INTERMISSION28 サジタリウス・ライジング☆
光と光の激突に対して。
事態の急変を悟って慌ててマリアンヌのいるフィールドまで駆けてきた青騎士は、咄嗟に目をかばって伏せていた。
(……ッ! 何だネ今のは! ただの光が放たれるとは思えなかった……ゾッとするほどの、いやな予感がした……!)
武装こそ手放さなかったが、頭を抱えるような形で草原に伏せたのだ。周囲に敵がいたら致命傷につながっていただろう。
光がやんだかどうかの確証はなかった。だがいつまでもこうしているわけにはいかない。青騎士は腹を決めて、十秒数えてからガバリと顔を上げた。
「……なん、だ?」
マリアンヌが空中に浮遊しているのは、遠目からでもわかった。異常事態ではあったが、上位存在なんてものが顕現したのと比べればあの子ならやりかねないと思って気にしなかった。
だが目の前の光景はそれ以上に、異常だった。
宙に浮いていたマリアンヌは、天地逆さの状態になっていた。
「ぎう、うぅ……! アナタ、何ですか今のは……ッ!?」
とっさの反応で、第二の矢で、アンノウンレイが放ったエデイマス光線なるものを相殺しようとした。
戦場で無作為に散ったその光の大半を、確かに押しとどめた。だがもう半分は無作為ではなく、最初からマリアンヌ一人に狙いを絞って放たれていたのだ。
それを防ぐ手立てはなく、射手座の装甲を纏ったマリアンヌは、逆に光に射貫かれ。
「なんでっ……左半身が、動きませんの!?」
彼女の言葉を聞いて、やっと青騎士は得心がいった。
逆向きに浮遊しているのは、浮力を発生させているのが右足に絞られているからだ。
ちょうど空中に、身体を右足の一点でピン留めしているような状況。
『ここからは遠い平行世界……キミが多分知らない世界で発見された、直視した人間の神経を半数、一時的に停止させる光線を疑似再現した。ボクや遠い世界の人間にとっては既知でも、キミにとっては未知だろう?』
「知識マウントですか! あったまきましたわ! 超絶頭に血が上ってクラクラしますわ!」
『それは多分体勢の問題だと思うよ』
遠い平行世界。意味の分からない会話だ。だがそれを自分が理解する必要がないことを、青騎士は理解していた。
今自分がなすべきは現状の打破である。そのためにはこの少女の戦力が必要だ。
(なんてことだ! 半身が使えないなど────)
絶対的な窮地。
青騎士がとっさにフォローに入るべく、駆けだそうとして。
「ふおおおおおおおおおおっ! 振り子令嬢マリアンヌ、アナタ如きに捉えられまして!?」
『キミ、それどういう状況なの!?』
マリアンヌは浮力を発生できる右足を起点に。
自分の身体を揺らし、勢いをつけて、浮力をカットして飛び出し、また次のポイントで浮力を発生させ右足を固定。
ワイヤーアクションの派生の派生みたいな動きで空中を躍動し始めた。
「……なんでそれで戦えるのかネ」
さすがに青騎士は閉口せざるをえなかった。
彼の知る言葉ではないが、コメント欄では既に『スパイダーマンの捨て子』『スーパーフックガールに訴えられたら負ける』などと蔑称をつけられている。
挙句の果てにはスカートがばっさばっさとはためいていて、目のやり場にも困る。現状観客は青騎士しかいないが、彼は学生の下着から目を背ける程度には良識のある人間だった。
(だが、戦いにくいのは確かだろうネ。なんとか力添えしてあげたいところだが、どうすれば……)
青騎士はつい気になってしまい未だ髭を剃り落としたままの顎をさすった。
その時のことである。
「青騎士殿!」
「……! あの時の坊やカ」
彼の横に飛び込んできたのは、あの時の制服に白いマントを纏った服装ではないものの、見間違えるはずもない。
特急選抜試合において己を打ちのめした男、ロイ・ミリオンアークである。
「……ッ! 失礼、両目を潰させていただいても!?」
「何で!? アッ、パンツ!? 見てない! 見てないヨ!」
「パンツという言葉が出てくる時点で語るに落ちたというものですね、両目失礼します」
「ギャーーーー! ヤメテーーーーーー!」
