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INTERMISSION17 それぞれの開幕(後編)

 ロイとユートが自身の敵と向かい合い。

 男子たちが、己のプライドをかけた一世一代の大勝負を始める中。


「……まあ、これの相手は、さすがに任せられませんもの」


 同じく開けた地点に到達したマリアンヌは、周囲を見て嘆息していた。

 円形の空間は、ロイとユートが入ったものより数倍広い。そのはずだ、正面に位置する上位存在とマリアンヌをぐるりと囲むようにして、観客席が配置されているのだから。

 小さなライブハウスのようにひしめく群衆。一様に同じ礼服を着込んだ彼ら彼女らは、生気のない瞳で俯いている。


「で、これはどういう催しでしょう。ボーカルが死んだ後の送別ライブですか?」


 正面の上位存在──『暗中蠢虫(ワームシャドウ)』を見やる。

 下半身は巨大な芋虫、上半身は痩せこけた灰色の肌の女の姿。蛇女の亜種と言えばいいか。

 直視しただけで生理的嫌悪、恐怖を掻き立てるような外見だった。事実として、一般市民ならば遭遇しただけで精神的に大きな負荷がかかっていただろう。


『あなたは絶対的かつ非相対的な精神的負荷に耐えられません』


 その女の顔が、口をかすかに開いた。

 唇の動きと、響き渡った言葉が連動していない。おそらく人間とは違う方法で発声している。


(……言語を獲得している、わけではないようですね。核となった人の脳を介して、無理矢理翻訳しているのでしょう)


 続けざまに暗中蠢虫(ワームシャドウ)が、歌う(・・)


『てちつちてちにのにかちすにかい のんらなくなきちとらすちてらみちもい ついかなこらなみらなこなきらいくち のらもちのなてらかなのな』


 それは狂気の歌だった。

 聞いた者の精神に干渉する歌。遠い遠い平行世界においては、マリアンヌはダイスを振って精神の安寧を守らねばならない。

 しかし。


「カラオケ勝負ですか! いいでしょう!」


 この女に、ダイスを振るような知性はない!

 ダンと両足で地面を踏みしめ、彼女は右手で洞窟の天井を差す。



 ────星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に響け(glory glow)



 詠唱スタートと同時、彼女の周囲に輝く流星が展開される。

 それはビットのように周囲を回転しながら、役割を与えられ形を変えていく。



 ────射貫け(shooting)暴け(exposing)広がれ(calling)光来せよ(coming)



 暗中蠢虫とマリアンヌを囲む人々。

 その足元まで、魔法陣が広がっていく。



 ────正義(justice)(white)断罪(execution)聖母(Panagia)



 地鳴りとともに大地が隆起し、マリアンヌが思い描く通りに姿を変えていく。

 見る者が見ればわかるだろう。

 それは明確な、現実に対する侵略行為!



 ────悪行を脚光の(sin break)外側に(down)秩序は熱(judgement)狂の渦へと(goes down)



 最後に空間すべてを流星の光が埋め尽くし。



 ────今極光浴びるは(vengeance)このわたくし(is mine)



 十三節に及ぶ改変詠唱完了。

 人類史を脅かす悪逆の原初が、姿形を変えて君臨する。




「アイドリッシュ・メテオォォォオオオオオオオオオッ!!」




 顕現するは巨大なステージ状の流星(メテオ)

 暗中蠢虫すらステージ上に巻き込んで、マリアンヌはどこからともなくスタンドマイクを取り出して右手を添えた。


「最初のナンバーは『カメさんこんにちは』! 作曲・作詞わたくしっ! ミュージックスタートッ!」


 ッタッタラッタッタッタ、と、マリアンヌの周囲に展開された流星同士がこすれ合い、原理は不明だが、いや本当に原理は意味不明だが、メロディを奏で始める。



「さあ、わたくしの流星(うた)を聴きなさい────!」



 マリアンヌ、オンステージ!!




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― 新着の感想 ―
[一言] 突如として煌めく流星で空間を塗り潰し、珍妙な歌を披露し始める奇天烈な女のライブステージに巻き込まれた暗中蠢虫さんはSANチェックです
[一言] お嬢の歌を聴いても戦いは止まらないというか加速しそう さすが流星
[一言] SANチェックでダイスを振るわないGM泣かせの女。
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