INTERMISSION26 サジタリウス・コーリング
『キミみたいな子は好きだよ。ボクはいろんな宇宙を包括してる。外側の宇宙って言うのかな。まだ人類種が到達していないいくつかの銀河を切り取って、まぜこぜにして、最後にスパイスをちょろっと入れたのがボクさ』
「成程。道理でスケールがちぐはぐだと思いました」
アンノウンレイの言葉にわたくしは頷いた。
本当に銀河いくつかを圧縮してるのなら、こんな被害が少なくて済むわけがない。
「仲良くなれそうで良かった、と言っておきましょう。では……アナタの目的を教えていただいても?」
『うん。今分かった』
言葉だけなら。
表層的なやり取りなら、まあ、和平交渉に持ち込み始めたのかな、って感じがするかもしれない。
でも違う。実際に相対していれば分かる。
こいつ────わたくしが同じ系統だと分かった瞬間から、出力を上げ続けてる。
「今分かった?」
『キミだ。この世界にも、外側の理を持ち込んでいる存在がいた。ボクはキミを理解するために来た』
対抗してわたくしも魔力を循環させる。
次は何が来る。考えろ。いや……思考で絞るのは限界がある。
同じ系統なら、感じ取れ。分析しすぎたら持ってかれる? 馬鹿言うなよ。わたくしがこいつを飲み込んでやる。全部引っ張り出して、その上を行って勝つ!
「奇遇ですわね。わたくしの目的もアナタです。アナタを打ち倒し勝利する!」
両足を肩幅に開いて、キッとねめつける。
「『外宇宙害光線』! 同じ道を歩くものとして、敬意を払いましょう! ですが勝つのはこのわたくしッ──」
真正面から、その在り様を捉えた。
目を凝らして、見た。
『いやあ それは よくないんじゃないかな』
前方。距離はあったはず。
眼前に銀河があった。鼻がこすれるような距離だ。そう見えた。
「おぶっ」
逆流してきた胃液が唇の端から噴き出した。
見ただけだ。ありえねえだろ。胃液に血が混ざっている。今までの戦闘で損傷していた臓器が、一気に出血し始めた。
距離は縮まっていない。ただ正確に存在を把握しようとしただけで、気づかされた。
既にこいつの法則は、外部への押し付けが始まっている。無自覚にわたくしが対抗していた。だから──つま先までもうこいつの世界が迫っていることに、気づけなかった。
「ひ、ぎっ」
両目から血が噴き出した。
頬をボタボタと鮮血が伝っていく。膝をついた。
『急にびっくりしたよ。今まで、気づいてなかったんだ? ていうことは無意識領域の演算能力が本命か……』
〇外から来ました ちょっ、ちょっとお嬢!?
〇宇宙の起源 お前真正面から理解しようとしたの!? やめろって超言ったよね? マジ何してんの!? ダチョウ俱楽部式じゃねーんだよ!
うわ、やばい、視界超揺れてるしついたり切れたりしてる。ついたり切れたり? どういうこと?
完全に、宇宙の真理が一瞬見えた。何かをつかんだのだが、頭の奥の奥で何かが焼き切れる音がした。
『大丈夫? さすがに予想外というか、正面からぶつかってくるのはちょっとボクもびっくりしたというか……いや、本当に大丈夫?』
「うる、さい、ですわね……!」
チノちゃんになりながら必死に息を整える。
大丈夫。致命傷じゃない。もともとボロボロだったところの傷が開いただけだ。
それに、確かにつかんだものがある。
「アナタは……銀河、そのものじゃない……銀河の全てを凝縮した、わけじゃない……! 漠然とした、宇宙の未知を切り貼りしただけの存在ですわ……!」
『……ッ!』
「外側の宇宙、だろうと……そこは、要するには別の宇宙というだけ! 流星は宇宙全体を自由に駆けめぐる光! アナタ如きに支配される道理は、ない!」
立ち上がるたびに全身が軋む。
口の中に鉄の味が広がっていた。ペッと真っ赤な唾を吐き捨てて、口元を拭う。
後ろを見れば、信者たちとハインツァラトゥス国軍が乱戦状態に持ち込まれていた。押し込まれたのだろう、しかし流石に後れを取ってはいない、対魔法使い装備をうまく使って順次制圧している。
だが……彼らではこの上位存在に対抗できない。結局信者たちをいくら無傷で倒せても、この銀河ロボを撃破しない限りは解決しない。
「……やってやろうじゃないですか」
乱戦状態の背後の中には、ロイやユートらしき人影もあった。一瞬しか見えなくても分かった。彼らは彼らのできることをしている。
ならわたくしは、わたくしのやらなきゃいけないことをするまでだ。
「『流星』よ、原初の輝きよ、わたくしに応えなさい」
片足の感覚が平時と違う。メテオバーンキックに使った方だ。自覚してなかっただけで、骨が折れてる。無理やり流星を循環させて、激痛に耐えながら、引きずるようにして立った。
ああそうだ。
相手がデカいのが分かった。ちゃんとわかった。完全に理解した。
だったら次はぶっ倒すだけだろうがッ!
