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INTERMISSION14 風雲急を告げる

「要するにはだぜ。今すれ違ってる町の人たちも、既に何らかの暗示を受けてるかもしれねえ……いや、十中八九受けてるだろうな」

「いや! ……いや、いやいやちょっと待ってくれ。町一帯を何らかの魔法的効果の下に、既に取り込んでいるってことかい? だとしたらとんでもない規模だぞ!?」

「ああ、だから確かめるしかねえだろ」


 黒猫を肩に載せたまま、ユートはそそくさと歩き始める。わたくしとロイは顔を合わせて、彼の後を追った。

 路地裏を抜けて、表通りに戻る。行き来する人々の様子に不自然さはない。

 いいや──しいて言うならば。


「わたくしたちを……認識できていない?」

「そういうことだな。忙しそうだから遠慮してたけどよ、肩をぶつけてみても無反応だったぜ」


 街道を見渡して、ユートは頷いた。


「この町だけじゃねえ。山まで含んだ一帯そのものが、一種の実験場だと考えてみろ。上位存在が一般人にどれだけの影響を与えられるのかを見て、その後に俺たちを呼んで対抗してくるやつ相手にはどうするのかを見る。観察実験としては自然な流れだろ?」


 名探偵ユートかよ。すげえな、頭が回るキャラだとは知っていたが、本当に回るじゃん。

 今までこういう探索パートをロクにこなしてなかったっていうのが大きいのかもしれんが……


「……ここまで町を広げるのは大変だったろうに。それをかすめ取るとは度し難いね」


 町並みを見渡してロイが言う。


「そうなのですか?」

「君は、というよりピースラウンド家は領土統治とか本当に興味がないみたいだからね……所有してる土地、屋敷があるところ以外は全部外部委託にしてるだろう?」

「屋敷以外に土地持ってたんですか!?」

「そこから!?」


 知らなかった……!

 なんだよやろうと思えばNAISEIできたってことかよ。



【これはもう内政チートで金を稼ぎまくって、悪役令嬢として金にモノを言わせるしか……!】



〇苦行むり 無理だよ

〇火星 お前にはマジで無理



【ふふん。予習はばっちりですわ。

 貧乏人スタートでも10連ガチャを解放してSSR美人秘書、SSR資金五億円、SSRスポーツカーで社長になれますわよ!】



〇つっきー 雑なシミュレーションゲームやめろ

〇無敵 無菌室育ち(世間をナメる)にも程がある

〇宇宙の起源 クソ広告コレクションは一刻も早くフォロー解除しろ

〇鷲アンチ 美人も資金も金色の馬も全部持ってんだろ起きろ



 配信コメント欄はもはやわたくしのアンチスレと化していた。

 こいつら……! ていうかスポーツカーと金色の馬は違くない? 互換性あんの?

