち上げたスタンダードな構え。

 一方のローガンは、相手と比べて高い位置に両腕を置いた。


「かかってこいラカン……雌雄を決するときだ」

「そうか。俺はそんなこと、考えたことなかったがな」

「ほざくなよ……!」


 ローガンは獣のような身体捌きで間合いを詰めた。

 左腕を目くらましに突き出しつつ、まるで針のように瞬間瞬間繰り出される右ストレート。一つ当たれば意識を刈り取り、そこから敗北へとつながるのは必然。

 ラカンは軽いフットワークでそれを避けていく。掠る気配すらない。


「お前はそうやっていつも! 自分はなんでもできると思いあがって……!」

(そんなことはない。俺はいつだって、自分にできることをしてきただけだ)


 表情に変わりはない。ラカンはいっそ冷たいと言えるほどの表情で的確にローガンの猛攻を捌く。

 余裕があるわけでもなく、ただいつも通りにポーカーフェイスを維持するだけだった。


「流れ者の分際で……!」

「…………」


 憎悪を口走りながら、ローガンがコンビネーションを繰り出す。

 すべてを逸らし、弾き、捌きながら、ラカンの冷たいまなざしはローガンの右腕の振りが微かに膨らんだのを見ていた。


「お前は」

「ッッッ」

打撃手(ストライカー)向きじゃない」


 一瞬だった。

 先に振りかぶったはずなのに、折り曲げられたラカンの二本指がローガンの喉を突いていた。

 呼吸が詰まる。体勢が崩れる。右腕を掴まれ、そのまま床に投げ飛ばされた。

 頭部のない聖像だけが決着を見守っていた。両腕を完全に剥がされたローガンの顔面に、ラカンは一切の躊躇なく拳を数度叩き込んだ。鼻の骨が折れる音。視界がバチンと火花を散らし、それでローガンの意識は途絶えた。


「……ふう」


 立ち上がり、ジャケットを羽織りなおす。

 周囲に転がっている敵の中に、息絶えた姿はない。ここはあの少女の流儀に合わせることにした。随分と根の甘いことだ、と嘆息する。

 だが恩人だ。彼女の決着も見届けなければならない。

 静まり返った聖堂の中を、ラカンは魔導器を拾い上げてから歩き出した。








 奥へのドアを開け、廊下を突き進む。

 聖職者の服装で武器を持った男が何度か出てきたが、全員ワンパンで静かになってもらった。

 マジで楽勝だ。レベリングしきった後でダンジョンを進めている感覚に近い。



〇苦行むり 大陸最強の魔法使い、ぶっちゃけそんなに嘘でもないもんな……

〇火星 冷静に考えてしょうもない国のしょうもないマフィア相手に、歴代随一の禁呪保有者をぶつけるのは無法が過ぎるだろ



 コメント欄は相手への同情一色になっていた。

 わたくしが訪れたのは完全にめぐりあわせなので、まあアレだ。マルコっつーやつの運がどん底だったんだろうな。


「お邪魔しまーす! ウーバーイーツですわ!」


 一番奥の扉を蹴破った。

 四角いカバンこそないが、気分は完全に配達屋だ。ピザでも買ってくれば良かったかな。

 アジトとして改造された奥の間には、武装した護衛数人と、妖艶な美女を侍らせソファーに腰掛けこちらを睨むお坊ちゃまがいた。


「お前が観光客を名乗って、ウチのファミリーに喧嘩を売ってきた馬鹿か」

「ご名答ですわ。注文は破滅か、ラカンさんへの殺害命令の取り消しか、どちらでしたっけ?」


 問いかけると、ソファーに座っていた女が手を叩いて笑った。


「面白い娘じゃない! 度胸があるわね。指名客がたくさん付きそうだわ」


 どうやらわたくしを売り飛ばした後の算段を立てているらしい。

 嘆息して、鼻をつまんだ。


「ババアは黙っててくれます? 加齢がうつります」

「────ほざいたな小娘!」


 沸点ひっく……

 ババアの金切り声が合図だった。武装した男たちがこちらに殺到する。

 わたくしは腕を組んで、ダンと右足で床を蹴りつけた。


天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)


