INTERMISSION24 銀河を駆ける
意識を失っているミレアさんの身体を抱えて、崩落した山内部の儀式場を脱出する。
まだ日が傾いてもいない。なんだかんだで迅速に四体を処理できたな。
ほかにも、気絶している信者たちは多数いたが、ひとまずはあそこに置き去りにしてきた。さすがにあの人数はまとめて動かせねえ。
「まず、喜ぶべきなんだよな」
「ええ、もちろんそうですわ」
岩の上に寝かせたミレアおばさんの寝顔を眺めた後、ユートと顔を見合わせる。
互いにもう禁呪を解除した状態。視線を重ねて、わたくしも彼も、ゆっくりと口角が上がっていき、ほおが緩んだ。
「やりましたわー!」
「やったぜー!」
わたくしたちは達成感と開放感から思い切り抱き合っていた。
正直もう駄目だと思ってたし! まさかマジで完璧なところまで持っていけるとは思ってなかったし!
過程は不可思議というか、正直あれ多分大悪魔の力ちょっと借りてたな……とは思うのだが、それは後で考えよう。
「ふぅん」
抱き合ってキャッキャと喜んでいると、恐ろしく冷たい声が聞こえた。
ロイは能面のような顔でこちらを見ていた。
あっ……
「そ、そうですわね。婚約者の前でやることではありませんわね」
「……だとよ。お前がここからいなくなればセーフってことらしいぜ?」
「言葉の綾ですわよ!? あっちょっロイ抜剣しないでああああああもうまだ五体目いますのよ!」
そう。
五体目、すなわち向こうの大本命である『外宇宙害光線』を追わなくてはならない。
「まさか普通に俺たちをシカトして、王都へ向かうとはな」
遠く、遠く、遠方に微かながらシルエットが見えていた。
切り立った山々を超えた先なのでおぼろげにもほどがあるが、足元に信者をひきつれた上位存在が、真っすぐに王城を目指している。
「使い魔で連絡は入れた。すぐにでも軍隊に発令が出るだろう。俺たちはどうする?」
ユートはわたくしを(少し名残惜しそうに)腕の中から解放した後、難しい顔で問うた。
まあそうだよな。体感だけど……こいつの親父さん、つまりハインツァラトゥス現国王が出張ったら一瞬で終わりそうな予感はあるんだよな。
「手なら、ある。今すぐに戻れる」
「え……?」
不意にロイが声を上げた。
マジでか、とわたくしたちは期待のまなざしを送った。
しかしロイは真顔で、ユートに向かって口を開く。
「でもその前にさっきのハグについて、腹を切って話そう」
「お、おう……ん!? 死んでね!?」
確かに死んでるなそれ。
「で、でだぜ、王都に大本命を通しちまった。すぐに追いかけたいところだが、スピード差がありすぎる。馬車でかっ飛ばしても無理があるだろ? どうすんだよ」
「そこは心配いらない。すぐに戻ろう」
そう言い切って、ロイは腰元の剣を抜いた。
指揮棒のようにそれを宙へかざし、練り上げた魔力を刀身に伝達。魔法陣が浮かび上がる。
「稲妻が道を照らし上げ、果ての衣を雷鳴にはためかせ、行先を静かに射貫くだろう」
……ッ!? 聞いたことのない詠唱!
こいつまた新魔法開発したのか!?
「なんだその魔力……!? 反応が途切れ、いや……薄く線を引いてるのか? ちょっと待て原理が分からねえ!」
「この魔法は始点と終点の位置座標を組み込んでるんだ。雷撃を放つレールとして魔力線を引いて、その上を移動する物体を疑似的な雷に変換して移動させる。要するには目的地との間を稲妻の速度で移動する魔法だね」
「ナーフでは?」
わたくしはめちゃくちゃ渋い顔になった。
雷撃属性、ちょっとおかしくないか? やろうと思ったらなんでもできちゃわないか?