ぴょんぴょこ跳ねて逃げる青騎士とそれを追うロイ。
びゅんびゅん跳んで逃げるマリアンヌとそれを追うアンノウンレイ。
戦場は混沌としていた。
「ゼー……ゼー……先日の件は……多くの失礼を、申し訳ありません」
「こ、こちらの台詞サ……悪かったネ……」
肩で息をしながら、男二名は体力を無駄に消費してやっと落ち着いた。
視界の隅ではまだマリアンヌがサーカスごっこをしているが、それよりも先に。
「ええ、では水に流した上で……騎士と見込んで頼みがあります」
「ウム。言わずとも分かっているサ」
ここに飛び込んできた理由。
何より、ロイがマリアンヌへ向ける視線。
「ならば、話は早いです。僕を彼女の元へ……彼女と同じ戦場まで、打ち上げて下さい。彼女の隣で戦うのなら、それを僕が他の人に譲るわけにはいかない」
「キミ、それ真顔で言ってて恥ずかしくないのかい?」
「……? 何がですか?」
「こりゃ筋金入りだネェ。だが、いいじゃないカ。気に入ったヨ! そこまで言い切れるのなら、キミの想いは確かに伝わったサ! ならば──」
かつて刃を交わした相手。
だが、それ故の高揚感とでもいうのか。
青騎士はロイの隣で、全身に力が漲るのを感じた。
「その願いに応えることこそ、騎士の役割だッ!」
身にまとう蒼の機械装甲各部が花開くようにスライド、光のラインを走らせた。
同時、両足の脛部分が開き、身体固定用のパイルを地面にたたき込む。
バッテリーにため込んだ魔力が急速循環。全身に、ロイの国の騎士が持つ加護に似たパワーを伝達する。
いうなれば外部装置による王国魔法騎士の再現と言うべきか。
(これが、ハインツァラトゥスの騎士か! 僕らの国とはまるで原理は違うが……魔力密度で劣っているとは感じない。実戦用の出力か!)
「彼女の隣を。空を駆けたいのだろう? この青騎士に任せたまえ!」
「……ッ! 感謝いたします!」
腰を落として青騎士がハンマーを構えた。
意図を汲んで、ロイは逡巡なくそのハンマー頭部に両足を載せた。
「私にできるのは投げだすことだけだヨ! あとはなんとかできるネ!?」
「命を懸けてでも、なんとかします!」
「よく言ったァ!」
機械装甲各部から吹き上がる光が、輝きを強めた。
数秒間のタメを挟み青騎士が、腰からひねりを乗せて思いきりフルスイングする。
「さあ行きたまエ! 惚れた女一人の視界にも入れなければ、生きてる価値なんてないと思いなさイ────!」
振り上げて、青騎士は微かに自嘲の笑みを浮かべた。どの口が、と思った。
だからこそ視界を駆ける黄金の線が、やたらとまぶしく見えた。
稲妻が、夜闇に包まれつつある大空を駆け抜ける。
ジグザグの軌道で、方向転換の過負荷に血を吐きながら。
けれど、流星と同じ空を飛翔する。
「マリアンヌッ!」
名前を呼ばれた。
パンツ晒してるのは嫌と言うほど分かっていたし今日は見られて超絶恥ずかしい、ちょっとフリルのついた黒いパンツだったので死にたくなったが……
「ロイ!? まず両目を潰しなさい!」
「見てない! 見た瞬間に記憶から消去してる! 僕にはまだその資格がないからね!」
「それは助かりま──いや逆に怖いですわよ!?」
遠方から真っすぐに飛び込んできたロイ。
彼は、慣性移動を繰り返して何とか攻撃を避けていたわたくしを、ちょうど横向きになったタイミングで両腕で抱き留め、そのまま飛翔した。
どうやって飛んでるのか──雷撃を純粋なエネルギーとして放出している。だから飛翔してない。推力を出しているだけで、それがわたくしが発生させている浮力と組み合わさっているだけだ。
「やっと……君と……!」
「ろ、ロイ! これ大丈夫ですの!? 向こうは攻撃中ですからね!?」
「ああ分かっている! だけどこの程度なら見切れる!」
わたくしをお姫様抱っこしたまま、ロイが大空を駆け抜ける。
サジタリウスの加護により浮遊している状態で、雷撃を推力として二人の身体を動かしている。
アンノウンレイが放つ光は、多分今のわたくしたちにとっての未知。だが当たらない。当たらないために、ロイはとにかく鋭角に鋭くターンを繰り返している。
ぶえー酔いそう!