 流星の輝きが右足から床を伝い、詰め寄ってきた男たちの足元で炸裂。

 破裂音と共に連中を四方八方へ吹き飛ばした。

 ロイが開発した卑劣極まりないクソ技に着想を得た、自分以外のものを経由して流星を発動させる遠隔技巧だ。ある程度の遅延も可能なので、尋常な立ち合いならそこらに地雷として仕込んでもいいスグレモノである。


「…………え? 終わりです?」


 吹き飛ばした奴らが立ち上がってくるのを待っていたが、彼らはまったく動かず呻くだけだ。

 よ、ヨワ~~。


「ちょっと……質の最高値があのハゲだとしたら、いくら何でも平均値すら低すぎませんか? 偏差値30いってないですわよこれ。Fランマフィアなんです?」


 絶句しているババアと、その隣のお坊ちゃまに声をかける。

 手下の全滅を見ながらも、マルコは余裕の表情を崩していなかった。

 へえ?


「余裕ぶっこいてる女が好きなんだよ、俺。そこから苦痛に歪むのがたまらなく興奮すんだ」

「丁寧な三下アピールどうも」

「警戒せず突っ込んできたお前の方が三下だぜ?」


 あ? なんつった?

 ブチンと脳内で音がした。わたくしは一気に踏み込もうとして、そこで足を止めた。

 体内に、何かが入っている。


「俺の魔法だよ。無害な魔力を体内に侵入させ、その後毒素に変換して内部からお前を焼き尽くす……お前、部屋に入った瞬間詰んでたってワケ」


 無害なものとして入り込んだあと有害性を発揮する。

 なるほどな、絡め手を仕込んでいたからの余裕か。


「じゃあいい声聞かせてくれよ。泉の底に(spring)沈む沼(fallen)おぞましき(hate)精霊の息吹(breath)日没に砕(daybreak)け散れ(break)

「嬢ちゃん、首尾はどうだ」


 マルコが三節詠唱を口ずさんで毒性を発動させる。

 ちょうどその時、破壊したドアの向こう側から、どうやらハゲを片付けたらしいラカンさんが顔を出した。


「アナタねえ……この魔法知ってたのなら、何で言わなかったのです」

「直感だが、関係ないだろう。瞬時に解呪してたじゃないか」

「そうですわね」


 まあ他人の毒なら魔法で解除するけど。

 そもそもわたくし対象の毒って意味ないんだよな。


「は?」

「余裕ぶっているところ申し訳ないのですが、わたくし、毒物が効かない体質なのです」


 体内で有害性を発揮した毒素が、片っ端から焼き尽くされていくのを感じた。あの大悪魔の加護だ。

 遅延発動? 無害なふりをして侵入?

 だからなんだ。結局は毒だろうが。

 別に悪魔の加護がなくとも、そもそも体内で流星を循環させて毒素を焼却するだけだがな。


「……は、はァ……ッ!?」

「あら、いい声ですわね」


 今度こそ焦りをあらわにして、マルコは弾かれたように立ち上がり、ソファーの後ろの壁に飾っていた武器を手に掴んだ。

 一瞥し、眉根をひそめる。ただの剣って感じじゃない。

 ……ああ、なるほどな。


「魔法使いがなんだ……! ならこっちでぶっ殺してやるよ!」

「虎の子というわけですか」


 それは大型の対魔法使い装備(フェンリル)だった。

 白銀の両刃剣。刀身まで色とりどりの装飾が施され、儀礼用にしか見えない。


「マフィアよりかは、貴族が持ってそうな代物に見えますが……ああ、貴族気分が味わいたかったのですか。アナタでは一生手の届かない場所ですものね」

「…………!! テッメェェェッ!!」


 あ、何か地雷踏んだっぽいな。

 マルコは剣術なんて習ったことないであろう、見るも無残な、遅く劣悪極まりない斬撃を繰り出す。魔法剣士を見習ってほしい。あいつの斬撃普通に時々音超えてねってなるぐらいだぞ。