「というかそれ、距離によって負担変わります? もし変わらないのなら、長距離移動はもちろんですが、戦闘中の短距離瞬間移動にも使えそうですが……」
「ああ、もちろん使える。だけど位置座標は使い捨てだから、往復はできない。消耗度合いからしても、他に全力の戦闘を行うなら一日三度が限界だ……」
「汎用性は高いが、回数制限付きか。そううまい話でもねえな」
「それでユート、さっきのハグについて、申し開きは?」
「なんか裁判の終盤みたいになってんな……分かった、分かった、悪かった」
「まったく。婚約者の前でよくできるよね」
半眼でこちらを見てくる彼に、わたくしたちはそろって顔を背けた。
だってテンション上がっちゃったし……
「ただ、時間をここで浪費するわけにはいかないね。第六剣理、展開」
剣理の名を告げると同時、不可視だったレールが光を放った。
わたくしたちはそこに並んで、衝撃に備える。
「飛来電針・閃行加速!」
「なんかこれあれですわね、一人免許取ったから車に乗せてもらって遠出する夏休み感ありますわね」
「半分ぐらいしか理解できなかったが、断言できるぜ。絶対違う」
視界が真っ白になる中、ユートに冷静に指摘された。
違うかあ……
ごくり、と青騎士は唾をのんだ。
第三王子ユートからの大至急の連絡で、王国軍にスクランブル指令が下されたのはつい先刻。
王都へ侵攻する上位存在あり──機械化兵団にとっては初の経験。不安になるのも仕方ない。
「……さっきも言ったけどネ。どんな相手であろうとも、我々の後ろにあるのは王都だ。避難の終わっていない国民たちが大勢いる。死んでも止めるんだ、我々が」
部下たちにそう告げてから、ふうと息を吐いた。
ここを命を捨てる場面と認識するのはたやすい。だが、死んで勝てる相手なのか。
視認可能な距離まで迫った上位存在は、異様な姿だった。
球体四つが連結されている。
巨大なものを中心として、左右に一つ、最も小さいものが上に一つつながっている。
マリアンヌがそれを見たら、『銀河が四つ連結してますわ!? 超銀河合体ロボ!?』と絶叫していただろう。
「銀河が四つ連結してますわ!? 超銀河合体ロボ!?」
戦場に声が響いた。
さすがに戦士たちが周囲を見渡す。何が起きたのか。えっ誰? どういう意味?
「まあそれはそれとして──メテオバーンキィィック!」
『ぐぎゃぁぁっっ!?』
まさしくそれは流星の如く。
飛び蹴りが叩き込まれた。横殴りの衝撃を受けて、上位存在が大きく傾く。
「円谷さん! タカラトミーさん! 版権の力お借りしましたわ!」
「よく分かんねえけどお前マジで黙った方がいいんじゃねえかなそれぇ!」
駆け抜けていった流星は、その勢いのまま仲間たちのもとへ着地する。
「つーかマリアンヌちょっとお前、よく見たら流石に重傷だろこれ! なんか身体内部グチャグチャになってねえか!?」
「治療班を待とう! いや……二体撃破したんだから本当に休んでていいって!」
「ありがとうございますロイ。ありがとうございますユート……」
仲間たちの声をやんわりと、しかしほとんど聞くことなく無視して。
「効率的な戦闘……充実した死生活……キャリアウーマンですわ」
小高い丘のてっぺんで。
貴公子と王子を両脇に侍らせて、マリアンヌ・ピースラウンドが不敵な笑みを浮かべ、そこにいた。
「相手の存在の格が違うから戦えない? フッ……ダメ魔法使い」
「ダメなのはお前の認識能力だよ」
「存在の格が違う相手に喧嘩を売る方がダメだよね」
「攻撃が通らないから勝てない? では、質問です」
男子二名の声は届かなかった。
マリアンヌは天を指さし、唇をつり上げて問う。
「アナタたちは──所詮雑魚。アナタたちにはできませんわ」
「質問は!?」
「この長さで罵倒だったのか!?」
黒髪の少女が、真紅眼に光を宿して。
銀河を束ねた究極の存在と相対する。
「地球上に、わたくし未満の存在は大体数十億! 銀河を重ねても宇宙を自由に駆ける流星には敵わないことを、その身に刻んであげましょうッ!!」
今回文字数がかなり少なくなりそうだったので、ハーメルン版とは順番を入れ替え再構築しております。
基本的に内容は変わりませんのでご了承ください。
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