「ちょっと! 運転が荒いですわ! モテませんわよ!」
「君以外にモテても意味ないから別にいい!」
「………………………………そうですか」
「そっぽを向いて何やってるんだい!? まだ君には、戦ってもらいたいんだ!」
うるせー! 顔が熱いんだよこのお馬鹿!
クソっ、普段の気持ち悪い言動をする余裕がないからか、こいつただ単に顔がよくてわたくしに一途な幼馴染になってる! めっっっっちゃ調子狂う!
「それで、その新しい形態は……後で聞く! とにかく今、まだ攻撃できるかい!?」
「……!」
言われて、矢を顕現させる。
だが直感的に、次はないと気づいた。一本目と二本目より、この三本目は明らかに出力が低い。
『そうだ。お前はまだサジタリウスの力を発現させたばかり。敵を貫けるかも危ういその三本目が、最初の変成における最後の力だ』
いつの間にかルシファーの姿は消えていた。
彼の言葉は脳裏に直接響いている。
「ちょっ、アナタ説明が不十分過ぎませんか!?」
『上がりたてのステージの力を十全に使えると思う方がおかしいだろう。それと、因子活性状態でもないのに無理して表に意識体だけを出したからなしばらくは話せないぞ』
こいつやりたい放題やって満足して帰りやがったな……
「ロイ、申し訳ないのですがわたくし、今左半身が動きません!」
「……! 分かった!」
ロイが右手一本でわたくしを抱きかかえ、左手を、流星の弓を持つわたくしのそれに添えた。
なんか人生で一番異性と密着してて死にそう。無理。普通に死ぬ。顔が良いんだよ。顔悪くならない?
いやもうそれは後でやるとしてだよ。だけどそれでも、自分では保持できていない弓と、矢。狙いを定める上では条件が厳しすぎる。
〇宇宙の起源 え?共同作業じゃん
〇日本代表 この上位存在……未知を直接はぶつけてこない……? Aにとっての既知でBにとっての未知をBにぶつけてくるだけか……?
〇外から来ました あ~~~分かった! 未知の宇宙の切り貼りじゃねえぞこいつ! 外宇宙っていうのは平行世界のことだ! すべての平行世界において人類が到達した宇宙の総合的な集積存在だろ、これ!
【………………】
〇無敵 おいナイス考察出たぞ!
〇宇宙の起源 これ結構……いやこれだな、これだわこれこれこれ!どうりでつながってるはずなのにつながれてねえわけだわ!母数がとにかく多いんだ!
【……え、どゆこと?】
〇火星 二度とゲームすんなボケ
〇日本代表 マジ本当に算数ドリルからやり直せカス
さすがに傷つく。
……いいや関係ねえ。集中しろ。
この一手にすべてがかかってんだよ。
サジタリウスの矢を、静かに引き絞る。かすかに力を込めただけというのに、過剰魔力が溢れかえってそこらに紫電と散った。
バチ、と音を立てるそれが、ロイの頬を浅く裂く。
「! ロイ……!」
「気にしないでくれ! これぐらいどうってことない!」
明らかに無理をさせている。
そもそもこの雷撃を推力に転換するやり方、まったく見覚えがない。
恐らくぶっつけ本番でやっている。
クソが! 一刻も早く狙いを定めないといけない。
なのに何やってんだよ、わたくしはッ。
間近の婚約者の顔が良くて集中できねえ!
マリアンヌが必死に、動かない片腕を使って弓矢を構えているのを見ながら。
頬を染めながらこちらをチラチラ見てくるマリアンヌの様子──にはまったく気づくことなく。
(……ッ!? 流星が雷撃魔法寄りの属性になっている!?)
ロイは冷静さこそ失っているが、余裕のなさ故に的確な分析ができていた。
(同調してきている! どういうことだ、系統を超えてシンクロする力が禁呪にはあるのか……?)
