INTERMISSION13 陰謀の街
屋敷に兄妹の姿は見当たらなかったので、ひとまずわたくしとロイもユートを追って町に繰り出すことにした。
昨日と同様、多くの人が行き交い、町は賑やかな様子を見せている。
異邦者であるわたくしたちなど眼中にない、と言わんばかりに先を急ぐ町民たち。彼ら彼女らにぶつからないよう、わたくしとロイは街道の隅っこをゆっくり歩いていた。
「……こんなことしてていいのかな」
「あら、散歩は不服ですか?」
並ぶ露店を流し見ながら進んでいると、隣のロイが不安そうな声を上げた。
「具体的にいつ上位存在と戦う羽目になるのか分からない以上、悠長な真似をしていると言わざるを得ないんじゃないかな」
「言わんとすることは分かります。ですが……ちょっと嫌な予感がするのです」
実際のところ。
ユートと合流しよう、と言い出したのはわたくしだった。ロイは屋敷であの兄妹を探してからで良いんじゃないかと言っていたが……
「それにしても、ユートはどこにいるのでしょう?」
「町の様子を見てくる、としか言っていなかったからね……おや」
きょろきょろと周囲を見渡していたときだった。
わたくしとロイの前を、一匹の黒猫が横切った。魔力反応がある。野良猫ではなく使い魔だ。
「あれかな?」
「恐らくそうでしょう」
尻尾をピンと伸ばしたまま、のそのそと歩いて行く猫の後を追う。
表通りから離れ、細い路地を進んでいく。ゴミなどは一片も落ちていない。手入れの行き届いた町だ。
「…………」
「ロイ?」
のほほんとそんなことを考えながら猫のケツを追っていると、ロイの顔が随分と難しいものになっていることに気づいた。
どうしたのだろうか。
「マリアンヌ。君は……この路地を見てどう思う?」
「え? キレイですわね。ゴミ一つなくて」
「そうだね。路地裏なのにまったくゴミがない。露店では食品を取り扱っているところもあった。あれだけ人が行き来していて……全部片付けられた、と考えるのは不自然じゃないか?」
「えっ……急に怖い話しないでください……」
なんで突然推理パート始まってんの?
サブクエ特有の使い捨てられる町だからオブジェクト処理が雑なだけなんじゃねえの?
〇トンボハンター それだけはない
〇日本代表 世界を運営するソフトは、お前が前いた世界を運営してたソフトとスペック的には変わりないんだよ。お前の世界って、実際に処理落ちとかあったか?
んんんおおおおおお完璧に反論されてしまった。
頭を抱えていると、前方で黒猫がぴょんぴょんと跳ねていた。
路地の向こう側から誰かが歩いてきている。
「おっ、来たか」
顔を出したのはユートだった。
黒猫がするりと滑らかな動作で彼の肩まで登っていく。
「何か分かったことはあったかい?」
「ああ。恐らくは……上位存在を呼ぼうとしてる場所だろうってとこを絞り込めた」
ユートは路地裏の上に伸びた細い空を顎で指す。
青空のラインが続く先に視線をやると、屋敷から見て真向かい、ちょうど町を挟んだ地点に山がそびえていた。
「多分あそこだろうな」
「えぇ……」
いかにもというか、なんというか。
山頂からは町並みを一望できるだろうそこは、儀式場としては正直目立ちすぎだった。
「本当ですか?」
ちょっと安直すぎるだろこれ。
疑いの眼差しを向けると、ユートは苦笑を浮かべ踵で地面を叩く。
「見えるようにしてやるよ」
──空気の色が変わった。
比喩表現じゃない。わたくしとロイ、ユートを中心に、空気がやや青みがかった色に染め上げられたのだ。
同時、全身を舐めるようにして走った、微かな魔力反応。思わず臨戦態勢を取りながら周囲を見渡す。
「これ、は……ッ!?」
「単純な索敵魔法ではありません。ユート、アナタ……魔法、ではなく、特殊な波長に調整した魔力を照射しているのですか?」
「流石だなマリアンヌ。一発で見抜かれるとは思わなかったぜ」
化学反応で色が変わる液体と同じ現象だろう。
わたくしたちが感知できていなかっただけで、既にこの町は制圧状態だったのだ──
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