 向こうの剣が到達するまでに四回は反撃を差し込んで確実に絶命させられる。

 だが、それじゃ気が済まねえ。

 魔法を使って他者を足蹴にするカス相手に、そんな終わらせ方じゃ納得がいかねえ。


 わたくしは──組んでいた腕を解くと、そのまま両手を落とした。


「な!?」

「あ!?」


 見ていたラカンさんだけでなく、襲い掛かってきたマルコすら驚いていた。

 フルスイングされたフェンリルが、モロにわたくしの側頭部を打ち据えた。硬質な音と同時、ぐわんと視界が揺れた。床に血が飛び散った。

 3%の防御は切断こそ防いだが、一部魔力を食われて衝撃を通している。

 数秒の静寂。振りぬいた姿勢で硬直しているマルコに対して、ゆっくりと顔を向け、至近距離で視線を重ねる。




「で?」




 本当に、心の底からの疑問だった。

 それでどうした? まさか有効打のつもりか?

 額を伝う鮮血に視線が吸い寄せられているのを感じた。そんなもん見てんじゃねえよ。お前が流させただけだろ。こっちを見ろよ。


「ヒッ」


 呼吸の詰まる音。

 マルコはヤケクソにすら届かない、完全な条件反射の追撃を振りかぶった。

 遅すぎる。大きく振りかぶってどうすんだ。だがいいぜ。それぐらい無様な方が、反射的な迎撃も出ねえし。

 右肩への袈裟斬り。当然防がない。鎖骨の砕ける音がした。がくんと足から力が抜け、膝をつく。


 だから、なんだ?


 わたくしは両刃剣の刀身を右手で握った。

 ブシュッと手から血が噴き出る。


 だから、なんだよ?


「アナタは何もかもを勘違いしている……何も、かも……!」


 フェンリルが魔力をかみ砕いている。わたくしが身に纏う流星の輝きを食らっている。

 お前如きが。安っぽい機械如きが、思いあがったな。

 歯を食いしばり、全身を循環している魔力を一気にフェンリルへ注ぎ込んだ。

 放電音と共に紫電が散った。ロングソードが軋みを上げる。


「ひっ……な、なんだよ! なんだそれ! 魔法使いなんだろ!? お前!?」


 宣伝文句は、魔法使い相手に圧倒的な優位性を誇るとかそんなんだろう。

 だからマルコはこう考えたのだ。魔法使いがこれを持てば無敵じゃないかと。

 浅い。あっっっっっさい。


「本当に、強いというのは……! 相性差がどうこうではありません……!」


 そうだ。

 流星(メテオ)禍浪(フルクトゥス)に勝てない道理はないように。

 人の頭を踏みつけ、高い酒を飲める人間が勝者なのではない。


 それを教えてくれたやつがいる。

 負けても心まで折れることはなく。

 何度でも立ち上がってくる、我が婚約者が、体現してくれている。


「────っぅぅぅぅぅぁあああああああああああああああああああああああッッ!!」


 裂帛の叫び声を上げて、立ち上がる。

 必死に押さえつけようとするマルコを至近距離で睨みながら、刀身ごと押し返して、立ち上がる。

 紫電が一層激しく散る。それは魔力同士の激突による黄金色から、フェンリル内部での動作不良による白へと変化していった。

 右手に瞬間的な過剰魔力を込めた。魔力を食らうシステムがついにオーバーロードを起こす。

 そして最後には、刀身がバキンと音を立てて、手の中で真っ二つに折れた。


「はッ……は、はあああああ!?」


 狂乱し、マルコが後ずさった。

 手の中に残った刀身の半ばから先を眺め、ぽいと投げ捨てた。過剰な装飾を施された虚栄の剣が、むなしい音と共に転がっていった。


「……アナタのそれは、動物の理論ですわ。人間の強さじゃない」


 それを言い放ち、壁に背中を張り付けるまで後退したマルコに目を向けた。


「終わったな」


 背後でラカンさんが嘆息する。

 わたくしは頷いた。これでケリはついたのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 沸点の低さで勝負するな
[一言] どいつもこいつもティファール製瞬間湯沸かし器な中で挑発されてもそこそこ持ち堪えたローガンさんすごいと思う
[一言] >沸点ひっく…… お前が言うな?
感想一覧
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