本来、禁呪とは通常の魔法とは一線を画す存在だ。
自然現象を魔力を用いて再現する魔法は、他でもないマクラーレン・ピースラウンドの手により緻密に細分化され、属性というカテゴリーを与えられた。
その分類から外れた魔法こそ禁呪。例えばユートの『灼焔』は、炎を扱う魔法の極点ではあるものの、火属性魔法には分類されない。
(僕の力もまとめてぶつけようとしているのか────)
ロイの思考は、客観的にそう結論付けた。
当然だ、勝負所で、かき集められるだけをかき集めるのは道理である。
しかし。
(……僕の、力)
(それで本当に、助けになるのか)
(むしろ足を引っ張ってしまうんじゃないのか)
コンマ数秒の世界。
マリアンヌを抱えて移動し、飛んでくる未知の光線を避けながら。
(何がしたいんだ、僕は)
(飛び込んできて、何ができるんだ)
(何かができるって思って飛び込んで、それから何もできないかもしれないって、最悪じゃんか)
(……何か、しろよ)
(ふざけるな、ふざけるなよ。何かしなきゃ意味ないだろ。彼女の勝利に、骸の一つとしてでも役立てよ)
(戦うんだよ。戦え。彼女の隣にいたいのなら、戦うしかないんだ)
【新規接続者を確認】
【主権者からの認可を待機……エラー。処理の不具合を確認】
【必要条件の確認に失敗。緊急性の確認に失敗】
【擬似認可の許諾に必要な条件はクリアできていません】
【……ですが】
【畏れはなく、怯えもない】
【彼には劣りますが、あなたも優れた覚醒者だと認めましょう】
(うるさい)
(知らない)
(お前の都合なんかどうでもいい! おれはお前の期待なんてどうでもいいんだよ!)
(あそこに行きたい)
(彼女の飛ぶ空に行きたい)
(そのため、には)
【────なるほど】
【ならば、限定的擬似認可を許諾】
【第六天との限定接続安定化を確認】
【迎撃権限を一部譲渡】
【術式指定:『天装雷槍・光翼』】
【適切な処置を行い、対象の未確認プログラムを排除……いいえ】
【悲劇を覆すために、あなたの為すべきことをしなさい】
【正義を、善を、光をもたらしなさい】
【非道を、悪を、闇を切り裂きなさい】
【それでこそ、七聖使の存在意義を満たすと知りなさい──】
ああ、そうだ。
知っているよ。僕は……いいや、おれは、知っているよ。
きみの翼は、遥かな天空を庭として羽ばたくためのものだから。
だから、どうか自由に翔んでほしい/おれをおいていかないで。
だから、どうか好きな場所を目指してほしい/おれをつれていって。
きみの飛翔を祝福しよう/翼を持って生まれられたら。
きみの疾走を祝福しよう/もっとはやく走れたら。
どうしてとなりにいけないのだろう。
どうしてきみはずっとまえにいるのだろう。
理由は明白だ。おれが弱いからだ。
そんなの分かってる。分かってる、分かってるんだよ──
────だからおれには、ないものねだりをしてる暇なんてないんだ。
引きずり落とすことはできない。
逆だ。彼女があるがままに駆け抜ける空へ、おれも行かなきゃいけない。
そうじゃなければ、彼女の隣にいる資格なんてない。
分かってるだろ、ロイ・ミリオンアーク。
ここだ。お前の正念場はここなんだ。
ここで隣に並べないのなら死ね。
彼女の隣に至れないのなら、死ね。生きている意味なんてないだろ。
だから。
今ここで、一時的でいい! 得体のしれない力でもいい!
マリアンヌの隣で、戦え────!!