 歯噛みして屈辱に打ち震えていた、その時だ。


「な……ミレアおばさん!?」


 ユートが素っ頓狂な声を上げた。彼の視線の先には、町の人々に交じって歩いている妙齢の女性がいた。

 何だよ。新キャラ多いな。


「どなたです?」

「あ、ああ。乳母さん……で、そっちの国でも通じるか?」

「勿論ですわよ。なるほどこれは……頭の上がらない相手の予感がしますわね」


 とはいえこの町を歩いている以上、魔力波の影響下にあるのだろう。

 いや、冷静に考えて、ここってハインツァラトゥス王国領か。第三王子がその辺歩いてて無反応なの確かにおかしかったな。


 そうのんきに考えていた時だった。

 ミレアおばさん、と呼ばれた女性が、ハッとこちらを見た。


「……ゆ、ユートお坊ちゃま……どうして、ここに……!?」


 驚愕の表情を浮かべるミレアさん。

 だが驚いているのはこっちもだ。特にユート。


「────ユート。これは」

「待ってくれ」


 わたくしの発言を制止して、彼は自分の乳母に歩み寄った。


「な、なあミレアおばさん。ここで、何してるんだよ」

「……ユートお坊ちゃま。私は……」

「なんかの用事、とかか? この辺さ、ちょっと危ないかもしんなくて……や、そのさ。早く帰った方がいいんじゃねえかな、って思うんだけど……」

「ユート」


 ユートの震え声を、わたくしたちの後方にいたロイが斬り捨てた。

 振り向かずとも彼が何をしているのか、わたくしには分かる。

 わたくしの婚約者は抜剣し、その刃に雷撃を纏わせているだろう。


「分かるだろう? ユート」

「ま、てよ。そうとはまだ決まってない、だろ……!?」

「決まってる。他の町民と違う。足並みも違う。僕らにリアクションを示した」


 背後から足音が近づき、わたくしの前に出た。

 予想にたがわず、やはり彼は剣を抜き放っていた。


「影響下にいないんだ。何故か、なんて答えは一つだろう。被害者でないのなら、加害者しかあり得ない」

「……ッ」


 ロイが切っ先を突き付けると同時だった。

 ミレアさんは踵を返すと、全力で逃走を開始した。


「待ってくれミレアおばさんッ!」


 その背中を追ってユートが走り出そうする。

 ……リアクションからして接触は想定外。あるいはそもそも、わたくしたちがここにいること自体、異常事態。


 もしも。

 もしも、あの兄妹の話を信じるのなら。


「落ち着きなさいユートッ!」

「ぐべらっ」


 勝手に突っ走ろうとした駄犬の襟元を思いっきり引っ張る。

 加速に急ブレーキがかかり、タッパのある王子は真後ろにひっくり返った。 


「このタイミングで分断されるなんて愚の骨頂ですわ! みすみす戦術的ディスアドバンテージを稼ぐなんてありえませんッ!」

「……ッ!」


 至近距離で怒鳴りつけると、ユートは目を見開き、呼吸を数秒止めた。


「……だけど、マリアンヌ。ミレアおばさんが……」

「うっさいですわね! 一人で追いかけたら何が解決するのですか!」


 まだごねるんならさすがにシバくぞ。


「本当にあの人を信じたいのなら! それはおとなしく向こうの手中に落ちることで証明するべきではありませんッ! 今すぐ屋敷に戻ります、事態を伝えなければ……!」


 わたくしの言葉を聞いて、ロイも頷く。

 ユートは静かに息を吐いて、それからゆっくり立ち上がった。


「……分かった。悪かった、パニクっちまった……」

「気になさらず。この町の実態を暴いたのは、アナタの功績ですから」


 わたくしはミレアさんが走り去っていった方向を見た。

 そこには山がそびえている。

 町を見下ろす、薄暗い山が。








「敵と推定される人物と遭遇してしまいましたか」


 大急ぎで屋敷に戻れば、既に兄妹は玄関口でわたくしたちを待っていた。

 恐らくこれを避けるために、町に行くときには妹さんがついてきたのだろう。


「教えてくれ! ここで何が起こっているんだ!?」

「……見つかった以上は、向こうはスケジュールを前倒しにして、すぐにでも上位存在を召喚するでしょう。あなたたちは今すぐ儀式場へ行かなくてはならない」


 アズトゥルパさんの言葉は的確だったし、的確過ぎて機械のようだった。


「では、上位存在五体の情報開示をお願いしても?」

「ええ。分かりました」



 口頭で告げられる五体の詳細なデータ。

 早口に、とにかく時間が惜しいのだろう、情報は過密だった。



「──────以上が、五体の上位存在に関して、我々の知っていることです」


 話し終わるころには、ロイもユートも目を回していた。

 ザコどもが。まあIQ五億のわたくしと比較するのも酷な話か。


「も、もう一回お聞きしても……」

「全部覚えましたわ! さっさと行きますわよ!」

「え、えぇっ!? 全部覚えたの!?」

「IQ五億をナメないでくださいます!?」


 一旦屋敷に引き返して、また町を突っ切って山へ逆戻りだ。

 RTAとしては不要な手順に思えるが……違う。今手に入れた情報は値千金のものだった。これがなけりゃ、下手したら向こうについてから詰んでたかもとさえ思った。


「ここから先は時間との勝負ですわ! 大目標は敵集団の撃滅、小目標は上位存在五体の完全顕現の阻止、あるいは撃破! 戦術は走りながらお話します!」



〇日本代表 待って待って待って急にRTA始めないで

〇無敵 だからサブクエに限ってRTAするのやめろって言ってんだろ!



 言われてみれば、転生してから一番走者っぽいこと口走ってたな、今のわたくし……









 走り出した三人を見送って、わたし──マイノンは、その場で俯いていました。

 どうしてマイノンは、こんなに弱いんでしょう。

 今の、この状態だからじゃありません。こうじゃなくても弱かった。喉を掻きむしって、死にたくなっちゃうぐらいに、マイノンは何もできませんでした。


「……大丈夫だ。状況は良くなっている」


 お兄様が、マイノンの頭に手を乗せて言ってくれました。慰めの言葉でした。


「大丈夫さ。彼女たちなら……勝つ。あの人は本当に、勝ってくれる人だ」

「……知っているわ」


 信頼できる。

 どんな逆境においても失われない輝き。

 全てを飲み込む闇の中でこそ、最も眩しく存在する魂の光。


 それを持つ彼女の姿を知っているからこそ、信じられるのです。



 ────きっと、また、勝ってくれると。



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― 新着の感想 ―
[一言] サブクエに限ってRTAするけど幕間も実質本編なので実質メインでRTAしてるようなもんでは?
[一言] 本編外でRTAを開始するマリアンヌ。 ……さ、最速でクリア出来ればまだ本編のRTAも間に合うから❨震え声
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