さあ、宇宙を貫くぐらいに輝けッ!
できるだろ、わたくしと『流星』なら!
『ああ、そうだね。否定できない。ボクは所詮は切り貼りしたつぎはぎに過ぎないのかもしれない。それでも断言できる! 宇宙は素晴らしい! 宇宙は広い! 宇宙は未知だ! だからこそ、ボクにはない未知を、キミが見せてくれ! ボクの長い長い旅は、そのためにある!』
「……長旅ご苦労様です。なら、敬意を表して、アナタの旅はここで終わらせます」
静かに告げると同時、切り替わる。
かつてとは明確に違った。
憎悪をトリガーに流星が黒く染まった時は、ルシファーの波動を確かに感じていた。
だがこれは、それとは違う。
恐らくは『流星』単体が到達しうる、一つ上の次元。
『ついに────ついにここまで至ったか、マリアンヌ』
視界の隅に、漆黒の翼がはためく。
『えっ……』
アンノウンレイが明確に狼狽した。
わたくしの背後に、左右へ翼を広げて、大悪魔ルシファーが姿を現していたのだ。
『憎悪をトリガーとした、おれの因子活性状態ではなく……純然たる流星の輝きをもたらしたか』
ツッパリフォームが自動的に解除された。
別にいい。これは、新たなる十三節完全詠唱のための準備だから。
『さて。セーヴァリスはあえて余白を残してロールアウトしたようだが、設計図自体はおれの頭の中にもある。ならば、やつが机上の空論と切って捨てた形態変成が起動したと考えるのは自明の理だ。いいだろうマリアンヌ、今のお前なら使いこなせるはずだ』
「……アナタの認可をいちいちもらわないといけないのですか、これ」
『そんなことは全然ないぞ。事情を把握しているから説明した方がいいかと思って来た』
「これ説明音声ですか!? ラスボスに説明されるってそれどんなクリスタルの精霊!?」
こんな尊大な語り口なのにやってることは実質美術館の案内音声かよ!
『空を駆けるだけでなく、宙を貫かんとするのならば! 流星の少女よ、お前にはまさしく、黄道に存する十二の至高領域へ向かう資格がある!』
「あ、はい……かっこいい口上ですけど、アナタ今まったく関与してないんですよね……賑やかしじゃないですか……」
『こういうのが好きだろう?』
「────ハッ。まったくもってその通りですわねッ!」
だいぶんお前も分かってきたじゃねえか。
右腕を持ち上げる。激痛に歯を食いしばりながら、天を指す。
日の落ちていく茜空に、新たなる軌跡を刻む。
────星を纏い、天を焦がし、地に満ちよ
流星の輝き。
黄金色に光る過剰魔力が、像を結んでいく。
────弓を持て、暴け、照らせ、射撃せよ
アンノウンレイと彼我の距離は十分。
空白地帯に見えるそこは、世界の陣取り合戦が起きていて、不可視の抗力同士が激突して大地を砕いている。足元から広がる魔法陣が、ヤツの世界を食いつぶしていく。
────正義、白、撃鉄、聖母
言語を獲得して、世界法則を外部に押し付けて。
だからチャット欄で言うところの『神域権能保持者』に到達してるのかと思ったが、そうじゃねえらしい。
こうして簡単に上書きできる。まだ全然幼体だ。ファフニールや混沌はこんなもんじゃなかった。
────悪行へと照準を定め、裁定者は弓を引く
詠唱改変完了。
だが単に出力方式を捻じ曲げただけじゃない。これは圧倒的に、まったく新生した力だ。
────極光が今、その罪を射貫くだろう
右肩から腕と胸にかけて、保護用の装甲が装着される。
同時、頭部に外部取り付けの補助片目モニター型のデバイスが取り付けられた。右目の目前に展開されたモニター中心、クロスサイトの照準を表示する。
最後に左手に、流星の輝きそのものが集い、形を成し、長大な弓が顕現。
『射手座の輝きが今ここに結実する! 向来せよ、『天射装甲』!』
なんかルシファーのテンションがわたくしより高くなってた。
もしかしてちょっとかっこいいと思ってる? いやかっこいいけど……まあ男の子なところがあるんだろうな、うん。
『長大射程、剛射無比! 放つ光に限界はなく、宇宙を自由に駆け抜ける軌道を前にすれば引力など無意味、無力!』
「長い長い長い! 口上が長い!」
『今の子供はこれぐらい覚えられるらしいぞ』
「ほんとぉ? ソースどこですか」
『ふたば』
としあきかよ!
お前はもうインターネットやめろ!
『なんだ……君は、終末の大悪魔と……!? いいや、違う! その力はなんだ!?』
「あら。お望み通りの未知だというのに、随分と可愛い反応ですわね。ですが気の利いた前振りですわね、いいでしょう。この力を、教えて差し上げましょうッ!」
ハッと鼻で笑い、わたくしはアンノウンレイ相手に、不敵な笑みを浮かべた。
「マリアンヌ・ピースラウンド────サジタリウスフォームッ!!」
さあ、宇宙を貫いてやろうじゃねえか!
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