「え?」
狙いを定めようとしていたわたくしは、呆然とした声を上げた。
『……何……だ、それ……』
撃ち合っていたアンノウンレイすら同様の声を上げている。
黄金の羽が降っていた。
ロイの背中に生えた、一対でありながらも巨大な翼。
左手で弓を固定してくれながら。
右手は、魔力の矢をつがえ必死に制御しているわたくしのそれに添えていた。
「大丈夫だマリアンヌ。今は、今だけは、僕が君の翼になる」
翼舞い散る中で、頬と頬が擦るような姿勢でロイが告げる。
「少し加速するよ。気を付けて」
「え、はい──ぎにゅっ」
いうや否やだ。
アンノウンレイの光線を掻い潜るような形で、ロイが急加速した。
ジグザグの軌道を経てロイが体勢を整えた。正直声も出なかった。スピードが違い過ぎた。何だこれ。いや違うな。この翼は単なる雷撃魔法じゃない。
まさかこれは、神域から権能を引き出して……!?
「アナタ、異常はないのですか! 身体に違和感は!?」
「……!? このナチュラルなアナタ呼び……もしかしてその呼び方は、夫婦になった後のための予行演習だったのかい……!?」
「話聞いてます?」
こいつマジいい加減にしろよ。
そうこうしているうちにロイは翼をはためかせ、わたくしを抱きしめながら、地上からは月と同じぐらいに見えるほどの高高度に位置を定めた。
え? 気にしなくていいの? 気にしても時間の無駄だったりする? ならこっち優先するぜ?
仕方なく穂先の位置を調整していると。
ロイが、わたくしが力を籠められない右手ごと、矢の穂先をアンノウンレイに向けた。
「ってロイ! こんな目立つ場所で──」
「迎撃は全部、僕が撃ち落とす」
迷いない断言だった。
さすがに何も言い返せない。口をパクパクさせている間に、アンノウンレイがこちらを見上げる。
『何をしようとしているのかは、わからないが……!』
「見てわからないのならその程度だな」
耳元でロイが静かに、低い声で呟いた。
同時、飛び回っていた天空から、稲妻が降り注ぐ。
……! アンノウンレイの周囲はもちろんだが、向こうから放たれた光線の射線上に落ちて、わたくしたちをガードしてくれている。一切の攻撃を通さない。有言実行過ぎる。まあこいつできないことは言わないしな。
「マリアンヌ。分かるだろう」
……あ。
本体が狙えるな。
モニターに映っていた照準が、敵影と重なりつつあるな。
っていうことに、ロイに名前呼ばれて気づいたな。
「……ッッ! ロイ!」
「ああ分かってるよ。僕とマリアンヌの共同作業! 名付けてミーティウムシューティングだッ!」
「いや言ってる場合じゃないんですが!?」
だが。
照準の色が変わる。ロイの言葉を切っ掛けにして逆三角形の照準が、銀河ロボの中点に定まった。
「────!」
「マリアンヌッッ、撃て!」
言われるまでもない。
「……ッ! 死になさい、クソ雑魚野郎!!」
雄たけびと共に、極光がはるか先の、最も大きな魔物のコアを捉えた。
正面衝突。拮抗は僅かな時間にも満たない。刹那に押し切った。
その、最後の最後。
コアに一瞬だけ、二つの、大小の人影が見えて。
見て見ぬふりなんてできるはずもない。
微かに砲口をズラした。
『そうか、そういうことか』
『おれの因子と共存しつつも、神々の庇護を受けるとは、そういうことだったのか』
『特異点と呼んだのは、彼女が運命を覆す存在だったからだ』
『だが……もしも。単に敷かれたレールを破壊するだけでなく、新たな道筋を再構築するというのなら』
『軽々しく呼ぶべきではなかったのかもしれないな。お前は本当に、希望や冗談を抜いて……特異点だったのかもしれないな』
「ハネムーンだ!」
「なんて??」
倒れ込んだアンノウンレイを見ながら、わたくしの隣でロイが剣を天へかざす。
「これがおれ……僕とマリアンヌの、初の共同作業! 未来の先取りではなく。過去の再演ではなく。現在という喜びを何度でもここに示そうッ! 僕とマリアンヌの共同作業が、この世界の未来を明確に表しているッ! 婚約者から次のステージへと、僕は向かうッ!」
こいつ何言ってんだろう。
死んだ方がいいんじゃないかな。
「いや何言ってんですか? ていうかアナタ今すぐ離婚しなければ婚約を解消しますわよ!」
「何だって……!? ぐっ……それなら……離婚するしか……!」
何かツッコミを間違えているな、と思って、わたくしは嘆息した。




